【ウィンターシアター裏口】 |
後幕を掻き分け、扉を開けて。
ベッツと同行する冒険者たちは、ウィンターシアターの裏に続く小さな扉から外に出た。
日が短くなるこの時期、西の空には赤みがさし始め、東からは薄闇が忍び寄りつつある。
劇場裏手は一見、来た時と変わらず静かな場所に見えた。が。
■娘ふたり To:出てきたひとたち |
あっ!!わー!きゃー、きたきた〜〜〜っ☆ |
扉のすぐ横から飛びたす歓声。
若い女性ふたりが、巻きつけていたショールを吹っ飛ばす勢いで声をかけて来た。
■カチューシャの娘 To:眼鏡の青年>出てきたひとたち |
うわーっ!!ベッチー!!戻ってきてくれたーーーーっ☆☆ ね、ね、こっちの皆さんも劇団のひとぉ? |
■カラレナ To:カチューシャの娘 |
べ、べっちー??? |
■ベッツ To:カラレナ |
いやまぁ、僕にもファンがついてるみたいで。 |
若干引きつり気味に、それでも笑顔を浮かべて小さく手を振ってみせるベッツ。
■カチューシャの娘 To:ベッツ |
♪───O(≧∇≦)O────♪ |
■カラレナ To:ベッツ |
に、人気あるんですね〜。 |
■お下げ髪の娘 To:冒険者の格好をしたひとたち |
それ、舞台衣装ですかぁ? すっご〜〜〜い、リアルぅ〜〜〜(((o(*゚▽゚*)o))) |
■カラレナ To:お下げ髪の娘 |
衣装っていうか、えと、あの…。 |
困ったようにベッツを見る。
■カラレナ To:ベッツ |
あの、この方たちが、チケットを買ったっていう…? |
■ベッツ To:カラレナ |
はい、さっきそう声をかけられたんで。 僕もかなりびっくりして。 |
■カラレナ To:ベッツ>娘さんたち |
そうですか…。 あの、すみません。 今回の公演のチケットは、まだ発売していないんですけれど…。 確認のためにチケットを見せていただけませんか? |
深々〜と頭を下げてから、頼み込む。
■お下げ髪の娘 To:半妖精のひと>カチューシャの娘(アリス) |
ええ? でも、みんな買ってましたよ〜。 ねぇ、アリス。 |
■カラレナ To:こころのなか |
(…み、みんな?) |
■アリス To: |
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ |
■お下げ髪の娘 To:アリス |
アリスったら! チケットを見せてほしいんだって。 |
■アリス To:お下げ髪の娘(インガ) |
えーっ、ベッチーにぃ? インガが見せなよ、はずかしぃーー☆ |
差し出された2枚のチケットは、薄い木の札で出来ており、今日の日付と夜公演を示す言葉が書き込まれていた。
下半分には、席番らしき番号がはっきりと焼き付けられている。
■ベッツ To:冒険者たち |
確かに今日の日付けになってますね。 それにこれ、ここウィンターシアターのマークです。 これじゃ間違いとは言えませんねぇ。 |
ベッツは木札の裏を返し、そこに焼き付けられた紋をみせる。
葡萄と月桂樹とが複雑に絡み合ったデザインは、一見したところ簡単に真似はしづらそうだ。
■カラレナ To:ベッツ |
この紋を普段管理しているのはどなたですか? 辞めていった劇団員さんが持っている可能性は…? |
■ベッツ To:カラレナ |
普通は劇場管理者、ここだとヴェーナー神殿のひとじゃないかなぁ。 僕らは公演日数分の木札を受け取りましたが、それは楽屋に鍵を掛けてしまってありますよ。 少なくとも今朝はありました。 |
■カラレナ To:ベッツ、オスカール |
念のためあとで確認したほうがいいかもしれませんね…。 |
■ベッツ To:カラレナ |
そうですね、戻ったらだいひょーに言って開けてみます。 |
■カラレナ To:アリス、インガ |
あの、このチケットを売っていたのはどんなひとでした? あと、どこで売られていました? |
■アリス To:ALL |
えーっとぉ、ポスターのしたでぇ、ピエロがぁ。 あのピエロのひげ、おっかしかったぁ。 |
■カラレナ To:アリス |
おかしいひげ…どんなひげでした? |
■アリス To:半妖精 |
三つ編みしてぇ、しかも先っぽにリボンついてんの! ピエロったって、中身はオジさんよぅ。 もう、ウケるぅ。 |
なにか壺にはまったのか、思い出すだけで笑いだしそうな勢いのアリス。
■カラレナ To:アリス>ひとりごと |
そうですよね、ウケマスよね…。 もうっ。 |
ピエロの去り姿を思い出し軽く地団駄。
■インガ To:半妖精 |
あ、ポスターが貼ってあったのは、北側の大きな橋の近くの広場です。 |
■カラレナ To:アリス、インガ |
ありがとうございます。 あと、先ほど、「みんな買ってた」って…。 どのくらいのひとたちがチケットを購入していたかわかりますか? …まさか「大人気」で「ほとんど完売」なんじゃ…………。 |
■アリス To:半妖精 |
フォーシーズンズの舞台よぉ。 もち完売じゃーん☆ あたしだって、この一年、頑張ってお金貯めたんだしぃ。 ベッチー!!全部みるから待っててね〜〜☆☆ |
■ベッツ To:アリス |
は、はぁ、ありがとうごさいます。 ええっと、みんなでがんばります。 |
アリスと呼ばれた少女からさりげなく、半歩後ろに下がりながら。
ベッツはハンカチを取り出して額の汗を拭う。
■カラレナ To:べっちー |
全部って…。 そういえば、席のお値段っておいくらなんですか? |
■ベッツ To:カラレナ |
演目や役者、セットによって多少違いますが、80〜120ガメルくらいですかね。 今回は、新作ですから最初は100ガメルの予定でした。 とは言えこの状況じゃ、仕上がりによって変えるんじゃないですかね。 |
■カラレナ To:ベッツ |
た、高…。 私たちが出るんじゃ、そんなにとれませんよね…。 って、もうお金払っちゃってるんじゃ…。 |
■インガ To:半妖精 |
舞台から、ちょっと離れた席だから2割引でって。 私たち3人はぎりぎりその値段で買えたんですけれど、その後はもういい席しかないって定価になって。 それでも、うしろに並んでた人たちかなり買ってましたよ。 20人ぐらい、いやもっといたかなぁ。 |
■カラレナ To:インガ |
そんなに…。 そうですか…。 |
すこし考え。
■カラレナ To:アリス&インガ |
あの、少し待っていてくださいね。 べっちーさんがサイン書いてくれるんですって。 |
■アリス&インガ To: |
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* |
ベッツ、オスカールを手招きし、娘ふたりから少し離れる。
■カラレナ To:オスカール、ベッツ |
ピエロの犯人さがしをしている時間もなさそうですし、お客さん全員に事情を説明する時間もなさそうですね…。 こうなったら、もう、今夜幕を上げるしかないのかも…。 |
■ベッツ To:カラレナ、オスカール |
ええっ?! だって、セットも衣装もないのに。 竜だって、どうするんですか? なにより、だいひょーがうんといいますかねぇ。 お客さんはフォーシーズンズの舞台を観に来るんだ、公開稽古であってもそれに相応しい芝居を見せろって、口うるさい位に言うあの人が。 |
■カラレナ To:ベッツ |
とにかく、だいひょーさんに現状を報告しに行きましょう。 みんなとも相談しなくちゃ。あ、それですみません、おふたりを待たせちゃったので…ここにサインしてもらえますか? |
羊皮紙2枚とペンを差し出す。
■ベッツ To:カラレナ |
この紙にサインすればいいんですね? ぼくが名前を書いただけで、お詫びになるんですか??? |
■カラレナ To:ベッツ |
えっ、サインて書いたことないです?? |
■ベッツ To:カラレナ |
えーっと、劇団の契約書になら……? |
■カラレナ To:ベッツ |
そ、そうですか〜。 |
首をかしげながら、羊皮紙にペンを走らせるベッツ。
へたではないが、特に上手くもない筆跡だ。
■カラレナ To:ベッツ>娘ふたり |
ありがとうございます。 お待たせしました〜。 どうぞ。 |
サインを差し出す。
■アリス To:ベッツ、半妖精、大男 |
う、うわぁーいっ。 きょーは、いっしょー分の運を使ったーーー! ありがとーございますーーーっ! かほーーーーにします!! ベッチー、あいしてるぅ〜〜〜!! |
ファンを名乗る少女の、激烈な反応に目を見張った後。
苦笑いを浮かべて頷くベッツ。
■カラレナ To:ベッツ |
愛されてますね(*^^*) |
■インガ To:劇団のひとたち |
ありがとうごさいます。 わたしはこれ、お話できなかった友達にあげることにしますね。 |
■カラレナ To:娘ふたり |
あ、そういえばさっき「私たち3人」って…もうひとりのお連れのかたもベッツさんのファンなんですか? |
■アリス To:半妖精 |
ベッチーのファンは あ た し ☆ インガとウーラはぁ、舞台が好きなんだっけ? あー、ウーラ!こっちこっちぃ!! |
突然、通りの方向に向かって大声をあげるアリス。
なにやらパンのようなものを両腕に抱えたおかっぱ頭の少女が、ぱっと笑顔になるや走って来る。
アリスが手を振っている間に、インガはカラレナのそばに身を乗り出した。
■インガ To:劇団のひとたち |
ウーラは、トムさんのファンなんです。 エレミアにいたとき、「美女が野獣」とかいうお芝居でハマッたんですって。 今度オランにも来てほしいなって言ってました。 わたしは、いろんなお話を見たいので、今夜も楽しみにしてますね。 |
■カラレナ To:インガ>ベッツ |
は、はい…。ありがとうございます。 美女が野獣って一体…。 あの、トムさんて…? 一緒に逃げちゃいましたよね? |
■ベッツ To:カラレナ |
トムが? いいえ、あいつがいたら、そんなことしませんよ。 いまは確か、エレミア周りのキャラバンの二番手にいるはずです。 |
■カラレナ To:ベッツ |
あ、エレミアのかたでしたか〜。 |
囁きあいが終わる頃、ウーラと呼ばれた少女は一行の元に到達していた。
■おかっぱ頭の少女(ウーラ)To:娘たち>ベッツ&ふたり |
あーっ、ひとが買い出しに行っている間に、抜け駆けとはズルいぞっ! こんにちはっ!ウーラですっ! 5年ぐらい劇団のファンですっ! みなさん、よかったらホットドッグどうぞーっ!! ボ…ワタシたちまた買ってきますからっ! |
両腕に抱えられたスライスバゲットが3つ、目の前に突き出される。
パンの間から、炙ったソーセージと温められたマスタードが混じった、食欲をそそる匂いが登り立ってきた。
■カラレナ To:ウーラ |
え、いいんですか? ありがとうございます…。 |
勢いに戸惑いながらも、バゲットを受け取る。
■アリス To:ウーラ |
ちょっ、後から来たっていいカッコしてぇ〜〜。 あたしたちの分買い直してきてよぉ。 |
■ウーラ To:アリス>ALL |
うん、ごめん、わかってるっ!! いま、カフェのおばさんが、大急ぎてスタンド準備してますよっ。 今夜開演って知らなかったんですっ。 教えてくれたお礼に、開演までバイトしないかって言われちゃってっ! |
■カラレナ To:ひとりごと>娘さんにん |
な、なんだか大変なことに…。 あの、変なことを伺いますけど…。 私じつは新入りなんです。 伝統あるフォーシーズンズの公演が、ほとんど新人のキャストで占められていたとしたら…やっぱりがっかりしますよね…? 例えば、お気に入りの俳優さんが出ていない、とか…。 |
不安そうに尋ねる。
■アリス To:半妖精&ベッツ |
あたしはぁ、ベッチーがでるならオッケー♪ 今日もいっぱいでてきてねーっ☆ |
■インガ To:デビューのひと |
ほら、フォーシーズンズの舞台って、誰が出るか幕が上がるまでわからないじゃないですか。 だから、新人とかみんなあんまり気にしないんじゃないかなぁ。 初舞台、がんばってくださいね。 |
■カラレナ To:インガ |
そっか〜。それなら…。 あ、ありがとうございます…。 |
少し赤くなりながらぺこりと頭を下げる。
■ウーラ To:新人女優 |
ボクが見るに、ファンというよりポスターにつられてチケット買ってるひとも多そうだったよっ。 エラソーなひょーろんかとか、たぶん買えてないと思うしっ。 よかったら、おねーさん名前教えて? 応援するからさっ。 |
カラレナの様子に親近感を持ったのか、親しみを込めて声をかけてくる三人娘。
■カラレナ To:ウーラ |
はい、あの… ええと…カラレナといいます。 が、ガンバリマスのでよろしくお願いします。 |
今度は耳まで赤くなりながら、深々〜とお辞儀。
■カラレナ To:娘さんにん |
では、お稽古がありますのでこれで…。 失礼しますっ。 |
■三人娘 To:カラレナ |
レナさ〜ん、ふぁいっとぉーo(^▽^)o |
■カラレナ To:オスカール、ベッツ |
何だか私、やる気が出てきました。 |
劇場内へと戻りながら、ふたりにささやき、きゅっと握りこぶしをつくる。