【ウィンターシアター内部】 |
■??? To:リー |
だいひょ〜!! そっちにいます〜? なんか、大変なことになってますけど〜!! |
冒険者たちには聞き覚えのない声が、くぐってきた藍色の幕の向こうから響いてきた。
■リー To:???>冒険者達 |
どうした、ベッツ? とりあえず、こっちに来い! 我らが主演のお出ましだ。 ちょうど良かった、紹介しよう。 |
たっぷりした後幕の間から出てきたのは、オランでも見かけることが珍しい、眼鏡をかけた青年だった。
短めの茶髪をなでつけながら、冒険者たちの立つ場所を回り込むその姿は、人間の男性にしてはやや小柄だ。
ウーサーやオスカールらの体格と比べるとひょろりとさえして見え、街中にいても気づかずやり過ごしてしまいそうな、そんな雰囲気さえ漂わせている。
彼は冒険者たちの姿を認めると、一度足を止め、丁寧に頭を傾けた。
■青年(ベッツ) To:冒険者たち>リー |
ようこそウィンターシアターへ。 ベッツと言います、はじめまして。 あの、だいひょー? 公演のことなんですけれどぉ。 |
■ドレッダール To:ベッツ |
おい、その前に。 わしを と お り ぬ け る な ! !お前さんのせいで、ますます薄くなったきがするわぃ。 わしが消えちまったら、誰が竜を退治するんじゃ? |
■ベッツ To:ドレッダール |
ああ、すいません。 僕、目がわるいもんで。 次はぶつかる前に言ってください。 |
半透明のドワーフをやり過ごし、リーのそばに並んだ青年が、再び口を開こうとするのを、今度遮ったのは、老ドワーフだった。
■リー To:ベッツ |
紹介しよう。 この度手を貸してくれることになった冒険者達だ。 オスカール、エルフモドキ、ザンバート、カラレナ、クローエ、だそうだ。 |
■カラレナ To:ベッツ |
はじめまして、よろしくお願いします〜。 |
■リキュオス To:ベッツ |
あんたがドレッダールを演じる主演さんか。 俺はエルフのモドキや。よろしく。 |
開き直った。
■クローエ To:ベッツ |
クローエです。よろしくね? |
■ベッツ To:ALL>リー |
カラレナさん、モドキさん、クローエさんですね。 はじめまして!ベッツです。 うわぁ、流石皆さん、本物は貫禄が違いますねぇ。 色々役作りの参考にさせてください!! あー、だいひょー。 その公演のことなんですけれどぉ。 |
■リー To:ベッツ>冒険者達 |
そう、公演だな。 安心しろ、ひとつ課題が解決しそうだ。 セット無しで、どうやって竜を観客にわからせるかについて。彼らから素晴らしいアイデアが出た。 そうだよな?諸君。 |
■ウーサー To:リー>ベッツ |
ザンバード、な? ていうかウーサーでイイぜ。 でもって、公演のナニが大変なんだよ? 逃げた団員が持ってったホンで、こっちが本家だなんて言い出したってか? |
■リー To:ウーサー |
いや、お前さんの名前は紛らわしくていかん。 内輪では、どう呼ぼうと構わんが、舞台上ではザンバードゥーーだったなーーとさせてもらう。 |
■ドレッダール To:ウーサー |
気にするな。 どうやらアーサーは、「ード」の発音が苦手らしいの。 それでも、お主をウーサーと呼ばない辺り、名前にもかなりこだわりがありそうだぞ。 |
■ベッツ To:ウーサー&ALL |
はい、僕はウーサーさんと呼ばせていただきますね。 それよりか、聞いてくださいよ。 そうじゃなくて、大変なのはですねぇ……。 |
ドレッダールの軽口を黙殺するように、言葉を続ける代表。
再び口を開きかけたベッツの言葉は、哀れにもまたかき消された。
■リーTo:ウーサー&ALL |
逃げた連中にそれ程のハラがあるならば、むしろ認めてやるぞ。 あいつらならせいぜい出来て、元フォーシーズンズの肩書きを宣伝に使う位だろう。 それも、こちらの縄張りから、遠く離れてからのことだな。 |
■カラレナ To:リー、ドレッダール>ベッツ |
あの、ベッツさんの話を聞きましょう? どうしたんですか? |
口を開きかけたベッツを片手で制するようにして。
リーは、あらためて冒険者たちに視線をめぐらせる。
■リー To:カラレナ&ALL |
いや、ベッツの大変、大変は毎度のことだ。 話が盛り上がってきているところにすまないな。 わしとしては、冒険者諸君の経験に基づくアイディアを、もっと聞かせてほしいところなのだが? |
■クローエ To:リー、ALL |
ふふふ、なんだか昔に東国の人のうわさに聞いた掛け合い漫談みたいねえ。 |
彼らの様子が面白かったのか、クローエは口に手をやって笑いをこらえている。
■クローエ To:リー、ベッツ |
でも、ベッツさんは大事な主演俳優さんでしょう。 短い間かもしれないけれど一緒に舞台を作るのだから、ベッツさんの意見も聞きながら 考えてみたほうが、使えるアイデアにより近くなるのじゃないかしら。 …公演のことでアイデアがあるのね? |
■ベッツ To:クローエ&ALL |
アイディアよりもなによりも! |
リーが口を開く前に、今度は間があった。
その隙を逃さず、ベッツはようやく、自分の言葉をまくしたてる。
■ベッツ To:ALL |
今夜公演やるんですか?! チケット買ったってお客さんが、外に来てますけど……。 |
■オスカール To:リー>ベッツ |
もう売っちまってるのか、そりゃ確かに大変だな、早く謝ってこないと客が暴徒になるぞ。 ああ、挨拶が遅れたな。俺がオスカールだ、よろしくな。 |
■リー To:ベッツ、オスカール&ALL |
ちょっとまった。 チケットなんぞ売っとらんぞ! 役者1人と素人5人、たった半日でなにができる。 ベッツ、お前が勘違いしているんでなければ、勘違いしとるのは客の方だろう。 ほっておけ。 |
ベッツが口にした内容に、目を剥いて驚いたものの、リーは直ぐに代表らしい落ち着きを取り戻した。
オスカールの言葉も含め、片手をふりつつ一笑で収める。
■カラレナ To:リー |
チケットを売っていない…? あの、おもてでピエロさんが売ってましたけど…。 |
■リー To:カラレナ |
ピエロが売っているのなら、おおかたサーカスのチケットだろ。 少なくともうちは、そんな低俗な売り方はせん。 |
■カラレナ To:リー |
えっ??? |
■ウーサー To:リー、ALL |
まあそりゃあ、リーの旦那が知らねえってなあ、おかしいよなぁ? 素人考えだから違うのかもしれねぇが、座長が知らないなんてありえねえんだろ? |
■リー To:ウーサー |
いいか、わしはあくまで「代表」だ、芝居をするわけじゃあない。 今回の公演の場合、「座長」の立場になるのはベッツだな。 |
■ウーサー To:リー |
ん? 代表と座長ってなあ、違うモンなのか? まあそりゃあ今はいいか。 で、チケットのほうは如何なんだよ? |
■リー To:ウーサー>ベッツ、ドレッダール |
とりあえず、お前さんたちがくるまで、わしらはふたり…強いて言っても3人しかいなかった。 ベッツ、それからドレッダール御大、念のため聞くが、ふたりともチケットを売ったり売らせたりしていないよな? |
リーの問いに、滅相もないというほどの仕草で応えるベッツ。
ドレッダールは、あきれたとでもいうかのように、大きく肩をすくめてみせた。
■リー To:ウーサー&ALL |
というわけで、わしらはチケットを売ってはおらん。 しかも、誰がピエロの格好なんぞを。 |
■ベッツ To:リー&ALL |
ああ、でも『夢から覚めた悪夢』の時は……。 |
■リー To:ベッツ |
「真紅の道化師」か?あれは演出の一環だ。 ドレッダールの英雄譚の何処に、ピエロの出てくる余地があると言うんだ? |
■ドレッダール To:ALL |
面白くなるようなら、何を出そうとわしはかまわんぞ。 |
■リー To:ドレッダール |
あんたは黙っててください。 話がややこしくなる。 |
■オスカール To:リー |
盛り上がっとるところ すまないが、やはりお客をほっとくのは不味い。 「ひとたび満席にして喝采が得られりゃ、後は面白いように金が入る」んだろ? 逆もまた真なりっつってな、お客の誤解で不当な不評をかっては、今後の興行に影響するだろ。 しかも、現実に何か問題が生じてるかもしれねえ、確認しとくに越したことは無えと思うんだがな。 |
■リー To:オスカール |
むむ……まぁ、一理あるな。 |
■ウーサー To:オスカール>リー |
だな。無理矢理店ぇ開けたところで、かえって悪い評判になりかねねぇ。せめて最低限の準備が出来るまでは、地べたに頭擦りつけてでもお帰り願うべきだと思うぜ? ていうか、こういう時に客から事情聞いて、相応しい対応をするってえのが座長なり代表なりの役目なんだろ? オレ様たちの打ち合わせはまあ、こっちはこっちでやっとくからよ。 リーの旦那はドレッダール殿の剣置いてってくれてかまわねぇから、ちょいと行ってきたらどうだい? 荒事になりそうだってんなら、オレ様もついていくけどよ。 |
■リー To:ベッツ |
だ、そうだ「座長」。 どうするね? わしは、こちらが頭下げる必要はないと考えるが。 |
■ウーサー To:リー、ベッツ |
まあ、頭擦りつけてでもってなあ、ちょいと言いすぎかもしれねぇけどな。 とりあえず客としちゃあ、今この場にチケット売りつけたヤツを連れてきて吐かせでもできねぇ限りは引っ込みがつかなくなる事だってあらぁな。 いくら道理を説いたところで、頭に血が昇られちまっちゃあ、ソレはこっちの理屈にしか聞こえねえってモンだろ? |
■ベッツ To:リー>ALL |
えーっと、えーと、とりあえず、チケットの内容を確認したほうがいいですよね。 で、お客さんの間違いだと説明すると。 なんか他に、やっておくことはありますか? |
■ウーサー To:ベッツ、ALL |
ついでにチケット売ったヤツが、どんなヤツなのかはしっかり聞いとくべきだろ。 幸いこっちにゃあ、街で起きたことを探るのに長けてるのも居るワケだしよ? |
■リー To:ベッツ&ALL |
劇場名の間違いでなけりゃ、お客の勘違いだろうよ。 チケット売りから、正しい公演の場所を割り出すのは難しそうだな。 教えてやれれば親切だが、そこまで出来なくても、こちらの責任じゃない。 おたおたするな、いってこい「座長」。 |
■ウーサー To:リー |
おいおい。着いてって助言してやらんでも大丈夫なのかい「代表」? 言っちゃあナンだがこの眼鏡、如何にも頼り無ぇぞ……? |
■リー To:ウーサー |
この剣のことがなけりゃ、わしはここにはおらん。 その場合も、こいつが対応しているはずなんだ。 それぐらい任せられんでどうする。 それに、低姿勢になれるやつのほうが、むいとる仕事もある。 |
■ベッツ To:ALL |
僕としても、なにもだいひょーがいる時に問題が起きなくっても、とは思いますよ。 とりあえず、チケットを誰から買ったのかは聞いときます。 はぁ、他になければいってきますね。 |
■カラレナ To:ベッツ |
あ、私も一緒に行きます。 |
■オスカール To:ベッツ |
ああ、俺も行くよ、言いだしっぺだしな。 |