#183 舞台の時間?!

♪ 物語の幕開け ♪

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【ウインターシアター内部】

特に大きな混乱もなく、入場を終えた観客達。
舞台袖から見渡す限り、ほぼ満席である。
客席の灯りがゆっくりと明度を落としていく中、舞台と客席とを隔てる緞帳の裏に冒険者たちは顔を揃えていた。
彼らの隣には、実際よりもかなり軽めに作られているのだろう、スプリントアーマー風の衣装を身に付けたベッツがいる。
その背丈は流石にドワーフとは呼べないものの、眼鏡をとり、汚しをかけたその扮装はどうみても冒険者。
銀の網トップクラスとも言えるパーティの面々と並んでも引けを取らないだけの雰囲気を漂わせていた。
完璧に近い扮装だが、顔に張り付けた濃い口髭が、人間ともドワーフともつかない中途半端なイメージを残しているところが、彼が「ベッチー」と呼ばれる所以なのかもしれない。
そして、その隣に衣装を着たものがもうひとり。
舞台袖に待機し、場面が進んだら出て行く予定となっている、クローエである、

開場から1時間。
客席のざわめきと緊張とが最高潮に達した頃、カラレナは舞台そでから足を踏み出し、降りた緞帳を背にしながら客席に向かって話しかけた。
■カラレナ To:客席
……
(うわぁ〜〜っ、ひとがいっぱいいる〜〜っ、どうしよう〜〜っっ///)

よ、よ、ようこそ、ういんたあしあたーへっ。
ど、ど、ドレッダールのぼぼぼ…
(きゃ〜〜っ、声が上ずって出ないよ〜〜〜っ)

緊張したのか、声が届かなかったようだ。
「聞こえないぞぉ〜!!」のヤジに混じって、入り待ちーずと思われる「がんばれー!!」という声も聞こえる。
その声を聞いてぎゅっと目を閉じ、大きく息を吐く。
■カラレナ To:客席
……(これはひとじゃなくて、たくさんのじゃがいもじゃがいもじゃがいもっ…)

よ、ようこそウインターシアターへ!
ドレッダールの冒険の舞台はこちらです!
……本日は特殊な光と幻影の演出が入ります。
不可思議な眺めも、小道具によるものですので、どうぞご安心ください!
そ…それでは、大変ながらくお待たせいたしました。
「ドレッダールの竜退治」、まもなく開演です!

顔を真っ赤にしたまま、勢いよく一礼する。
■てかてかしたじゃがいも To:新人女優
まってました〜!!
その調子でたのむよっ!。

野太い掛け声とともに、客席から一斉に拍手が湧き上がる。
■カラレナ To:こころのなか
(わあ…
何だかすごくうれしい…)

拍手の波に向かって、もう一度丁寧にお辞儀をする。
顔を上げた拍子に、視界の端に5番BOX席が入った。
■カラレナ To:こころのなか
(ん…あれ?
あのひとが熱烈なファンレターを出したひと…かな?)

緞帳の裏では、「主演俳優」が他の冒険者たちに話しかけていた。
■ベッツ To:緞帳裏の冒険者たち
みなさんは竜退治を引き受けた冒険者です。
大丈夫、普段の会話をしてくれれば、僕が合わせますから。
さあ、始まりますよ!

■ウーサー To:ベッツ
お…おうっ! ま、任せろい!!

その時、舞台前に立つカラレナを残したまま、舞台と客席とを仕切る幕が滑らかな動きで上がる。
客席から人々の視線がそそがれる中、『ドレッダールの竜退治』が開幕した。
■カラレナ To:冒険者たち&ベッツ
わぁっ!
いきなり後ろに立たないでくださいっ!

素で驚いたらしい。
■リキュオス To:カラレナ
「それは業務命令でしょうか。」

紫色のターバンを目深に被ったエルフ耳のなんちゃってソーサラーが応じる。
幕が上がりはじめるに連れて「なにか巧いことを言わなけりゃあ」と気負っていたウーサーだったが、二人のやりとりを目の当たりにしてそれは氷解し〜〜むしろ緩みきった。
よくよく考えてみれば、あの島のいくさ舞台で大目立ちを楽しんでいた自分が、こんなところで緊張していたのかと苦笑が漏れたのを感じる。
■ウーサー To:リキュオス
わかったわかった! ほら、こうすりゃあ文句無いだろうが!!

カラレナの二の腕のあたりを左右から挟み込むようにがっしと掴まえると、ウーサーは無造作に持ち上げた彼女を、ひょいと横にどけて下ろした。
■カラレナ To:ウーサー
ヽ(@_@)ノ

■ウーサー To:カラレナ>リキュオス
「おいおい、ちょいと軽すぎねえか嬢ちゃん! そんなんで、今度の依頼がこなせんのかよ!?」
「なあ、どう思うよトンガリ耳!」

そして今度は、少しだけ、「はじめて組むことになった相手をからかって様子見している戦士」の感じを意識しながら話を繋げてみることにした。
■リキュオス To:ウーサー、カラレナ、ベッツ
「なんといってもぉ今回は竜退治ですからね。」
「自分の身は自分で守れるようでないと困りますよぅ。」

幸い声はよく通っていたが、品の無いダミ声のせいでまったく知的に感じられない。
■ベッツ(勇者ドレッダール)To:冒険者>客席
そうそう、皆さん流石です。
そんな調子で頼みますよ。

そう、この日我らは出会ったのだ。
我らはこれより旅立つ!
竜と呼ばれる怪物に襲われた国を救う為に!!

会話がきれた頃を見計らってベッツは語り合う冒険者達から一歩前に踏み出し、客席に向って見栄を切る。
かなり芝居がかって(いや、芝居なのだが)いるものの、その動きはなかなか様になって見えた。
■ベッツ(勇者ドレッダール)To:冒険者>客席
自己紹介しましょうか。
少し派手なくらいでかまいませんから

彼らを集めたのはわたし、ドレッダール。
わたしのような天才戦士でなけりゃぁ、百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん!

■古めかしい剣 To:カラレナ&冒険者たち
ちょ、そこは「おれ」だろっ。
天才戦士まだしも、「わたし」って呼びはないぞ。
おおぃ、誰かうまいこと言ってくれい。

カラレナの腰に回された、古めかしい直剣から、ぶつぶつ声が漏れてくる。
■カラレナ To:古めかしい剣>客席
う、うまいことって…

え、ええと…私は…カラレナ、
見ての通りです。

おそるおそる一歩踏み出し、客席に自分の姿を披露するように両手を広げてみせるがーー
■カラレナ To:客席
…特徴が無い…(ガーン)

えっと、えっと、精霊と話すことが得意な、剣に憧れる、非力な盗賊です…。

言ってて凹んだらしく、古めかしい剣を抱きしめるようにしながらがっくりと肩を落とす。
■毛深いじゃがいも To:カラレナ&出演者達
おーい、そんなら聞くが。
非力だっつーねえちゃんが、なんでそんな剣持ってんだぁ?

すかさず、客席から勢いよく声がかかった。
■カラレナ To:じゃがいもさん>ドレッダール様
…(じゃがいもが喋った!?)
え、えっと、えっと、…
それは…私、ドレッダール様の荷物持ちなんです!!
こ…これは、勇者ドレッダール様の、大切な竜退治の剣なのですっ。
そうですよね、ドレッダール様!

半ばパニックになりながら、観客からよく見えるように剣をくるっと一回転し、にっこりと(ひきつった)笑みをベッツに向けた。
そんなカラレナの回答を聞いて、ざわめく客席。
何人かが、目を輝かせて舞台を見つめてくる。
■ベッツ(勇者ドレッダール)To:客席
り、竜退治の剣。
そうた、その剣こそが我が切り札!
ゆえにしっかりと持っていてくれよ、従者カラレナ。

ベッツの言葉と同時に、一筋の強い明かりがカラレナを照らし出す。
■カラレナ To:勇者ドレッダール様
はい、ドレッダール様!

■遠くのじゃがいも To:従者カラレナ
いよっ!従者カラレナ〜っ!!

■遠くのじゃがいも2 To:勇者ドレッダール
ドレッダールさまぁ〜〜〜〜!!

客席後方から、若い女性達の声が響いてきた。
■古めかしい剣 To:冒険者たち
重い剣をうら若き乙女のか細い手に持たせて旅する勇者かぁ〜?
わしが若いころはあり得んかったぞ、ふん、だれか話題変えんかい。

直剣から漏れる声には、やや苛立ちの気配がある。
■ウーサー To:古めかしい剣のドレッダール>勇者のドレッダール
安心しろや、オレ様らの時代にだってあり得ねえよ。やれやれだ、それじゃあまあ、そうだなぁ……?
「おうおう、勇者さんよぉ! ドレッダールの剣が凄い、てなぁ聞いたこたあ有るが〜〜〜なあっっっ!!!

両掌を大げさに天上に向けて呆れたような振りを強調しながら、ベッツ扮するドレッダールとカラレナの間に割って入る位置に来ると。
ウーサーは可能な限り「唐突に」見えるように、かつオーバーアクションで最も目立つであろう自分の獲物〜〜背負った銀の大剣〜〜を引き抜き、轟然たる風斬り音を上げさせて振り下ろしてみせた。
■ウーサー To:勇者のドレッダール
「ほぉうら、どうでぇ……? この俺の剣よりも強いってえのかい? その竜退治の聖剣とやらは?
俺にゃあ、ただの古くて重いだけの駄剣にしか見えねえんだがなぁ!」

派手に剣を振ってみせるのは、過去に大舞台の上や子供たち、異郷のドワーフたちの前などで披露してきた甲斐があってか、ほとんど緊張せずにできる気がする。
あとは、ベッツが見せた見事な〜〜自分と同等か、それ以上の剣士にさえ魅せるような〜〜立ち居振る舞いか機転で、「普段は乙女にしか運ばせられない(自分で運ばない、ではなく)魔剣」として箔をつけるなり、「勇者ドレッダール」の凄さを見せ付けるようにするなりな筋書きを引きなおしてもらって、くだんの剣の中の幽霊様に御機嫌を治してもらおうと考えたウーサーだったりする。
■ウーサー To:勇者のドレッダール
「もし仮に、ほんものの凄い魔剣だったんだとしても、だ。
いっそお前なんざよりは、俺が使ったほうがいいんじゃあねえのかあ? ああん!?」

ウーサーの見栄に合わせるように、舞台足元から、オルガンの華やかなファンファーレが鳴り響く。
客席に、期待のざわめきが広がっていった。
■古めかしい剣 To:カラレナ、ベッツ
やれやれ、まともにやったら、こんなボロい剣が勝てるわけなかろうに。
仕方ない、奴と剣を交換しろ。

■ベッツ To:古めかしい剣
ええっ、そんな簡単に渡しちゃっていいんですか?

■古めかしい剣 To:ベッツ
ああ、ちょっくらお手並み拝見といこう

不安がかった表情を濃い付け髭に隠し、勇者としての台詞廻しをベッツは続けた。
■ベッツ(勇者ドレッダール)To:ウーサー>カラレナ
なるほど、そうまで言うなら使ってみるがいい。
見栄えよき大剣よりも、この剣が勇者の剣であることを、示そうぞ!

カラレナ、その剣を大男に渡せ。

■カラレナ To:勇者ドレッダール様>ウーサー
はい、ドレッダール様!

どうぞ、大切に扱ってくださいね。
折ったりしちゃダメですよ、…えーと、…う……ウサさん。

舞台上ではどう呼ぼうか、一瞬迷ったあとこうなった。
言いながら剣を差し出す。
■ウーサー To:カラレナ
おっ、おうっ? あ、ああじゃあまあ……?

てっきり斬り合いのシーンにするのだと思い込んでいたので、けっこう本気で素っ頓狂な声が出ていたりする。
ちらちらとベッツとカラレナを見ながらリアクションを考えてみたものの、助け船が来そうに無いような気がして……とりあえず、思いついたリアクションをしてみる。
■ウーサー To:ベッツ(勇者ドレッダール)、カラレナ
「なんでぇ、こんなちっせえ剣なんざぁ俺なら指一本で〜〜お、重てえっ?!

日頃の鍛錬として使う「鎧をくくりつけた両手剣」に、更に同居人が戯れにぶらさがってみた時の動きイメージしながら、受け取った剣の切っ先を床につけ、そこから更に自分の横に落ちるように手放してみせた。
■ウーサー To:ベッツ(勇者ドレッダール)
「な、なんでぇこりゃあ?! おいっ、こりゃあ、なんのまじないだよ!!」

■カラレナ To:ウーサー
あの、それだと私がすごく怪力みたいなんですけど…。

剣先を先に床につけるウーサーの動きは、冒険者の経験があるものたちにとってはリアルなものに見えたろう。
だが、その手の知識のない観客には、小道具の安全性を優先した不器用な芝居と映ったかもしれない。
だが、客席の即席評論家達たちより早く、剣そのものから大声が響き渡った。

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