【ウインターシアター・楽屋1】 |
公演を終えた翌日の午後。
再び静かな佇まいを取り戻したウィンターシアターの大きな楽屋に、冒険者達の姿があった。
机の向こうで椅子にに腰を下ろす、劇団代表のリー。
その隣に立つ座長のベッツ。
机の上には、例の古めかしい直剣と並んで大きな袋が置かれている。
■リー To:冒険者達 |
いゃぁ、ご苦労だったな。 街の演劇通は、昨日の公演の話でもちきりだそうだ。 「観客を巻き込んだ、斬新な展開!」 「身体を張った真に迫る殺陣の迫力!!」 「リアルと不条理とユーモアとの絶妙なバランス。」 ……後何があったかな、ベッツ。 |
背もたれに身体を預けながら、上機嫌で見上げるリーに応えるベッツ。
彼の口調には、これまでになかった落ち着きのようなものが感じられる。
■ベッツ To:リー>冒険者達 |
「荒削りながら、既存の演劇の型を破ろうとする試みは、冬演劇のあり方に大きな示唆を与えるものである」 だそうですよ。 神殿側としては、設備不良に対する詫びも含まれているのかもしれませんが。 そこまで褒められると、ちょっとこそばゆいです。 本当にありがとうごさいました。 カラレナさん、ウーサーさんも、お怪我はいかがですか? |
■カラレナ To:ベッツ>ウーサー |
あ、私は大したことは… ウーサーさんの怪我は、ほとんど私のせいですし…(汗) 本当にごめんなさい(>_<) 絶対によけてくれると思い込んじゃって…。 |
ウーサーにぺこりと頭を下げる。
■ウーサー To:カラレナ |
何言ってやがる、ぞっとするような剣筋で斬りかかってきやがって! だいたい、あそこで避けてみろ。グダグダなままハナシが終わらねぇだろうが? 客ウケもよかったみてえだし、まあ体張ったオレ様が気にしてねぇんだ。嬢ちゃんも謝るのは止してくれって! |
ちょいと見せ場ってモンを演出してやっただけだよ、と嘯きながらも、愉快そうにジョッキを呷るウーサーだった。
■カラレナ To:ウーサー |
ありがとう…。 ウーサーさんにも、ファンのかたがついたみたいですしね(^^) |
ウーサーの態度にあらためてホッとするカラレナであった。
■ウーサー To:カラレナ |
ま、どのみちオレ様にとっちゃあ、あれくらいならまあ、ちょいとばかし痛痒いってなあモンだぜ。 それに、あのあと舞台裏で、すぐに回復の魔法かけてくれたしな? |
■カラレナ To:ウーサー |
それは、当然です〜。 それに…怪我させたままにしたら、彼女さんに怒られちゃいます。 …ビンタまでしちゃって…(汗) そういえば、彼女さんには舞台デビューを報告したんですか?(*^^*) |
■ウーサー To:カラレナ |
いや、そのアレだ……報告してねぇが、知ってやがった……。ていうか、観に来てやがった……。 /( = =)\ |
■カラレナ To:ウーサー |
そ、そうなんですか…(汗) |
なんとなくそれ以上突っ込めず(笑)
■リキュオス To:古めかしい直剣 |
まあ世間の評価はともかく、や。 おっさんはどうやったんや? 楽しめたのか? |
相変わらず軽い調子でぺしぺしとやる。
■ドレッダール To:モドキ |
あー、そうじゃのー。 まあ、芝居は芝居、そういうことかの。 モドキ、お前さんも冒険者なら、近々大物狩りを予定している奴を知らんか? ドレイクとは言わん、上級悪魔あたりでかまわんのじゃが? |
剣からは、馴染みとなった太い声が、変わらぬ調子で応えてきた。
■リキュオス To:古めかしい直剣 |
んあ、魔神やったらこの前一柱ほふったで? おっさんもいい加減満足して、そろそろ逝ったらどうなんや? あんまり喧嘩っ早いと、ウサやんみたいになってまうで。 「力はいいぞぉ、カラレナぁ…!」 |
全然似てない物真似をしてみせてから、下品に笑うなんちゃってエルフ。
■ウーサー To:リキュオス |
おうコラ、誰みたいになるってぇ?! オレ様は反面教師になるように、ワザとあーいうキャラ立てをだなあ……!! |
■ドレッダール To:モドキ |
なんじゃとぅ?! ひとをくたばり損ないみたいに言いおって! わしが言っとるのはの、樹木(バウム)ごときで殴り倒される阿呆魔神ではなく、もっとこう……そうじゃな、例えばずる賢そうな奴じゃ!! |
ぬぅっと浮かび上がったドワーフが、半透明の指をリキュオスに突きつけながらわめき出す。
■カラレナ To:リキュオス>ドレッダール |
んもー、やめてください〜。(>_<) ドレッダールさんも、振り回したり放り投げたりして、ごめんなさいね。(ぺこり) |
■ドレッダール To:カラレナ |
ぬはははっ!率直な嬢ちゃんじゃのう。 じゃが、それは気にするな。 本気の実戦となれば、剣の扱われようなぞ、そんなモノではないっ! 一度魔法を使わず、剣の腕だけで冒険してみい。 違ったモノが見えてくるかもしれんぞぃ。 |
鍋を逆さにしたような兜の下から、大きなウィンクが返ってきた。
■カラレナ To:ドレッダール |
剣の腕だけで冒険、ですか〜。 お父さんみたいでカッコイイかも…(*・・*) 強くなればもっと…カザークさんのお役に立てるし…(ぶつぶつ) |
どりーみんぐタイムに突入。
■ウーサー To:ドレッダール |
まあアレだ、ドレッダール殿。魔神ならオレ様も遣りあったことはあっからよ? 次は竜ってなあ、興味があるぜ。 ど〜しても満たされねえってんなら、機会があったらオレ様に声かけちゃあ如何だい? そっちの嬢ちゃんは、色恋沙汰ってえ大きな戦いが待ってるみてぇだしなぁ? |
■カラレナ To:どりーみんぐ>ウーサー |
その前に…一度報告して…(ぶつぶつ) …はっ! な、ななな、何言ってるんですか〜っ。(///) わ、私がいつも好きなひとのことばかり考えてるみたいに言わないでくださいっっっっ! |
■ウーサー To:ドリーミングかられな |
ん〜? 間違ったかな〜? |
半分あってる。
■ドレッダール To:ウーサー |
ウーサーとやら、お主は因縁深い剣を招く質じゃな。 しかも、一度えにしを持つと、その剣にさらに念を注ぐじゃろう? 剣士としてそれが悪いとはいわん、が、わしが今つるむと、お主の持つ他の剣が妬く。 大物狩りはしたいが、わしはまだまだ長生きもしたいんじゃ! すまんが、気持ちだけありがたく受け取らせてくれい。 |
■ウーサー To:ドレッダール |
む、因縁かぁ……成る程なぁ……? |
銀や魔法の大剣、モール、更にはプレート・メイル、果ては今も背後に感じるレィシィの気配……。
それらを手に入れた経緯を思い出すと、ウーサーは納得したように深く頷いた。
■ウーサー To:ドレッダール |
確かにそうだな、じゃあアレだ。オレ様の剣が妬かなくなるくれぇ使い込まれて、そん時になってもドレッダールの旦那が満足できてなかったら、って事で。 な〜に、オレ様もそうそう簡単にくたばるつもりは無ぇからな! 期待しててくれていいぜ!! |
■ドレッダール To:ウーサー |
はっはっは! そうじゃな、お主が枯れる頃には、雛も育っておるかもしれん。 道が交わることとならば、相まみえんとしよう。 その時まで、互いに、剣に相応しい腕を磨きつつ進もうぞ。 |
鍋を連想させる兜、矢立のごとき盾、つなぎ合わせた鉄板で出来た鎧という奇妙な装備を纏ったまま。
両手を腰にあてたドワーフ(相変わらず半透明)は、大きく身をそらしながら笑う。
■リー To:冒険者達 |
さて、今日呼んだのは他でもない。 諸君らに、約束の報酬を渡す為だ。 公演を頑張ってくれたお陰でだな。 詐欺られたと思ったチケット代は帰ってくるわ。 修繕費の負担どころか、劇場の借り賃までタダになるわ。 この劇場は、メンテナンスをかけるそうでな。 残りの公演期間の間は使えなくなってしまったが……いや、いいホンも出来た事だし。 わしとしては、実に有意義な経験であった。 契約は確かひとり1000ガメルだったな。 5人で5000ガメル、さあ、受け取りたまえ。 |
■ウーサー To:リー |
おお、頑張った甲斐があったぜ……って、ん? チケット代? |
■カラレナ To:リー |
え、えっ? チケット代が帰ってくるって… ピエロさんが渡しに来たんですか? |
■リー To:カラレナ&ALL |
昨晩、わしがこの部屋に戻った時に見つけたものがふたつある。 床の上に転がっていた、緑色に染まった篭手の片方と。 この椅子の上に置かれていた、ガメルが詰まった袋だ。 ご丁寧なことに、袋にはきちんと明細まで入っておった。 なかなか画期的だぞ、席位置によって細かく価格を分けとる。 それぞれの席の評価はともかく、こういう売り方は、考えてみてもよいな、座長。 |
■ベッツ To:リー |
はい、代表。 タッカーと合流したら、早速検討に入ります。 |
リーの指示に応えるベッツの口調には、きびきびとした自信のようなものが感じられた。
■リキュオス To:リー |
ありゃ? ほんなら、今夜の公演はどこでやるんや? |
■リー To:モドキ |
いや、もともと今日は公演の予定は入っとらん。 吊りが落ちて、床に穴まで空いた劇場のチケットは勝手に売りたくとも買い手がつかん。 くだんのピエロでも駄目だろうて。 |
機嫌良く笑い声を上げた後。
劇団フォーシーズンズの代表は、真顔に戻って言葉を続けた。
■リー To:ALL |
とは言え、今回の公演は観られなかった客も多かろう。 出来れば夏頃には、オランの何処かで臨時公演を開きたいと考えとる。 調整する事はいろいろあるがな。 お前さん達、冒険者を辞めて役者を目指すというなら、雇ってやっても構わんぞ? |
■リキュオス To:リー、ALL |
え、まじで?Σ( ̄Д ̄;; 5日間くらい公演するって聞いてたから、俺、今日もやる気満々で来たんやで? な、ほら、ちょっと見てくれや。新しいポーズ考えたんや。 「とんがりビーム!」「とんがりビぃぃーム!!」 |
怪しげなポーズのままドヤ顔をするリキュオス。
■ウーサー To:リキュオス |
オレ様だって考えてきちまったよ、その「ビーム」に対してのリアクションってヤツをよぉ?! ていうかなんだよそのポーズ、「ビぃぃーム」ってなんだよ!? 昨日のみてぇにこう、「ビィーーーッムッ」ってするんじゃねえのかよ!? |
■リー To:モドキ |
ふむ…確かに5日間という話だった。 そういう考えかたをするお前さんなら、いつか自分の劇団を旗揚げ出来るかもしれんな。 計画の段階でも、ひとり手順や流れを気にしとったろう。 ヒトを使うつもりなら、見抜く目も必要だが、どうやら修羅場には慣れていそうだしな。 |
ぴこぴこ動く、つけ耳に目をやりながら、ぼそりとつぶやくようにリーは言った。
■カラレナ To:ひとりごと |
…(だからびぃむ、って一体…) …夏頃ですか〜。 その頃にはまた、オランに戻ってきてるかな…? |
ぽつりと、思いを巡らすかのように空を見たあと。
■カラレナ To:リー |
えと、実はしばらく、オランを離れるので…。 夏になってポスターを見かけたら、またお訪ねしますね(*^^*) あ、冒険者はやめませんけどっ。臨時役者としてなら…。 |
■リー To:カラレナ>ベッツ |
ほう、客演か。 人気も取れたようだし、他の連中のよい刺激になるかもしれん。 おい、座長。 今の話も考えて、巡回計画を立てるように。 |
■ベッツ To:リー |
わかりました! 「ママ、見ぃや!」でしたらWヒロインですしどうですかね? |
■リー To:ベッツ |
Wヒロインなら「ウィ、きっと。」もあるな。 それかいっそ「美女が野獣」か「愛だ!!」でも持ってくるか? まぁ、そのあたりは座長にまかせる。 |
■リキュオス To:リー |
お、女形も面白そうやな。夏までに研究しとこう。 |
ヒロインやるつもりか。
■カラレナ To:リー |
な、なんだか…面白そうなタイトルがたくさんあるんですね〜。 そういえば…舞台裏でオルガンを弾いてくれたり、フックの操作をしてくれたかたのこと、何かわかりました? |
■ウーサー To:カラレナ、リー |
ん? オレ様は例の隠し通路みてぇなところで、あのピエロドワーフに遭遇したぞ? アイツが罪滅ぼしでやってたんじゃあねえのか? |
■カラレナ To:ウーサー |
えっ、えっ!? ピエロさんがいたんですか!? えと、私たちの通路では、声しか聞こえませんでしたけど、何かもっと…子どもみたいな、こびとのような…まるでブラウニーのような印象の子がいたんです。 しかも、ひとりじゃなく、何人かいるみたいで…。 |
■リー To:カラレナ |
いんや。 昼前の調査でも、神殿側はなにも見つけられんかったようだ。 ポスターを描く場所については、若干のご意見を賜ったがな。 ま、あいつらもずっと隠れとるのも窮屈だろ。 たまには本来の仕事をしたかったのではないかね。 そういうことにしておいてやろう。 |
■カラレナ To:リー&ALL |
そ、そうですか…。 舞台の演出を手伝ってくれたから、何かお礼がしたくて…。 あの、オルガンが置いてある場所に、お礼のお手紙とプレゼントを置いておきたいんですけど、いいですか? |
お手紙は読めないかな、と思いつつ。
■リー To:カラレナ |
そういう気持ちは嫌いではない。 だが、わしならそっとしておく。 目の端で捉えたとしても、真正面から見据えちゃならんモノがあるだろう? 連中もそういう存在ではないかと思っている。 少なくとも、わしらはそうやって長いことやってきた。 嬢ちゃんが、どうしてもやりたいというなら、止めはせんがな。 |
■カラレナ To:リー |
ん…そうですか…。 …そうですね。 あの、メンテナンスをすることで、彼らの居場所がなくなっちゃうんじゃないかと心配なんですけど…大丈夫でしょうか? |
■リー To:カラレナ |
それで消される位なら、とっくにいなくなっとるんではないかね。 ここの大改築だって乗り越えたんだ、あちらはあちらでなんとかやっていくだろうさ。 来年の冬になればわかるだろ。 |
■リキュオス To:ALL |
いやでも、結局あのピエロはなんやったんや。「あいつら」のお友達か? |
■リー To:モドキ&ALL |
さあ、わしはピエロを見ておらんからなぁ。 儲けさせて貰った以上、こちらに不満はない。 なにが目的だったにせよ、そいつもこの件で何かしら利益を得たのではないかね。 |
■リキュオス To:リー、ALL |
なにかしらの利益ねぇ。 売り上げの詐取というわけでもないみたいやから、舞台を開演すること自体が目的やったんかなぁ…。 |
■ウーサー To:ALL |
そういやあ例の席、あそこは結局、客入ってたんだろ? そいつの差し金だったりするんじゃあねえのか? |
■リー To:ウーサー&ALL |
そんな話もあったな、BOX席5番だったか? そこにはわしが、開演ぎりぎりに駆けつけられた御婦人を案内したが。 品の良い物腰で、対応もしっかりとした、うちとしては上顧客になって欲しいタイプの客でな。 脅迫状を書いたり、詐欺金を戻したり、愉快犯をするようには見えなかったぞ??? |
■カラレナ To:ALL |
あの、BOX席5番にいたのはゾフィーさんとお連れ様でしたけど…。 ゾフィーさんがあんな熱烈なファンレターを書くなんて、意外でした〜。 あ、それともお連れのかたがファンだったのかな? |
勘違いは続くよどこまでも。
■リキュオス To:ウーサー、ALL |
そう、その「御婦人」ちゅうのは銀網亭の紫ドワーフ婆さんやねん。 まああの婆さんなら50年くらいは生きとるやろけど…? |
彼らの語らいは続いていく。
窓辺にとまったカモメが、仲間に入りたそうにギャーと鳴き声をあげ、銀の網亭の日常が続いていることを告げていた。
(この後の出来事を知りたい方は、つづいて番外編をどうぞ!!)