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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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雨がやんだら



  イーンウェン・港

全速力で駆け出したレヴィーヤに追いつける者は(ヤツメ以外には)誰もいなかった。
ただ、右手に掲げられた絵筆から紡ぎ出される虹が、彼女の行き先を教えてくれる。
■ヤツメ To:ALL
はわわ〜、ボクと同じくらい早い子なんて久しぶりに見たでぃすよー!?(゜∀゜;)=
みんなもちゃっちゃか走るのでぃす〜〜!!

■シグナス To:ヤツメ
無茶言ってくれるな。俺は足だけは遅いんだ、勘弁しろ。

■ヤツメ To:ALL
にゃっははー。神官魔法少年シグフリィにも、ニガテなことがあったのでぃすねー☆ヽ(゜∀゜)ノ
ちなみにヤツメさんの辞書には、待つとゆー字は無いのですぅ〜!!(>∀<)==3

■ハノク To:ALL
いったいぜんたい、なんだってんだ!?
あの高波、ありゃあもしや、海のばけものじゃねぇのか!!?

■リコリス To:ハノク
化け物なんかじゃないよ。
本当はやさしい海の生き物で子供のレヴィちゃんを迎えにきただけ。
大丈夫、虹をみればやさしさ取り戻してくれるから。

■ハノク To:リコリス
虹を見れば……って、そりゃどんなお伽話だ!?

■アーユ To:ハノク
あなた! ごちゃごちゃ言わないでとっとと走るんです!
ラーダ神官が間違った知識をのたもうわけがないでしょう!
さあ、早く!

■ハノク To:アーユ
お、おう……(汗)

■ミガク To:ALL
な、なんという……ぜいぜぃ、すぴーど、ぜいぜぃ、じゃ……。
はふぅ、ひ、膝が〜〜!

■ゾフィー To:ミガク
海辺まで、あと一息ですわ。
がんばって、最後まで見届けませんと。
そうそう腕を後に大きく振れば、すこし膝は楽になりましてよ。

■ミガク To:ALL
も、もちろんじゃ!! わしは「地上の親」として、我が娘を立派に親元へと送り出す義務がっ……!

う、腕ですな、こうですかな!?

ヤツメやロシュ、そしてミガクやハノクたちも、一緒になってレヴィーヤを追い、虹がのびていく方向へと走っていく。
好奇心でついていこうとする町民もいたが、ほとんどは白波通りに出たところで、迫り来る高波を目の当たりにすると、悲鳴を上げて反対側へと逃げ出してしまっていた。
■ウーサー To:ALL
よっしゃあ、追いついた! 此処が港かっ!?

■ナギ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
レヴィーヤちゃん!!

冒険者たちやミガクたちが、転がるようにして港へと到着したそのとき、ライチの手から滑り降りたナギが、波止場に立ちつくすレヴィーヤに向かって叫んだ。
■レヴィーヤ To:ナギ&ALL>高波
(ドワーフ語)
だいじょうぶ!
とうさんかあさん! おこらないで!! レヴィーヤはここにいる!

一瞬だけ振り返ってそう言うと、虹色の色彩を放ち続ける絵筆を掲げたまま、再び海の向こうを見つめて呼びかけるレヴィーヤ。
その視線の先には、見上げるほど巨大な高波――「うごめく水壁」とも言うべきもの――が、まるで意志を持つ生命体のように、レヴィーヤを目指して迫ってきていた。
海面に目を向ければ、迫り来る影はそれだけではなかった。
波間から覗く、巨大なタコの足。凶暴なサメとおぼしき背びれの群れ。ウミヘビのような胴体の長い生物の群れ。
そして、空には巨大な禿鷲の群れ――羽根と頭頂部が真っ赤に染まったモンスターだ。
■ウーサー To:ALL
くっ、こりゃあ……満員御礼だな! ギャラリーが少ねぇのが勿体無いぜ!?

■シグナス To:ALL
でかいっつーか多いなオイ。

「高波の生物」に煽られて荒れ狂った海から、波しぶきが港にたたきつけられる。
白いしぶきがあちこちで起こり、冒険者たちの足元をずぶ濡れにしていった。
■レヴィーヤ
(ドワーフ語)
――あっ! ……。

バキン、と音を立てて絵筆が折れた。
ただの「リンゴの木の枝」と「尻尾」に戻った絵筆は、一瞬にして空気に溶けて消えてしまい、あとに残された「こころ」は、虹色の光を失った透明な球体となって残された。
そのまま力なくふよふよと浮いて、ライチの体に再び戻っていく。
■ライチ To:ALL
……色を、使い果たした? 見て、空が……。

ライチが指さした空には、レヴィーヤが走ってきた軌跡をそのまま浮かべたような、大きな七色の虹が架かっていた。
どしゃぶりとなっていた雨はいつのまにかやんで、重たい鈍色に染まっていた空は、まるで夜明けを迎えたかのように次第に明るさを帯びていく。
■レヴィーヤ To:高波
(ドワーフ語)
とうさんかあさん……。見て、七色のはし、レヴィーヤがかいた。

怒りに満ちていた高波が、徐々に大きさと勢いを失い、細く小さくなっていく。
付き従っていた海と空の魔物たちも、まるで我に返ったかのように動きを緩めた。
「とうさんかあさん」と呼びかけられた高波は、そのまま穏やかさを取り戻したかのように、海面に静かに沈んでいく。
■ナギ To:ALL
……しんじゃった……の?

その刹那、逆流していく滝のようなすさまじい水流が海面から立ちのぼった。
いくつもの水柱が捻れながら寄せ集まり、凝り固まって、あるひとつの形を作り出していく――それは、巨大な首の長いトカゲのような生物。まるで、海に住む竜の首だった。
■シグナス To:ナギ
ま……見てりゃ解るさ。見終わって解らんかったら、俺も誰かに聞くさ。

■ナギ To:シグナス
う……、うん。

■ウーサー To:ALL
お姫様に、武闘会に、オマケに竜、かよ――やれやれ、土産ハナシにするにゃあ、ちとサービスが過ぎねぇか!?

■リコリス
…………?
(あれ? この竜ってもしかして………?)

■海竜 To:レヴィーヤ>ALL
…………。

(???語)
Gi, evme qusmx Levia? hagry ja mi de...

■ゾフィー To:つぶやき>ALL
……まあ、なんと美しい。
造形だけではないわ、あの内側には理性と知性が満ちている。
そして子を思う心も……。

……どなたか、言葉をおわかり?

■シグナス To:ゾフィー、ALL
ドラゴン……じゃねえな。リザードマン語なら解ったんだが、違うみたいだし。

■ロシュ To:ALL
あ、あれは……マーマン語。
通訳しますね。

ロシュが慌てて耳を澄ませる。
海竜は穏やかな、だが警戒するような色を決して捨てていない大きな瞳で、レヴィーヤを見つめ……次いでその場にいる人々を見下ろし、問いかけてきた。
■海竜 To:レヴィーヤ>ALL
(マーマン語)
お前が……我が姫か? なぜ、そのような姿をしている?
お前を攫い、殺めようとした地上の者たちに、何をされた?

……あぁ、我は怒りに我を失っていた……だが今ならば、言葉で言い訳を聞くこともできよう……
地上に住む者たちよ。我が姫を地上に引きずり出し、何をしたのだ……。

■シグナス To:ALL
……やべえ、娘さん嫁にする。とかはストレートに言えないなこりゃ。

■カイネ To:シグナス
海の藻屑か泡になる覚悟でもなきゃあ、無理だろうそれ……

■ティガ To:シグナス
イロイロな意味での勇者として、歴史に名は残せるかもな……

■ハノク To:ティガ&カイネ
おめぇら、黙って見てろ!!

■ティガ&カイネ To:ハノク
へ、へいボスッ!?

■ゾフィー To:ALL>ロシュ
あら、むしろ殿方にはそのくらいの気概をもってほしいものですけれども。

挨拶をします、ロシュさん、今後とも通訳をお願いしますわね。

そう言いながら、一歩前に踏み出すゾフィー。
■ゾフィー To:海竜
美しき海の長よ、はじめまして。
ゾフィーと申します、大地に根ざす者から礼を送ります。

臆することなく巨大なかしらを見上げ、ゾフィーは衣の裾を広げつつ、深く膝を折り頭を下げる正式な礼をした。
■ゾフィー To:海竜
わたくしたちは彼女の……友になりました。
レヴィーヤ――わたくしたちはあなたの姫をそう呼んでおります――がこの地を訪れて、われらの暦で1年。
彼女の純真さ、優しさは多くの人々に笑顔や、幸せをもたらしてくれました。
ここにいる者は、誰もレヴィーヤを攫ったり、殺めようとしたりはいたしません。
むしろ、彼女をまもるためならば、短き命をかけられる者達です。
彼女が生きて、こうしてこの場に立っていることが何よりの証。
我らが語るのは「言い訳」ではなく「事実の証言」です、お聞きいただけますでしょうか?

海竜は黒真珠のような瞳を僅かに細め、投げ掛けられた言葉に合わせるようにして、ゾフィーを……レヴィーヤのまわりに立ち尽くす者たちを見つめた。
■海竜 To:ゾフィー
(マーマン語)
大地に住まう、小さき者よ。
聞こう、地上で起こった「事実の証言」とやらを……。

■ゾフィー To:海竜>ライチ
お聞き入れいただき、感謝します。
まずは、1年前、この港に訪問者がありました。

ライチさん、レヴィーヤと初めて会った時のこと、説明していただけます?

黒髪のエルフに向き直り、促すように、また話を急に振ったことを詫びるかのように、ゾフィーは軽く頭を下げた。
ライチはそれに小さな頷きで応えると、一歩前に歩み出て、いつものよく通る声で話し始めた。
■ライチ To:海竜
私はライチ・ハプルマフル・ウェスペル。
海を愛し、海と共に生きることを選んだエルフです。

あの日、港に座り込むレヴィーヤの背中を見たとき……私はなぜだかとても懐かしい気持ちになったの。
まるで、遠い昔に引き裂かれた魂に、出会えたみたいに……。
言葉も何も通じない、見ず知らずの私が差し伸べた手に、彼女はちいさな手を重ねて、 嬉しそうに微笑んでくれた。
“レヴィーヤ”……まるで知り得た唯一の大切な言葉だと訴えるかのように、それだけを一生懸命、何度も何度も繰り返して……ね。
それが私たちの出会いです。

■ゾフィー To:ライチ>海竜
ありがとうございます、ライチさん。
「絆」というものは、本当に不思議ね…。

さて、続きとまいりましょうか、ひとりぼっちだった少女は、無骨ながらも暖かい男性に引き取られました。

■ゾフィー To:ミガク
ミガクさん、さあ、胸を張って。
語ってください「親」としてあなたがレヴィーヤに為したことを。

やや後ろにいた豊髭なドワーフの片手を引きつつ、もう片方の手で背中を押し、ゾフィーは共に前に踏み出した。
■ミガク To:ゾフィー>海竜
う、うむ……。

はじめまして海の竜、わしはミガク、大地に根を下ろし、海と港町を色彩の粒で表現することに生涯をかけようとする者じゃ。
家族を持たぬ年老いたドワーフの元にやってきたちいさな少女が、まず最初に望んだことは……「絵」を見ることじゃった。
そして次に望んだことは、たいそう気に入った写実画家ゴルボロッソと同じ道具を使って、自らの手で絵を描くこと。

わしが与えた油彩画の道具と、わしから学んだ大地の妖精族の言葉を身につけて、レヴィーヤは有り余る元気をふりまきながら、この港町イーンウェンを駆け回った……のじゃ………。
…………。
失礼、も……もっと思い出はたくさんあるんじゃがの、言葉が……出てこん……。

ミガクはごつごつした手のひらで両の目を押さえ、震える声を恥じるかのように俯いた。
レヴィーヤが心配そうにその顔を覗き込み、手を伸ばして、豊かな柔らかいヒゲをそっと撫でた。
■ゾフィー To:ミガク>海竜
感謝いたします、ミガクさん。
あなたのレヴィーヤへの愛情は、わたくしにも十分にいえそれ以上に伝わってまいりましたわ。

そう、「ひと」として生活を始めた少女には、様々な出会いがありました。
最も親しくしていたのは、ひととしての年齢の近かった彼でしょう。

ナギの瞳を覗き込み、怯えがないことを確認したゾフィーは励ますように微笑みかけた。
ナギはそれに応えるかのように、こくんと頷きを返す。
■ゾフィー To:ナギ
ナギさん、あなたがレヴィーヤをどう思っているか。
あなたの言葉で話せますか?

■ナギ To:ゾフィー>海竜
はいっ。

……あの、レヴィーヤちゃんのおとうさんおかあさん。
はじめまして、ぼくは船乗りのむすこの、ナギです。
ぼく、レヴィーヤちゃんにおよめさんになってほしいの。

■ウーサー To:ALL
ストレートに言った〜〜〜ッ!?

■ハノク To:ナギ
なっ、なにぃっ!?

■アーユ To:ハノク
……あなた、黙って聞きましょう。
ナギの気持ち。

わずかに首を傾げ、吟味するかのような――興味深げな、それでいてとても優しい視線で――ナギを見つめた海竜は、先を促すかのように僅かに首を下げた。
■ナギ To:海竜
あの……えっと……
レヴィーヤちゃんはかわいくて、かっこいいから。
ぼく、大好きなの。
レヴィーヤちゃんがお家に帰ったあとも、また、いっしょに絵を描いたり、鬼ごっこしたりしたいです。

決して逸らされることなく見つめてくる小さな瞳を、海竜は静かに受け止め、そして――おそらく予想外の――言葉を噛み締めて考え込むかのように、目を閉じた。
■ゾフィー To:ナギ
ナギさん、よく言いました。
「オトコノオトナ」は、あきらめてはだめですよ。
わたくしはいつでも、応援いたしますから。

■ナギ To:ゾフィー
はいっ!

海竜が目を閉じた隙に、素早くナギの耳にささやきかけたゾフィーは、めずらしくも片目をつむってみせ……次の瞬間、何事もなかったかのように水の頭に向き直っていた。
■ゾフィー To:海竜
彼だけではありません、こちらの者達は皆、彼女を受け入れ、親しく交わり、共に楽しみ……共に生きててまいりました。

リュナ、ロシュ、ヤツメ、ハノクやアーユ、ティガやカイネまで順に見回すゾフィー。
■ゾフィー To:海竜
ここまでが、この地に住まう者の「証言」です。
宣誓を求めずとも、彼らが小さいながらも自らの誇りにかけて語っていることは、ひとりひとりの姿をみていただければおわかりでしょう。

■海竜 To:ゾフィー
(マーマン語)
……彼らの瞳の中に嘘は無い、それは我にも解る……。
言葉を飾っているのではない、魂が語っているということも。

大地に住まう小さき者よ、だがそなたはどうなのだ?
そなただけではない、武器を身に帯びいくさに赴くかのごとくに武装せし者たちよ、そなたたちはどうなのだ?
海よりよく見えた……人々の狂ったような歓声のなか、我が姫の心は高ぶり、闘いの気を纏っていた。
あれは何だったというのだ……?

怒りでもなく、猜疑心でもない――ただ、真実が知りたいと訴えかけてくるような瞳で、冒険者たちを見つめてくる海竜。
あたりの景色は輝くような色彩を帯びはじめ、雲の切れ間から明るい昼間の太陽が顔を出しつつあった。
■ウーサー To:海竜
まあちょいと見てみろや、ドラゴンさんよ。百聞は一見にしかず、千の言葉より一振りの剣ってな。
オレ様はウーサー・ザンバード、ついさっきレヴィーヤの嬢ちゃんと試合したモンだが――ああ、死合いじゃあねぇぞ? 腕試しのほうの試合、だからな?

ウーサーは素早く鎧の胸当てを外し、引きちぎるように服を脱ぐと、その肌を海竜の前にさらけ出した。
鎧や魔法、受け止めた鉄刀でかろうじて有効打とはならなかったものの、それでも身体のあちこちに、赤や青の打撃痕が残っている。
海竜はそれを見定めるかのように、ウーサーの身体にそっと巨大な鼻先を近づけた。
■ウーサー To:海竜
レヴィーヤの嬢ちゃんは、鍛え抜いた重剣士のオレ様に、此処までの打ち込みができるほどの力も技も持ってやがったぜ。
だがな……その打ち込みを出す同じ手で、あの虹を描くことができるようになったんだぜ?
アンタが思わず我に返ったっていう、あの綺麗な虹をな。

ウーサーは、太い親指で虹を指し示した。
■ウーサー To:海竜
この街の連中も、レヴィーヤの嬢ちゃんも、オレ様たちも。それに、アンタも。
大昔に死んだ女房を蘇らせようとして狂っちまった、大昔の男の妄執が書いた筋書きに、踊らされそうになってたんだよ。
嬢ちゃんが見つけた魔法の道具で「ひと」の姿を得て、この街に現れたときから今まで――いや、最初の「ヴィルコ」が生まれたときから、ずっとな。

そいつの筋書きは深くて、周到で……いちどはこの街の人間も、それに騙されちまった。だが、今度はそれを防げた。アンタの目の前にいる「ひと」と、レヴィーヤの嬢ちゃんの力で。
そしてもう二度と、そいつの筋書きの幕は上がらない。

それがオレ様たちにとっての、「事実」だ。

言葉にしようとすると、途端に真実味が薄れていきそうな思いに内心で歯噛みしながら、ウーサーはレヴィーヤを後ろから支えるように、小さな肩にやさしく手をかけた。
レヴィーヤは一緒になって見上げる――自分の身体よりも大きな、目の前まで迫る海竜の顔を。
■ウーサー To:海竜
そしてあの虹と、今のレヴィーヤの嬢ちゃんが、俺の「事実の証明」だ。

なあ、アンタ。楽しかった想いより、虐げられた痛みのほうが多かった子供に、あんなに綺麗な虹が――幻想的じゃあない、写実的な虹が描けると思うか?
人間ひとり、十分にぶっ壊せるような力を持ってるヤツがその力を磨かずに、絵を描くなんて繊細で、メシの種にはならねぇような――狩りでもいくさでもねぇ技を磨き続けられるような暮らしをさせてやるような連中が、態々好き好んでガキ攫ったり殺したりするように思うか?

屈辱と恐怖を刻まれたのと同じ種族の戦士と、こうして隣り合って、憎みあわずに立っていられると思うのかよ?

海竜は首を引き戻し、武装した人々――冒険者たちと、そばに寄り添うようにして立つレヴィーヤを見つめた。
■海竜 To:ウーサー
(マーマン語)
悲しみや憎しみを伴わない、信頼の証としての闘いの気……。
そして、虹……不思議な色をしている、我が行く先には常に雨と波が伴う。
決して見ることはできない橋。
あの虹の美しさを目にしなければ今頃、我は怒りのままに、イーエンの大地を大津波で飲み込んでいたことだろう。

長い首をもたげ、頭上の虹を見上げる。
七色の橋は太陽の光を受け、きらきらと光の粒を地上に撒き散らしながら、地上の出来事を見守っている。まるで絵本の最後のページを彩るかのように。
■リコリス To:海竜
初めまして海の王様、リコはリコリスっていうの。
レヴィーヤちゃんのお友達だよ。

ペコリンと下げる頭に、レヴィーヤとおそろいの空色リボンが揺れた。
その動きを思わず目で追う海竜。
■リコリス To:レヴィーヤ
レヴィちゃん、ぱぱままはこの町でレヴィちゃんがどうやって過ごしたか、幸せだったのか、笑っていられたのか、知りたいと思うの。
教えてあげて。

レヴィーヤの側にしゃがみこんで、促す。
その言葉を、ゾフィーはこれまでどおりドワーフ語に訳して伝えた。
■レヴィーヤ To:リコリス>海竜
(ドワーフ語)
うん!

とうさんかあさん、レヴィーヤは海の上で、いっぱいいっぱい、楽しいことがあった!
ミガクとうさんと、たくさん絵を見て、ナギとリュナとたくさん絵のれんしゅうして、とてもじょうずになった!
ぶどうかいで、ハノクおじちゃんに勝って、リンゴばたけで鬼ごっこして、シンメさまやウズマキさまにも会った!
それから、お兄ちゃんやお姉ちゃんたち、かあさんたちに会って……
それで……
……
おにいちゃんと、さよならした……。
レヴィーヤはみんなだいすき、みんな……。

レヴィーヤは俯きかけた顔をもう一度上げて、モザイクブレスレットを掲げるようにして、ぐっと右の拳を海竜の目の前に突き出した。
■レヴィーヤ To:海竜
(ドワーフ語)
とうさんかあさんもきっとすきになる、大地の上のみんなのこと!
レヴィーヤは、ずっとずっと、なかよくする。
ずっと大地とともだちでいる!

海竜は面食らったかのように数回瞬きをしながら首を引いた。
そして今度は優しく、レヴィーヤに顔を寄せる……今度ははっきりとした微笑みを目元に浮かべながら。
■シグナス To:ALL>海竜
ま、難しい所やややこしくて面倒な出来事も色々とありましたがね。
簡単に言えば……俺達皆、あんたの娘さんの事が大好きになっちまってんだ。
だから後は、あんた達親子の判断に任せるさ。けど津波だけは勘弁なー。

■海竜 To:シグナス&ALL
(マーマン語)
……。
迷子の我が姫は迎えが来る間に、ずいぶんと成長していたのだな。
子は知らぬ間に宝物を見つけ、知らぬ間に大人になってゆく……。

海竜はレヴィーヤの頬に自らの鼻先をすりつけてから、再び毅然とした表情を取り戻し、首をもたげてひとりひとりを、そして雨上がりの港町を見つめた。
■海竜ヴィルコ To:ALL
(マーマン語)
我が名はヴィルコ、太古に生まれし罪深き命。
地上を憎み、怒れる存在としてのみ存在していた我が身には今、我が姫を愛おしいと思う感情しか、湧いてこぬ……。

もし、一度は津波でイーエンの大地を沈めようとした我が身が赦されるのであれば、礼を言わせて欲しい。
我が姫の笑顔と成長は、あなたがたがくれたものだ。

海竜は静かに目を閉じ、皆にはっきりと解る形で大きな頭を丁寧に下げた。
■ウーサー To:海竜ヴィルコ
ん? 人間ってなぁ忘れっぽいからよ。津波のことなんざぁ、もう覚えてもいねぇさ。
覚えてたって、人間は誤解しやすいからな。おおかた「海竜様が津波を鎮めてくれた」って思ってるだろうぜ。
だからアンタの感謝は……この街の連中全員、ちゃんと受け取ってくれるはずだ。ありがとうよ。

■リコリス To:海竜
あのね、人の間では、恐ろしい津波をもたらすヴィルコと、今の海の王様のような、人よりも賢い海竜とは別に伝えられているの。
海やその近辺に住むものたちを統べる存在で、「海竜」「ワダツイ」と呼ばれていたと。
昔の人もわかってたんだよ、王様が恐ろしいだけじゃなくって畏怖と畏敬の念に値する方だって。
もちろん、これからも。
だって、リコたちがそう、伝えていくから。

オラン出発前日の夜に、うとうとしながらもルピナスお兄さんに詰め込まれた知識を思い出しながら伝える。
■ゾフィー To:海竜ヴィルコ>ヴィルコ&イーンウェンの人々
大きな垣根を軽々と越えていくのは、若い世代の特権ですかしらね。
ともあれ、無事に「姫」と巡り会え、本当によろしゅうございましたわ。
あなたのご存じだった頃とは、地上も大きく変わったのですよ。
この場所も今ではイーエンではなくイーンウェンと呼ばれております。

拠り立つところが大地であれ海であれ、共に生き、語り、時には助け合うことも必要でございましょう。
皆、イーンウェンに縁もつ者達なのですから。
無知や誤解が悲劇を招かないようにするためにも……。
できることなら、皆でその道を進んでいきたいと、そう願いますわ。

■海竜ヴィルコ To:ウーサー&リコリス&ゾフィー&ALL
(マーマン語)
……ありがとう。
我らが住まう広大な海は、イーエン……いや、イーンウェンの大地をうるおし、豊かな循環と活力をもたらし、共に命を育んでいくために存在していくだろう。
若い命を鍛え育て、そしてまた永く生きた命が終わるその時に、新しく生まれる命の産屋を建てるかのごとくに……。

■ライチ To:海竜ヴィルコ&ALL
ねぇ海竜さま、大切なことはみんな、海に教えてもらったし、これからもそうさせてもらうよ?
あの虹みたいにさ、こころの架け橋があると思ってる……私たちと海との間にはね。
ぼやけてよく見えないのが悔しいけど、ね。あははっ。

■リュナ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
……レヴィーヤ、せっかくドワーフ語覚えたし。
とうさんかあさんに教えてあげるといい。
それとも、レヴィーヤが海の言葉、覚える?

そっと尋ねかけるリュナの言葉に、レヴィーヤは得意げにぶんぶんと首を振った。
■レヴィーヤ To:リュナ
(ドワーフ語)
レヴィーヤは、ずっと、ミガクとうさんのことばがいい♪

■海竜ヴィルコ To:レヴィーヤ&ALL
(マーマン語)
……誰に似たのだ? この頑固ぶりは……。

海竜は、まだ目を潤ませたままの年老いたドワーフに向かってもう一度頭を下げると、穏やかな表情で愛姫に向き直った。
■海竜ヴィルコ To:レヴィーヤ
(マーマン語)
さあ、姫。我がふところへ。
これ以上雨の無いところで、立っているのは難しい。
帰るのだ、我らが住まうべきところへ。

レヴィーヤは一歩、海竜の懐へと歩み出て、皆のほうを振り返った。
気のせいか、その足元は震えている──おそらく海竜の言う通り、照りつけるまぶしい太陽の光に、身体が耐えきれなくなっているのだろう。
■レヴィーヤ To:ALL
(ドワーフ語)
みんな、レヴィーヤはとてもとても、たのしかった!
また、きっとあそびにくる! ……雨といっしょに!

■ウーサー To:レヴィーヤ
莫迦。友達なんてなぁ、遠慮して遊びに来るモンじゃねえだろ?
好きなときに来やがれ……次からは、とうさんかあさんが心配しねぇように、門限は決めとけよな!

■レヴィーヤ To:ウーサー
(ドワーフ語)
うん! レヴィーヤは、「おやこうこう」しに帰る。
もう、とうさんかあさん、心配させたりしない!

■リコリス To:レヴィーヤ
また、遊ぼうねっ。
今度はとうさんかあさんの色のようなリボン、用意しとくから♪

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
うん、ありがと、リコ!
レヴィーヤひとりでも、しっぽできるようにがんばる!

■ゾフィー To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
あなたには、いつの日か「山」を見せたいわ。
モザイクにも似たきらめきを覗かせる鉱脈、伸ばした卵のような柱が並ぶ鍾乳石。
澄んだ水を大地の底がみえるかのような深い裂け目にたたえた地底湖……。
地上にも雨季はあります……あなたに「旅」が出来るようになったら……ええ、いつかきっと……。
黒曜石の門は、波の娘レヴィーヤには、いつでも開かれることでしょう。

■レヴィーヤ To:ゾフィー
(ドワーフ語)
……や…ま? やま?! それはうつくしくて、おおきいのか!?
わぁ……レヴィーヤ、見たい、やまを見たい!
レヴィーヤはきっと「たび」をする、かあさんとの、やくそく!

レヴィーヤは海水に引き寄せられるかのように、しかし同時に後ろ髪を引かれるような表情で──少しずつ海竜のほうへと身を寄せながら、叫ぶ。
■ゾフィー To:ナギ
ほら、ここであなたが前に出ませんと……通訳はいたしませんから、ご安心あそばせ。

■ナギ To:ゾフィー
……う、うんっ。

ナギはゾフィーに促されるままに一歩、前へ踏み出し、波止場と海との境目に立ちすくむレヴィーヤの目の前に歩み寄った。
■ナギ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
レヴィーヤちゃん、ぼく、まってる。
……また、あそぼうね。
あのね、ぼく……。

ナギは耳の先まで赤くなりながら、思い切りよくレヴィーヤの右手をとった。
■ナギ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
ぼくね、レヴィーヤちゃんのことがすき。

■レヴィーヤ To:ナギ
(ドワーフ語)
ナギ! ……レヴィーヤも、ナギのことがだいすきだ!

青と緑に輝くポニーテールがたなびいたかと思うと、レヴィーヤの顔がナギの横顔に重なった。
頬にわずかに触れただけの、優しい一瞬のキスが離された時には、もうレヴィーヤは身体を風のようにひるがえし、海竜の背中へと駆け上がっていた。
■海竜ヴィルコ To:ALL
(マーマン語)
これ以上は、別れが辛くなろう。
行こう、海の向こうへ。我が姫が再びイーンウェンを訪れるその日まで、皆、達者で。

海竜は頭の上にレヴィーヤを乗せて、大きく首をもたげて一声鳴いた。
その声に促されるかのように、海の生き物たちは身体を反転させ、穏やかな海の水平線の彼方へと戻って行く。
■レヴィーヤ To:ALL
(ドワーフ語)
ばいばい、だいすきなみんな、きっと、きっと、またね!!

目元を必死に拭いながら、全員に向かって大きく手を振るレヴィーヤ。
海の色を身にまとったその小さな姿は、せり上がる滝のように上空へと伸び上がる海竜と共に、どんどん小さく、遠くなってゆく。
海に住む生き物たちは波を越え、青と緑の色彩の向こう──太陽の光を受けて光り輝く海の水平線の向こうへと溶け入り、やがて見えなくなっていった。
白く輝く雲を浮かべた、眩しいほどの青空。
雨がやんだ港町イーンウェンは、美しい虹をいつまでもその空に掲げながら、静かに目の前に広がる海を見つめていた。


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GM:ともまり