名刀めぐり散歩
「名工の一品」を求めて、ドライはチャ・ザ神殿近くにある武器屋街を訪ねた。
「一寸通り」と呼ばれるこの界隈は、人間用だけでなく、妖精族の身体の特徴に合わせたフレキシブルな武器を豊富に扱っていることで有名だ。
うすく色づき始めた街路樹の葉が、ひらひらとドライの足元に落ちる。
通りを歩くのは、心無しか他所よりも妖精族が多い。
すらりとした美しいエルフの弓使いや、ずんぐりむっくりのドワーフの斧使いが、武器の自慢話に花を咲かせている。
■ドライ
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さて、草原妖精のお気に召すものはあるかね?
まあ珍しくさえあれば、一時の興味は引けそうな連中だが。
ついでに折れた牙も見つかってくれりゃあ僥倖なんだがね……
……ん?
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ふと、建物と建物の隙間から子どもの泣き声が聞こえてくる。
細い暗がりに目をやると、わずかに耳がとがった妖精族の子どもが、膝をかかえこんでうつむき、泣きべそをかいていた。
■ドライ To:妖精族の子ども
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どうした少年?
泣いたところで望むものは手に入らんぞ?
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今は遠き空の下の弟を思い出しつつ、近寄って声をかける。
懐の財布をさりげなく押さえながら。
■ドワーフの男の子 To:ドライ
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……う……うっ。
…………?
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声をかけられ、おずおずと顔を上げる幼い男の子。
丸い輪郭に特徴的なだんご鼻、やや横に広めな体格を見ると、どうやらドワーフの子どものようだ。
相手がグラスランナーでないことを確認すると、ドライは少し警戒を解いた。
■ドワーフの男の子 To:ドライ
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ぐすっ……この子、飼っちゃいけないって……お父さんが怒るの……。
怪我してて、かわいそうなのに……。
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そっと開かれた男の子の腕の中には、小さく丸まった艶やかな黒猫がいた。
豊かな毛並みのところどころに、ぶつけたような怪我があるようだ。
よく見ると、長いしっぽが2本、だらーんと無防備に垂れている。
■ドライ To:ドワーフの男の子
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猫? ……か? それは……
……ふむ。
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ドライは手を伸ばし、少年の手の中の猫(?)の首根っこを掴みあげた。
大人しくつかみあげられ、だらーんと無防備に腹をさらす黒猫。
腹側に怪我は無いようだ。そしてどうやらメスのようだということもわかる。
■ドワーフの男の子 To:ドライ
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猫、だよね? でもしっぽが、2本あるの。病気かなぁ……?
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小首を傾げる男の子。
■ドライ To:ドワーフの男の子
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俺は医者ではないのでわからんがね。
さて。問おう、少年。
この猫を飼おうと思ったのは、こいつが怪我をしているからか?
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■ドワーフの男の子 To:ドライ
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? うん、そうだよ。
でも僕んち、鍛冶屋だから……猫なんか飼えないって、お父さんが。
だから僕、怪我が治るまででいいから、ミルクあげたいって言ったのに……
……ぐすっ。
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ぐしぐしと袖口で目元をこする。
そして、顔を上げると、一途なまなざしでまっすぐドライを見た。
■ドワーフの男の子(セタ) To:ドライ
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あ……、僕、セタって言うの。
お兄ちゃん、猫にきくお薬とか、お医者さんとか、えと……魔法でなおしてくれるひととか、知らない?
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■ドライ To:セタ
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「魔法でなおしてくれるひと」なら心当たりがある。
頼んでみることにしよう。
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言うなり、猫の傷口に手を当て、癒しの呪文を唱えるドライ。
手から発せられた光が黒猫を包むと、見る見るうちに傷口がふさがっていった。
■セタ To:ドライ
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わぁ……っ、お兄ちゃん、神官さん!?
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驚いて目を丸くするセタ。
同時に、黒猫はぱちっと目を開け、くりくりした金色の瞳でドライを見た。
■黒猫 To:ドライ
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(???語)de ga oibeh!
(???語)caz nvayi!
(???語)yiwo!
(東方語)キライにゃ!
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立て続けに言葉を発する黒猫。ほとんどはドライには理解できない言葉だったが……
■セタ To:ドライ
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??? え? いま、お兄ちゃんがしゃべったの???
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■ドライ To:黒猫
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……ん、スマンな。余計なお世話だったか。
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言って肩越しにポイっと放り投げた。
■黒猫 To:ドライ
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(東方語)なに を す る に ゃ 〜!
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空にきれいなアーチを描いて飛んでいきながら抗議する黒猫。
そちらを気にすることもなく、淡々とセタの質問に答える。
■ドライ To:セタ
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俺がしゃべったわけじゃない。
キミでもないなら、あの猫がしゃべったということになるかな?
この場を見ていて、イタズラを思いつく物好きがいないのであればだが。
俺が神官かというと、微妙なところだ。
神殿に勤めた事はないし、それほど熱心に信仰してるわけでもない。
こうやって頼めば、応えてくれるがね。
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■黒猫 To:ドライ
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(東方語)いきなりほーりなげるなんて、神に遣える男のすることじゃないにゃ!
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いつのまにか背中にへばりついていた。
■ドライ To:黒猫
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嫌がっていたように見えたからな。
一刻も早く開放してやったまでだ。
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動じない。
■黒猫 To:ドライ
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(東方語)おまえしゃんがどの言語を解するかテストしたまでだにゃん。
「キライ」って言葉には、誰でも表情に反応がでるものなのにゃ!
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どや! ってな顔をドライに向ける。
■セタ To:ドライ>黒猫
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ほ……ほんとだ。猫がしゃべってるね。
(東方語)あのね、僕、セタだよ。君のおうちはどこ?
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■黒猫(ソプル) To:セタ
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(東方語)ソプルのおうちは、たった今からこの破壊僧の肩の上にゃ。
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背中をよじのぼり、ドライの首にすりすりとすり寄る黒猫。
よく見ればまだほんの仔猫のようだ。
■ドライ To:ソプル
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好かれるようなことをした覚えはないが?
何のつもりだ?
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■ソプル To:ドライ
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(東方語)ソプルは、世界見聞の旅のまっさいちゅーなのにゃ。
面白そうなニンゲンについていくのが一番なのにゃ。
ケガ治したあげくに、ほーりなげたのはおまえしゃんが初めてなのにゃ。きょーみがあるのにゃ。
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ぺらぺらとまくしたてながら、2本の尻尾が機嫌良さげにぴこぴこ動く。
■ドライ To:ソプル
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「好奇心は猫をも殺す」という言葉を知っているか?
まあいい。ついてくるなら止めはせんよ。
ただ、人間世界を見て回るというなら、人間世界のルールに従うことだ。
猫は人間の言葉など喋らんよ。
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首の下をかいてやりながら、暗に「黙ってろ」と諭すドライ。
■ソプル To:ドライ
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(東方語)ぶーぶーぶー、ソプルはおしゃべりだいすきなのにゃ!
でも、死にたくないからがまんするにゃ。
よろしくなのにゃ破壊僧!
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ごろごろと猫っぽい音を喉から出してみせる。
■ドライ To:セタ
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君の家は鍛冶屋だと言ったな?
ちょうど武器を探していたところだ。
よかったら案内してくれないか?
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■セタ To:ドライ
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あ、う、うん。
あのね、うちのお父さん、すっごく無口で無愛想なの。
でも、お仕事は、しっかりやると思う……から、怒らないでね。
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ちょっと嬉しそうにドライを見上げながら、「一寸通り」の奥を指差す。
ドライはひとつ頷くと、セタの案内でその先へと向かった。
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