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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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閉じられし穴



  ネホリーナの穴

ウーサーとリュナは『静謐』を持って、フェンデ孤児院から程近い「ネホリーナの穴」を訪れていた。
最初に来た時と同じように、赤いどくろの看板が「キ〜コ、キ〜コ」と音を立てて揺れている。
入口は、やはり真っ赤な布で仕切られているだけ。
■リュナ To:ウーサー
リュナがここに来るの、バイトの面接以来。

そうつぶやくと、ばさっと無造作に布をめくって中に入る。
とたんに鼻孔に流れ込んでくる、煙たい空気。
■リュナ To:ウーサー
……オーナー、たばこやめたほうがいい。

■ネホリーナ To:リュナ
ひぇっひぇっ、第一声が説教とはの〜。
言われんでも、「にんげん」のときしか吸わんよ?

別段驚きもせずに、リュナのツッコミに応じるしわがれた声がする。
相変わらず板一枚渡しただけの机の奥には、色とりどりの鮮やかな布を重ね身にまとった人間の老婆がいた。
背中を猫のように丸め、口にくわえたキセルからぷかぷかと煙をくゆらせている。
そして、飄々とした目線をウーサーとリュナ交互に向けてきた。
■ウーサー To:ネホリーナ
おお、今日は人に変身してんのかよ?
知ってるかい。煙草吸ってると、魔法が解けるのが早くなるんだぜ?

■ネホリーナ To:リュナ
なんじゃとう!?
わ、わしの「ぴちぴちぼいーん」な、本当の美女い姿をタダで見ようったって、そうはいかんぞう!?

ささっと恥じらうかのように、衣の前を深く重ね合わせて上目遣い。
■ウーサー To:ネホリーナ
……オーケイ。じゃあ手っ取り早く薫製にしてみますかねぃ!?

■ネホリーナ To:ウーサー
やめんか!? これ以上お肌から水分を逃がすわけにはいかんのじゃ!!!

■リュナ To:ネホリーナ
オーナー、リュナはアルバイトもうできない。
ベルダインに旅立つことにしたから。

■ウーサー To:リュナ
…………。

ネホリーナのボケを100%無視し、リュナはかちゃ、とギャラリーの鍵を机に置いた。
■ネホリーナ To:リュナ
ふむ、ではこれが残りのバイト代じゃ。

ネホリーナはカエルの形をしたチョップスティック・レストをぽんと机に置いた。
■リュナ To:ネホリーナ
いらない。

■ウーサー To:リュナ
いや、其処はせめて受け取っといて、あとで売っぱらおうぜ……?

■リュナ To:ネホリーナ
デザインセンスが、リュナの美学に反するから。
欲しいなら、うさぎにやる。

見ればそのカエルは、可愛いげのないニヒルな笑みを左側の口角に浮かべながら、だらんと垂れた舌を蝶々結びにしているという、アバンギャルドな造形であった。
■ウーサー To:リュナ
嗚呼……こりゃあ、オレ様が悪かったな。やっぱ置いてこうぜ?

■リュナ To:ウーサー
うん。

ずいっと前衛的カエルをネホリーナの方へ押しやる。
■ネホリーナ To:リュナ>ウーサー
……逡巡なくきっぱり拒否しおってからに……
まあ、よいわ。
それで、どうじゃったかね、探し物を求めての「西」への旅は?
わしの恋愛占いは、当たりまくりじゃったろう〜??

ぽっぽっと煙で輪を作りながら問いかけてくる。
■ウーサー To:ネホリーナ
え? いやその、まあ……アレだ。
いい女が居た、ってのは、当たってたけどよ……?

■リュナ To:ウーサー
………………。

■スクワイヤ To:ウーサー
(-"-#)

すっかり忘れていた「恋愛占い」の話を切り出され、リュナを含めた約3人の美少女たちの顔が浮かんだウーサーだったが、気恥ずかしさ(と、隣から染み出して来つつある殺気のよぉなモノ)から慌てて話を変える。
■ウーサー To:ネホリーナ
そ、それよりアレだ。ほらよ、頼まれてた絵だぜ!?
お望みの『静謐』――それも遥かな時を越えた、完璧版の『静謐』だ!!

ウーサーは絵を取り出し、包みを解いて、ずいっとネホリーナに差し出した。
もちろん自分が描いたわけでは無いのだが、身体を貸して完成させたことが、なんとなく誇らしかったりする。
■リュナ To:ネホリーナ
うさぎはかっこよかった。
特に、ミミのあたりが。

なぜか、リュナも誇らしげ。
■ネホリーナ To:ウーサー&リュナ
おおっ!? こ、これは……!!!
素晴らしい。想像以上の完璧な完成度じゃ………!!
あいわかった、みなまで言うな。これでわかったぞえ、わしはやはりイーンウェンいちの、いやっ、アレクラストいちの占い師じゃ!!!
正解率99.999999パーセントッ!

うきうきと『静謐』を取り上げ、むちゅっと突き出した唇をカエルに近づける仕草。
虹を見上げて穏やかなはずのカエルたちの表情が、なんとなく迷惑そうに見えた。
■ウーサー To:ネホリーナ
にしても、だ――なあ、婆さん。ちょいと聞かせてほしいんだがよ?

わざと荒々しい挙動で、勝手に席に着いたウーサーは、凶悪な哂いを浮かべながらゆっくりとした口調で話しはじめた。
■ウーサー To:ネホリーナ
ど〜してオレ様たちにゃあ、ヴィルコだのイザナクだのについて、話してくれなかったんだよぅ?
霧ん中に閉じ込められるのを選んだ妹さんと違って、婆さんはイーンウェンを離れたんだろ? 別に例の件についちゃあ、話せなかったってワケじゃあ無い……んだよなぁ?

■ネホリーナ To:ウーサー
ひょほほ……そこまで聞いているのであれば、話が早い。
同じじゃよ。話せば話すほど、霧の奥深くに閉じ込められるごとくに、話せば話すほど、遠く離れた土地に移動せねば生きてゆけなかったのじゃ。
まぁ、わしの場合は占い師という職業柄、放浪するのも性に合っておったからのぅ?
そのまま世界の果てまでたどり着いてしまう前に、頼まれてもいないのに見知らぬ町を救ってくれるような、お人よしな勇者たちを見つければよかったんじゃよ。

■ウーサー To:ネホリーナ
ったく、オレ様みてぇな物分りのいいナイスガイや、御人好しな善人ばっかりだったから良かったようなモノを……!?

ネホリーナはふたりを、そしてここにはいないゾフィーとその仲間たちを想像して見回すように視線を動かした。
■ネホリーナ To:ウーサー
な〜んて、言葉にするのはたやすいがのぅ〜? ひょほほ。
……イーンウェンに生まれ、故郷を愛する者のひとりとして礼を言うぞ。
ありがとうッ!

ガンッと机におでこを打ち付けた。
■ネホリーナ To:ウーサー
つーわけで、骨の髄まで妹属性なこのわしを、姉と勘違いすることは許さんっっっ!!

べしっ、と机を叩いた拍子に、奥の棚からカエルグッズがぼたぼたと落ちた。
■ウーサー To:ネホリーナ
あーあー、理解ったよ!
もっとこう誤魔化すかと思ってたが、んなストレートに非を認められちゃあな。
仕方無ぇ、妹属性ってのにゃあ寸毫たりとも納得しねぇが、今回の貸しはチャラにしといてやんよ!

両腕を組んで首を振り、大きな溜息までついて見せる。
■ウーサー To:ネホリーナ
ま〜聞きてぇことは聞いたし、あとはアレだ。
例の、粘土カエル。あいつを貰ってっていいかよ?

■ネホリーナ To:ひとりごと
(ドワーフ語)
………ちっ。覚えておったか(ぼそ)

■ウーサー To:ネホリーナ
? どうしたよ?

■リュナ To:ネホリーナ
…………。

ウーサーが、この冒険中に何度も耳にした気がする(しかし理解不能な)言語で何かをぼそりとつぶやいたあと、ネホリーナは意気揚々と顔を上げた。
■ネホリーナ To:ウーサー
うむっ、もちろんじゃ!!
売っちゃっても構わんが、できればカエルの生活を十二分に堪能してからにしてほしいのぅ〜?

流れるような動きで懐中から「粘土細工のケロリーナ」を取り出し、愛おしげに机に置いた。
■ネホリーナ To:ウーサー&リュナ
さぁて。
呪いがとけた今、もうこれ以上故郷から離れていく必要もないからの。
久々に、我が愛しのギャラリーへカエることにするぞえ〜。

この穴はもう閉店じゃ、永遠にな? さぁ帰った帰った!

そう言っていそいそと、床に落ちたカエルグッズをかばんに詰め込みはじめる。
■リュナ To:ネホリーナ
オーナー。
雨が降ったら出せって言われてた絵、しまっておいたから。

■ネホリーナ To:リュナ
うむ。
そういえばリュナよ、それ以外にもわしはおぬしに、言っておいたことがあるはずじゃが……ホレ、覚えておらんか? アレじゃよアレ。

■リュナ To:ネホリーナ
…………?

ネホリーナはちらちらとウーサーのたくましい体躯を見やりながら、リュナの耳元に口を寄せる。
■ネホリーナ To:リュナ
ペンキまみれの運命のオトコが下町の角から現れると、言ったであろう?
らっきーあくしょんは出会い頭を逃さず、ペンキを投げるこ──

おごぉっ!!?

■リュナ To:ウーサー
うさぎっ。帰るぞっ。

机(むしろ板)を思いっきりひっくり返してハホリーナの顔面に直撃させると、リュナはぷいっと踵を返してすたすたと「穴」から出て行く。
■ウーサー To:リュナ>ネホリーナ
うわぁ酷ぇ……って、え? あ、ちょ、ちょっと待て!
てりゃあっ!!

ウーサーはネホリーナを助け起こし――て間髪入れずに、手に取った「粘土細工のケロリーナ」の唇を、彼女のそれに押し付けた!
■ネホリーナ To:ウーサー
むぐぅ?!

そしてケロリーナをポケットにねじ込みながら、リュナを追って「穴」を出る。
■ウーサー To:ネホリーナ
コイツはこの間、危うく姐さんのケツに圧死させられそうになった分だぜ! これで完璧にチャラだ、じゃあなっ!

■ネホリーナカエル To:ウーサー
グェッ、ゲッコゲコゲコ、ケロケロ〜ッ!!

何やら罵倒らしきカエルの鳴き声を背中に受けながら。


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GM:ともまり