黒いともしび亭
オランに来てまもないディニは、詳しいつてがあるはずもなく。
その身に馴染む薄暗い「常闇通り」を、奥へ奥へと入っていく。
まだ陽は高いはずだが、やけに湿った空気に満ちた界隈の一角に、目指すものがあった。
「黒いともしび亭」──オランのさまざまな場所に点在する、表向きは酒場を装った、盗賊ギルドの連絡所のひとつ。
ぎいっと重い音を立てる扉を開いて中へ入ると、客らしき人影は、窓際にうずくまる男ひとりだけだった。
カウンターには、グラスを磨くバーテンの姿がある。
■中年のバーテン To:ディニ
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いらっしゃい、きれいなお嬢さん。
カウンターでよろしいかな?
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つい、とメニューをディニの目の前に置きながら。
カウンターのバーテン面前に座り、メニューを取り上げチラ見する。
■ディニ To:中年のバーテン
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そうねぇ、メニューにないものが欲しいんだけど?
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■中年のバーテン To:ディニ
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……なるほど。
「奥の店主」に用事があると?
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メニューを下げながら、指先で「情報」「買う?」という符丁を送ってくる。
「奥の店主」とは、この店で言うところの「情報屋」のことだ。
店の奥の隠し扉の向こうに、情報を売買する部屋があるはず──ディニはそう聞いていた。
バーテンの目を見て頷く。
と同時に、指先で「品物」「必要」と符丁を返す。
■中年のバーテン To:ディニ
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では、こちらへ……今時分は、ちょうど席も空いております。
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「了解」という符丁を、グラスをしまう仕草の中に巧みに織り交ぜながら、カウンター横の扉を開け、ディニを店の奥へと促した。
扉の奥へ進むと、狭い廊下はすぐに階段になっていた。
そのまま、階段を降りていくと──突き当たりにぽつんと鉄製の扉が佇んでいる 。
バーテンは無言で扉を開け、ディニを中に通すと一礼して去っていった。
■瑠璃色ローブの女 To:ディニ
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……おはよう……。
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周囲を壁に囲まれた、窓ひとつない部屋のテーブルに座っているのは、濃い瑠璃色のローブをまとった女性。
きれいに切りそろえられた長い黒髪が、フードから垂れている。
そして、右手には彼女と似たような姿形のマペットが填められていた。
■瑠璃色ローブの女(カゲナ) To:ディニ
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私、カゲナ……。
こっちは、ヒナタ……。
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■マペット(ヒナタ) To:ディニ
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ヒナタでーっす、よろしくね〜♪
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ぺこりとお辞儀してくるマペット。
どう見ても腹話術だったが、声色は見事に別人だった。
■ディニ To:カゲナ
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あたし、ディニ。
用件の前に、お近づきの印
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マペットに50ガメル渡す。
指の付いていない、先のまあるい両手ではっしと硬貨を受け取る。
■ディニ To:カゲナ
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で、欲しいもの。品物と情報。
品物、魔術師ギルドの制服と杖
情報、風休みの草原に住むヒメオロチグサ、生態・弱点・特徴
と、あればクサに効く薬。値にもよるけど、その手配
そして、手付け。不足があれば言って。
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カゲナに200ガメル渡す。
■カゲナ To:ディニ
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……制服……。
男? 女……? 年齢……? サイズ……?
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■ヒナタ To:ディニ
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あなたが着るの、かな〜?
さすがに年齢的に高等部の制服は〜おっととっ。
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まだ差し出された硬貨には手を付けず、無表情で訪ねるカゲナ。
一方ヒナタは、両手でにこやかな口元(赤い糸で作られている)を押さえる仕草をしてみせた。
■ディニ To:カゲナ
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女用、出来るだけ小さいの。高さ、あたしの胸くらい。
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無表情のまま、じっとディニの胸元を見る。
■ヒナタ To:ディニ
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ほーまん、ほーまん〜、うらやましい〜。
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何かの感想を述べた。
意味ありげにカゲナを見つめる。
■ディニ To:ヒナタ
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あたしは制服好きじゃない。征服するのはs…
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後半部分は、ヒナタを真似て、口元を押さえる。
今度は両目を隠してみせた。
■カゲナ To:ディニ
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……女物の制服、初等部バージョン……レア……。
杖と合わせて、800ガメル……。
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すでに出されていた200ガメルを、よどみない動作で懐へ仕舞い込むと、す、と手を差し出してきた。
懐から硬貨を取り出すと、カゲナの手に直接渡し、カゲナの手を握ろうとする。
特に抵抗せず、微動だにせずに無表情。
握ったカゲナの手は、驚くほどひんやりとしていた。
■ディニ To:カゲナ
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あなた・・・結構可愛いわね
触ってもいいわよ
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本気とも冗談ともとることの出来る口調で話すと、カゲナの面前に体を預け、両目を閉じる。
■ヒナタ To:ディニ>カゲナ
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うっひゃあ〜!? のんのんのんっ! ここはそーゆーお店じゃないんだモン!?
カゲナ、カゲナ、しっかりするのよっ!? ファイトっ!!
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どう考えても腹話術なのだが、まるで「ヒナタ」という一人格がそこに存在しているかのような巧みさでカゲナにツッコミを入れる。
■ディニ To:ひとりごと
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冷たくて気持ちいい・・
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■カゲナ To:ディニ
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……あなたも、可愛いと、思う……。
でも、ここ、仕事、する場所……。
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相変わらず微動だにしない無表情で、テーブルの下から羊皮紙と羽根ペンを取り出す。
■ディニ To:カゲナ
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そうね。お楽しみは後で、まずは仕事よね。
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ガラッと口調が変わり、ビジネスライクになる。
■カゲナ To:ディニ
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次の、質問……。
ヒメオロチグサ……。
50ガメル……。
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さらに50ガメルをテーブルの上におく。
カゲナはそれを見て、さらさらと羊皮紙にデータを書き起こしていく。
■カゲナ To:ディニ
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追加、情報……。
さらに、100ガメル……。
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■ディニ To:カゲナ
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もう100ね。・・・予算超えだけどいいや。お願い。
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100ガメルをヒナタの傍らに置く。
羽根ペンが音も無く動き、追加の文言を書き足していく。
■ヒナタ To:ディニ
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条件とか、あるのかな〜?
どんな草に対してとかー、ヒトにやさしいとかー、使う面積とか〜〜?
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かくん、と首かしげ。
■ディニ To:ヒナタ
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最善は、ヒメオロチグサ単独あるいはオロチグサ全般のみに効く薬。
面積は狭い。全体に撒くのじゃなくて、狙いをつけて投げつけるから
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何かを投げるまねをする。
■カゲナ To:ディニ
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……無い、ことも、無い……。
両方に、効く薬……。
お値段、10体分で1000ガメル……。……バラ売りはできない、液体だから……。
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■ディニ To:カゲナ
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無いことも無い!
でも、1000なんて無いし。
あなたが気の向いたときにあたしが相手をするってんじゃ、割引できない?
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ヒナタの体部分を、人差し指でくすぐる。
■ヒナタ To:ディニ
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うひゃひゃひゃひゃ♪ ダメ〜〜♪
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くすぐったそうに身体(布製)をくねらせる。
■カゲナ To:ディニ
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……私、その胸、羨ましい、だけ……。
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相変わらず無表情で、自らの薄そうな胸板を示す。
■ディニ to:カゲナ
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羨ましい?じゃ、仕事が終わったらゆっくり鑑賞していいよ
秘訣を教えてあげる
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カゲナにウインクする。
カゲナは やる気だ。
■ヒナタ To:ディニ
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あ、それでさっきの話だけどー。
あたしたちからの「依頼」を受けてくれたら、タダで譲ってあげてもいいわよ〜♪
これから、風休みの草原に行くんでしょ? 「くさ」を退治しに?
だったらたぶん、ついでにできる依頼だから。
聞いてみる気、ある?
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ぴこぴこと両手をせわしなく動かして、「聞いたら受けてもらうわよ」といった雰囲気を醸し出しながら。
■ディニ To:ヒナタ
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ただより高いものは無い、ってよくいわれてるけど、いいわ。受けるわよ
ついでに出来ることなら
誰かをたらしこんで情報を得るとか、何かを黙って拝借するとか、まさか暗殺?
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ヒナタの首を絞めるまねをする。
■ヒナタ To:ディニ
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うぐぅ!? のんのんのんっ、オランのギルドは暗殺禁止っ!
ドレックノールとは違うんだから☆
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■カゲナ To:ディニ
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……簡単、「盗む」だけ……。
……真っ当な、盗賊の……仕事……。
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カゲナはもう一度新しい羊皮紙を取り出すと、さらさらと内容を書き起こす。
そして、ディニの視線がすべての文言を辿ったのを確認するや、無造作にランタンの火を移して燃やしてしまった。
■ディニ to:カゲナ
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確かに、真っ当な盗賊の仕事ね。OK。するわ
草刈だけじゃなくなって、楽しくなりそう
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見た目にも楽しそうに、ほくそ笑む。
■ディニ to:カゲナ
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で、物はすぐに入手できるの?
時間がかかるなら、上で時間潰すし、
早いなら、さっさと仕事を片付けて、プライベートタイムにして楽しもうよ
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再び、カゲナに体を摺り寄せる。
けど、顔はからかっている表情がありありと見える。
■カゲナ To:ディニ
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……そういう、趣味、無い……。(///
豊胸体操、教えて、欲しい……。
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カゲナは無表情のまま、ぽっと顔を赤くする。
■ディニ To:ひとりごと
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体操…といえばそうよね
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■ヒナタ To:カゲナ
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あああっ、絶体絶命ーーー!?
ほーらほらディニっ、品物が届いたわよー!?
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いつのまに手配したのか、部屋の後ろの壁が無造作にがばっと開いて、そこから大きな木箱がひとつ、押し込まれてくる。
ふたを開けて中身をディニの前に並べる。
グラスランナーの体型にピッタリな、女の子用の制服と杖。
そして、竹のようなものでできた注射器のようなもの。
竹のようなものを指差す。
■カゲナ To:ディニ
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……ここを押し込んで、液体、噴射する……。
当たれば、一撃……。10回分……。
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■ディニ To:カゲナ
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なるほど・・・。世の中、いろいろなものがあるものねぇ〜
それを知っているあなたも、たいしたものよ
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心底感心して、二人に微笑む。
■ディニ To:カゲナ&ヒナタ
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で、プライベートタイム、今から取れるわけ?
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そのとき、部屋の外からさきほどのバーテンの声が響いた。
■バーテン To:カゲナ&ヒナタ
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……お嬢さま、次の「お客様」がいらしてますが。
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■ヒナタ To:ディニ
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あー、了解了解っ、ちょっと待っててもらって〜!!
ごめんね〜ディニっ、また忙しくない時に、ねっ♪
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ぶんぶん手を振るヒナタと、相変わらず無表情なカゲナ
■ディニ To:カゲナ
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あら、残念。これからだったのにね。
じゃ、次回の機会に教えてあげる
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出ようとして振り返る。
■ディニ To:ヒナタ&カゲナ
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そうだ。アドバイスしとく。
胸が薄いとか、嫌いになっちゃだめよ。好きになりなさい。
それが今のあなたなんだから。自分で自分を嫌いになったら悲しいでしょ
気に入らないところがあっても、好きになって可愛がってあげなきゃね
嫌ってたら、相手も答えてくれないよ
可愛がり方は、今度、教えたげる
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■ヒナタ To:ディニ
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どのよおな意味かすごーく怖いけど、またね〜っ♪
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ディニは軽く手を振り部屋を出ると、酒場の中を見渡す。
ずいぶんと長く話していたせいか、客が少し増えてきたようだ。
窓から覗く外の様子は、わずかに夕方の気だるさを帯びていた。
■ディニ To:ひとりごと
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ちょっと小銭を使いすぎたかあなぁ
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■ディニ To:中年のバーテン
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ねぇ、この場で一曲うたってもいい?
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■中年のバーテン To:ディニ
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ええ、もちろん。
殺風景な酒場に、華を添えてやってください。
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そう言って、どのテーブル席からもよく見える位置にディニを促した。
ディニは愛用のツィターを鳴らし、客の気を引くと、「ファンドリアの夜」を歌いながら踊りだす。
ちびちびと酒を楽しんでいた客たちは、その歌声と踊りにひととき酔いしれ──終わった頃には、何枚かの銀貨が皿に投げ込まれていた。
■ディニ To:中年のバーテン
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ありがとう。これ場所代。
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投げられた銀貨から3枚をバーテンに手渡す。
■中年のバーテン To:ディニ
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これはどうも、ご丁寧に。
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■ディニ To:中年のバーテン
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それと、のど乾いたから、お酒頂戴。
軽めでいいから
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■中年のバーテン To:ディニ
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では、シードルを。
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出された酒を一気に飲み干す。
■ディニ To:中年のバーテン
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おいしかった…。じゃ、いろいろありがとねぇ
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荷物を持って、店を出る。
■中年のバーテン To:ディニ
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こちらこそ。どうぞ良い旅を……ファンドリアの踊り子。
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