【オラン・銀の網亭】 |
「ドレッダールの竜退治」の上演が盛況に終わってからしばらく後。
昼時とあってオラン北東部にある冒険者の店、「銀の網」亭の店内は、今日も賑わいを見せていた。
とは言え、12あるテーブルの大半を占めているのは……
■ふりふりワンピの娘 To:ミニスカブーツの娘 |
ねーねー、「モッツァレラととろとろトマトソースのリングイネ」と「サーディンとイーストラディッシュのマリネ、ライス添え」と、どっちにしよう? |
■ミニスカブーツの娘 To:ふりふりワンピの娘 |
うわー、どっちも美味しそう。 あー、でもこっち「チキンティッカマサラ、サラダ、ナンセット」だって! すごいね〜“冒険者の店”って。 |
にわかに訪れたランチブーム。
女性同士が連れ立って、食べてしゃべって集う「女子会」流行りと融合し、今やオランの食堂、カフェ、昼を出す酒場までが、店先に石板を立てて、彼女らの誘導に躍起となっている。
どうやらその波は、常闇通りとさほど離れてもいないこの場所まで押し寄せてきているようだった。
■おかみ To:ランチ客 |
いらっしゃいませ〜♪ うちはバール式だから、飲み物のご注文はカウンターまでお願いね。 はい、お待たせしました、カフェラテ2人前よ。 |
カウンターに溜まる客を、なれた動きでさばくおかみ。
そしてまた、入口のベルが鳴った。
■おかっぱ頭の娘 To:友達ふたり |
あー、ここだここだ。 「『銀の網亭』。小さいながら多国籍な食材の品揃えには圧倒される。」だって。 |
■お下げ髪の娘 To:おかっば頭の娘(ウーラ) |
ウーラの情報キャッチ力は恐るべしだもんね。 ちょっと前のチケットだってさぁ。 |
■カチューシャの娘 To:半分つぶやき |
あゝ、ベッチー☆ 今は何処におられるのかしら。 公演が一回きりだとわかっていたら、もっとお話したのに〜〜っ。 |
■ウーラ To:カチューシャの娘(アリス)>お店のひと |
でもアリス、あのお芝居は一回だからこそ盛り上がったってのもあるかも〜。 すみませーん、3人ですけど、席あいてますか? |
入ってきた3人組の女子が、ウェイトレスらしき少女に声をかける。
■リュナ To:三人娘 |
ここ。 |
頭の上に仔猫を乗せた、漆黒のワンピースに純白のふりふりエプロンを身につけた少女が、無表情に窓際の席を指差す。
■リュナ To:三人娘 |
メニュー。 今日のリュナのおすすめデザートは「いちごのウサウサタルト」。 |
ん、とメニューの書かれたボードを差し出し、たくさん書かれたランチセット&デザートメニューのなかから一番下の行をぴっと指差した。なぜかそこだけ、あとから付け足したかのように筆跡が違って見える。
■スクワイヤ To:三人娘 |
ニャア。 |
少女の頭の上でとぐろを巻いた三毛猫が、注文を催促するかのように甘えた声で鳴いた。
■お下げ髪の娘 To:ミケちゃん>友達ふたり |
にゃーん♪ 混んでるし、早く決めない? こーゆー時は、お店の人のおすすめにしといた方が間違いないって。 |
■アリス To:ウェイトレス |
じゃあじゃあ、デザートはおすすめのウサウサでっ。 ランチもウサウサ…じゃなくって、おすすめありますかぁ〜? |
■リュナ To:三人娘 |
リュナのおすすめはこれ。 |
ぴ、と指差したのは「ふわふわ生クリームとメープルシロップたっぷりのシュガーフレンチトースト(激甘)」。
■リュナ To:三人娘 |
これにホットチョコレート(砂糖倍量)をつければ、完璧。 |
ウーサーに「その組み合わせは素人には勧めるな」と言われているのは内緒である。
■アリス To:ウェイトレス |
うわぁ、美味しそう☆ それ全部くださ〜い♪ |
■お下げ髪の娘 To:アリス |
ちょっとちょっとアリス〜、これランチだってば。 |
■アリス To:友達ふたり |
うん、ぜんぜんおっけー! インガもウーラも食べない? |
■ウーラ To:アリス>ウェイトレス |
さてはベッチーが来年まで来ないからって、おすすめに便乗して甘いもの好きなだけ食べる気だなっ! こっちは「フライドライスウィズシーフード」に、「ジャスミンティー」あ、砂糖とミルクは抜きで。デザートはっ! |
いきなり目を瞑ると、メニューをびしっと指差すウーラ。
■ウーラ To:ウェイトレス |
なになに…… 「ケーク・ア・ラナナス・エ・ア・ラ・ノワ・ドゥ・ココ」 ……ってコトでこれお願いします。 |
■インガ To:ウェイトレス |
ええっと、わたしはそれじゃ「蒸し鰈とアボカドのサラダ」に、デザートはオススメの「ウサウサタルト」で。 あと、お水ください。 |
■リュナ To:三人娘 |
ん、少し待つといい。 |
注文を頭の中にメモると、すたすたとカウンターに戻る。
■リュナ To:おやじ |
おやじ、注文。 (寸分違わず復唱し)… リュナおすすめの「いちごのウサウサタルト」、やっと注文入った。 うさぎ、いる? |
おやじに注文を伝えながら、厨房の奥に見慣れた背中を探す。
■ウーサー To:おやじ |
2番のタルト・オ・シトロン、4番と8番のフランボワーズ、上がりだ! あと「えらべるキッシュ」のサーモンは、え〜と10分待ちって案内してくれ! |
■おやじ To:ウーサー |
ほいきた、サーモン10分ウェイトな。 次は1番にフレジエ、それから5番がさっきのシブーストを3つ持ち帰りたいそうだ、頼む。 |
右手で状況を書きつけつつ、左手はケバブの串を素早く返し続けるおやじ。
作業の合間に、視線を石板から厨房の入り口へと向けると。
そこでは丁度、いつぞやの武闘会で披露した、阿修羅の如き二刀流をも凌駕せんかという挙動で動き回っていたウーサーが、厨房の外へと向き直ったところだった。
■ウーサー To:リュナ |
おうリュナ、ってアレーー? |
いつも見るたびに新鮮な愛くるしさを抱かせる(と、本人は思っている)リュナのウェイトレス姿に唇の端を緩めかけたウーサーだったが、不意に或る事実に気付いて硬直した。
■ウーサー To:リュナ |
お前が出てきたってこたぁ、もうそんな時間かよっ!? |
これまでも時折、宿代の足しにと手伝い程度に厨房に入っていたウーサーだったが、日に日に勤務がヘヴィになっていっている気がする。
最近では「銀の網」亭のスイーツやガレットどころか、食事向けのパイやタルトやパンの生地、さらには一部のドリンクメニューといった、本来の意味での『パティスリー』仕事までをも手伝う羽目に陥っていたりするほどだ。
それでも日頃は、斬った張ったのやっとう稼業とは真逆な種類の緊張感と達成感とに、意外とまんざらでもない満足感を得はじめてきたと自覚するようになってきたのだが——今日のウーサーには、時間を気にすべき理由があった。
■ウーサー To:リュナ、おやじ |
なあ、その…………あの嬢ちゃんは、まだ降りてきてねぇよな? |
厨房でのウーサーの回転ぶりを面白そうに眺めていたリュナは、囁き声に合わせて小首をかしげてみせる。
■リュナ To:ウーサー |
「怪力娘」? 今日は、リュナはまだ見てない。 |
■スクワイヤ To:ウーサー |
ニャ〜ン。(ぷるぷる) |
■ウーサー To:リュナ |
あ〜、そのあ〜、と……うんまあ、そのカラレナな? そうか、まだ来てねぇみたいか。 |
「ウサヤーン」とか「暴魔騎士」とかを思い出させられて、恥ずかしくなるウーサーだったりする。
■リュナ To:ウーサー |
「怪力娘」って言うと怒るから面白い。 リュナは「暴魔騎士」のほうが恥ずかしいと思うけど。 |
相変わらず無表情のまま淡々と。
■ウーサー To:リュナ |
いや、だからソレは……むぐむぐ……。 |
■おやじ To:ウーサー |
まだ時間には早いんじゃないか。 手紙がどうこうと言っていたし、いろいろ準備もあるんだろう。 ……おっと。 そうこう言っている間にキッシュが、サーモンからシュリンプにチェンジだと。 手が空かないようなら、これはこっちでやろうか? |
■ウーサー To:おやじ |
ああいや、たぶん最後に茶ぁくらいは飲んでくだろ? 嬢ちゃんからオーダー入ったら、教えてくれ。 それに今さっき、ウサウサタルトが入ったって聞いたしなぁ…少なくとも、ソイツだけはやっつけていくぜ。 |
激甘な品種の苺に最上級の砂糖——ウーサーが『特別なコネ』を持ち続けている、或る女店主の店で用意してもらっている逸品——を舌触りがザラザラするギリギリのラインまで投入して作った砂糖漬けや、酸味が強い品種の苺に特濃シロップを加えて作るムースを使った一皿。
それがリュナがやけに好んでいる「いちごのウサウサタルト」なのだが、本体が極甘いせいで併せるソースやデコレーションのバランスに細心の注意がいる……要するに、ランチタイムに供するには、あまりにも面倒くさい一皿なのだった。
■ウーサー To:リュナ |
ったく、あんま勧めんなって言ってんのによぉ……。 おっと、いけねぇ! ランチ限定日替わりパティスリー、「紅茶風味のバンベルデュ、イーンウェン風」上がったぜ! 冷めねぇうちに持っていきなっ! |
厨房の奥へと振り返ると、ウーサーは「雨降り公園のホットチョコレート、焼きリンゴを添えて」のプレートに取り掛かる。
そして楽しそうにーー相変わらず「獰猛な」としか写らないのだがーー笑みを浮べながら、注文たちとの肉弾戦を再開していった。
■カラレナ To:ひとりごと>娘さんにん |
えっと、手紙も持ったし忘れものは…と…(ぶつぶつ) あれっ? |
トントンと階段を降りてくる足音がしたかと思うと、旅装に身を包んだカラレナが三人娘のテーブルに嬉しそうに駆け寄ってきた。
■カラレナ To:娘さんにん |
アリスさん、インガさん、ウーラさん! こんなところでまた会えるなんて…。 |
■インガ To:カラレナ |
あれーっ、カラレナさん?! フォーシーズンズって、パダに向かったんじゃないんですか? |
■カラレナ To:インガ |
あ、その…えと… |
■アリス To:カラレナ |
え?え?え? まさかまさか、ベッチーもいたりするーーっo(≧∇≦)o |
■カラレナ To:アリス |
あ、あのその…(>_<) |
驚きの表情を浮かべたアリスとインガ。
その向かいでおかっぱ頭を振り立てたウーラが、笑顔で隣の椅子を軽く叩いた。
■ウーラ To:カラレナ>店のひと |
格好からして出かけるみたいだけど……まだ時間ある? あるなら、ここ空いているから座って。 すいませーん。 注文追加お願いしまーす!! |
■カラレナ To:ウーラ |
あ、はい。少しなら… そういえば、ごはん食べてなかった…。 |
メニューを改めて見、しみじみとした表情をする。
■カラレナ To:店のかた |
(ここで食べるのも、しばらくお預けだよね…) あの、すみません。 「チキンと根菜のコトコト煮」と「トーフとホーレンソウのアエモノ」と「コカブのツケモノ」と「ミソスープ」ください〜。 あ、デザートはミタラシダンゴで…。 |
■アリス To:カラレナ |
「ミタラシダンゴ」?! うわー、そんなメニューあったの見落としてた、残念〜。 ねーねー、どんなデザート? |
■カラレナ To:アリス |
えっと、東方のお菓子で… このくらいの、小さなもちもちしたお団子がみっつ、串に刺さっていて。 甘しょっぱい、とろっとした蜜がからんだおいしいお菓子です〜。 大好きだからつい、食べ過ぎちゃうんです…(>_<) |
■アリス To:カラレナ>カウンターにいるひと |
あー、わかるぅ。 別腹って言いながら、食べ過ぎちゃうよね〜! 東のお菓子かぁ、そんな美味しいんなら、やっぱり頼んじゃおう! ミタラシダンゴはふたつにして下さ〜い!! |
■??? To:カラレナ |
おうっ! ミタラシ2皿に変更オーケイっ! |
カウンターの奥から忙しそうな蛮声が返事を寄越してきた、気がしないでもない……キガスル。