伝えられしものがたり〜 3 〜
リコリスはウーサーに頼んで、『静謐』を子ども達に見せてもらった。
身を乗り出して『静謐』をまじまじと見つつ、口々に感想を述べあうこどもたち。
子ども達の目がウーサーの持つ『静謐』に奪われているうちにこっそりと、リコリスは魔法を唱えた。
とたんに明るい歓声に包まれる遊戯室。子どもたちはたまらず立ち上がって、その虹を掴もうと、手に触れようと手を伸ばし、ぴょんぴょんとジャンプし始めた。
きらきらと輝く幼い瞳が、ウーサーの堂々とした語り口に促されるかのように、頭上に輝く虹を見つめる。
ひっそりと、波が引いていくように静まり返る遊戯室。
ライチはその言葉に合わせ、笑顔でぽんと自らの胸を叩いてみせた。
まるで目の前に突然まっすぐな道が開かれたかのように、次々に思いを口にする子どもたち。遊戯室には笑顔の花が咲き、質素な布で仕切られただけの入口から、さわやかな秋風が吹き込んでくる──それは不思議と潮の香りを運んで来たように思えた。 鋭い者は、あるいはもっと早く気づいていただろう。
リエッタが、布で仕切られただけの入口に向かって呼びかける。
ポフトがそっと歩み寄って布をめくってみると、そこには「soul of Art」と刺繍されたエプロンを身に着けた、がっちりした体格の男性が立ちつくしていた。
誰かに話したくてたまらない、といった様子で、院長先生の足や腕にまとわりつきながら、興奮した瞳で一気に語りかける子どもたち。
リュナはたたっと院長先生に歩み寄り、子どもたちに混じってそのガタイの良い男性にしがみついた。
涙で顔をしわくちゃにしながら、穏やかな目でリュナと子どもたちの頭を撫でる院長先生。
院長先生にまとわりつく子どもたちのうち何人かが、目をきらきらさせながら同調して、こくこくっと頷いた。
やわらかく膝を折り、礼を返すゾフィー。
再び、止まらなくなった涙をごしごしと拭う院長先生。
子どもたちの前で見せまいとしていた涙を、こらえきれずにこぼしてしまったユーミルは、目元を押さえながら冒険者たちを見つめた。
大合唱のような明るい声が、オレンジ色の屋根を飛び越えて空にまで響き渡った。
リコリスが取り出したのは、シーメモリーズの青い小瓶。
リコリスは目の前で小瓶を耳につけて目を閉じてみせる。
次々に生み出されて行く絵は、海の色や船の形がどこかちぐはぐ。
リコリスは子どもたちの生き生きとした絵を頼もしそうに見ながら、嬉しそうにライチの腕に抱きついた。
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