SW-PBM #172 “死にたがり”のメアリ |
■ 紅毛のリュー ■ | ||
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【 常闇通り 「紅毛の猫」亭 】 |
オランの中心街から外れ、スラムに程近い場所。いつから、誰がそう呼んだのか「常闇通り」と言われる場所がある。
「普通の」生活を営む者がここを訪れる事はまずない。
集まるのは残飯を狙うスラムの住人やすねに傷を持つ者、そして情報を求める盗賊たち。
そこにアイライとカラレナが、足を踏み入れた。
■アイライ To:ひとりごと |
ふう。 |
ここ数年は、ここのゴロツキの片棒を担がされたりしながら生きてきたアイライである。正直、あまり良い気持ちはしない。
■カラレナ To:アイライ |
アイちゃん、大丈夫? なんだか浮かない表情ですけど……。 気分が悪くなったら言ってくださいね。 |
アイライの様子を気遣いながら進む。
二人が向かった先は常闇通りの一画にある「紅毛の猫」亭という小さな店。
そこそこの酒と、そこそこに美味い料理を出す表向きは何の変哲もない酒場だ。
だが裏の顔は、盗賊ギルドの有する情報売買の場……である。
■アイライ To:店の男 |
お久しぶり、でありんす。知りたいことがあって、来やんした。 |
■店員 To:アイライ |
ん……確か、アイライだったか。 しばらく残り物をねだりに来なかったと思ったら、お前が同業者になぁ……。 ま、詮索はよそう。「そっち」の用なら、奥でリューの姉さんに話してみろ。 |
スラムの住人だった頃からの馴染みである店員の男が、符丁を確認すると奥へと案内してくれる。
そこには、テーブルに広げたタロットカードを前に座るハーフ・エルフの女が居た。
店の名が示すとおりの鮮やかな紅色の髪を持つ店主、リューである。
■リュー To:アイライ |
このカードが示す「懐かしい顔と再会する」……貴女の事だったみたいね。 お久しぶり、アイライ。 |
にこり、と優しい微笑みを向けてくる。
■アイライ To:リュー、カラレナ |
リュー姐さん、ご無沙汰でありんす。 カラレナさん、こちらリュー姐さん。 わっちが、今、生きていられるのは、この人のおかげなのでありんす。 すんごい物知りなんでありんすよ。 占いは…まあ、アレなんだけど…。 |
リューの笑顔にアイライの相好も崩れる。言葉の端々にリューに会えた喜びが表れていた。
■カラレナ To:アイライ |
そうなんですか〜。アイちゃんにとって、大事な方なんですね。 |
■リュー To:アイライ |
あらあら。 その占いのおかげで拾った命だって一つや二つじゃないくせに、アレ扱いなの? |
口調こそ変わっていないが、その表情に少し影が差したように……感じる。
■アイライ To:リュー |
あ、やばい…。 だってぇ、姐さんったら、わっちが仇のこと聞いても、いつも分からないって言うし。 |
微妙な表情の変化に気づいて、弁解がましく口を尖らせる。
もっとも、リューが仇のことを知っていてあえて黙っていたのか、それはアイライには分からない。
いずれにせよ怪しげな雲行きになりそうなので、慌てて話を変える。
■アイライ To:リュー |
それから、こちらがカラレナさん。 優しくてちょっと天然さんなのに、スゴ腕なんだよ。 |
■カラレナ To:リュー |
(て、てんねん??) あ、えっと、カラレナです、よろしくお願いします。(ぺこり) ちょっと……やっかいなお仕事なんです。 |
■リュー To:カラレナ |
初めましてかしらね。 こんな仕事をしていると、厄介事を持ち込まれるのはいつもの事よ。 だから、そのあたりはあまり気にしないで頂戴。 ……おかげで、ストレスの溜まる生活だけどね。 |
ふぅ、とため息を一つ。
■アイライ To:リュー |
でね、今、一緒に、ちょっと仕事をしてるんでありんす。 その仕事のことでリュー姐さんの力を借りたいんす。 |
■リュー To:アイライ |
まったく、久々に顔を見せたと思ったらもう仕事の話? 花街のお嬢さん方に育てられたくせに、そういう機微には相変わらず疎いわね。 ……まあいいわ。なんだか大変そうだし、聞いてあげる。 |
■アイライ To:リュー |
機微も何も。うちは、せっかちな殿方が多かったんしな。 まあ、それはともかく。 ちょっと込み入った話なんでありんすが、聞いてくりゃんせ。 |
アイライは、表情を引き締めると、二人の少女から依頼を受けたこと、フランネル邸で出会った悪魔と少女のこと、セラの両親がフランネルの家系にあり、しかも死亡していたこと、などこの2日間で見聞きしたことをリューに話した。
■アイライ To:リュー |
…それで、聞きたいのはとりあえず2つ。 一つはフランネル衣料品店というお店について。 もう一つは、スカイブルーサファイアを使ったペンダントについて。 話を進めていくには、この辺りについてもっと知っておかないといけないような気がするのでありんす。 |
■リュー To:アイライ |
範囲が漠然としすぎてるわねぇ。 フランネルが扱っていた商品の値段が知りたいわけじゃないでしょう? サファイアの流通量が知りたいわけでもないでしょう? お店の何が、宝石の何が、知りたいのかを絞ってくれないとこちらも教えようがないわよ。 それとも、そんな小ネタまで全部聞きたい? 料金に換算して、万単位の情報料はいただく事になるけれど。 |
■アイライ To:リュー |
う〜。あいかわらずお仕事になると、シビアでありんすなぁ。 しかも、わっちがお金ないの、知ってるくせに。 そんなんだから、すぐに男に逃げられ………イエ、ナンデモナイデス。 |
気が緩んでいるのか、ついつい口が滑りそうになる。あわてて言葉を飲み込むと、リューへの質問を考える。
■アイライ To:リュー |
15年前からフランネル衣料品店であったことを色々と知りたかったのでありんすが…。 絞らないといけないなら、そうでありんすな…。 …フランネル家当主夫婦の娘がメアリ、当主の弟・マークとレミーナ夫婦の娘がセラ。 二つの夫婦から、他に産まれた子供はいないでありんすか? それからペンダントについて。 一つは、セラという子が持ってるでありんす。もう一つはどこに? それからペンダントには何か仕掛けが隠されてはいないでありんすか? |
■リュー To:アイライ |
質問に答える前に先に言っておきますけど、逃げられた事はないわよ。 変な噂を立てるのは止めて頂戴。まったく……。 で、質問の答えだけど。当主夫妻にはメアリ以外の実子はいないわ。 フランネル家は血脈が細い事が悩みの種でね、何代も昔から直系の子は一人しか生まれない状況が続いていたらしいわ。 だから、アイライの言う「弟のマーク」も当主と血は繋がっていないわ。養子縁組とか、そういった形じゃないかしら。 それから、マーク夫妻の方も子供は一人だけだったはずね。 |
■アイライ To:リュー |
「噂」ねぇ…。わっちが聞いたのは、「証言」だけどなぁ。 リュー姐さんってば、他の人のことはなんでも知ってるのに、どうして自分のことは……。 血脈が細い…よくこれまで血統が絶えなかったでありんすな。 …ひょっとして、フランネル家って、もしかして、15代くらいずっと男の子しか生まれてないのでは? ルービッドも、そう考えれば不憫な……いや、同情は禁物でありんすな。 マーク夫妻の子供は一人だけ……一応、確認でありんすが、それがセラさんでありんすな? |
■リュー To:アイライ |
他の名前は聞いたことがないわね。 |
■アイライ To:リュー |
分かりやんした。 ところでマークさんと当主の血が繋がっていないということは、メアリさんとセラさんも血は繋がっていないってことなのでありんすな? セラさんと血の繋がった親族…いないのかぁ……。 |
■カラレナ To:アイライ |
そうですね……。 |
セラに報告をすることを思うと気が重い。うなだれるアイライだった。
■リュー To:アイライ |
ショックを受けて自殺……とかしないように、今のうちに伝える言葉を考えておいた方がいいかもしれないわね。 |
■アイライ To:リュー |
うー。突き放すなぁ。他人事みたい…。 |
■リュー To:アイライ |
まあ、実際他人事だしねえ。 |
■アイライ To:リュー |
そうだけどぉ〜。 ねえねえ、フランネル家の当主って、どんな人だったでありんすか? 研究熱心な人とかだったら、呪いや悪魔について色々調べてるかもしれないし、どっかにその研究結果が残っていれば、何か手がかりが掴めるかもしれない。 逆に女の人に手が早いとかだったら、ひょっとしたらセラさんのお父さんが当主だったりして…。 それなら、セラさんに血の繋がった姉妹がいたことになるし。 ……セラさんが喜ぶかどうかは、分かんないけど…。 |
■リュー To:アイライ |
特にそういった話はないわね。 人当たりも良いし何でもそつなくこなす、良い意味で無難な当主ではあったらしいけど。 ただ先代の当主の頃から慈善事業に力を入れていて、それを引き継いで色々やっていたという話はあるわ。 孤児院に多額の出資をして、そこに優秀な子供がいた場合は自身の傘下に招いて仕事を任せていたりもしたみたい。 |
■アイライ To:リュー |
無難、でありんすか。 どうにも捕らえがたいでありんすな。 ちなみにマークさんの方はどういう人だったでありんすか? ひょっとして、その孤児院の出身とか? それにしても孤児院……ねぇ。 なんでまた、そんなものを…。 …その孤児院はまだ存続してるでありんすか? |
■リュー To:アイライ |
お察しの通り、マークはその孤児院の出身よ。 フランネルの先代に能力を認められて、養子として引き取られ働くようになったみたいね。 ちなみに、孤児院の方は「一応」まだ存続してるわ。 フランネル家からの援助が受けられなくなって、青息吐息らしいけど。 |
■アイライ To:リュー |
孤児を養子にかぁ…。 それって、珍しい話よね。先代の心が広かったのか、よっぽど仕事のできる若者だったのか……。 いちおう、孤児院の方、場所を教えてもらっても良いでありんすか? |
■リュー To:アイライ |
ま、普通はそのまま雇うだけでしょうからね。 養子にまでするからには、能力はあったんでしょうけど。 孤児院の場所は……はい、ここね。 ついでに使えそうな子がいたらウチでもスカウトを考えるから、目利きをしてきて頂戴。 |
羊皮紙に簡単に書き付けたメモと地図を手渡される。
見ると、フランネル家のある丘とそこへ登っていく道のちょうど裏手の辺りにあるようだ。
■アイライ To:リュー |
ありがとー。 使えそうなって、わっちみたいな子? |
■リュー To:アイライ |
むしろ、貴女より役に立ちそうな子かしら。 |
本気の目。
■アイライ To:リュー |
しくしく。言ってみただけなのに。 リュー姐さん、目が怖いでありんす。 |
■カラレナ To:アイライ&リュー |
ふふふっ。アイちゃんとリューさんて、姉妹みたい……。 |
こっそり、微笑ましげに笑う。
■リュー To:カラレナ |
こんな妹がいたら、心労で胃に穴が開くわよ。 冗談でも止めて頂戴。 |
手元のカードを弄びながらうそぶく。
■リュー To:アイライ |
で、ペンダントの方だけど……持ち出されていなければ、今もフランネル家のどこかにあるはずね。 仕掛けは特に聞いていないわ。何かあるとしたら、相当に巧妙に隠されているのかもね。 |
■アイライ To:リュー |
使用人とかが辞める時に持ち出した可能性もあるということ……? でも、売りに出されたりしたらリュー姐さんの耳に入るはずだし…。 フランネル家のどこかにあるなら、メアリさんが知ってるはずかな。 にしても、セラさんのお婆さんが大事にするようにと言ったのは何か理由があると思ったんだけど……。 |
■リュー To:アイライ |
っていうか、遠回しな質問をしていないで現物を見せなさい。 その方が話が早いわよ。 持ってるんでしょ? 貴女が。 |
■アイライ To:リュー |
あ、そうだった。 ほら、これでありんす。 |
懐からペンダントを取り出すと、手のひらに載せてリューに見せる。
それをひょいと摘み取ると、まじまじと見つめ始める。
■リュー To:アイライ |
……ん〜。ふぅん。結構な値打ち物ね。 ちゃんとした手入れをして出すところに出せば、1万ガメルは下らない値段になるわよ。 スカイブルー・サファイアは今では貴重品だし……好事家が目を付ければ、その2倍、3倍の値段を提示してくれる可能性もあるかもね。 意匠の作りは、10年……いや、もう少し。15年くらい前の流行かな? |
■アイライ To:リュー |
1…万……。 万って、十、百、…あれ、その次くらいだっけ? |
■リュー To:アイライ |
こらこら。 そんな事じゃ、お宝を見つけても鑑定に困るわよ? |
■アイライ To:リュー |
い、いいの。困ったらリュー姐さんに聞きに来るから。 |
今のアイライにとって百の桁より上は、もはや天文学的数字である。
ひとしきり目を廻していた後、我に返る。
■アイライ To:リュー |
あれ、作られたのは20年以上前かと思ってたでありんす。 さすがリュー姐さんでありんすな。 …姐さんが見ても、仕掛けとかは無さそうでありんすか? |
■リュー To:アイライ |
大分汚れてるし、そのせいで目利きを見誤ったんじゃない? ……ん〜、見た限りじゃあ、特にこれっていう仕掛けはなさそうね。 |
■アイライ To:リュー |
うーん、そうかあ。 まだまだリュー姐さんにはかなわないなぁ。 もっと修行しなくちゃ。 仕掛け、わっちも見てみるでありんす。 |
リューから再びペンダントを受取ると、アイライはそれをいじり始めた。
しかし、結局は何の仕掛けも見つからなかったらしい。
残念そうな表情を浮かべると、ペンダントを再び懐にしまいこんだ。
■リュー To:アイライ |
聞きたい事はそれで全部かしら? じゃ、御代をいただきましょうか。 情報料、ペンダントの鑑定、それから上役への暴言に対する慰謝料。 合わせて、1000ガメルね。 |
■カラレナ To:リュー |
せ、せん!!? ……ですか? |
思わずリューとアイライを交互に見る。
■アイライ To:リュー |
リュー姐さん、わっち、間違ってた。 お姐さんみたいな、素敵な人が上役で本当に良かったな。 お姐さんの占いってね、ただの占いじゃないっていうか、魂がこもっているっていうか、なんかもう、当たってるとか当たってないという問題じゃないっていうか。 普通の占い師と比べてた自分が恥ずかしい……。 |
すりすり。
■リュー To:アイライ |
まったく調子のいい。ていうか、お世辞になってないわよ。 ま、昔馴染みのよしみで許してあげましょう。300ガメルで手を打ってあげるわ。 即金で払えないなら待ってあげても良いけど、利率は一日一割よ。 |
そして当然、複利計算である。
■アイライ To:リュー |
ありがとー……いや、ちょっと複利って。 えっとね、今の仕事、時間制限もあるから、それで報酬が貰えたら払えるんだけど……。 セラさんと血の繋がった家族がいないことは分かっちゃったし、メアリさんの方も、まだ目処はつかないし……。 もし5日後までに払えなかったら、その後ここで1ヶ月タダ働きってことで……許してもらえないかなぁ? |
■リュー To:アイライ |
あら、身体で払う気? 貴女が言うんだから、そっちの方面よね? それなら、一ヶ月も掛からないわよ。一週間くらいで完済できるんじゃないかしら。 |
■カラレナ To:リュー |
(そっちの方面……。密偵とかかな?) |
わかってなかった。
■アイライ To:リュー |
一週間!随分と良いお給料でありんすな。 そっちって……えーと…… |
しばらく戸惑いの表情を浮かべていたが、やがて、ポンと手のひらを合わせる。
■アイライ To:リュー |
なるほど、一種の技術職ってやつでありんすな。 まあ、身体で払うっていうか、腕で払うっていうか。 色んなの食べてきたし、最近はそれなりに自信もついてきたでありんすよ。 なんてゆーか、満足させるコツみたいなのを掴んできたとゆーか………ん、なんでありんすか? |
アイライの身体を、上から下までじーっと見直して。
■リュー To:アイライ |
……まぁ、冒険者なんてやって少しスレちゃってるみたいだけど。 お風呂で汚れを落として、お化粧で誤魔化せば何とかなるでしょ。 |
■アイライ To:リュー |
あれ?お化粧? えーと……コックのお仕事じゃ無いでありんすか? |
■リュー To:アイライ |
ボケるのも大概になさい。 花街で育っておいて知りませんでしたは通らないわよ? ま、知っていようがいまいが、本当に払えないとなれば辿る道は決まってるけれど。 そうなりたくなければ、必死で稼いで返済に来なさいな。 |
■アイライ To:リュー |
あいよー。頑張るでありんす。 |
■カラレナ To:リュー>アイライ |
ふたりで来たんですし、私も半額受け持ちますね。 頑張ろうね、アイちゃん。 |
ぐっと握りこぶし。
■リュー To:カラレナ |
優しいのねぇ。 でも、私たちの世界じゃそれは褒められた事じゃないわよ。 もっとシビアな考え方もできるようになっておきなさいな。 |
■アイライ To:リュー |
今日は色々ありがと。 久しぶりに会えて、嬉しかったでありんすよ。 |
■リュー To:アイライ |
お仕事抜きでも、たまには遊びにいらっしゃいな。 色々と教育し直さないといけなそうだしね。 |
■アイライ To:リュー |
リュー姐さんも気苦労が絶えなくて、大変でありんすなぁ。(いけしゃあしゃあ) じゃあ、また来るでありんす♪ |
■カラレナ To:リュー |
(やっぱり、いいコンビかも〜) それじゃあ、失礼します〜。 |
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GM:倉沢まこと