#178 星から降る夢

☆ 第16地区 ☆

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【第16地区】

「円卓の間」を辞した冒険者達。
「別館」の西側に与えられた部屋に大きな荷物を置き、装備を整え直したのち、夜の調査に出ることにした。
■オスカール To:ALL
なんか見つかると良いが・・・・。

「別館」正面の扉を出ると、ふたりのドワーフが一行を待ち受けていた。
ひとりはアインス。
もうひとりはやや小柄で、髭を広げた指の間ほどの長さに刈り込んだ比較的若めのドワーフであった。
薄手の皮鎧を身に付け、腰に手斧が差し込まれた格好は、守備隊詰めのところを抜けて来たという言葉の通りなのだろう。
■クライン To:冒険者達
こんばんは、僕がクラインです。
このたびの件で、オランからの増援、感謝します。

■カラレナ To:クライン
こちらこそ、夜分にすみません。
よろしくお願いします。
(深々〜とお辞儀)

■クライン To:カラレナ
そんな、もっと気さくにしてやってください。
僕は堅苦しいのは苦手で…。

そう言いつつも、丁寧な物越しで挨拶をした彼は、冒険者達との簡単な打ち合わせをすませると、アインスと共に石松明を手にし、先頭に立って「第16地区」の調査に向かう者を案内していく。

用意したもらった地図によれば、「第16地区」は繭上にくりぬかれた広い空間となっており、緩やかに湾曲する壁に沿って建物が密集している構造のようだ。

実際に進んでみると、地区全体の位置は、「橋」より2階層は低いところにあった。
封鎖中と思われるドワーフ達の不安と好奇に満ちた視線を3度やり過ごした先に、渦巻く文様が彫り込まれた両開きの石扉が見える。
■カラレナ To:クライン
扉…。
この街…ヤマは、みんな地区ごとに入り口に扉があるんですか?
今は封鎖されてますけど、普段は開いていたんですか?
あ、地区どうしの勝手な行き来は禁じられていると、さっき伺ったので…必要なときだけ開いていたとか…?

■クライン To:カラレナ
いや、別に行き来は禁じられていませんよ。
こういった通路を使う分には。
皆、普通に仕事場と生活区域とを移動しています。
各地区の扉は昼間は開放されていますが、夜には閉じられますね。
扉番という役割のひとが、一応見張ることにはなっています。
ほら、ここがその小屋ですよ。

扉の内側に入って直ぐには、小さな扉があり、ひと世帯が暮らせる程度の小屋になっている。

見渡せば、そこから建物は繋がり繋がり、緩やかな下りとなって続いているらしい。
上には広大な空間が開けていることがわかるが、石松明の明かりだけでは、この先の広がりを把握することは難しい。
マリーラナが唱えたライトの呪文を宿した小石が、闇の中へ新たな光を届かせる。
3つの光点とともに、一行は、沈黙が支配する地区内へとゆっくりと足を運んで行った。

オスカールは、大工としての視点で街全体の作りに異変があるか見回しながら歩いていった。
石積みの作りに、ふと、故郷の城塞都市のことを思い浮かべてしまう。
あらためてドワーフの街であることに意識を集中するが、特に気になる異変はないように感じられる。
細かい部分になると石工に尋ねてみないと、わからないかもしれないが。
■オスカール To:ALL
どうも、コツがつかめてないな・・・・・・なんもわからん。

■カラレナ To:オスカール>ALL
ドワーフさんのおうちって、独特ですもんね。
それにしても、静か…。
風もないし…なんだか息が詰まりそう。

不安げに胸のブローチを握りしめる。
■クライン To:冒険者達
この地区で日常生活を送るのは、大体200〜300人といったところでしょうか。
かつては、千人を越していたといいますが、今では大半は空き家です。

飾り気も、生活臭も全くない建物を示してみせるクライン。
ドワーフの技術か、住人達が居なくなって何十年、もしかするとそれ以上過ぎているかもしれない家々が、傾きもせずしっかりと重なり合っている。
■カラレナ To:クライン
古いお家…。
どうしてひとが減ってしまったんでしょう?

■クライン To:カラレナ
はは、それは歴史の勉強になりますね。
大きな転換点は、皆さん達の言う「古代魔法王国」の滅亡。
この地に住まう者の大半は、この時出て行ったそうです。

他にも小さな事件は、いくつかあったみたいですが……。
最近の話では、四十五年前の事故、これで大きな損害が出て。
ヤマの空間では、多くのひとを養えなくなったそうです。

そんなこんなで残された我々は、それでもここで精一杯暮らしているわけですが。
ああ、つまらない話でしたね、すみません。

小さく肩をすくめると、クラインはふと、辺りをみまわした。
■クライン To:冒険者
そうそう、数人が暮らしている場所がよろしかったですよね。
この辺りに確か……。

Sの字状になった坂を下った先、オランの基準で見ると、中流階級が住まうほどの大きさの建物の前で、クラインは足を止めた。
■クライン To:冒険者
発覚した後の調査には、僕も立ち会いまして。
比較的大人数が居たのが、この家です。

若いドクトルは律儀にノックをした後、扉を引く。
2階建ての家は天井が低く、カラレナ、マリーラナでさえ天井に頭がつかえそうだ。
室内はきちんと片付けられ、乱れひとつない。
■ウーサー To:ALL>クライン
狭いっ!? あ、いや違ぇ、オレ様がデカすぎるワケか……。
ソレじゃあ、お邪魔させてもらうぜ、っと……ああそうだ、このあたりじゃあ平均的な家族構成ってなあ、どんな感じなんだい?
ドワーフは長生きなんだから、やっぱ三世代とか四世代とかが一緒に住むのが普通なのか?

■クライン To:ウーサー
大丈夫ですか?!
頭に気をつけてくださいね。

家族構成ですか、うーん、二世代から三世代で住まうのが平均的でしょうかね。
確かにあなた方人間族より僕らは長命ですが、そのせいでしょうか、子どももそう簡単に生まれはしないんですよ。
4、50歳位になって、ひとりか多くてふたり。
100歳位で老化しますから、自然にこちらの家のような構成になるわけで。

廊下を進んだ奥にある広めの寝室、壁に設けられたアルコーブのそれぞれに、老夫婦と若夫婦、若い女性がひとり、そして子どもがひとり眠っていた。
規則正しい寝息が耳を打つ。
■ウーサー To:クライン
成る程、確かに静かに寝てるだけ、みてぇに見えるな。
なあドクター、こりゃあ寝返りうったり、寝言言ったりはしねぇのかい?
それと、見つかったときからこんなふうに……ちゃんと此処で家族みんなで、床とかじゃあなく、一見ふつうに寝てたのか?

■クライン To:ウーサー
一応肩書きだけなら「ドクトル」です。
わかりますから、どっちでもいいですけど。

寝言も、寝返りも、鼾も、まったく自然な感じですよね。
ただ目が覚めないだけで。
心が縛られているようには見えません。

見つかった時の様子については、僕は呼ばれて真っ先に入り口の小さな小屋ーー扉番の小屋ーーに入ったんですが。
彼は椅子に腰掛けたまま寝ていました。
他に異常はなかったので、寝台に運んでもらいました。
この家はどうだったのかな。

■カラレナ To:ALL>クライン
突然睡魔に襲われて…というよりも、夜ふつうに眠りについたまま起きなくなった、という感じに見えますね…。
他の家もそんな感じでしたか?

■クライン To:カラレナ>アインス
大半は寝台についていたようですが、そうでなかったひとが何人か、廊下やバルコニーで発見されたようです。

(ドワーフ語)
アインス、君はここのひと達が発見された時どうだったか、知っているかい?

■アインス To:ALL
(クライン通訳)
この家のことだったら、おらは知りませんだ。
おらは、向こうの洞窟住居の方に行かされたんで。
そっちじゃみんな、布団に包まってましただ。
ああ、ばあちゃんがひとり、床で寝てましたっけ。

■ウーサー To:ALL>クライン
ん〜? じゃあ偶然、深夜とかに「何か」の影響を受けてそのまんま、ってことなのか……?
昼前とか夕方時じゃあなくて、良かったなぁ。鍋が焦げちまうぜ?

おっとそうだ、ドクトル。ドワーフの食生活ってのが良く解からねぇからアレだが、此処にゃあパン屋とかデリとか……あー、アレだアレ。
朝いちばんから店を開けてる、火を使って作ったモンを売る食料品屋ってなぁあるかい?
そこの店員も、床で寝てたりしてたのかが知りてぇんだが。

■クライン To:ウーサー&ALL
えっと、その……ここにはあなた方のいう「商店」というもの自体がほとんどないんですよ。
日常生活に必要なものは、大体配給や現物支給、あとは個人の採集などで賄っておりまして。
一人暮らしの老人の為に炊き出しなどを引き受けているひとはいるかもしれませんが、はたして何処に住まっているやら。

カラレナとウーサー、自然界の力を借りることが出来る者達は、その感覚を研ぎ澄まし、センスオーラを試みた。
山の深部であるここでは、感じられる精霊達も限られる。
石松明から火、装備の水袋に水。
空間を支配する闇の力はかなり強い。
眠っている家族からは安定した生命の力を感じると共に、その精神がサンドマンの強い影響を受けているのがわかった。
そして……ちいさなブラウニーの気配。
■カラレナ To:ひとりごと>ウーサー&ALL
…あれっ?
ウーサーさん、ブラウニーがいましたよ。
あ、ブラウニーっていうのは、古いお家に住み着く精霊のことなんですけど…

■ウーサー To:カラレナ
まあ、確かに年季入ってそうな家だもんなぁ? なんか聞き出せそうかい?

■カラレナ To:ウーサー>ブラウニー
ちょっと話してみますね。

(精霊語)
こんばんは、ブラウニー。
私はカラレナっていいます。
夜にお邪魔しちゃってごめんね。
ご主人さまが眠ったままで、さみしいね。

ブラウニーの気配にむかって、優しく語りかける。
その応答は、やや離れたところから響いてくるようでもあった。
■ブラウニー To:かられな
(精霊語)
こんにちは、かられな。
ご主人さま、ずうっと、ずうっとむかしにいなくなった……。
でも、ここはおっきなお家。
ひろい、ひろいお家、だから家族いっぱい。
たくさんいるひと、みんな家族。
かられなも家族?

■カラレナ To:ブラウニー
(精霊語)
…?
あ、そっか、この空間ぜんぶがきみのお家なんだね。
えっと、私たちは、お客さんです。
でも、せっかく来たのにみんな眠ったまま起きないから、困ってるの。
ねえ、ここにいる私たち以外に、このお家の中で起きてるひとはいないかな?

■ブラウニー To:カラレナ
(精霊語)
おきゃくさ…ま…? ろぅとりんでんに、ようこそ。
そこの家族はいっちゃったけど、べつのお部屋にいっぱいいるよ。
ここにはたくさん、たくさんのお部屋。
となりも、そのとなりのお部屋もからっぽだけど、うえにあがってごらんよ。

■カラレナ To:ブラウニー>ひとりごと
(精霊語)
うえ……? うえってどこかなぁ……?
この狭いお部屋の上の部屋なのかな、それとも上の地区ってことなのかな……?

少し悩んだのち、話題を変えることにした。
■カラレナ To:ブラウニー
(精霊語)
えっとね、みんな眠っちゃった日のこと、覚えてる?
いつもと違うなって思うことはなかった?

■ブラウニー To:カラレナ
(精霊語)
みんなってそこのお部屋の家族?
ひかりがきらきら、たくさんのきらきら。
みんなきらきらおいかけて、どこかとおくにいっちゃった……。

■カラレナ To:ブラウニー
(精霊語)
きらきら?? 追いかけて……でも、みんなここに寝ているよ?

寝台に眠っている男の子の頭を撫でてみせる。
■ブラウニー To:カラレナ
(精霊語)
そこに……いる?
でもいない!
きらきらたくさんおりてきて、そこの家族はいっちゃった。
ご主人さまとは違う場所。

■クライン To:カラレナ&ALL
僕はこの家のひとを知りませんが、普通の家庭だとしたら、特に変わったことはないと思いましたよ。

(ドワーフ語)
アインス、一緒に家の中を見てあげてくれないか?

クラインを残し、カラレナとアインスとは、家の中を見て廻った。
客室兼居間、食堂、小さな台所、水周り……この一家は、普段から家の中をきちんと片付けておいたようだ。
一日の仕事を終え、普通に眠りについたようにみえる。
ウーサーは、パティシエとしての経験を生かして、調理室や食料貯蔵庫の様子を観察する。
地中で賄われる食材に、大半を依存している為か、地上とはかなり異なる食生活であることは、すぐにわかる。
その為、この家で日常と変わった食事が作られていたのかは、判断がつかない。
ただ、調理器具などはきちんと所定の場所に収められているようで、焦りや乱れのようなものは見受けられなかった。
■ウーサー To:ALL
ああ、狭ぇ……腰がキツくなってくるな。
調理道具だのなんだのは、ちゃんと片付いてたぜ。やっぱ事が起きたのは、深夜ってことで確定かね?

寝室に戻ってきたウーサーは、次に子どもの様子を見てみることにした。
家族の検診を終えたクラインに、それとなく様子を尋ねてみる。
■クライン To:ウーサー
この人達の様子に、1週間前と比べて大きな変化はありませんね。
呼吸も体調もいたって正常。
もちろん、毒や怪我などの様子も見受けられません。

そうそう、子ども用の部屋というのは、この家には無いみたいですよ。
この寝台スペースが、彼の聖域のようです。

■ウーサー To:クライン
ああ、判るわかる。オレ様も似たようなモンだったぜ! かっこいい枝とか、平べったくした釘とか隠したりよぉ……?

ウーサーは、背中を丸めたまま、そうっと寝台を覗き込んだ。
壁の窪みに、おそらく彼の宝物と思わしき品々が並べられている。
きらきら光る鉱物の欠片、地中では珍しいに違いない木切れ、すべすべの小石……。
また壁際には石板が立てかけてあり、そこには落書きのような記号「*」が、「***…」とたくさん書きつけられていた。
■ウーサー To:クライン
ムムなあ、ドクトル。ちょっといいか? この石版なんだが……記号の意味、わかるかい?
オレ様がガキんときゃあ、誕生日までの日数はこう、壁にキズ線ひいたところに斜め棒彫り足して、残りの日付を減らしてったモンだが。

■クライン To:ウーサー
どれどれ……ちょっと見せてください。
……………。
ああ、これは消しこみというより、「星」じゃあないでしょうか。
ドワーフの目に「星」は他の種族が見るように詩的には映らないんですよ。
でも、この子はおそらく本物の空を見たことがないでしょうから。
話で聞いたままに「星」を描こうとしたのではないでしょうか。
僕らも子どもの頃、こういう描き方をしていたのを思い出しましたよ。

ひととおり家中を回り、寝室まで戻ってきたその時、辺りを注意深く観察していたカラレナは、視界の端になにか違和感を覚えて立ち止まった。
廊下に向かって開かれたドア。
その影に半ば隠れるようにして落ちていたのは、小さな室内履きの片方であった。
■カラレナ To:ALL
見てください、これ…。
この子のかな?
もう片方はどこへ行ったんでしょう?

室内履きのサイズと、眠っている男の子の足のサイズを比べてみる。
大きさはぴったりと一致した。
■カラレナ To:クライン
普通、寝るときは室内履きは脱ぎますよね。
どこに置いてあります?
寝台の下とか…?

■クライン To:カラレナ
ぱっと見たところでは、床の上には見当たりませんね。
後は……この寝台のどこかかな?

クラインの言うとおり、寝台の足先の方に寝具に埋もれるようにしてもう片方の室内履きがみつかった。
■オスカール To:ALL
・・・・・どういうこどだ? こんなところに。

■カラレナ To:オスカール&ALL
……星……。きらきら……。
きらきらの星を追いかけて??
眠っている間にどこかに出掛けたりしてるんでしょうか?

カラレナやウーサー達が話し込んでいる間に、マリーラナはセンスマジックを唱えた。
彼女の黒い瞳は、魔力を見抜く力を持ち始める。
新たな視界で眺めると、眠りについているドワーフ達の姿が、ゆっくりと輝いて見え始めた。
■マリィ To:ALL
……やはり何らかの魔力が働いて居ます。
眠り自体は自然かもしれませんが、それをもたらしたモノは魔力の可能性が高い様です。

■カラレナ To:マリィ
やっぱり魔法…?
呪いみたいなものかもしれませんよね。

■マリィ To:カラレナ&ALL
そうですね……駄目元でディスペルマジックをやってみましょうか。

「万物の根源たるマナよ。かのものに宿りし力を、打ち砕け!」

眠って居るドワーフの子供に対して、呪文を唱える。
銀の網亭でも上位に入る腕が、強化を重ねた破呪の力が、眠り続ける少年を包み込んだ。
だが、その力を持ってしてもかなわないのか、あるいは他に原因があるのか、彼を目覚めさせることは出来ないようだ。
■マリィ To:ALL
駄目だ……。
強い魔力の所為なのか、他の原因かは分かりませんが、やはり根本的な問題を解決しないと無理ですね。

■オスカール To:マリィ
そうか、残念だ・・・・・。


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