重戦士危機一髪
決して軽くはない荷物を軽々と背中に担ぎ、ウーサーは銀の網亭に戻ってきた。まだ夕飯には早い時間帯のせいか、店内にいるのはティー・タイムを楽しむ数人の客ばかりだ。
■おやじ To:ウーサー
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おお、ウーサーお帰り。
依頼は順調かい?
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りんごのタルトにさくっ、とナイフを入れながら、おやじが顔を上げた。
■おやじ To:ウーサー
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そうそう、さっきリュナが帰ってきたんだが……具合が悪くて学院を早退してきたんだそうだ。
今、おかみが上に連れて行ったから、早く顔見せてやれよ?
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そう言って、うむ、と大きく頷く。
■ウーサー To:おやじ
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早退? そりゃあ、穏やかじゃねえな……教えてくれてありがとよ、おやじ。
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ウーサーは不安げな溜息をひとつついてから、足早に部屋へと向かった。
静かに扉を開け、中にいるはずのリュナに、おそるおそる声をかけてみる。
■ウーサー To:リュナ
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おう、オレ様だぜリュナ……早退したんだってな? 如何だよ、具合は?
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■おかみ To:ウーサー
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きゃっ、……ああウーサー、びっくりさせないでちょうだい(^^;
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いきなり開いた扉に驚いたおかみが、タオルを抱きしめながらつぶやく。
■ウーサー To:おかみ
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あ、こりゃあすまねぇ……リュナは、そこに居るのか?
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■おかみ To:ウーサー
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今、眠ったところよ……静かにね。
少し熱があるみたいだけど、大事は無いみたいね。
お水は、テーブルに置いておいたから。
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人差し指を口元にあてて、視線でベッドを示すおかみ。
ふたつあるベッドのうち、片方は大小さまざまな大きさの「うさぎのぬいぐるみ」で埋め尽くされている──すでに見慣れた光景だ。
もうひとつのベッドの上で、まるく盛り上がった毛布が、静かに上下しているのがわかった。
■ウーサー To:おかみ
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なあ、おかみ……ちょっと話、いいかい?
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リュナが起きなさそうなのを確かめてから、そっとおかみを手招きして廊下に出る。
■ウーサー To:おかみ
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おかみさんから見て、リュナの調子は如何よ?
オレ様も妹は居るんだが、歳が離れてっからいまひとつよく理解らなくてなぁ……医者、呼んできたほうが良さそうか?
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■おかみ To:ウーサー
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リュナね、学院で倒れて、保健室に運ばれたんですって。
それで、そこの先生に診てもらったって言ってたわよ。
診断書ももらってきたんですって……ベッドの横のチェストにあるから、とりあえず、目を通してみたらどうかしら?
その後で、何か力になれることがあれば、遠慮なく相談してね。
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やけに冷静な口調で応えるおかみ。
■おかみ To:ウーサー
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それじゃ、私は下に行ってるからね。
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最後はやけに優しい口調で言い、とんとんと階段を降りていった。
ウーサーは極力、静かに室内に入り。
まるく盛り上がった毛布の上下が安定しているのに安堵の溜息をついてから、チェストの上の診断書に目を通した。
「ご家族の方へ」と書かれた封筒に入っていたそれは、前置きも無くいきなり本題に入っていた。
「リュナ・カシアスさんは大変珍しい病気にかかっておられます。
食欲が落ち、嘔吐感、微熱がだらだらと続きます。そのうち急に高熱に侵され、意識が混濁します。
この状態は一晩で納まりますが、意識が回復したときには、本人にとってもっとも忘れたくない記憶を忘れてしまうのです。
また、その記憶を思い出そうとする度に、堪え難い激しい頭痛に襲われるため、二度と思い出すことはできません。
『エレジーフォゲット』──我々はそう呼んでいます」
さらに文章は、裏へと続いていた。
「ある珍しい草が、この病気の特効薬になると古い文献にありますが、詳しい情報が無いことをお詫びします。
できるだけ早く、お医者様にご相談されてください。
賢者の学院 養護教諭 リシュリュー」
赤く火照ったリュナの顔が、すっぽりかぶった布団の隙間から見える。
ウーサーはリュナの頬を、そっと撫でた。
■ウーサー To:リュナ
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安心しろ、リュナ。お前の思い出を、無くさせたりなんか……絶対に、させねぇからな。
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ウーサーは静かに部屋を出、すこし戸口を離れると、全速力で1階に向かった。
■ウーサー To:おやじ
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おやじ! すまねぇが、腕利きの医者の居場所を教えてくれ! 珍しい薬草に詳しい薬師でもいい、大至急だ!!
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■おやじ To:ウーサー
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な、何だ!? 薬草だって??
……オメデタじゃなかったのか?
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■おかみ To:おやじ
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バカね、そんなわけないじゃない。
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なぜか確信持ってるおかみ。
■ウーサー To:おやじ
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オメデタ? 目出度ぇモンかい、ていうかまだ5年は早ぇっての!?
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■おやじ To:ウーサー
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ええと……医者と薬師、どっちが良いんだ?
必要な薬が決まってんなら、薬師のほうがいいのか?
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■ウーサー To:おやじ
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『エレジーフォゲット』とか言う、なんか特別な薬草じゃなきゃ治療できねぇ病気になっちまったんだよ!!
あーえー、じゃあ薬師のほうが善いのか!?
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■おかみ To:ウーサー
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以前うちに依頼を出してくれた薬師さんが、今オランに来てるのよ。
そのひとを訪ねてみたらどうかしら?
なんと言っても町の領主御用達だから、腕は確かだと思うわ。
名前はセルフィドさん、一丁目の診療所にいるはずよ。
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ああ行ってこう行って、と道順を説明する。
■ウーサー To:おやじ、おかみ
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解かった! じゃあ行って来る、リュナ頼んだ!!
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ウーサーはこれまでにないほどのダッシュで、セルフィドの診療所を目指して走り出した。
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