ネホリハホリ
翌日。
「子々孫々に言い伝えなければならないこと」が上手く伝わらなかったために滅びかけた街トールクーベ出身のリコリス、その言葉には実感がこもっていた。
冗談めかして笑いながら、リコリスと連れ立って歩くのは、いつもの黒装束に身を包んだライチ。
リコリスは「トグトグファクトリー」で買ったばかりの白い猫耳フード付きローブを着て、困ったように言った。
なんとな〜く町民たちの視線が自分にも刺さっているのに気付いたのか、苦笑まじりのひそひそ声で。
困ったような目をライチに向けた後、大切そうにかぶった猫耳の位置を整えている。
一瞬照れたように赤くなりつつ、何となく足を早めて公園の入口へ。
聞き覚えのある、か細く儚げな声が、ふとリコリスの耳に届いた。
リコリスの姿を認めたハホリーナは、公園の端、見事に紅葉した紅葉の木の下に馬車を止めて、ベンチに腰掛けたまま微笑んだ。
リコリスはカエルの封印のことについて、見てきたことを伝え、そしてさらに、イザナク、イザナイのことについてもハホリーナに話した。
明るい木漏れ日が差し込むなか、ひらひらと紅葉が舞い落ちてくる。
にっこり笑って、馬車につながれている茶色の馬のたてがみを撫でた。
ライチはリコリスの猫耳頭を、優しくぽむ、と撫でた。
ハホリーナは黙って耳を傾けるライチに視線を移し、もう一度ふたりの顔を見て、言葉を続ける。
ライチは白波公園からわずかに見える、さざめく海の波間を見やる。
ライチは海からの風を吸い込むようにして大きくひとつ深呼吸をし、リコリスに向き直って微笑んだ。
指を折って数え、確認するようにライチを見た。
ハホリーナが差し出したのは、ひとつの木箱。
小瓶の一つを手にとって、ためしに耳に当ててみた。
小瓶を木箱に丁寧に戻すと、嬉しそうに頭を下げた。
リコリスの声にあわせてそっと頭を下げるライチ。
ライチは急に立ち止まり、突然思い出したかのようにそう言った。
差し出されたリコリスの手の中に、きれいに折りたたまれた白いハンカチが滑り込まれる。
最後には冗談めかして言いながら、いつものようにちょっと身をかがめて、リコリスと視線を合わせながら微笑んだ。
そしていきなり満面の笑みを浮かべると、リコリスの小さな体(猫耳と猫しっぽ付き)をがばっと抱きしめた。
リコリスも負けじとライチの身体をぎゅーと抱きしめた。
そっとリコリスの身体を話して、頭を撫でながら微笑むライチ。
いつものように研究室で忙しそうにしている兄たちの様子がリコリスの脳裏に浮かんだ。
リコリスは白いハンカチを改めて差し出した。
まるで誓いを立てるかのようにそう言って、ライチはそっとハンカチを受け取った。
そして腰から黒塗りのダガーを1本、鞘ごと外すと、リコリスに差し出した。
リコリスは黒塗りのダガーを大切そうに受け取ると、胸元にぎゅっと抱きしめた。
ライチはリコリスの手をとって歩きだした。
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