オラン・パーマー邸 |
翌朝ヴェドラー商会を訪れた冒険者達は、用意された商人風の服に着替え、商会の人間と一緒にパーマー家を訪問した。
応接室に通され、執事が応対を行っている。
■執事 To:ALL |
いらっしゃいませ。 それで、今日はどういった品を見せて頂けるのでしょうか? |
■ジン To:執事 |
本日の目玉はこの指輪ですね。 婚約指輪や結婚指輪としても最適な品です。 レオノフ様のご成婚間近とのうわさも聞いておりますが・・・ よろしければ、お相手の方のサイズをお取しますよ。 |
■執事 To:ジン |
おや、耳聡いですな。 しかし、それは私の権限を越えています。 あとでレオノフ様に窺っておきますよ。 |
■ジン To:執事 |
ええ、ぜひともお願いします。 他にも、豪奢なドレスを何着かお持ちしています。 よろしければ、ご試着して頂くこともできますよ。 こちらのお屋敷にお相手の方がいらっしゃるのであれば、このままドレスをその方のお部屋までお持ちください。 気に入らなければ、私どもが帰る際に返却して頂ければ結構ですので。 |
■執事 To:ジン>メイド長 |
分かりました。 メイド長はおるかね? |
手元のベルを鳴らしてメイド長を呼ぶ執事。
すぐにメイド長がやって来た。
メイド長は初老に近い痩せた女性で、かなり白髪交じりである。
■メイド長 To:執事 |
何用でございましょう? |
■執事 To:メイド長 |
ああ、ファラハ様に似合うドレスを見繕って欲しくてね。 幾つかこちらが用意されているから、君、レオノフ様の所に持って行って寸法あわせをして来てくれないか? |
■メイド長 To:執事 |
畏まりました。 では早速……と言いたいところですが、どちらにドレスはございますか? |
■ジン To:メイド長 |
こちらの衣裳箱の中です。 よろしければ、箱ごとお部屋までお持ちくださって結構ですよ。 うちの者を手伝わせましょうか? |
■メイド長 To:ジン |
あら、助かります。 でもレオノフ様から、「家内の者以外は部屋に入れない様に」と言われておりますの。 なので、部屋の前まで運ぶのを手伝って頂ければ宜しいですわ。 |
■ジン To:メイド長>アール、メイ(ウリディケ) |
そうゆうことでしたら、部屋の前までお手伝いいたしましょう。 アール、メイ、早速運んで差し上げてくれ。 |
■メイ(ウリディケ) To:ジン、メイド長 |
はい、ただいま お持ち致します。 |
■アール To:ジン、メイド長 |
…。 |
そう言って現れた女は、か細い腕を捲し上げると、大きな衣装箱を軽々と持ち上げた。
かたや小箱を2つほど、ほかに宝飾品の入った小袋だろうか、それを持って身を縮めるようにした男が無言で従う。
■メイド長 To:メイ(ウリディケ) |
あなた、見かけによらず力持ちですのね。 助かりますわ。 ではこちらへどうぞ。 |
メイド長は先に立って案内する様に歩き始めた。
その後ろを衣装箱を持ったメイ、そして押し黙ったまま、とぼとぼとアールが続く。
すぐに二階に到着した。
少し他の部屋とは装飾が華美な部屋の前でメイド長は足を止める。
■メイド長 To:メイ(ウリディケ)&アール |
ここ迄で宜しゅう御座います。 どうも有り難う御座いました。 |
■メイ(ウリディケ) To:メイド長 |
わかりました、それでは失礼します。 |
そう言いながら、アールには盗賊の符丁で「撤収を擬装し」「単独で」「潜伏せよ」と示してみた。
アールからの返答は「待つ」だった。
ただ、行動を保留する「待つ」なのか、潜伏して「待つ」なのかは示していない。
メイド長はそれには全く気付かず、ドアをノックした。
■メイド長 To:レオノフ |
レオノフ様、昨日お話しした商会からファラハ様用のドレスの見本が届いております。 お持ちして宜しいでしょうか? |
扉の向こうから、少し頼りなさそうな声が聞こえ、扉が開かれた。
■レオノフ To:メイド長 |
あ、ああ、話は聞いている。 済まないが中迄持ってきてくれ。 |
レオノフは、 見かけは金髪碧眼の美男子だが、今ひとつ焦点の定まらない目線と弱々しい声が、美貌を台無しにしていた。
ウリディケとアールが居る事に気付くと、直ぐに部屋に戻っていった。
■メイド長 To:メイ(ウリディケ)&アール |
では、ここからは箱から出させて貰います。 終わりましたらお呼びしますので、どなたか取りに来てください。 |
■アール To:メイド長 |
わかりました。 |
なぜか、そっとメイド長の手をとる。
■アール To:メイド長 |
ところで、使用人の方は他に何人ほどお見えなのですか? レオノフ様にお勧めする以外にも、お値打ちなものもご用意しています。 こういった仕事中はともかくですが、女性には見合った物を身につけるような時間も…大事なのでしょう。 |
さきほどまでとはうって変わったように笑顔を向けるアール。
■メイド長 To:アール |
嫌ですよ、こんな小母さんに媚を売っても何も出ませんよ。 それに、たかが使用人がそんなお金を持ってる訳が無いじゃないですか。 あ、でも安い物があれば、後で見せて貰おうかしら。 |
■アール To:メイド長 |
いつでも美しくあろうという気持ちは仕事にも張りを与えます。金額が問題なのではありませんからね。 もちろん、お値打ちなものも取りそろえておりますよ。 あと、こちらではなにか飼っておられますか? 最近では犬や猫にも装飾品を与えるのも流行ですが。 |
■メイド長 To:アール |
この家には魚しか居ませんよ。 それも、レオノフ様が手ずから世話をしているので、私達は触った事も有りませんわ。 |
■アール To:メイド長 |
そうですか。 しかしお魚とは…野良猫でも紛れ込んだら大変そうですね。 |
■メイド長 To:アール |
それは大丈夫ですよ。 レオノフ様が厳重に部屋に鍵を掛けておりますので。 お魚の部屋だけは窓をガラスにして、毎日レオノフ様が鎧戸を開けて明かりを入れていますし。 |
■アール To:メイド長>メイ(ウリディケ) |
なるほど。 では、さきほどの話の続きですが、商品はどちらで見られますか? 他のメイドの方々も一緒にお見えになると商売人としてはうれしい限りなので(笑) あ、メイさん。私が待ってますから、先に部屋に戻っててください。 もう少し売上げないと、今月厳しいんですよね。 |
謝るような素振りの中に「潜む」「探る」と織り交ぜる。
ウリディケは、メイド長とアールに会釈すると、その場を立ち去った。
■メイド長 To:アール |
では、寸法会わせが終わったら休憩所に案内します。 一寸だけここで待っていてくださいね。 |
メイド長は、ドレスを何着か手に取ると部屋の中に入っていった。
その頃、二階から戻ってジンと合流したウリディケは、部屋の前までしか行けなかったことと、その部屋の場所を説明した。
既に執事は部屋を去っており、ジンだけが部屋に残っている。
そこに、茶菓子を運ぶ様命じられたウーサーが入ってきた。
■ウーサー To:ジン |
どうぞ、焼き菓子にございます。中に熱いクリームが入っておりますので、お気をつけください。 厚い生地に隠れておりまして、すぐにはそれと気づけませぬので。 |
■ジン To:ウーサー |
・・・ |
ジンはウーサーに軽く会釈して、茶菓子を摘む。
周囲を気にするそぶりもみせず、あくまで他人を装う。
■ウリディケ To:ジン |
……と、言う訳なの。 部屋の中を、どうにか確認する手段は無いかしら? |
■ジン To:ウリディケ |
ふむ。衣裳箱を部屋へ入れるわずかな時間さえも許さないとはな。かなり警戒しているか、ひとめ見て異常とわかる状態なのか。とりあえず商人のような外部の人間には、これ以上の調査は難しいようだ。おとなしく撤収しようか。 |
一方、部屋の前で待つアールは、暫く経って待ち針を刺されたドレスを持ったメイド長が出てくると、そのまま使用人達の休憩室へ案内された。
メイド長がメイド達全員を呼びつけると、アールに商品を見せる様に告げられた。
■アール To:メイド長 |
どうもありがとうございます。 |
深々と礼をすると、メイド達を一望して笑顔で接客を始める。
■アール To:メイド達 |
皆さん、こんにちは〜。 今日はご主人さまのお相手がお見えということで、綺麗な品々をお持ちさせていただきました。 女性に綺麗なものを身につけていただくというのは、商売人というか、男性としても嬉しいものですからね。 と、いうわけで皆さんにもいろいろ用意をしてございますから見ていってください。 あ、そこのお嬢さん… … |
うさんくさくセールストークを並べながら、テーブルの上に品物を広げ始める。
薄いケースをスライドさせると宝石がいくつも並べてあり、その横には袋に入っていたネックレスやブローチなど豊富な品揃えをみせつける。
さながら小さな露店のように商品を並べるといざ仕事を始める。
■アール To:メイド達 |
ところでお嬢さんたちでご主人様のお相手がどんなだったか教えてもらえないかな。 次の売り込みのリサーチをしていかないと商売人失格だからねぇ。 一見の商売人じゃお目通りさせてもらえないからね。 ぜひたのむよ。 |
■メイドA To:アール |
話じゃあ衛視様だって事だったけど、うちに来てからは一日ぼうっと部屋で座っているばっかりですよ。 後は、レオノフ様がずっと一緒に居て、レオノフ様の言う事は聞かれている様ですけど。 何せ、なるべく部屋に入らない様に言われていますので、私達でもそんなに詳しい事は分からないんですよ。 |
アールはメイド達と会話しながら、アリスやメイシアスを探す。
■アンリエッタ(アリス) To:アール |
申し訳ありません。 私はこちらでお世話になるのが今日からですので、存じ上げません。 まだレオノフ様にも、きちんとご挨拶は出来ていませんから。 |
アリスはあくまでも生真面目なメイドで押し通すつもりのようだ。一歩引いた位置から品物を見るふりをしながら、まだ何も分かっていないという事がアールに伝わるように言葉を選んだ。