ある日の図書館で
シグナスは3冊の文献を返還すべく、三角塔の図書館へと向かった。
勝手知ったる受付を通り過ぎ、まっすぐ図書館へと向かう。
午後の陽射しが差し込む自習机は、それなりに学生やら、冒険者やらで混んでいるようだ。
カウンターに視線を動かすと、ドロシーの姿は無かった。
かわりにでんと座っていたのは、明らかに「首まわりと下腹がふくよかすぎる」中年の司書だった。
■中年の司書 To:グラスランナー
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うぉっほん。あー、そこのリュート持ち君。
本は枕に使うものではないのだよ?
どうせ頭に入らないのなら、とっとと帰ったらどうだね?
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■グラスランナーの少年 To:めたぼ司書
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ふにゃ?
じゃまするなよぅ、おいら今、とってもびゅーちほーな夢を……Zzzz……
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明るい茶髪のグラスランナーは、積み上げた文献を頭の下に敷いて、よだれをたらしながら居眠り。
■中年の司書 To:つぶやき>シグナス
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まったく、これだから草原のちびすけどもは……(ぶつぶつ)
あー、そこの君。確か学生だったね? 悪いが彼をつまみ出してくれんかね。
よだれで文献が汚れてしまっては、学院の損失なのだよ。うぉっほん。
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大げさに咳払いをしながら、思いっきり眉間にしわを寄せて一方的にシグナスに頼んでくる。
■シグナス To:中年の司書
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へいへい、とは言えあんま邪険にしない方が良いですよ。
嫌がらせされるの、貴方じゃなく本の方なんだから。
ところで、ドロシーさん居ないっすかね?頼まれ事あったんですけど。
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■中年の司書 To:シグナス
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その「度を越した悪戯」が許せんのだよ、わたしはね……(ぶつぶつ)
……うぉっほん。
ん? ドロシー女史? そういえばランチタイムに出たまま戻ってこないな。
まったく、女のお茶とおしゃべりは、中身が無いくせに無駄に長くて困るよ。
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ふん、ところころした体格をのけ反らせてみせる。
その時、ちょうど昼休みの終わりを告げる鐘の音が、荘厳な図書館内に響き渡った。
■シグナス To:中年
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さいですか。まあ、長話も楽しんだ方が損はしないと思いますけど……と?
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同時に、扉からカツ、カツという聞き覚えのある靴音が、シグナスイヤーに流れ込んでくる。
■ドロシー To:シグナス>中年の司書(フォルリー)
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……ラグり…いえ、シグナス・ラグス。
無事でしたか。
ごきげんようフォルリー先生、寸分違わず定時厳守で業務を再開したいと思いますが、 何か問題でも?
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■フォルリー To:ドロシー
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むぅ……で、ではよろしく頼むよ。
そこのよだれまみれのちびすけも、どうにかしておきたまえよ!
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さらさらの七三分けの髪を撫で付けながら、憮然とカウンター席を立つフォルリー。
■ドロシー To:シグナス
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…………フッ。
なんでも頭髪の秘密を華麗かつ大胆に暴露されてからというもの、グラスランナーを異常に敵視しているようです。
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何かの小咄でも思い出したのか、爽快な笑みを口元に浮かべつつ。
ドロシーはブロンドの前髪をそっとかきあげて、妙に上機嫌な様子でシグナスを見遣った。
■ドロシー To:シグナス
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さて、ラグりん。
本日はまた何かの調査および研究ですか?今なら手助けをすることもやぶさかではありませんが。
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■シグナス To:ドロシー
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……意外とまあ、頭髪問題も多々ある訳ですね。よし、俺は薄くなったら剃ろう。
とさて置き、手助けして貰うばかりで終らないのが俺のまあ、数少ない美点なモンで。
頼まれた本の回収、上手く行きましたよ。ちょっと、汚れちゃってますけど。
(荷物から、ヤツメから返してもらった本を取り出しつつ)
原因は何と言うか、「中年の司書にウザがられたのでむしゃくしゃしてやった。今は反省している。」
……との事だったんで、匿名って事にして貰えませんかね?お説教は(ロシュが)してるんで。
お詫びって訳でも無いんですけど、適当な口実が無いんでそういう事で、これお土産です。
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カウンターの上に、重ねた本の上にガラス細工の文鎮を乗せるシグナス。
■ドロシー To:シグナス
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フッ……。
いざ後退の気配が忍び寄って来た途端に決心が崩れ足掻き始めてしまう、それが人の性(さが)と言うもの。
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何か哀れっぽくのたまいつつ、口元だけで微笑んで文鎮を手に取り、3冊のタイトルと中身を素早く改めた。
■ドロシー To:シグナス
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見事ですね。寸分違わず「紛失」していた文献そのものです。
……この汚れは絵の具ですか? どのような意図に使われていたのか、正確かつ詳細に聞き出したいところですが。
匿名と言うからには、今回のことにまつわる小咄を尋ねるのも野暮というものでしょうか。
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妙に優しい声でそう言い、腕組みをしてシグナスを見た。
■シグナス To:ドロシー
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用途自体は特には、ただ絵の具に絡む話もあったんで。……そうですね、良ければお話しましょうか?
とある街の、太古の夫婦と海魔の親子と、ちょっとした幼い恋のお話と……
あと、無骨な戦士がウサギのプリントされた鎧着せられたり様々な誤解で涙を禁じ得なかったお話とか。
長くなりそうなんで、お仕事の後に食事でもしながら……なんですが、下心は込めてないんでご安心を。
ま、それで安心し切られても男心的に複雑ですけどね?
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■ドロシー To:シグナス
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……。
最後の台詞は、女に恥をかかせるつもりは無い……と解釈して宜しいですね?
ラグりん。
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腕組みした手の指をトントンと動かしながら、試すような視線で問いただしてくるドロシー。
■シグナス To:ドロシー
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ん?まあそんな感じです。(←小声で聞き取り切れなかった)
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■ドロシー To:シグナス
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……フッ。
ともかく、その土産話……例の「トンデモ伝承」との整合性を検証するに値するようです。
それに後半の、ウサギ鎧と誤解が云々というくだり。
恐らくユーモアと悲劇を内包した完成度の高い小咄だと推察します。
……大変興味深い……。
是非、伺いたいと思います。……今すぐに。
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ドロシーは口元だけに笑みを浮かべると、カウンターの奥で事務作業をしながらうとうとしていた若い女性──出発前に受付で見た覚えがある──に声をかけた。
■シグナス To:ドロシー
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早ッ!?食後じゃなかったですっけ?
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■ドロシー To:シグナス>リーヴル
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仕事とは常に臨機応変かつ迅速に処理すべきものですから。
リーヴルさん。急用ができてしまいましたので、私の代理をお願いします。
あなたにとっては憧れの司書デビュー、ですがミスの無いように。
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■リーヴル To:ドロシー>シグナス
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ほぇっ? あぅ、寝てません寝てません〜。
あ、え〜、代理ですか〜?
わ〜、カウンターに座ってもいいんですかぁ……('-'*
あっ、シグナスさんだ〜。今度おじいちゃんと、ごはん行きましょうね〜♪
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よだれを拭いながら眠たげな目で、シグナスに手を振ってくるリーヴル。
■シグナス To:リーヴル
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ははっ、おじいちゃんに宜しくなー。
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■リーヴル To:シグナス
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はい〜♪ ……むにゃむにゃ……。
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■ドロシー To:シグナス
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……フッ。
では、行きましょうか。なるべく学院生の目の届かない場所のほうが好都合ですか?
ラグりん。
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■シグナス To:ドロシー
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ドロシーさんの都合に任せますよ、後ろめたい感じなんて、するのは兎も角して貰いたくは無いですから。
ええ、全く持って知られて困るような事ではきっと無い筈でございますのよぜ?
ま、軽食か……お菓子かお茶メインの店に変える予定なんで、好みがあれば先に伺いますよ。
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■ドロシー To:シグナス
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男らしい判断か、逃避本能が働いているだけなのか評価に苦しみますが、良いでしょう。
私は先ほどの鋭いツッコミの通り食後ですので、落ち着いて小咄……いえ、伝承にまつわる話を伺える喫茶の店を。
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ドロシーはシグナスの腕に自らの腕を絡ませると、やや切れ長の印象のある目を妖艶に細めて微笑み、カツカツと歩き出した。
それはシグナスがエスコートしているというより、「キッツい女教師に連行されている」ように見えなくもない。
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