灯りを消す前に
長かった一日を終え、それぞれの部屋へと戻って行った冒険者たち。
というライチの誘いのままに、ふたりは宿のお風呂を占領。
ちょっぴりからかってみたくなったのか、リコリスのほっぺをつんと突っつきながら悪戯っぽく笑ってみせる。
ぷぅっとほっぺを膨らませる。
良い香りのする湯船に浸かり、すっかり心も身体も暖まったふたりは、ほっこりした状態で個室に戻ってきていた。
清潔に整えられたベッドに身体を投げ出しながらも、すぐに身を起こして言う。
すでにぐっすり寝ているパティを起こさないように気をつけながらベットに座ったリコリスは、ライチの声にあわせて立ち上がった。 給仕娘はもう休んでいるのだろう、カウンターで最後の後片付けをしていたスキンヘッド主人からホットミルクをもらったふたりは、再び部屋に入ってそれぞれのベッドに座った。
リコリスは枕を不安そうにぎゅっと抱きしめ、何かを恐れるように小さな体をさらに縮こまらせた。
ライチはホットミルクのカップをサイドボードに置くと、身体を半身避けながら寝転がり、ぽんぽんとベッドの空いたスペースを叩いた。
枕を持ったまま、ライチのベットに入り込む。
ライチにぎゅーとしがみつき、ぽつりと話し出す。
ライチはリコリスの恐れを、自身のぬくもりで包み込もうとするかのように、片手を彼女の背中にしっかりと回し、もう片方の手でゆっくりと頭を撫で続ける。
リコリスは自分のベットの枕元においた緑色の小瓶を見つめた。
リコリスはライチに渡した白いハンカチを大切そうに、だが、とても切なそうに見つめた。
ライチは黙って、ゆっくりと優しい相づちを打ちながら、リコリスの話を聞いていた。
ライチはもう一度、リコリスの瞳を優しく見つめ返したあと、細い身体をぎゅっと抱きしめた。
そう言って微笑み、リコリスのおでこに軽くキスをした。
戸惑ったような表情を浮かべた後、嬉しそうに笑った。
深刻な調子ではなく、軽い雑談をするような調子で、ライチは話を続ける。
何となく照れたように微笑んで、リコリスのおでこに自分のおでこをくっつけた。
リコリスは嬉しそうに、再びライチのぎゅーと抱きついた。
ライチもリコリスの身体をきつく抱きしめ……そして顔が見えるくらいまでそっと離すと、にっこりと笑った。
最後は少しだけ照れたのか、くすっと悪戯っぽい笑みをこぼしたライチ。
リコリスはそっと胸の聖印に触れた。
ふと一瞬考え込むような表情になったあと、こくりと頷いて口を開く。
声が段々と重くなり、まぶたも閉じている時間が長くなってくる。
ライチは手を伸ばしてランタンを消し、優しい穏やかな暗闇に包まれた部屋で、リコリスが眠るまでゆっくりと背中を撫で続けた。
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