オラン地下水道裏 |
今度は静かに蓋を下ろすと、ゾフィーは再び地下へと足を踏み入れた。
水の流れに改めて耳を傾け、より太い管へと繋がる場所までの距離をつかもうとする。
大きな水音が100m位先から聞こえる。
見た限りではそこまでこの通路には支道は無いと思える。
■ゾフィー To:内心 |
(さて、食糧らしきものを運んでいたということですから、濡れる方向に向かった可能性は低そうね。 逆手に取って、水が増す側に進んだ可能性も無いとは言い切れませんが、それにしては合流点が近すぎるわ。 この辺りに隠し通路の類はなさげですし。 となると、やはり流れと反対にに進むべきかしらね。) |
地上に登る分岐の天井、水に濡れることがなさそうな場所に、手持ちの絵の具のうち一色を、汚れを装うように塗りつけ目印にすると。
梯子から地下へと足を降ろしたゾフィーは、慎重に流れと反対の方向へと歩き出した。
■ゾフィー To:内心 |
(あら、ずいぶんと初歩的な……これでは、居場所を宣伝しているようなものではありませんか。 ま、わたくしが気がつくくらいですし、これ自体がおとりという可能性も否定できませんけれども。) |
靴音、水音を意識して抑えながら、歩き出したゾフィー。
ドワーフ族特有の、闇を見通す視界を持つ者がみれば、彼女の左眉が大きくはねあがるのがわかったろう。
足下に設置された紐らしきモノーー明らかに最近、人為的に設置されたなにかーーに目を留めると、ゾフィーは紐の行く先を、注意深く目で追って見た。
ドワーフの闇を見通す視力は、設置された紐の行く先を容易に辿る事が出来る。
終点には鳴子の様なものが繋がっていることが分かった。
■ゾフィー To:内心 |
(おまけにこれでは「音が聞こえる範囲に、誰かいます」って、大書してあるようなものじゃない。 行方不明の企画と、守りの甘さと、知的レベルのアンバランスさがひどいわ。 計画自体が、なにかの猿真似ということも、考慮にいれた方がよいのかもしれませんわね。) |
絵の具を使って、壁の乾いた位置に紐を示す矢印を大きくなすりつけると。
ゾフィーは注意深く紐を踏み越えた。
そして、これまで以上に音を忍ばせようと努力しながら、先に向かって歩みを進めていく。
10m程進んだ所で、水路は左右に分かれている。
上を見ると、先程の鳴子の紐が左側の通路へと伸びているのが分かった。
■ゾフィー To:内心 |
(??? 罠から鳴子に繋がっているのに、さらに先に紐を繋げるのは不思議ね。 しかもご丁寧に天井まで廻して。 手元の警報を鳴らさせるつもりなら、先の鳴子はなんなのかしら? 接続先を増やせば、誤動作の確率をあげるだけじゃございません。 まあいいわ、訳は今度、専門家に訊いてみましょう。) |
左の通路に向けて、また絵の具で汚れめかした印をつけると。
静かに、かつ、警戒を強めながら、ゾフィーは左の通路へと進んでいく。
さらに10m程進むと、前方右より微かに人工的な明かりが灯っているのが分かった。
見た限り、ランタンか松明等の魔法的で無い照明に思える。
ゾフィーが耳を澄ますと、東方語の会話が聞こえてきた。
■???A To:???B |
腹が減った。確か今日は暖かい飯が食える日だよな。買い物当番は誰よ? |
■???B To:???A |
今日はゾイクの奴だな。 それより、”荷物”の様子はどうよ? |
■???A To:???B |
ん、もうすっかり諦めてる様だな。 まあ泣いても喚いても誰も来ねえんだけどよ。 そろそろ潮時じゃねえかな。親分がそう言ってたぜ。 |
■???B To:???A |
そうか、まあ金になれば何でもいいや。 長居するとばれる可能性も増えるし。 まあ、なんかあっても”先生”が居るから大丈夫だろ。 |
■???A To:???B |
違げえねえや。 っと、俺の勝ちだ。10ガメル寄越しな! |
■???B To:???A |
けっ! またかよ! 次は俺が勝つからな! |
右眉を大きく動かしながら、ゾフィーは音を立てないよう細心の注意を払って壁に身をもたせかけた。
■ゾフィー To:内心 |
(Aは阿呆、Bは馬鹿、内情までまるごとしゃべってくださるなんてありがたいこと! この分だとゾイクとやらも期待出来そうにないわね。 親分が、少しは釣り応えのある相手と願いましょう。 ホトさんは、そろそろ合流出来た頃かしら?) |
明かりの向こうの会話に耳をそばだてたまま。
ゾフィーは、仲間たち、あるいは一味側に動きが出るまで、この場でしばし待機を試みることにした。
■???C To:???A&???B |
うーす。そろそろ買い出し行くけど、希望はあるか? |
今度は左眉と同時に壁に預けた身体を跳ねあげたゾフィー。
足音を忍ばせようと努力しながら、可能な限りの早さで先の分かれ道へと後退する。
■???A To:ゾイク(???C) |
おお、ゾイクか。俺はチキンとエールな。 |
■???B To:ゾイク(???C) |
おれは魚とワイン。パンを忘れんなよ? |
■ゾイク To:???A&???B |
あいよ。じゃあちょっくら行ってくらあ。 |
明かりの有る方向から、人の歩く音が聞こえた。
ゾフィーの視覚は、出てきた人物が、茶髪の短髪、180cmくらいある身長、程良く引き締まった体格の人間男性で有る事を認識した。
男は忍び足をしている様子は無い。こんな所までつけてくる者等居ないと思っているのだろうか。
■ゾフィー To:内心 |
(ランタン!まったく、なんというたるみっぷり!!どうみてもCはクレイジーね。) |
降りてきた道から向かって右の暗い通路の奥に身を潜めると。
ゾフィーは息をころして、買い出し当番が先へ行くのを待った。
ゾイクと呼ばれた男は暗闇に潜むゾフィーに気付いた様子も無く、そのまま先に進んで行った。
■ゾフィー To:内心 |
(さて、これでひとり減ったと。 でしたらそろそろ、こちらから仕掛けましょうかしらね) |
足音が引き返してくる気配の無いことを確認すると。
ゾフィーは、静かに小袋に水を満たし始めた。
袋の口を閉じると、ダガーの刃を側面に滑らせるようにして繊維を削ぎ、衝撃で簡単に袋が裂けるようにする。
続いて紫の長衣を取り出すと、装備を覆うように全身に巻きつけせた。
ゾイクと呼ばれた男が、地上に出たと思われる時間を見計らい。
ステッキを手にしたゾフィーは、足音を忍ばせ、再び、明かりへの接近を試みる。
男達は相変わらず何らかのゲームに興じているのか、ゾフィーの接近を咎める者は居なかった。
注意深く明かりの点いた部屋の様子を窺うと、ろうそくの明かりがテーブルに一つ。
そのテーブルでカードゲームに興じている二人の男が居る。
部屋は5m四方位で、奥に続く仕切りらしき布が水路側奥に見える。
僅かに鼻の穴を膨らませると。
ゾフィーは、手にした水入り袋を、ろうそくめがけて投げつけた。
水袋は見事ろうそくに命中! 周囲に水をぶちまけ、明かりを消した。
■???A To: |
うわ、何だこりゃ! |
■???B To: |
真っ暗で何も見えねえ! |
■ゾフィー To: |
……。 |
無言で男達に駆け寄ると。
ゾフィーは手にした黒檀の杖を、容赦なく「阿呆」とみなした男(A)の頭部めがけて叩きつけた。
男(A)に杖は命中し、男(A)は声を発すること無く気絶した。
■ゾフィー To: |
……。 |
崩れ落ちる男を見やる事もなく。
返す腕で、勢いに乗った黒檀のステッキを「馬鹿」と吐き捨てた男(B)の頭にめり込ませるゾフィー。
ゾフィーの杖はまたも無慈悲に男(B)の頭にめり込んだ。
嫌な手応えがする。
男(B)もその場に倒れた。
■ゾフィー To:内心 |
(せめて、警告ぐらいできませんでしたの? 10人も捕虜がいるなら、もう少ししっかりしてくださいませんと) |
意識のない手下達を後ろ手にして、それぞれ、手足の親指を針金で固定。
着ていた服で猿轡をかませると。
ゾフィーは、鍵や侵入のための手がかりがないか、男達のポケットや懐中をあらためる。
ポケットや懐中の中には僅かなガメル貨幣が入っているだけだった。
鍵の様な物は見当たらない。
また、カーテンの向こうから誰かが出てくる様子も無い。
■ゾフィー To:内心 |
(やれやれ、ここで待っていても仕方なさそうですし。 そうなると、こちらから参るしかございませんかしらね。) |
先端を拭った墨杖を手に、紫衣を巻きつけなおすと。
ゾフィーはそっと、カーテンの向こう側に足を踏み入れた。
カーテンの先は真っ暗だった。しかしゾフィーには見通せる。
ここには三人分の毛布(床に敷く分と掛ける分)と、彼らの荷物らしき革袋が三つある。
この部屋から続く扉や仕切りみたいな物は見つからない。
■ゾフィー To:内心 |
(叫ばなかったのは、叫んでも聞こえないのがわかっていたせいかしらね? とは言え、男ばかりの部屋にあえてカーテンなんぞをかけるからには、水路から直接見られたくない心理が働いたとみるべきでしょうね。 ここが3人の別荘ということでなけれは、天井かどこかに、上へと続く道があるのではないかしら。 出来れば、水路を先に進まずにすませたいところですけれども。) |
闇を見通すドワーフの視界で、天井や足元にも注意を払いつつ。
今度は部屋をあらためるゾフィー。
そのシーフとしての勘が、奥の壁の一部が動きそうな事に気付いた。
■ゾフィー To:内心 |
(たるみきった「クレイジー」が罠を張るわけもなし。 先に進むが吉ね。) |
ゾフィーは壁を動かし、先へと足を踏み入れる。
壁に罠は無く、音も無く動いた。
壁の仕掛けは、この賊達が作った物では無さそうで、恐らく古代王国時代の物である事が想像できた。
壁の先は幅3m程の通路になっていて、10m程先から明かりが見える。
■ゾフィー To:内心 |
(通路も罠のたぐいはなさそうね。 出入り口はここだけではないようですし、先に3人が寝泊まりしていたということは、後の連中は他の入り口に廻っている可能性が高いはず。 貴重な明かりを、四六時中捕虜に与えるとも考えられませんから……明かりはもしかするとボスあるいは他の食客のものかしら?) |
音は立てないように気をつけながら、ゾフィーは明かり目指して接近を試みる。
明かりの側(5m程)迄来たとき、十分に注意したはずだが、通路の先から誰何の声が聞こえる。
■??? To:侵入者(ゾフィー) |
誰だ? こそこそ忍んでるつもりかもしれんが、私の耳には筒抜けだぞ。 |
■ゾフィー To:??? |
ごめんあそばせ。 わたくし、ゾフィー・ヴィルヘルミオネ・ギーゼラ・ホルテ・クリステ・フ…ランベルクと申します。 さしつかえなければ、ゾフィーとお呼びくださいませな。 失礼ですが、そうおっしゃいますあなたはどなた? |
普段と変わらぬ、凛とした声で応じるゾフィー。
■??? To:ゾフィー |
ほほう、肝が据わってるな。どうやら官憲では無さそうだ。 私は”スカーフェイス”ヴァルドと呼ばれている。 まあ、今は只の雇われ用心棒さね。 言っておくが、精霊の動きでそちらは見えているからな。 何も見なかったことにして引き返すなら、見逃してやるぞ。ゾフィーとやら。 |
■ゾフィー To:内心 |
(「呼ばれている」ですか…。 名は体を表す、森妖精または、森育ちの取替え子ってところかしら。 さもなきゃ、変わり者のダークエルフ、頬傷さんってところね。) |
僅かに右眉を動かすと。
前方に見える幕の向こうの気配に耳を傾けながら、ゾフィーは青年であろう声に言葉を返す。
■ゾフィー To:ヴァルド>内心 |
そうね、興味深いお話だわ。 姉を探している幼子という、厄介この上ない状況がなければ、わたくしもこんなところに迷い込まずに済ませたのですけれども。 わたくしとしては、あなたほどの腕ききが、何故雇われ用心棒などをやっているのか、理解に苦しみます。 他の道はございませんでしたの? 例えば冒険者……正直あれも、まっとうとは言い切れませんが、こんな場所で用心棒をしているよりは…自由よ。 (幕の向こうには、他に3人。 先ほどと似たような連中でしょう、ご苦労なこと。 仮に他にいたとしても、見逃すなどど言っている食客より上ということはなさそうね。) |
■ヴァルド To:ゾフィー |
悪いな。この身は生まれた時から暗黒神の祝福……呪いを受けているのでな。 一生表は歩けない身よ。 西方のファンドリアにでも行けば違うんだろうが、生憎東方暮らしが性に合ってるのでね。 |
■ゾフィー To:ヴァルド |
あら、そう簡単に諦めるものでもなくてよ。 そちらの皆さんに「先生」と呼ばれるほど、種族の壁を取り除くことがお出来のあなたと見込んで、申しますけれども。 わたくしがオランに顔を出すようになってから知っただけでも…そうね、4人。 表を歩いている異種族を存じておりますわ。 誰も彼も肌の色なんてレベルじゃない、同族が現れたらヒトなら村ごと焼き討ちしかねない異質度の持ち主ですわね。 もちろん、外見で判断する連中は多うございますから、正体を知られない気配りは必要ですけれども、穴ぐら生活で警戒し続けるのも同様。 |
そう語りながら、手にしたステッキを腰に収めると。
ゾフィーは、幕越しかつ精霊視であっても動きが見えるように、空の両手を大きく広げ、はっきりと肩をすくめてみせた。
■ゾフィー To:ヴァルド |
求めてみれば、手段が全くないということはないのよ。 ここで埋もれるには、惜しい方だと思いますわ。 まして、捕縛されて官憲やギルドに送られれば、あなたの種族は公平な裁きは受けられない。 わたくしに見つけられたということは、他の連中がここを見つけるのも時間の問題でしょう。 ドワーフの婆にかかずりあっている場合ではないと思いますわ。 立ち去るなら、今よ。ヴァルドさん。 |
口調を変えることなく、きっぱりと言い切ったゾフィー。
彼女は両手を空けたまま、無造作にカーテンに向かって歩きはじめた。
■ゾフィー To:気配の3人 |
そちらのお三方。 どれだけ義理が深いかは存じませんが。 わたくしでしたら、少なくとも逃げ出す準備だけでも始めますわね。 今、賭けの台に乗っているのは、ガメルではなく、それぞれの命でござぁますから。 |
ゾフィーはそう言い放つと。
4人と己とを隔てるカーテンを跳ね除けた。
■ヴァルド To:ゾフィー>下っ端ズ |
ははは! 面白い事を言う。 もっと別の形でまみえたかったぞ、ゾフィーとやら。 おい、相手は一人だ。束になればお前らでも勝てる。 準備しろ! |
ヴァルドの叱責を受けて、下っ端達も臨戦態勢を取った様だ。
■ゾフィー To:下っ端 |
はっ、高い賭けシロになりますわよ。 わたくし、どこぞの馬鹿娘と違って手加減はいたしませんから。 |
空手のままつかつかと4人に歩み寄るゾフィー。
ぎりぎりのタイミングでフランベルジュに手を伸ばしたゾフィーは、それを引き抜きざまに横殴りに大きく振ろうとする。