伝えられしものがたり〜 2 〜
ゾフィーはふたたび懐中に手を伸ばし、モザイク・ガーデンで買い求めた朝焼けを映した紫の小箱を取り出す。蓋の細工がよく見えるように、車座の子ども達ひとりひとりの目の前を、ゆっくりと動かしたあと、手首をかえすようにして、素早く胸元にしまい込んだ。
如何にも気まずそうにリュナをチラチラ見ながら、話をムリヤリ進めた。
「うさぎ」のところで思いっきりプレートメイルの「ウサギ刻印」を指さしながらのたまう。
とたんに(アーマーが)モテモテ状態に。
子どもたちの表情に緊張感が走り、真剣なまなざしでリコリスを見つめてくる。
リコリスはポケットからあの墓地で拾って持ち歩いたままの小石を取り出すと灯りの魔法をかけた。
子どもたちは歓声を上げてサラの手の中の小石を見つめ、小さな手が握ったり開いたりするたびにこぼれる光に目を奪われていた。
リコリスは懐から数枚のレヴィーヤにもらった絵を取り出すと、子どもたちに見えるように自分の前に広げ、そして一枚ずつ座っている子どもに手渡した。
隣や後ろの子たちと見せ合いっこしながら、本物そっくりな絵に目を丸くする子どもたち。
怯えたような表情が子どもたちの間に広がり、泣き出しそうな小さい子を、ユーミルがそっと抱き上げる。
子どもたちは不安げに身を寄せ、お互いに顔を見合わせた。
ウーサーはあの夜の決着を思い出しながら、拳を握った。
それは重厚なBGMのせいなのか、リアルな証言のせいなのか。
ライチは懐かしむような表情で子どもたちの顔を見回し、続きを促すかのようにリコリスに頷いた。
思わず、思い出し笑いをしてしまったライチは、リコリスと顔を見合わせつつ、子どもたちに突っ込まれる前にすばやくひらひらと手を振った。
そう言って、バックパックからリンゴを1つ取り出す。
ニヤリと相好を崩したウーサーは、そこから先は「なにか」を思い出しつつ熱く語りだした。
唐突に不機嫌オーラが発生する。
ぷいと明後日の方を向いたほっぺたのラインが怒っていた。
こっそりと。
妙に早口でまくしたて、引きつった笑みを浮かべながら無理やり納得させるかのようにリコリスの肩をぽんぽんと叩くライチ。
そして苦笑したままの顔をゾフィーの耳元に寄せて、ひそひそと。
こんなふうにな、と良いながら、踊りの動きを再現してみせる。
何人かの子どもたちが、膝立ちになりながら、きゃっきゃっとウーサーの動きをまねっこし始める。
鉄刀を鞘に入れたままで抜き、両手に構えたウーサーは、二刀流での動きを再現してみせた。
ぱちぱちと拍手を贈る女の子たちの横で、リズミカルな3連撃の動きを真似し合いながら、すっかり英雄気分の男の子たちであった。
鞘に入れたままの鉄刀で、今度は「片手を攻撃、片手を防御」に廻した動きを(実際の試合よりも、更に高速で)再現してみせる。
何かを誤摩化すかのように、自身を見上げているリコリスのおでこに軽くキス。
おでこをおさえてのたうちまわるリコリス。
近くで見てしまったであろう子どもたちが騒ぎ出す前に、先手を打つライチだった。
熱いウーサーの語り口に、すっかり夢中になってしまった子どもたち。
|