【ウインターシアター・ロビー】 |
ベッツに続いて駆け込んだロビーは、薄暗く、がらんとしていた。
外に続く扉は閉ざされ、カーテンも降ろされている。
客席からの扉をくぐり抜ける顔ぶれを確認し、通り抜けるべき人数が駆け込んだ後、両開きのそれを左、右の順でばたんと閉めたのは、「代表」と呼ばれるドワーフだった。
■リー To:冒険者たち |
ふむ、いい感じに盛り上がっとるな。 お前さんたち、なかなかやるじゃないか。 |
■リキュオス To:リー |
おい。このおっさん、めっちゃ出たがりやで!ヽ(`д´)ノ |
カラレナがかかえていた古めかしい剣をどつくリキュオス。
■半透明のドワーフ(ドレッダール) To:トンガリモドキ |
心外じゃ! わしは、観客の前ではただの一度も、このように「出てきて」はおらんぞ!! |
カラレナが身につけた剣から不意に、半透明のドワーフが浮かび上がり、指を突きつけながらリキュオスに抗議する。
■リキュオス To:ALL |
なんかもういっそ、うまいこと理由づけをして、最初から「出てきて」もらった方がラクかもしれへん。 |
冗談とも本気ともとれるような口ぶりで。
■ウーサー To:ALL |
あー、勇者のご先祖様とか、先代のドレッダールだとかってのはいいかもなあ? |
■カラレナ To:リー |
あの、リーさん。 ずっとロビーにおられました? 劇中、舞台下からオルガンがひとりでに鳴っていたんですけど…。 |
■リー To:カラレナ |
オルガン?ああ、鳴っとるな。 ありがたいことじゃないか、まだ心意気のある連中が残っていてくれたんだ。 |
■リキュオス To:リー |
心意気のある連中ねぇ。劇場の幽霊とかじゃないとええけど〜〜あ。 |
なにかを思い出して言葉を切るリキュオス。
■リキュオス To:ALL |
そういやぁ怪談話の中に「夜中にひとりでに鳴るオルガン」てあったけど…、まさかな…? |
念のため劇場内の精霊力を探ってみる。
今のロビーには、微弱ながら負の精霊の気配が感じられた。
■カラレナ To:リキュオス |
私もそう思って… でも、演奏のタイミングとか、演出として助かってますけど…。 |
■リー To:カ ラ レ ナ &ALL |
あー、こほん。 そういえば、カラレナ。 最初の挨拶の幻影に関する説明、あれはよかったぞ! 流石に現役だけのことはある!! このまま神殿の奴らに、疑問を抱かせることなく続けてくれ。 |
■カラレナ To:リー |
あ、よかったです。 緊張しちゃって何を言ったのかあまり覚えてませんけど… |
両開きの扉の左横にある、手の平ほどの覗き扉を開き、爪先立って劇場の様子を確認するリー。
振り返ってカラレナと向き合った老ドワーフは、口元をにやりと動かした。
■リー To:カラレナ |
しかし、初舞台ながらそこまで把握する余裕があるとは、なかなかのもんだ。 転職を考えたことはあるかね? |
■カラレナ To:リー |
えっ??? い…いえ、考えたこともないです。 |
■リー To:カラレナ |
そうか、そりゃあもったいない! 幕が降りるまで演ってみて、嫌だと思わなければ、是非考えてみてくれたまえ。 |
■カラレナ To:リー |
え、えっ??? |
ぽんぽんとカラレナの肩を叩くと。
リーは機嫌の良さそうな顔つきのまま、全員を見回した。
■リー To:ALL |
さて、姫君が引っ張ってくれれば、十分の一時位の時間はあるだろう。 わしもなにか、手伝うか? |
■ベッツ To:つぶやき |
うわ、明日、雪が降ったり槍が降ったりしませんよーに。 |
■カラレナ To:リー&ALL |
私は、オルガンが気になるんですけど… 万が一ということもありますし、リーさんは逆に近づかないほうがいいですよね…。 |
時間をおくことしばし。
背中を丸めるようにして、客席後ろの覗き窓を確認したベッツが、冒険者達に声をかける。
■ベッツ To:冒険者たち |
そろそろ頃合いです。 洞窟から山中のシーンにいきましょうか。 舞台に戻るルートはふたつ。 ひとつはこの扉から、もう一度客席を通って舞台に上がる道です。 もうひとつは、ロビー左端の非常扉から、舞台袖に抜けるルート。 こちらだと、客席からみると左側、下手袖からの登場となりますね。 客席をさらに盛り上げるなら、ここから、逆に落ち着かせるなら袖から、の登場がいいかと思いますが。 いずれにせよ、洞窟を抜ける試練は、見せないといけませんよね。 どっちがいいですか? |
■リキュオス To:ベッツ、ALL |
ここから客席を通って舞台までが洞窟、舞台に上がったら竜の城でそこで決戦!みたいな感じで考えてた。 竜との対決の前にもうひとシーン挟むなら、袖から登場した方がわかりやすいかもしれへん。 洞窟での試練ね……どないな感じにしよか。 |
■カラレナ To:ALL |
試練ですか〜。 それなら、洞窟は4つに枝分かれしていて、ひとりずつ進まないと城にたどり着けない、という設定にしてはどうでしょう? 勇者ドレッダールはたったひとりで洞窟…客席を抜けて行くんです。 そして、舞台に上がったところで私たちが袖から登場して合流。 衣装がボロボロになってたり、怪我をしてたり、何かを拾ったりして登場したらリアルでいいかもしれないですね〜。 …誰か行方不明になっちゃうとか。 |
そう言ってウサヤーンとモドキを交互に見る。
■リキュオス To:カラレナ |
いやいや、一番ひとりでたどり着けなさそうなのカラレナやで!? |
■カラレナ To:リキュオス>ALL |
え、そんなことないですよ〜。 そんなことないですよね? |
■ウーサー To:カラレナ&ALL |
誰かが行方不明、か……よし、オレ様にいい考えがある! 行方不明役は、オレ様にやらせてもらってもいいよな? もちろん、袖から登場するがよ。 |
ウーサーはお世辞にも「素直な」とはいえない笑みで口の端を歪ませながら言った。
■カラレナ To:ウーサー |
はい、もちろんです〜。 なんだか楽しみです。 |
■リー To:ALL>ベッツ |
おーおー、歌まで繰り出しおって! エルフはなかなか、演劇などという俗っぽい娯楽には興味を示さんかと思っていたが。 伊達に歳を重ねておらんな。 「んなぁらぁばぁ!覚えておくがよい!! ぬしが声を枯らそうと、さけぇびぃに耳をぉ、傾けるモノなぞないぃぃぃっつ!!」 ……てな、ところで。 そろそろ、お前さん達の出番だな。 おい、「座長」。 客席抜けを試みるのはいいが、ひとりでいくなら、気をつけろよ。 |
覗き窓から顔を上げた老ドワーフは、心もとなげな視線をベッツに投げかけた。
■ベッツ To:リー>ALL |
いや、それぐらいでへこたれていては、勇者の名が泣きます。 冒険者の皆さん方が、慣れない芝居をこれだけ頑張ってくださっているんですから。 僕もドレッダールとして、それぐらいはやってみせないとっ! では、皆、舞台で会おう!! |
小道具の剣をかざすと。
ベッツは空いた手でロビー扉を開き、再び客席に足を踏み入れた。
暗い客席の中でも、扉の周りの客席から、順にざわめきが広がっていく音が漏れ聞こえる。
扉が閉じられ、ロビーには直ぐに静寂が戻った。
■半透明のドワーフ(ドレッダール) To:ALL |
さぁ、姫!! 我らも助けにまいりまするぞ! 歌か〜、わしも美声を聞きたかったのう。 ところで、わしはどうすればよいのじゃったか? |
■カラレナ To:半透明のドワーフ>ALL |
ん〜、やっぱりガマンしててください、ね。 …もし出てきちゃったら、そのときに言い訳しませんか? 最初から出てきちゃってると、ベッツさんより目立っちゃいそうで…。 |
主役を食ってしまうのを心配しているらしい。
■リキュオス To:カラレナ |
さりげなくフラグ立てたよな、それ。 |
■半透明のドワーフ(ドレッダール) To:カラレナ&ALL |
隠れとるのは構わんのだが……。 んー、なんだその、手助け出来んのがもどかしくてなぁ。 みな、がんばっとるというのに。 |
肩を落とすようにつぶやく、透け透けドワーフ。
■リキュオス To:ドレッダール |
ま、楽しくやろうや御大。 出ちゃったら出ちゃったでその時や。俺らを信用してくれたらええ。 |
気軽な口調でぺしぺしと剣をはたくトンガリ耳。
■リー To:ALL |
おーい、それはそうと、お前さんたち。 そろそろ、われらが勇者を助けに行ってやった方がいいぞ。 やっこさんにしては、頑張ってかわしとるが。 ……ほら、潰された。 |
覗き窓から、客席と舞台の様子を窺っていたリーが、声をかけてきた。
その口調は、どこか楽しげだ。
■リキュオス To:ウーサー、ALL |
えと、それで舞台で俺とカラレナが合流した後は竜のシーンでええのか…? |