すっからかんだから
■ウーサー To:石版
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なあ、オレ様からも聞いていいかい?
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それまで鍋を賞味しつつ話を聞いていたウーサーだったが、ゲフッと一息つけてから石版を覗き込み、声をかけてみた。
■ウーサー To:石版
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今オレ様たちと喋ってるアンタは、何処にいる? それとも、石版自体が喋ってんのか?
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■石版 To:ウーサー
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僕は今ここにいるけど、この石版と話してる君は石版と話してるんだと思うよ!
ええっとつまり……僕が喋って記録した情報と喋ってるってことさ!
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■ウーサー To:石版
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……なんか気味悪ぃが。
とりあえずアンタは「石版」ってことなんだな? 喋って記録した記録と喋ってるってこたぁ、今後さらに情報を増やすことも可能ってことか?
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■石版 To:ウーサー
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もともと記録されてる情報以上のものは、出てこないけどねー。
新しく追加する場合は、コマンドを唱えないといけないんだけど、それは「なぜか」記録できない仕様になってるから、教えてあげられないよ〜。
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■シグナス
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…… あぁ、まあ今も生きてるって可能性自体無くも無かったか。世の中骨で生きてるクソじじいも居るしな。
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■ティンリエ To:シグナス
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ほね〜? 悪趣味ね〜。
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■シグナス To:ティンリエ
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正に趣味で生きてそうだから尚更性質悪いね!!
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■シグナス To:石版
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ところで、この辺って記憶喪失になり易いとか治すモンあるとかそんな感じの無いん?
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■石版 To:シグナス
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「1000年賢者の木」の涙、それで思い出を取り戻せるよ!
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それから、ふと悲しげな声になり、
■ 石版 To:シグナス&ALL
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だけど「ジョオウ」に取り付かれて、今は枯れてボロボロ。
かわいそうなルナルー。
涙さえあれば、みんな、仲の良かった時代を思い出せるのに……。
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■ ウーサー
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……「1000年賢者の木」の、涙……なあ?
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■シグナス To:石版
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……思い出し過ぎで前世まで行ってねえかそれ。
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■ゾフィー To:石版
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ところで、「ジョオウ」がなぜ取り付くことになったのかは御存知?
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■石版 To:ゾフィー&ALL
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むかし、むかしのお話さ。
まだこの草原が、「レックス」の一部として空に浮いていたころ。
当時不安定だった精霊力の影響で、オロチグサが突然変異を起こしちゃった。
パオルゥに食べられることで、その種を草原に運んでもらっていたオロチグサ。
逆にパオルゥを襲うようになっちゃった。
そしていちばん強く育ち、おまけに知性まで身につけたひと株が「ジョオウ」となり、悪意をもって種を草原にまき散らすようになっちゃった。
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石版の表面に、パオルゥが草をはむはむ食べている線画が浮かび上がる。
その画が消えていき、代わって真っ赤な袋を持った巨大な植物が描き出される。
■ディニ To:石版
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知性?どの程度・・・人並み?
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■石版 To:ディニ
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そう、人並み。
だから、人並みの「欲」……「望み」って言ったほうがきれい?──も持ってるみたいだね〜。
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■ 石版 To:ゾフィー&ALL
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草原の管理人だったルナルーは、「ジョオウ」を元に戻すために、その身を犠牲にして「1000年を生きる賢者の木」へと姿を変えた。
葉に溜まった夜露を「ジョオウ」に飲ませることで、仲の良かった時代を思い出させることができると知っていたから。
けれど逆に、動けなくなったルナルーの根元に「ジョオウ」は取り付いて、その精力をぐんぐん吸い取ってしまったんだ。
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しなしなにしなだれて枯れかかった巨大な樹木と、その根元に取り憑く真っ赤な袋を持った植物の線画が描き出される。
■石版 To:ゾフィー&ALL
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そして、「レックス」が力を失うと共に草原も地に落ちた。
ルナルーと「ジョオウ」を地中に抱いたままで。
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■ ゾフィー To:石版&ALL
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小気味ぃぃ……ぃぇぃぇそうではなくて、えーっと……もしかすると「ジョオウ」はいまの己であることを止めたくないのかもしれませんわね。
わたくしが彼女の立場だったら、喰われることで育つより、喰うことで育つ側に立ちたいと考えますもの。
たとえヒトに刈られる対象になろうとね、せっかく手に入れた「進化」の機会を失いたくはないでしょうよ。
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■ティンリエ To:シーロン
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何感心してんのよっ。
そんな危ないもの、ほっといたらまた座長の故郷が襲われちゃうじゃないっ。
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■ ゾフィー To:ティンリエ&ALL
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とは言え、これまで何百年も、「草刈り」は行なわれてきたわけでしょう?
この草原が現在、そういう均衡で成り立っているのなら、敢えて古代王国時代まで逆戻りすることもないのでは、という考え方も出来ないわけではございませんわ。
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■ティンリエ To:ゾフィー
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で、でも……そいつがいる限り、思い出を取り戻すとかいう「涙」って、手に入らないっぽいじゃない?
だったら……
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■ティンリエ To:シーロン
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ななな、何でも無いわよ、盗み聞きするなっ!
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■ゾフィー To:ティンリエ
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なぜ「忘却」という力が備わっているのだと思います?
生きる為…癒されるためには、それが必要なこともあるからですよ。
今回の件にそれがあてはまるのかどうかは別の話ですけれどね。
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■ティンリエ To:ゾフィー
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でもあたし……知りたいことの方が多いわ。
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ぷい、とそっぽを向くティンリエ。
■ シーロン To:ゾフィー
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いやぁ、婆さんの言うことはいろいろと深いな。
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■ ティンリエ To:シーロン
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他人事みたいに言うなっ!
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■リコリス To:ティンリエ
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癒されるために忘れたんなら、思い出しても誰か傍に支えてくれる人がいるなら、大丈夫かもしれないけどね。
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■ティンリエ To:リコリス
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………………
ふ、ふんっ。当たり前よっ、歌姫がいなきゃ、せっかくのリュートが泣くじゃないっ。
……だから……。
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■シグナス
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…… ま、忘れる方よりゃ忘れられる方が辛いだろーさな。
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■リコリス To:石版
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にゃー。にゃにゃ……。
にゃん、にゃにゃん?
(ルナルーさんは「ジョオウ」倒したくないんだよね……。
「ジョオウ」を倒さずに、ルナルーさんから引き剥がす方法ってあるの?)
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■ソプル To:石版
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(東方語)〜って言ってるにゃん。答えろにゃ!
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■石版 To:リコリス&ALL
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「ジョオウ」は知性を持った植物なんだ。
彼女が納得できる理由でもなけりゃ、力尽くでそうするしかないよ。
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■ ドライ To:リコリス
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引き剥がしたところで、別のエサを捜し求めるだろう。
それがグラスランナーのみならず、草原の旅人である可能性もある。
そしてそれすらも止めるということは、「飯を食うな」と言っているようなものだ。
自分に置き換えれば、呑めない話だということはわかるな。
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■ウーサー To:ドライ、リコリス
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まあ確かに、熊に襲われたからって「熊さんが餌食べられなくて可哀相」って我と我が身を差し出そうって気にゃあ、ならねぇもんなぁ?
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■シーロン To:ドライ&ウーサー
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なるほどなぁ……。うんうん。
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■ティンリエ To:シーロン
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あんた「なるほど」しか言えないワケっ?
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■ドライ To:ALL
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そういう風に“進化してしまった”というなら仕方ない。
「人間が生き残るために、オロチグサを滅ぼす」
それもまた、理だろう。
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■ディニ To:ドライ
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そうね。滅びも、また開放の形。自由の証。やってしまいましょうよ
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■ゾフィー To:つぶやき?
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やれやれ、銀の網に集う連中ときたら。
表だって頼まれる前から……端からみると只のお人好しに見えなくもないですわよ。
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大きくため息をついてみせるゾフィー。
■ シグナス To:ALL
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まあ出来る限りは合間取りてえけど、どっち選ぶつったら人の営みの方優先するしかねえさ。
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■ゾフィー To:アイネリカ
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というわけで、「集落のみんなすら知らない発生ポインツがあって、そこにオロチグサが元気いっぱい生えて」いる可能性が出てまいりましたけれども。
どんなに近いと見積もっても200年前の情報ですから、鵜呑みには出来ないかもしれませんが、現段階ではご依頼主としてはどうお考えになりまして?
石版の言う「ジョオウ」とやらがいたとして、その触手がポインツの中に伸びているとしたら、対処も今回の「草刈り」依頼の範疇に入るのかしら。
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■アイネリカ To:ゾフィー
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ん〜、そーですねぇ……
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アイネリカは30杯目のスープを飲み終え、ふぅと一息ついた。
■アイネリカ To:ALL
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んじゃ、こうしましょう〜。
今回の依頼では〜、とりあえず「ジョオウ」とかゆーのはおいといて、わかってるぶんの「草刈り」までしてくれれば良いですよー!
なぜならっ……!!
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■シーロン To:アイネリカ
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なぜなら、追加報酬を出せないからだろう。
土産で使い切って、すっからかんだからな、俺たち。
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■ アイネリカ To:シーロン
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Σ( ̄□ ̄;)
み、身もフタも無い言い方をするとそーなります!(・∀・;)
最初の依頼に含めるにはー、やっぱり善良なぐらすらんなぁの私としてもー、ちょっぴりココロが痛むんですよねー。
なんだかややっこしい、あーんどキケンな話になりそうですしー?
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■ティンリエ To:アイネリカ
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え、で、でもぉ……でもさ!
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■シーロン To:ティンリエ&アイネリカ
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いいんじゃないか。
ゾフィーの婆さんが言った通り、これで自然の均衡が保たれてるって見方もできるさ。
それに、「ジョオウ」ってのをどうにかしたいんなら、追加依頼分の報酬を稼がないといけないしな。
俺たちはもう少しだけ、旅芸人一座「アイネリカ」を続ける必要がありそうだ。
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■アイネリカ To:シーロン&ティンリエ
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Σ 私は引退しますよ!!(☆Д☆)クワッ
失うことでしか引き継げないコトだってあるんですから──
あとはふたりで勝手にやってくださいねー♪
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目が点の状態で、シーロンとアイネリカ、そして冒険者たちを見回すティンリエ。
■シグナス To:ティンリエ
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くっく……まあ、なんだ。何もかんも全部いっぺんに片す必要もないって事じゃねえの。
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■ゾフィー To:シーロン&ティンリエ
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そうですわね、新しい世代が物語を引き継ぐというのなら、それもよろしいかもしれませんわ。
ついでに言わせてもらえば「アイネリカ」の名を借りるより、自分達の足で立ち、稼いでいくことを勧めるわ。
記憶を取り戻すことや「ジョオウ」をどうにかすることが、“あなた方の”願いなのでしたらね。
「依頼」を出すからには「結果」を負う覚悟も必要ですから。
ま、伝統やしきたりに従わずとも認められるのは若者の特権であるようですし…。
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ぱっと開いた銀の扇で口元を覆ったゾフィーは、そのままおほほと声を出し、横目でふたりの旅芸人をみやった。
■シーロン To:ゾフィー&ALL
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新しい名前か……。じゃあ、旅芸人一座「ティンリエ」にするか。
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■ティンリエ To:シーロン
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なんであたしの名前なのよ!!?
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■シーロン To:ティンリエ&ALL
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これからは、お前が座長で看板だからさ。「シーロン」って名より客は来そうだぞ。
頑張れよー、新座長。
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■ティンリエ To:シーロン
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……あんた、面倒なことやりたくないだけでしょ!?
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顔を真っ赤にしてぷるぷると震えるティンリエに、シーロンは明るく笑ってみせるだけ。
■ゾフィー To:シーロン&ティンリエ
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それから「帰郷の歌」の後半に関して、お調べになることもお忘れなく。
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■シーロン To:ゾフィー&ALL
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そうだなぁ、ここの集落の奴らが誰も知らなかったら、パダやミラルゴにも足を伸ばしてみるか。
この集落出身のグラスランナーがいるかもしれないし、巡業のついでにな。
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■アイネリカ To:シーロン&ALL
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いいですねー♪ 私もミラルゴに行ってみた……おっとと
見送りますよ!! 見送りますとも!!!(・∀・;)*。+.
って、その前に草刈り!! 草刈り終わらせていってくださいねー!?(°∀°;)
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■ウーサー To:アイネリカ、ALL
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ああ……まあ、そいつぁ問題無いぜ。
キッチリ終わらせて、オレ様はそのあとで、ついでにひと狩りしたら帰るさ。
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■ソプル To:ひとりごと
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(猫語)んにゃぁ〜ん……。
(ぱだ……みらるご……面白そうだにゃ!
ドラたんの手伝いが終わったら、こっそり、あのふたりについて行ってやるにゃ〜♪)
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人々の話にじっと耳を傾けていた子猫は、機嫌良さげに、ドライの足元で丸くなった。
その時、満天の星空を横切るようにして、一羽のハトが飛んできた。
かがり火に照らされて赤く染まった白いハトは、まるで決められていたかのようにウーサーの肩にふわりと舞い降りた。
足には小さな手紙が結わえ付けてあり、小さく「重戦士ウーサー・ザンバード様」とあった。
開封してみると、それは薬師セルフィドからのものだった。
内容は──
「この手紙が、うまく届いていると良いのですが。
あの後、少々気になることがありましたので、諸事のついでに学院に立ち寄り、調べてみたのです。
すると、なんと養護教諭リシュリュー殿が過去の別人のカルテと取り違えたことがわかったのです。
再診察したところ、リュナさんは、ただの胃炎と風邪でした。
今は“眠り姫” も解除されて、あなたの帰りを待っていますよ。
気づくのが遅れて申し訳ない。
次の機会にはとっておきの薬を調合して差し上げますから、どうぞご勘弁を。
薬師セルフィド」
■リコリス To:ウーサー
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ウーさん、鳥さんのお手紙なんて書いてあるの?
リュナさん、大丈夫?
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悪い知らせなんじゃないかと心配そうに、ウーサーとその手の手紙を交互に見る。
■ウーサー To:ALL
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……畜生、オレ様は帰る! とっとと終わらせて帰るぞ!?
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ウーサーは牙を剥いて吼えたけりながら、手紙を握りつぶして立ち上がると、預けていた荷物のほうへと向かって大股に歩き出した。
■ウーサー To:ALL
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とっとと草刈を終えてだな、そのあとで「土産」を見せてやっから、覚悟してやがれっ!?
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■シグナス To:ウーサー
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おう、なんだか知らんが良かった良かった、ってとこかい?
……あ、やっべ、俺も土産見繕わねーと!?
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■ ビビデ To:ウーサー&ALL
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お土産?! おみやげあるの? やったー!!
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■ バビデ To:ALL
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やた〜♪ おみや、おみや〜〜♪
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■アイネリカ&シーロン To:ALL
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やった〜♪(・∀・)人(=_=)
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■ティンリエ To:アイネリカ&シーロン
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一緒になって喜ぶなっ!(゜Д゜#)
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こうして、「お土産」の一言で盛り上がった夜は過ぎ、英気を養った(?)冒険者たちは、無事「草刈り」のお仕事をこなしたとか……
そのあとは、すてきなお土産の数々を目の前にしたグラスランナーたちの破天荒なお遊びを見せつけられることになるのだが……
その様子は、彼らの胸の内だけに深く焼き付けられている……のかも?
ひとまずは、次の冒険へ向かう前の小休止。
明日からはまた新しい風たちが、草原を駆け抜けていくだろう──
Fin
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