【補修区画・崩落現場】 |
マリーラナとオスカールとは、ドワーフについて走る。
ほぼ通路なりにしばらく進んだだろうか、大きく角を曲がった先には、土と埃の匂いが立ち込めていた。
開かれた両開き状の扉と、それを支えるアーチ状の扉枠の先で何かを指差しながら、身を乗り出すようにしていた数人のドワーフ達が振り返り、明かりを見て一様に驚愕の表情を浮かべる。
■叫びドワーフ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 癒し手だ!……このねえちゃんは、そういってるだ。 こっちのにいちゃんも、力がありそうだから、連れて来ただ。 |
顔を見合わせたドワーフ達だが、すぐに頷いて手招く。
アーチをくぐった先、彼らの足元で地面が喪失していた。
「助けだ!!」
「おい、動くな」
「もうちょっとだ!がんばれ!」
口々に声を上げるドワーフ達。
間から覗き込んだふたりの目に飛び込んで来たのは、傾いて斜面を滑り落ちかけている巨大な歯車状の機械とそこから伸びる2本の太い鎖。
そして、血まみれになりながらも、身体を斜面と歯車との間に押し込んで支えているエイベルの姿だった。
■エイベル To: |
……ぐっ…!! |
声と明かりに反応してエイベルが上を見上げかけた瞬間、巨大な歯車のような機材がさらにかしぐ。
杖のもたらす明かりの中で、彼の右半身に、新たな血のしみが広がって行くのがわかる。
「もういい、やめろ!!」
「いや無理だろ!今、力抜いたら真っ逆さまだ!!」
口々に声を上げるドワーフ達。
■叫びドワーフ To:人間女 |
(ドワーフ語) ま、魔法とどくだか? 頼む、治してやってほしいだ。 鎖の先に…まだ3人残っているだ! |
■マリィ To:叫びドワーフ |
(ドワーフ語) ご安心を。 ラーダ神よ…… |
焦りがあったのだろうか。
神聖語の祈りを噛んでしまった。
■マリィ To: |
ラーダ神よ、彼の者に癒しを! |
祈りは完成し、傷を癒していく。
固唾を呑んで見守っていたドワーフ達がどよめいた。
だが、姿勢や表情を見る限り、癒しきれたとは言えない状況のようだ。
魔法にはおそらく気付いたのだろうが、エイベルは今度は見上げようとはせず、姿勢の維持に努めている。
それでも機械は確実に彼にのしかかり。
魔法で癒し続けたとしても、この状況をそれほど長くは維持できないだろう。
■叫びドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) おお神様! あんたが来てくれてよかっただ…。 |
ふたりを連れて来たドワーフがそう言うと同時に、他のドワーフ達もマリーラナとオスカールとを取り囲む。
「ブラキ様、ありがたや!!ほんものの奇跡だ!」
「あ、あんた、他にも魔法使えるのか?」
「頼む、あいつらをなんとかしてやってくれ!」
「でっかい兄ちゃん、もしかしてあんたも魔法使えるんか?」
「魔法でなくてもいい!なんとか出来ないか?!」
彼らはドワーフ語で、口々に呼びかけてくる。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 状況を詳しく説明してください。 出来るだけの事はします。 |
ドワーフ達に説明しながら、地面に石ころが落ちていないか捜す。
瓦礫のような石の切片が、大小問わず散らばっているのがわかった。
■叫びドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) 説明って……ええと。 おらたち6人で、「籠」で降りただ。 したら、突然床が抜けて。 急いで登ろうとしたけど、「歯車」がぐらぐらで。 慌てて笛を吹いたらあのひとが来てくれただ。 先に上がったもんが助けを呼びに行って、おらも登ったところで、あのひとも落っこちて。 おら、とにかく魔法が使えるやつを探そうとしたら、神官さまたちが来てくれただ。 |
癒し手を探していたドワーフが、時折崩れた側に目をやりながらも、たどたどしく説明する。
■茶髭のドワーフ To:神官さま&大男 |
(ドワーフ語) 俺たちは、その…上の階に居て笛を聞いたんだ。 あのひとみたいなことは出来ないけど……やれることがあったら、言ってくれ!! |
その言葉に、他のドワーフ達が次々とうなずいた。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) ここの状況は皆さんの方が詳しいでしょう。 お願いします、ロープや鎖など、何か結びつけられる物を。 なるべく長いものが良いです。 急いで持ってきてください。 |
■茶髭ドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) ろ、ロープ?そんな滅多にねぇもんどこから……。 |
「ロープってなんだ?」
「なんでも植物を編んで作った○□△のようなものらしぃ」
「とっさにそんなもんがでてくるとは、流石神官さまだ」
「だけど俺たちは、どうすればいいんだ?」
ざわめくドワーフ達。
■叫びドワーフ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 落ち着け、鎖でもいいといっとるだ。 それなら、床工事していたところにあるだ。 誰か手伝ってほしいだ。 |
ばたばたと慌ただしく走って行くドワーフ達。
そうドワーフたちに指示した後、肩に何時も乗せている使い魔のフィリーを斜面へ降ろす。
エイベルの近く迄移動させる予定だ。
フィリーと感覚を共有させるマリーラナ。
まず、斜面の表層がかなり滑りやすくなっているのがわかった。
足の置き場を間違えれば、滑り落ちるだけでなく、新たな崩落を起こしかねない。
猫ならではの身のこなしで、足元を探りつつ、急斜面を下る。
黒い「歯車」は、フィリーの視点からではそそり立つ大きな塊だ。
半分ほど下ったところで、それが、大きな歯車の影で小さな歯車が幾つも組み合わさった複雑な構造をしていることがわかった。
そして、傾いた「歯車」は、かなり危ういバランスで斜面に引っかかっているらしいことも。
エイベルの状況はこの位置からはよく見えないが、これ以上近づくと「歯車」のバランスを崩す可能性があるかもしれない。
しばしの間を置いて、ドワーフ達が戻ってきた。
指2本分ほどの幅がある鎖を、ロープ2巻分は抱えている。
かなりの重さがあるようで、ドワーフの大人でも4人がかりの作業だ。
■茶髭ドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) ロープ言っとったから、代わりにモッコを持ってきた。 皮を編んでるから、ほどけば足しになるんじゃないか? |
言葉と同時に、一抱えはある皮を編んだ塊が床に置かれた。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 解く時間が勿体ないですが、使える様なら使いましょう……。 |
そうこうしている時、不意に使い魔フィリーが短く鋭い鳴き声を放つ。
一瞬静まった皆の耳に、地鳴りのような、しかし微かな響きがが聞こえてきた。
■叫びドワーフ To:ALL |
(ドワーフ語) こ、この音。 確か、床が抜ける前にも聞こえただ……。 |
途端に不安そうな表情を浮かべ、足元を見回すドワーフ達。
■茶髭ドワーフ To:ALL>神官さま |
(ドワーフ語) では。崩れる前に急いで片付けないとな。 神官さま、指示してくれ、これらをどうすればいい? |
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 両方の端をわたしに。 降りて鎖部分と、エイベル氏に結びつけてこようと思います。 結び終わったら全員で引っ張り上げてください。 無理矢理鎖ごと籠の部分を引き上げようという作戦です。 歯車の構造がよく分からないので不安ですが、時間がありません。 わたしは少しの間なら飛べますので心配は無用です。 |
■オスカール To:マリィ |
・・・・危険だが、良い案だ。 最悪の事態にも備えて、鎖の端は別の柱か何かシッカリつないでおく。 これなら、引き上げられなくて宙吊りになっても、救出は続けられる・・・はずだ。 |
そう言いながら、オスカールは職人の視点で辺りを見回す。
通路の壁は頑丈そうに見える。楔を打ち込めば鎖を固定できるかもしれない。
それ以外に鎖を固定できそうなものといえば、通路側に向かって開いた扉ぐらいだろうか。
■オスカール To:マリィ |
マナさん通訳してくれ。 楔くれ! あと、ハンマー! 壁に打ち込む。 |
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 楔とハンマーありますか! あったらそこの彼に渡してください。 鎖の端を固定します。 |
「楔って、何処にある?」
「俺見たぞ!鎖があったところだ!!」
「おお、あそこならハンマーもありそうだな」
「急げ!みんなで探すんだ!!」
口々に叫びながら、通路へと駆け出していくドワーフ達。
その数、4人。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) ちょっと待って! 人手が足りないので探しに行くのは一人で! 引っ張り上げる人が足りなくなります。 |
顔を見合わせたドワーフ達。
「楔を見たぞ!」と言ったドワーフが駆け出し、他の3人はやや恥ずかしげに足を止める。
■茶髭ドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) わかった、俺たちは…ひい、ふう、5人か、そっちの兄さんも加わったとして6人。 気をつけてくれよ。 下の4人だけでも大変なのに、あのでっかい鉄の塊は到底ささえきれん。 ま、そうなったら楔なんぞも弾けとんじまうだろうがな。 |
■叫びドワーフ To:神官さま |
(ドワーフ語) その杖、どうするだ? おらが持とうか? あ、明かりがいるなら突き出しとくだ。 |
■茶髭ドワーフ To:叫びドワーフ>神官さま |
(ドワーフ語) ばかっ!いちばん鍛えられているお前が、鎖を持たんでどうする。 そんなものは、他の奴らに持たせておけ。 だがそうなると、支えられるのは5人になるが、大丈夫か? |
■ドワーフ2人 :神官さま |
(ドワーフ語) 鎖の端だったよな? ほれ、これだ。 重いから気をつけろよ。 |
口々に話しかけてくるドワーフ達。
同時に鎖の端が2つ、マリーラナに差し出された。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) 明かりはもう一つ灯して行きます。 ちょっとお待ちを。 |
マリィはライトとレビテーションの詠唱を次々に行った。
ライトは手元の指輪に。
そしてレビテーションが発動した後、ドワーフ達から鎖の端を受け取った。
■マリィ To:ドワーフ達 |
(ドワーフ語) では、行って来ます。 |
「う、浮かんだ?!すげぇ神官さまだ!ありがたや〜。」
「気をつけるだよ!」
「頼んだぞ!!」
口々に叫ぶドワーフ達。
鎖の端を二つ掴んで、マリィは虚空に身を委ねた。
幅跳びの要領で地面を蹴り、虚空に大きく飛び出す。
大きな黒い「歯車」に近づくにつれ、指輪の明かりが先を照らす。
歯車から先、人間の身長で4人分ぐらいの辺りで斜面は急激に角度を変え、奈落のような落ち込みを見せていた。
そこにぶら下がったゴンドラのような鉄籠に、3人の人影がある。
彼らは明かりに気がつくと、驚いたように指差しながら、口々に叫び始めた。
■エイベル To: |
うぐわっ! |
その振動でゴンドラごと鎖が揺れ、歯車の滑落を支えていたエイベルの身体はさらに斜面に押し付けられる形になった。
むき出しの腕を、新たな血の流れがつたう。
■エイベル To:マリィ |
頼む、彼らを…急いで……。 |
地鳴りのような響きが再び耳を打ち、斜面の表層をぱらぱらと小砂利が滑り始めた。
時間の余裕はほとんど残されていないようだ。
■マリィ To:フィリー |
フィリー、もう良いから上に上がって。 |
先に使い魔を上に返す。
まず、エイベルに鎖を結びつけようとするマリーラナ。
慣れない作業の上、歯車に押し付けられている状態のエイベルの周りに鎖を通すのは至難の技だった。
なんとか鎖を絡めたものの、完全に固定したとは言い切れない状況だ。
■エイベル To:マリィ |
大丈夫、なんとかつかまりますよ。 この歯車がどいてくれたら、わたしも動けるようになりますから。 |
そんなマリーラナに、エイベルはささやくように、声を絞り出した。
■マリィ To:エイベル |
先にゴンドラの方から引き上げて貰います。 そっちの負荷が少なくなれば楽になるはず。 もう少し耐えてください。 |
エイベルは顎髭だけ小さく動かしてうなずいた。
続いて、マリーラナは歯車から伸びた太い鎖に鎖のもう一方の端を結びつけた。
3人のドワーフ達がいるゴンドラまでは、流石に長さが足りない。
鎖は時折揺れるが、それでもなんとか人並み程度には結びつけられたようだ。
■マリィ To:上のオスカール&ドワーフ達 |
結び終わりました! 先ずはこちらから引き上げてください。 |
ゴンドラ側に結びつけた鎖を引っ張って上に合図する。
■オスカール To:マリィ |
わかった! じゃあ、引っ張るぞ。 そーれ! |
オスカールの掛け声に合わせるように、5人のドワーフ達が力を合わせる。
筋肉を盛り上げ、しっかりと鎖をたぐるオスカール。
癒し手を探していたドワーフは、言われるだけあって、引き方を心得ているようだ。
茶色の髭のドワーフは、他の助っ人達に目を配ろうとしながら、それでもなんとか力をこめる。
だが、他の3人がタイミングがあわなかったのか引ききれず。
ゴンドラは動いたものの、がくりと元の位置に戻った。
宙を浮いていたマリーラナには、3人のドワーフ達が、あわててゴンドラにしがみつくのが見えた。
■オスカール To:ドワーフたち |
気合いれろ! 今が踏ん張りどころだ!! |
■ドワーフ達 To:掛け声 |
おおーっ |
再び、鎖引きにいどむ6人。
すべりかけた右手を、すかさず左手をゆるめることで支え、オスカールは役割をこなす。
同じく丁寧に引き続けるのは、慣れた引き方のドワーフ。
しかし、今度は茶髭のドワーフが、自ら腕を放してしまった、集中しきれていないようだ。
その為か、助っ人達はがくりとひきずられ、最後のひとりが足を滑らせて倒れた。
ゴンドラは指一本ぶんも、進んでいない。
■オスカール To: |
くっ、言葉が通じんのは、ここまで作業の障害になるのか・・・・。 こうなりゃ、行動で示すしかねえな。 |
気を引き締めた6人は、3たび鎖に気合いを込めた。
先頭をきって確実に腕を動かすオスカール。皆の手本になるべく、わき目も振らず機械のように鎖を手繰る。
現場にいたドワーフは、疲れが見えてきたものの、その引き方に乱れはない。
束ねるドワーフは、やはり後ろが気になるようだが、今度はしっかりと鎖を持った。
先に鎖を滑らせた男が赤ら顔をさらに赤くしながら、気合いを込めてひっぱり。
肩で息をしているひとりをのぞく、全員の力がひとつになった!
ついにゴンドラは、必死でしがみつく3人のドワーフ達と共に、ゆっくりと上へと戻り始めた。
■マリィ To:エイベル |
保険を掛けておきます。 エイベルさん、抵抗しないでくださいね。 「大地よりの見えざる手よ、しばしその力を緩めよ!」 少しの間だけですが、これで一気に落下する事はありません。 |
エイベルにマリーラナの唱えたフォーリング・コントロールの力が付与された。
■オスカール To:ドワーフたち>マリィ、エイベル |
後は任せた! 俺はエイベルさんを助ける!! マナさん、エイベルさん!、もうすぐゴンドラを助けられる。 崩れるのが先かも知れんが、救出と同時に引っ張るから、引っ張られても良いように準備してくれ。 引っ張るときは声かけるから、そのタイミングで跳び跳ねてくれ! |
そういうとオスカールは、マリィとエイベルをつないだ鎖を持った。
しかしまだ引けない、エイベルの支えがなくなったら歯車が崩落してしまう。
しかも斜面も揺れ始めてきた、微妙なバランスで維持されていた斜面が崩落する予兆なのだろう。
鎖を持ち、ゴンドラの救出をじっと待ち続ける。
鎖を引き続けた男達の努力が実り。
3人のドワーフを載せたゴンドラは、歯車と繋がった思い鎖を引きずりながら、硬い床の上にその身を横たえた。
ドワーフ達が飛び降りると同時に、轟音が鳴り響き、斜面が大きく揺らぎ始める。
ゴンドラをつなぐ鎖を挽いていたドワーフ達は、先を争うようにオスカールが手にした側の鎖に手を伸ばした。
次の瞬間ーーー!!
■オスカール To:マリィ、エイベル |
引くぞ、跳べ!!! |
魔法で浮いているマリィと空中に躍り出たエイベルであれば一気に引けるはず・・・計算が甘いかもしれないが、崩落が始まってしまった以上、瓦礫に巻き込まれないように手繰り寄せるのが先決だ。
巧くこちら側に引き寄せられるよう祈るしかない、オスカールは渾身の力で一気に引き寄せた。
■マリィ To:オスカール |
どうぞ! |
マリィは上に叫ぶと、エイベルに結びつけた鎖を手に取った。
浮力のあるうちに一緒に引き上げて貰うつもりである。
■茶髭ドワーフ To:ALL |
(ドワーフ語) く、鎖を離せーっ!! |
■ドワーフふたり To:ALL |
(ドワーフ語) 離れろ!鎖から離れろ!! |
言葉と同時に、鎖から手を話して退くドワーフ達。
気づいていなかった最期のひとりが、あわてて鎖を放り出した。
■叫びドワーフ To:でかい兄ちゃん |
(ドワーフ語) 歯車が落ちるだ!離さないと引きずりこまれるだ!! |
最初に出会ったドワーフが、鎖を離し、オスカールの腕をつかむようにして必死で何かを叫んでいる。
引きずり上げたゴンドラ、鎖の結び目、斜面の歯車を次々指差しながら。
■マリィ To:オスカール |
鎖を放せ! と言われてます。 このままじゃ、歯車の落下に巻き込まれると! |
ドワーフの叫びを聞いたマリィはエイベル氏にも告げる。
■マリィ To:エイベル |
エイベルさん、さっき結んだ鎖解けますか? 解けたら、私が抱えて浮かび上がります。 |
■エイベル To:マリィ |
大丈夫、なんとかほどきますよ。 わたしに構わず逃げてください。 |
首をもたげ、微笑みを浮かべるエイベル。
その笑顔が、動き出した歯車の影に埋れていく。
そしてオスカールとドワーフ達のそばでは、がくんと音をたててゴンドラが崖を滑り落ちていった。
ゴンドラに繋がる太い鎖とそれに結びつけられた細い鎖とが急速に流れ落ち、オスカールの手元で跳ね上がる!
足元を流れる鎖の跳ね返りを見極めさせたのは、戦場で鍛えた反射神経か、冒険者としての経験か。
鮮やかにかわしたオスカールの足元から、鎖は姿を消していった。
彼らから離れ、やや低い位置に浮かぶマリーラナの近くをゴンドラが、そして鎖の塊が雪崩落ちた。
鎖をつかんだままの手首に激しい痛みが走り、掌の肉とともに鎖がもぎ取られる。
指輪に付与された光の元、白い肌に飛び散る、朱。
そしてそれらを導くように、恐ろしい勢いで回転しつつ、奈落の底へと落下していく歯車。
エイベルは幸運にも回転する歯車の外側に押し出される形になった。
巻きついた鎖をものともせず、その巨大な物体の直撃をかわす守護長。
俊敏な動きではあるが、その動線を追うかのように、血の筋が舞う。
マリーラナの言葉どおり、エイベルはからめた鎖をほどこう試みる。
だが、守護の長と言えど焦りがあるのだろう、からめられているだけのはずなのに、うまく手がまわらないようだ。
彼の身体は、鎖に引かれて急速に落下しつつあった。
■マリィ To:エイベル |
これで、私の出来る支援は全てです。 万能なるマナよ! 彼の者に鋭き感覚を! もう時間が……。 |
マリーラナの魔力がエイベルを包み込む。
彼女の呪文、そして言葉は、目を閉じかけたエイベルに、新たな力をもたらしたようだ。
引き落とそうとする力に抗い、身体を捻ると、彼は再度、鎖解を試みた。
それは辛うじて成功し、解き放たれた鎖は、歯車やゴンドラと共に奈落の深みへと消えていった。
大地か引き寄せる力に逆らう様に、ゆっくりと高度を落としていくエイベル。
彼は温かい、心のそこからの笑みを浮かべながら、マリーラナを見上げている。
そんな彼らを祝福するかのように、頭上から差し込まれるそれはーー
光。