#178 星から降る夢

☆ 叩けよ、さらば開かれん? ☆

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【「別館」東翼前】

個室を出た冒険者達は通路を進み、分岐路だったはずの場所で足を止めた。
確かに昨晩は三叉路であった道は、いつの間にか直角に曲がった通路にその形を変えている。
通路を遮っているであろう「壁」は一見する限りでは、左右の壁と同じく滑らかに見え、 角に丸みを持たせた石柱や板石が敷きつめられた床とに溶け込んでいた。
暗視を持たない者達の視点ではなおさら、道があったことを知らなければ、そのまま通り過ぎてしまってもおかしくはない。

オスカールは「ここだ」と言われた壁を調べてみた。
壁というより岩といえるそれは、ここが特別だと想像させるに相応しいものだった。
■オスカール To:ALL
こりゃ岩だ、それもかなり頑丈なヤツな。
ちゃんとした“つるはし”でたたいても40回ぐらいはぶったたかないと壊れないな。
まして剣じゃ傷一つ付けるのが精一杯、斧や槌矛でなら何とか・・・って言っても、何回たたくことになるか分からんがな。

オスカールは愚痴りながら、具体的に壁の強度について説明した。
■エイベル To:
……。

「壁」の前でひとたび足を止めたエイベルは、オスカールの説明を聞きながら無言でそれを見上げる。
その後わずかに頭を下げた彼は、冒険者を振り返ることなく、足速に「別館」の出口に向かった。
■マリィ To:エイベル>オスカール
エイベルさん。お待ちを。
先導をお願いします。

オスカールさん。行きましょう。

■オスカール To:マリィ、ALL
おう、急がんとな。

■エイベル To:マリィ、オスカール
失礼いたしました、ではわたしに続いて来てください。

マリーラナの言葉にエイベルは、はっとしたように一度足を止め、ふたりを待った。
守護長と魔法司祭、そして自称「大工のおっさん」とは道具を確保すべく急ぎ足で「別館」を後にする。
■ウーサー To:カラレナ
さ〜て、っとお……それじゃあコッチも、おっ始めっとしますかねぇ?

ぎりりりっ、とモールの握り引き絞ると、頭上で数度弧を描かせたあと。
かつてこの石壁を造ったのであろう、名も知れぬいにしえのドワーフに喧嘩を売っているようだと感じたウーサーは、鬼面を壮絶に歪ませて嗤った。
■カラレナ To:ウーサー
あ、ちょっと待ってください。

細いからだを滑り込ませるようにして、ウーサーと壁の間に入り、やや尖った耳を冷たい石壁に押し付ける。
■ウーサー To:カラレナ
どうだい嬢ちゃん、なんか聞こえるか?

■カラレナ To:ウーサー
うー…。
ダメです、壁が分厚すぎるのかな…?

気が急いて集中力が発揮できなかったせいでもある…かも。
■カラレナ To:ウーサー
相手にさとられないように、音を消しますね…
シルフ、お願い。風のささやきをとめて…

祈るような声で胸のブローチに囁く。
さざめくような空気の震えとともに風の精霊の姿がふうわりと、立ちはだかる「壁」の前で揺れたようにみえた。
次の瞬間、壁の周りの空気はその動きを止め、あらゆる「音」の伝わりを遮断する。
■ウーサー To:石壁
―っ!
――ふっ!! ――ぁ゛!!!

そして、普段であれば放っているだろう怒声さえ押し殺し、渾身の怒りと共に鉄塊に込めているかのような打撃を繰り返しはじめる。
それは、一見すると絶望的なまでの頑健さを誇る石壁への、あまりにも強引すぎる抵抗にも見えた。
■ウーサー To:石壁
――!
――――!!
――――!!!!

100を数えるほどの時が過ぎただろうか。
一撃、一撃、全身の筋肉に思いを載せて、壁に叩きつけられていたウーサーの打撃が、ついに報われる時がきた。
それはおそらく、いにしへにこの「避難所」を作り上げた匠達の過ちではなく。
石そのものが持つ結束力の僅かな綻び、繰り返し打ち込まれたモールの先端が、その場所を捉えた奇跡的な瞬間だった。
薄紙程度の切片が、難攻不落とも思われた一枚岩の表面から剥離し、はらりと舞う。
■ウーサー
(そうら、捉えた――ぜっ!!)

その次の一撃が、先の剥離部とほぼたがわぬ位置に打ち込まれる。
みしりという音さえしなかったが、僅かとはいえそれまでとは確実に異なるかえりが、モールの柄を通じて伝わってきたのが、ウーサーにはわかった。
■ウーサー To:石壁
――――!

少しづつ、しかし着実に切片を削りとり、ウーサーの打撃は続く。
希望をもぎ取ったとはいえ、いにしへの大乱からも長い時の流れからも、地下を守り続けてきた岩の抵抗は、並大抵のものではなかった。
表面にこそ、大きな窪みが刻まれつつあるものの、カラレナのサイレンスがその効果を終える時が近づいても、「壁」そのものは揺るぎもせず、ふたりの行く手を阻んだままだ。
■カラレナ To:
(もう一度!)
シルフ、風の揺らぎをとめて…!

音の無い空間の外に立ち、カラレナは再びサイレンスを発動させた。
ブローチから飛び出した風乙女が「壁」の周りでざわめき、再びカラレナの胸元に戻っていく。
辺りを無音が支配する中で、ウーサーの奮闘は続いた。
■ウーサー To:石壁
――!!
――――!

打ち込み続けること32回目、とうとうモールの先端が壁の向こうを捉えた。
石片が、ウーサーの張り詰められた上腕にも、少し離れて立つカラレナの周囲にも飛び散り始める。
そして36回目、揺らぎ、しなりながらもまだ立ちはだかり続ける壁の前に、2回めのサイレンスの効果が切れた。
■ウーサー To:石壁
――っ、とおおッッッ!
さあ来たぜキタぜ、きたぜえぇぇぇっ!!

■カラレナ To:ウーサー
あ…っ。
でも…もう少し!
がんばって!!

ブローチに三たび手を伸ばしかけたカラレナだったが、ウーサーを信じてその手を動かさなかった。
■ウーサー To:カラレナ
よおおっしゃあ、任せろおおおっ!!

次の一撃は、不意に低い轟音を廊下に轟かせた。
重い鉄の塊が、巨漢の体重をのせて岩に叩きつけられる激突音に、めりめりという剥離音、床との隙間から生ずる摩擦音とが合わさり、空間をも揺るがす。
それでも、いにしえからの技術と素材とが組み合わされた壁は、まだふたりの前に立ち続けている。
■ウーサー To:石壁
でええぇぇぇっ、りゃああああッッッ!!!

そして38回目。
唸りを帯びて繰り出された渾身の一撃を受け、ついに岩壁は崩壊した。
鼓膜を打つぐわらぐわらという音とともに、岩の塊は瓦礫の切片と化し、冒険者達の行く手を阻むことをやめた。
もうもうたる砂埃が廊下に立ち込める。
崩壊した壁の細かな残骸が、勢いをかって舞い上がり、空気中に広がって冒険者達の喉や鼻をひりつかせた。
茶色がかった白い霞に石松明の明かりが拡散し、倒壊した壁の向こうはすぐには把握できない。
仮に向こうから見ていた者がいたとしても、見通せない状況は、似たようなものかもしれないが。
■ウーサー
うええっ、ゲホッゲホゲホっ!?

モールを構えなおす腕で顔を庇いながらも、埃の向こうに鋭い眼光を叩きつけ、「向こう側」から現れるだろう存在に備える。
■カラレナ To:シルフ
けほ、けほっ。
シルフ、少し風を…けほっ、運んで…っ。

カラレナの呼びかけに応じ、三たび飛び出したシルフが空間をかける。
微弱な風が巻き起こり、砂埃を巻き上げ、吹き散らしていった。
そして、ようやく明かりが届いた通路の先では。

扉から距離を置いた位置にドワーフ達が佇んでいた。
その数、5人。
■大柄な老ドワーフ To:他の4人
(ドワーフ語)
さぁて、おまえさんら、賭けは賭けだ。
これからどう転ぶにせよ、先にけじめはつけといてくれよ。

真ん中に立つ、年老いて見えるもののドワーフの中では相当な体格を持つ男が差し出した手に、他のドワーフ達が悔しそうに何かを渡していく。
受け取ったものを、無造作にふところに押し込みながら、大柄なドワーフは、視線をウーサーとカラレナとに向けた。
左目の近くに大きな傷跡があり、そのせいだろうか、視線がやぶにらみになっているのがわかる。
そのためか、彼の目つきからは、何を考えているのかが読み取りにくい。
■ウーサー To:カラレナ
なあ、あのオッサン今、なんて言ってたかわかるか?

■カラレナ To:ウーサー
ご、ごめんなさい、わからないです…。

■大柄な老ドワーフ To:扉をぶっ壊したふたり
真ッ正面から来たわりには、ずィィぶんとかかったな。
そいつをわざわざぶッ壊したからには、それなりの理由があるンだろう。
談判か?殺りあいか?
こちらには、どッちにも応ずる用意があるぞ。

共通語だが、やや訛りを含んだ野太い声が、絡まった髭のあいだから押し出される。
取り巻くドワーフ達は年齢は様々、みな男で、一様にややくたびれた皮服を纏っていた。
武器こそ構えてはいないものの、どこか鋭い目つきでウーサーとカラレナとを見ている。
■カラレナ To:大柄な老ドワーフ
こ、殺し合いだなんて…
お願いにきたんです。
ドレイクくんの尋問をやめて、私たちに彼のことを任せてくださいって。

■老ドワーフ To:女
ふゥむ、ぶッ壊しておいて「お願いにきた」ァ?
お嬢、見かけによらず、ずいぶんと派手に手札を切るもンだな。

足元に転がる、「壁」であったものの欠片を軽く蹴りあげながら、老ドワーフは身体を傾けるようにして半歩前に踏み出した。
他のドワーフ達は、共通語を解しているのかいないのか、表情すら動かさずに佇んだままだ。
■カラレナ To:老ドワーフ
す、すみません、壊しちゃって。
ノームがいればもとどおりになったんですけど…。

ぺこぺこと頭を下げる。
■老ドワーフ To:女
元通りィ?その必要はないッ!

拳一つ分ほどの差もない位置から、目線をカラレナに向け、びしっと指先を崩壊した「壁」に向ける老ドワーフ。
■老ドワーフ To:女
話が広がれば、いつかこれ以上のモノを作ろうとする奴が現れる。
それまでは、ほッておけ。

■カラレナ To:老ドワーフ
そ、そうですか…。

■ウーサー To:大柄な老ドワーフ
ま、こっちゃあこのとおり、レディのエスコートってのをしてるんでよ?

愉快そうに笑みを浮かべ――とはいえ生来の狂相故に、初見だと「獰猛な嘲笑」に見られることの方が多いような表情なのだが――、ウーサーはモールを担ぐように構えなおして自由にした左手の親指で、ぐいとカラレナを指差してみせた。
■ウーサー To:大柄な老ドワーフ
こんなんでも「ご婦人」ってヤツだ。ちぃと時間がかかんだよ、軽い散歩に出かけるんでもな。
ところで――

■カラレナ To:ウーサー
こ、こんなん。

カラレナが軽いショックを受けている横で。
ごづり、と荒々しく、モールの切っ先を足元にめりこませる程の勢いで突き立てるようにして持ち直す。
■ウーサー To:大柄な老ドワーフ&4人のドワーフたち
話し合うんでも話させるんでも、オレ様はどっちでも歓迎なんだが。
なあ、賭けのオッズはどうなってんだい?

そして、老ドワーフの胸元、さきほど財布と当たりをつけたモノをしまった懐のあたりを指差した。
■老ドワーフ To:男
先の賭けは、ワシのひとり勝ちだ。
お前さん達が程よい程度に頑張ッてくれたァおかげでな。
なァに、つぎもワシが勝つさ。
ちなみにどデカいの、お前さんなら何を賭ける?
いや、それよりも何賭ける?

傷のある側の半面と、ゆがんた視線とをウーサーに向け、老ドワーフはにたぁりと威圧する様な笑みで応じる。
■ウーサー To:老ドワーフ
オレ様かい? じゃあオレ様が賭けるのは――この、腕っ節ってことでどうだい?
喧嘩だろうが怪物狩りだろうが、戦争だろうが。オレ様がもぎ取ってやるよ、勝利ってヤツをな。

あの懐の中のモノと、オッズとしちゃあ互角そうだろ?とカラレナに嗤いかけてから、ウーサーはモールを肩に担ぎなおし、真顔になって老ドワーフを見据えた。
■ウーサー To:老ドワーフ
だがその前に、やらなきゃならねえ事があってな…。
悪ぃがオレ様のダチ、返してくれねぇか? 今日は調査に協力してもらうって、約束してんだよ。
オレ様としちゃあ、ダチとの約束は破りたかぁねえし、仕事の妨げになるってんなら――そんなモンは片っ端から排除することにしてんだ、オレ様はよ?

■老ドワーフ To:漢
お前さん、ぶれないな。
そういう奴は嫌いじゃァない。
だが、そもそもドレイクという奴が誰かを知らン。
そいィつがお前さんのダチならば、「返す」権限はワシにはないということだ。

そこまで言うと、老ドワーフはちらりと右斜め天井を見上げ、視線を戻した。
■老ドワーフ To:瓦礫の向こうのふたり
で、「排除」とやらの件だが。
我らが潔癖なる守護隊長殿とは違いィ、ワシらには義理に付き合ッて命を張る理由はない。
もっともらしい口実さえ用意してくれれば、引いてやってもかまわンぞ。
とはいえ、ワシの経歴とガタイでは、ビビりましたが通用せンのはわかるな。

■カラレナ To:老ドワーフ
あの…、あなたはアイデクセンさんの部下ではないんですか?

■老ドワーフ To:女>ふたり
アイクセン、な。
わしもなまッとるから、ヒトのことは言えンが。

で、質問の答えだが、そうだともそうではないとも言える。
ワシと奴との関係は、お前さん達の言葉で説明するのはややこしィ。
時間を掛けて説明してやってもかまわンが、そっちのデカいのがそこまで待てんだろ?

名前を素で間違えて赤くなるカラレナ。
■ウーサー To:老ドワーフ
おう、待てねぇな!

何故か自慢げに言い放つと、ウーサーはモールを背負いなおした。
■ウーサー To:老ドワーフ
でもって、まあ……オッサンの言う「口実」ってえヤツだが……?そうさなぁ……じゃあコイツで――

ウーサーは見せ付けるように、ゆっくりと、それでいて刀身の揺らぎを最小限に動かすことで力強さも誇示しながら、背負った銀の魔剣を抜き放った。
そして、突如として猛獣の如き素早さに切りかわり、やぶにらみの老ドワーフの後ろに控える他のドワーフたちに、今しも挑みかかるように踏み出そうとすると――
■ウーサー To:老ドワーフ、カラレナ
――こうするのなんざぁ、如何だい?

――更なる唐突さで身体を引き戻し、エクスキューショナー・ソードの刃を右腕一本で一閃させ、カラレナの喉元でびたりと止めた。
■カラレナ To:うーさー
え、え?

■ウーサー To:ドワーフたち
ほらよぉ、このとおり「当主様に招かれた御婦人」が、イカれた重剣士の「人質」にされちまったぜぇ?
こんなことになっちゃあ、其処を退くしか無ぇよなあ? ええ?!

ウーサーはドワーフたちに向けて芝居がかった口調で、愉しそうに叫んだ。
■カラレナ To:どわーふたち
え、えっと。
あ、あ〜〜れ〜〜。

両手を頬に当て、大げさに驚く。

状況が飲み込めないとでもいうように狼狽えつつも身構える4人のドワーフ。
彼らの動きを片手で制しつつ、老ドワーフはニヤリと、今度は前よりも自然な、いやむしろ真剣とも言える笑みをウーサーに向けた。
■老ドワーフ To:デカいの
ほほゥ、浪漫を誘う展開というやつか、面白いィッ!
だが、それで引く為にはもうひとつ、ワシらに「お嬢を守る」理由が必要だなァ。
ご覧の通り、こいィつらも騎士道精神に溢れた連中というわけじゃァない。

制された4人のうちふたりが、ダガーとハンドアックスとをそれぞれ手に取っていた。
動きこそ止めているが、彼らの視線は、ウーサーではなくむしろカラレナに向けられているようだ。
■カラレナ To:4人のドワーフ
…あれ?

■老ドワーフ To:人質
お嬢、脅迫するつもりィはないが、いまはそいつのダチより自分のことを心配したほうがいいかもしれンぞ。

■ウーサー To:ドワーフたち
理由、なぁ……? じゃあ、こんなのは如何だい?
この嬢ちゃんは『この件が終わったあと、山ヌシのバルバラ・オーバルシュタインに、私的な酒宴に招かれる約束を交わしている』。
そして、『そのことは、アイゼクセン卿たちも御存知だ』ってことなんだが……。
その『意味』について、ちょいとばかり考えたほうが善いと思うんだが、そのへんは理解るかい?

彼らがアイゼクセン卿寄りでなかったときのため、いちおう保険として「たち」という表現にしてみつつ、ウーサーは勤めて冷静な風を装って――激昂してみせるよりも狂気を演出できそうだと考えてのことだが&――、更に言葉を連ねてみた。
■ウーサー To:ドワーフたち
それと、だ……あの石壁をモールいっぽんで叩き壊したオレ様の怪力と、この魔剣が合わされば、この嬢ちゃんの細ぇ首をすっ飛ばしたあと、そのままの振りで短剣と手斧ごとでだって、お前らの胴をずっぱりと薙いでやれるぜ?
ドワーフってなぁ、鍛冶金工にゃあ目が高いと聞くがよぉ……直に喰らってみてからじゃなきゃあ、コイツがなまくらじゃ無いかも見立てが利かないのかい?
悪いこたぁ言わねぇから、そんなモンは仕舞ってくれや。でねぇと……緊張して、手が滑っちまうかもしれねぇだろう……?

■カラレナ To:どわーふたち
き、きゃ〜。
おたすけを〜〜。

ぎらりと輝く刀身を見ながら、ふるふると首を振る。
■老ドワーフ To:でかぶつ>女
お若いの、流石にィちと理屈が長い。
もう少しズバッとした答えはないか?
わしらが言い訳できんのはわかるだろう、のう、お嬢?

■カラレナ To:老ドワーフ
そうですよね〜。(素)

素直に頷く。
■ウーサー To:老ドワーフ>後ろのドワーフたち
五月蝿えっ、こっちゃあ斬った張ったの家業なんだよ!? 馴れてねぇんだから大目に見やがれ!
ああもうっ、どかなきゃこの女もテメェらも、全員ぶっ殺すぞうっ?!

ウーサーは左手をぶんぶん振り回しながら、リアルに切れ気味の怒声を張り上げた。
■カラレナ To:ウーサー
きゃっ。お、落ち着いてくださいっ。
顔に当たったらどうするんですかっ。(T_T)

■ウーサー To:カラレナ
おい嬢ちゃんっ、おめぇもナンかこう、上手いこと言ってくれっ!!

■カラレナ To:ウーサー>ドワーフたち
え、えっと、そうですね…。

じゃあ、こんなのはどうでしょうか?
実は…キレちゃった仲間を押さえ込むために、わざと捕まってるんです。
いま、気づかれないように魔法をかけています…じき大人しくなりますから、いまはそっと見逃してもらえませんか。
うまくいったら、私がバルバラさまに差し上げた、ガルガライスの珍しいお酒を、皆さんにもお分けしますよ〜。
…と、符丁でお伝えしました。

するすると右手が動く。
■老ドワーフ To:背後の4人
(ドワーフ語)
落ち着け!
魔法じゃない!!
ワシらとは違うが符牒だ!

ドワーフ語の叫びがかろうじて間に合ったのか。
同時に大ドワーフが行った、射線を塞ごうとする動きが効いたのか。
カラレナに向けて投擲の動きに入りかけていた、ダガーとハンドアックスを手にしたふたりはその腕を下ろした。
他のふたりも、なんらかの行動を起こそうとしていたが、制止されたようだ。
彼らの反応は、どちらかといえば不満というより不安気ではある。
ドワーフ語で何かを語りかける老ドワーフと、それに応じる4人。
言葉がわからない者達には、穏やかとは思えない調子のやりとりの後。
武器を収めたドワーフ達4人は不承不精といった感じで、じりじりと通路を後ろに下がり、明かりの範囲からその姿を消した。
とはいえ、精霊視の出来るふたりには、かろうじてぼんやりとした赤い輪郭がみえる。
特に、計画立った動きをしているというわけではなさそうだ。
■老ドワーフ To:ふたり>お嬢
お嬢を殺れば、デカいのが手を付けられなくなるッてのは、わかッたようだ。
それなのにィ、何故剣を突きつけているのかは、よくわかッちゃいねェようだが。
はッきり言ッてワシもわからン……、が、なるようになるだろ。

それから、お嬢、その酒は「賭け」な。
お前さん達が閣下をへこますことが出来たら、ワシらがもらってやるから用意しておけよ。

賭けの下りで、再度にやりとした笑みを浮かべると。
ウーサーとカラレナ、4人のドワーフ、双方に視線を配りながら。
老ドワーフも、その大きな体躯を後方へと動かして行く。
後ろのドワーフ達から見えない位置で、ふたりからみて左側の壁を指差すと、一瞬、だがはっきりと指を4本立ててみせると。
やぶにらみの側の眼で冒険者達をぎろりと睨みつけた彼は、表情はそのまま、ゆっくりと明かりの範囲からその姿を退かせていく。
カラレナは彼の姿が闇に消える前に、「OK」のサインを送り、左手を指差した。
■カラレナ To:ウーサー>老ドワーフ
行きましょう。
尋問の部屋は? こちらですか?

精霊視覚でぼんやりと、大きな体躯がほかの姿と合流するのが見えた。
どうやら彼らは先、廊下の奥へと動くらしい。
聞こえなかったのか、あるいは応える意志がなかったのか、カラレナの問いかけは宙に浮いたままだ。
■カラレナ To:
行っちゃった…。

■ウーサー To:カラレナ
ん、じゃあ行くか……すまねぇな、妙な事に付きあわせちまってよ?
とりあえず、ドレイクのボウズを確保するのを最優先にしてぇ。交渉事は嬢ちゃんに任せるからな?

■カラレナ To:ウーサー
え、わ、私?
自信ないんですけど…。

ドワーフたちの位置からカラレナの身体を巨体で隠せるように移動してから、ウーサーは大剣の切っ先を彼女の首筋から除け、通路を歩きはじめた。
そして、ドワーフたちが追撃してこなさそうなのを確認してからは、少しずつだが歩調が早くなっていく。
■ウーサー To:カラレナ
あ、ボウズを人質に取ろうとしやがったら、とりあえず手近なヤツをぶっ叩いて、こっちの本気度を身体で理解らせてやっから。
そうなったら、そのあとのフォロー的なことも頼まぁ。

出かけるならちょっとついでに昼食も買ってきてくれ、的な気軽な口調だ。
■カラレナ To:ウーサー
さらっと、無茶ぶりするのやめてくださいっ(T_T)
よっぽどのことがなければ、叩くのは壁だけにしてください…ねっ。

改めて耳をすませてみる。
■カラレナ To:ウーサー
特に、変わった音や声は聞こえませんけど…とにかく道なりに進んでみましょう。


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