知識の寄り道
「口笛通り」を出たシグナスとティンリエは、ハザード河の両岸をむすぶ橋を渡り、オラン西側の学院へと向かった。
毒づきながらも機嫌良さげに、大げさなジェスチャーを交えながら明るく話す。
前置きも何も無く、唐突にそう告げた。
少し肌寒く感じる風が、ティンリエの幼さの残る前髪を揺らす。
だんっ、と歩きながら片方の足を思いっきり踏み鳴らした。
小声でそう言い、シグナスの腕を不器用にぎゅっと握り、乱暴に引っ張る。
なぜかティンリエにぐいぐい引っ張られる形で学院に着いたシグナス。
ドロシー司書が、相変わらず手を掴んだままのティンリエを上から下までじろじろと眺めると、まだシグナスがヒトコトも発する前から警告。
何かいつもの冷静さとは違ったオーラを発しながら、こほんと咳払いひとつ。
何故か風当たりの強いふたり。
とん、とんとテーブルを指で叩きながら淡々と語るドロシー。
腕組みのまま、美しい前髪から覗くきつめの目元で、何か懇願するような視線をシグナスを投げかけるドロシー。
じっ、とシグナスを見つめるドロシー。
まるで経験者を知っているかの様に語るシグナス。
Sッ気に満ちた視線で微笑んでみせるドロシー。
図書館の壁に飾られた時計は、あと2項目がせいぜいという時を示していた。
何故か顔を赤くして、自信なさげに横を向く。
そして、ドロシーの協力を得て文献を調べ始める3人。
しかし「記憶障害」については──
山のように積まれた文献を前にして、がくっと突っ伏すティンリエ。
早々に見切りをつけていたドロシーは、小脇に抱えていた一冊の古ぼけた分厚い本をシグナスに差し出した。
ぱりぱり、と音を立てて開いてみせると、地図の上に立体映像として雲や太陽がぽっかりと浮かび上がる。
ドロシーが本の外装に触れているところを見ると、ページにさえ触らなければ大丈夫らしい。
にこにこと機嫌良さげな声で。
いきなり眉をひそめるティンリエ。
800ガメルを受け取ると、満足そうに頷き微笑むドロシー。
片目をつむってみせると、ドロシーは事務室の奥へと去って行った。
かなり楽しそうだ。
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