ライジング・サン
親切心なのか、勢いにまかせてか、その場のノリか。
ティンリエは、いかにも「大都会には慣れてません」といった様子で、美しい建物や、ハザード河に浮かぶ船をきょときょとと眺めていたが、シグナスに遅れまいと早足で歩いているせいか、時折石畳に蹴つまずいたりしていた。
ティンリエは嬉しそうににんまりと笑い、両手を背中の後ろに組んで、心無しか足取りを軽やかにする。
ちら、と探るような上目遣い視線をシグナスに向けた。
鼻歌まじりで言葉を切るティンリエ。その横顔はとても嬉しそうに見えた。
ほどなくして「ライジング・サン」という看板が見えてくる。
ガルガライス出身と思われる黒い肌の店員が、くるりと振り返ってふたりを出迎えた。 店内には、床から壁までびっしりと、様々な楽器が飾られていた。
そう言って、いつのまにか構えていた小さな弦楽器をポロロン♪とかき鳴らした。
ティンリエは、陳列されているリュートの数々を指で示す。
相変わらず悪戯っぽい、しかし先刻までよりは自然な笑顔を見せながら、並んでいるリュートのひとつを手に取った。
腰に手を当てながら偉そうに指示。
急に顔を赤く染めて、シグナスの背中を押しながら強引に促す。
ほい、と渡されたのは、現在シグナスが持っている「ワイルドキャット」をさらに進化させたような高級品だった。
渡されたリュートを手に取ると、真面目な顔になって弄るシグナス。
ティンリエの条件反射的鉄拳が店員の顔面にめり込み、そのままカウンター奥へと崩れ落ちた。
ティンリエは、預かった1000ガメルから3つのリュート代──300ガメル──を取り出し、続いて自前のものと思われる財布から500ガメルを取り出して、カウンターに置いた。
嬉しそうにうつむいてはにかむ。
OKOK、とジェスチャーで答える店員。
言うが早いか、シグナスの手をがっしと掴んで引っ張っていく。
|