【ウインターシアター・横廊下】 |
シアターロビーの客席に向かって左手隅。
目立たぬように暗がりに埋没する形で、小さな扉が設けられていた。
その先の細い廊下は、リー曰く、避難路兼舞台下手袖への通路となっている、という。
扉を開けると、薄暗かったロビーから見てもなお、真っ暗な廊下が、まっすぐ前方へと伸びていた。
■カラレナ To:ALL |
あ、真っ暗ですね…。 ちょっと待ってくださいね。 |
ロビーに少し戻って光の存在を確認してから、ウィスプを召喚する。
■カラレナ To:ALL |
じゃあ、行きましょう〜。 |
人がひとり通ることができる幅の廊下は、劇場外壁の内側に沿って設けられていると見える。
ここ何週間かは全く使われていないだろうことが、ウィスプの明かりに照らされた床が物語っている。
とはいえ、定期的に掃除やメンテナンスは行われているらしく、放置されてから何ヶ月も過ぎているという状況ではなさそうだ。
■カラレナ To:リキュオス |
狭いですね…。 気をつけて行きましょう。 |
ウィスプを頭上に固定しつつ廊下を進んでいくと、左右に扉があるのが見える。
右側が客席、左側がおそらく外につながる「非常口」なのだろう。
■リキュオス To:カラレナ |
んーと、舞台袖はもっと奥やんな? |
カラレナに遅れること数歩。
リキュオスが追いつき、話しかけた直後。
■??? To: |
うわっ、なんだこれ?! |
そんな叫びと同時に、ウィル・オー・ウィスプが大きく弾けた!!
■リキュオス |
!!?Σ( ̄Д ̄;; |
■カラレナ |
きゃ!? |
きらきらと瞬くように消えていく、光の断片の間に、衝撃を受けて千切れかけた太いロープと、その先で踊る大きなフックとが浮かび上がる。
■リキュオス To:カラレナ |
あかん!! 上からなんか降ってくるでっ!? |
光が消える瞬間、フックはごとりと重そうな音を響かせ、床に落ちた。
とはいえ、冒険者として、数々の修羅場をくぐり抜けてきたふたりには、それをかわすことは造作もないことであった。
■カラレナ To:リキュオス |
な、何かに…ぶつかって… だ、大丈夫でした? |
■リキュオス To:カラレナ |
おう、そっちも平気か? なんやねん、誰かおるんか…? |
ウィスプが砕け、後に残ったのは闇。
カラレナは”精霊使いの目”で、とりあえずリキュオスの無事を確認しようとする。
そして〜〜〜。
■??? To:下にいる何か |
あーっ、何か壊しちゃった?ごめん。 でも、僕だけが悪いんじゃないよ。 上演中は、危険物幕裏持込禁止だもんっ! |
天井から降ってくる声。
それは、カラレナとリキュオスとが来た方向に、遠ざかりつつあるようだ。
■リキュオス To:カラレナ |
くそ、暗くてよう見えへん。 と、とりあえず明かりを…。 |
手探りで背負い袋からランタンを取り出そうとごそごそとやるリキュオス。
■リキュオス To:カラレナ |
…なんやろか、今のは。 |
■カラレナ To:リキュオス |
もしかして、オルガンの主かも…。 |
天井を見上げて、声の主、動くものの姿を見極めようとする。
おそらく二層以上は吹き抜けていると思われる天井は、闇の中に沈んだままだ。
精霊使いの視点では、そこに動くものの姿は見極めきれない。
■リキュオス To:カラレナ |
んー、ロビーのほうに向かったみたいやけど…。 |
■カラレナ To:リキュオス>声の主 |
見えない…リキュオスさん、明かりの準備お願いします。 ごめんなさい、舞台裏を騒がせてしまって。 今度は、安全な明かりをつけてもいいですか? |
■??? To:遠くに残っているふたり>??? |
あれ?役者さん? もしかして迷子? えっと、中の扉の向こうが客席! イタに行くなら、まっすぐいって角を右だよっ。 早くっ!いま、イタに誰もいなくて、みんな大変〜っ。 はぁい、すぐいきま〜す。 |
さらに遠くから、先ほどの声が応える。
最後の部分は、ふたりにではなく、離れた誰かに応じる言葉のようだ。
■リキュオス To:声の主、カラレナ |
なんやて!? 眼鏡くんはどうしたんや。 ん、詮索しとる時間が惜しい。とにかく場を繋ぐのが先や。 「行きますよぉ〜、怪力従者カラレナんんん」 |
■カラレナ To:リキュオス>声の主 |
ベッツさん、ファンの方に囲まれちゃったんでしょうか。 でも、舞台にはクローエさんがいるはずなのに… あ、リキュオスさん、気をつけてくださいね…って、怪力は余計ですっ。 あの、私はカラレナです、あなたのお名前は? |
■??? To:遠い遠い声 |
な…まえ?……い………チビ……って呼ばれ……… |
かすかに、途切れ途切れの答えが聞こえる。
それ以降は、耳を澄ませてみても、もう、言葉は返ってこなかった。
■カラレナ To:チビ? |
チビさん、ありがとう〜! あ、私も行かなきゃ… |
塗りつぶされたような闇の中を駆け抜けるリキュオス。
■リキュオス |
〜〜〜!? |
スラムでの生活が培った、感のようなものだろうか。
暗闇の中でも、なにか足元にいやな気配を感じ、ストライドが気持ち大きくなる。
何事もなく通路を走り抜け、壁にぶち当たることもなく角に到達したリキュオスのやや後方で、何かが床にぶつかる音がした。
■リキュオス To:カラレナ |
カラレナ!? |
リキュオスからやや遅れて。
右手を壁につきながら、慎重に進んだカラレナ。
前を走るリキュオスの足音の間隔が、乱れ、止まるのが聞こえる。
同じタイミングで、右手の壁が途切れ、角に来たことがわかった。
ホッとして曲がろうとした瞬間。
足元に渡してあったロープに足を取られたカラレナは、暗闇の中、ずっこけた。
■カラレナ To: |
わっ!?(べち) い、痛た… |
床に何かがぶつかった音の後、リキュオスのエルフ耳に、何処か上の方でロープが引き千切れるような音が聞こえた。
それは、次々と連鎖しているようだ。
反射的に身を翻したリキュオスのそばで、どすどすと重い物が床にいくつも落ちていく音が聞こえる。
幼い頃から修羅場をくぐり抜けてきたリキュオスは、巧みな身のこなしでそれら全てをかわしてのけた。
■リキュオス |
観客もいないのにアクションシーン!?Σ( ̄Д ̄;; |
カラレナの耳には、自分が転んだ音がかなり激しく響いた。
その音はおそらく、先を走っていったリキュオスの耳にもはっきりと聞こえたと想像できる。
したたかにぶつけた部位をさすりながら、身を起こそうとした時。
予期せぬ形で、重い袋が複数、天井から降ってきた。
■カラレナ To: |
きゃー!? |
シーフとして培ってきた身のこなしで躱そうとしたカラレナであったが、闇の中での転倒が響き、全てを避けきることができなかった。
とは言え、冒険者として駆け出しのころにくぐり抜けた数々の修羅場が、身を守る術を教えてくれた。
身につけた鎧や、手足で、頭部や腹部など危険な部位の直撃は免れる。
それでも、かなりの重量がハーフエルフの頑丈とは言えない身体にのしかかり。
カラレナは、手痛いダメージを被っていた。
■カラレナ To: |
い、痛っ…けほけほっ… |
■リキュオス To:カラレナ、ドレッダール |
おい大丈夫か? けほけほっ…おっさんも生きとる? |
■ドレッダール To:つけ耳>カラレナ |
わしは平気じゃが。 嬢ちゃん、大丈夫か? |
■リキュオス To:カラレナ、ドレッダール |
ここまで来ると、悪戯ってレベルじゃあ済まされんで? とにかく一度明かりをつけて状況を〜〜〜わ!? |
袋のようなモノの落下は直ぐに止み。
共に落ちて来たとおもわれる埃の匂いが、鼻腔を刺激する。
あるいは自分の身体も、かなりの埃を被っているのかもしれない。
そう思う間もなく、右手のやや上の方向から、今度は木が軋むような激しい音が響いてきた。
■カラレナ To: |
こ、今度は何!? |
続いて、ぼきぼきと木が折れる音。
そして、劇場内にもこだまするかと思われる、大音響の倒壊音。
リキュオスのエルフ耳には、それに被さり、叫び声のようなものも聞こえたような気がする。
■リキュオス To:カラレナ |
ちょ、この劇場やばいんとちゃうか!? |
目を向けた右手側の先には開き扉の枠の形に、光がさしこんでいる場所があるのが見えた。
■カラレナ To:リキュオス |
り、リキュオスさん! 私は大丈夫ですからっ、早く舞台に!! |
痛みをこらえながら慎重に立ち上がる。
まずリキュオスが光の漏れる扉に駆け寄り、立ち上がったカラレナがそれに続いた。
扉を開けると同時に、光が差し込む
薄暗い光であっても、暗闇を抜けて来た瞳にはかなり刺激的だ。
しばし瞬きを繰り返し、改めて視認するそこは、細い廊下となっていた。
がらんとしてひとけは無い。
廊下の左側には扉が3つほどあるが、すべて閉じられている。
見上げると、高い吹き抜けの天井から下がるロープが、絡まったり、途中で切れたりしているのが見えた。
■カラレナ To:リキュオス |
あれ? ここって、ウィスプを待機させてた場所じゃ… ここでもロープにぶつかった…? |
廊下の先で光はさらに強くなっているようだ。
楽屋側の構造と対になっているならば、この先はおそらく舞台袖につながっているのだろう。
平行して試みたセンスオーラの結果は、光の精霊が感じられることを別にすれば、先の「通路」と変わらない。
そして、リキュオスの耳には、舞台で行われているであろう声のやり取りが、かすかに聞こえてきた。
■リキュオス To:カラレナ |
ん、どうも芝居はまだ続いとるみたいやで? |
会話の内容までは聞き取ることができないが、声の調子が芝居がかっているので、芝居を継続しているか、芝居めいた口調で会話をしていると思われる。
ひとりはベッツと同じような声の高さの男性。
もうひとりは、低めの声が朗々と響く男性だ。
■リキュオス To:カラレナ |
いやけど、さっきの倒壊音と叫び声は…? |
■カラレナ To:リキュオス>舞台 |
も、もしかして私のせいで何か事故が… べっ…ドレッダール様ぁ〜〜!! |
真っ青な顔で叫びながら舞台と思われる方向へ飛び出して行く。
廊下の先には、ある程度広がった空間、いわゆる舞台袖がある。
上手側と大きく違うのは「衣装部屋」の代わりに、様々な機構が設けられていることだ。
カラレナが、ベッツから操作を教えてもらった明かりを調節する機械。
幕や、吊るしの大道具を上げ下げするロープの数々。
キャットウォークに登る為と思われる作りつけの梯子。
駆け込んだカラレナと、やや警戒気味に後に続いたリキュオスの目に真っ先に飛び込んで来たのは、舞台側から突き出している、折れた大きな木材だった。
千切れて絡み合い、床に散らばる沢山のロープ。
とは言え明かりに繋がる油の供給管は、昇降装置から離れていた為か損傷は受けていない。
そして、それらを照らしながら、ゆらゆらと輝いているのは、カラレナが舞台袖に待機させていた巨大ウィスプだった。
■カラレナ To:リキュオス |
あれっ??? ウィスプが無事…でもこれって… |
■ベッツ(勇者ドレッダール・?) To:??? |
……されど。 姫を救うこと、それこそがわたしに求められた役目なのだ。 それを阻むことなぞ、なんびとたりとも出来はしないっ!! |
■??? To:ベッツ(勇者ドレッダール・?) |
はっ、笑わせよるわ。 ひとりきりでなにができると言うのだ。 お前を倒し英雄の時代に終わりを告げようぞ! |
そんな状況でも、舞台では芝居が続いているのだろうか。
緊迫したやり取りと同時に、剣戟の音が響いてくる。
■カラレナ To:リキュオス>勇者ドレッダール様 |
???…何かよくわからないですけど、行きましょうっ! ドレッダール様〜!! ご無事ですか〜!! |
リキュオスの腕をつかんで引っ張りながら舞台へと駆け出す。
■リキュオス To:カラレナ |
えあ? ちょ、こんな埃まみれの格好で!? い、いや試練の洞窟を抜けてきた設定やからこのままでええのか!? |