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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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娘を待つ者



  イーンウェン・モザイクガーデン

「白波通り」で仲間たちと別れたゾフィーは、すでに慣れた足取りで「月影通り」へと入って行った。
足元は相変わらずぬかるんでいたが、雨が弱まってきたせいか、水たまりが今以上大きくなることはなさそうだ。
■ミガク To:ゾフィー
……。
ぬぉっ!?
ぞ、ゾフィーさん。あの手紙はあなたが──レヴィーヤは……?

モザイクガーデンの入口の前に、ぎりぎり雨を避けられる位置で立ち尽くし、誰かの人影を待ち続けるかのように通りを見つめていたミガク。
曲がりくねった塀の影からゾフィーの姿を見て取ると、パシャパシャと足音を立てて駆け寄り、早口で問いかけてきた。
■ゾフィー To:ミガク
ああ、かえってご心配をかけさせてしまいましたかしら。
レヴィーヤ…さんは無事です、今、海鳥と潮騒亭におりますわ。
ライチさんが……怪我をしましたので、見舞いたいと。
いえ、ライチさんも仲間が手当に参りましたので大丈夫なはずです。
手当が済みしだい、仲間がレヴィーヤさんを連れ、こちらに伺うことになっております。

■ミガク To:ゾフィー
そ、そうじゃったか……。いや、あらぬ想像を、意味も無く巡らせてしもうて……ああ、これは失礼、とりあえずこちらに入って雨を避けてくだされ。

ミガクは明らかに安堵の表情を浮かべ、ごつごつした手のひらで自らの額を撫で付けると、慌ただしく入口のドアを開けて中へ促した。
会釈で応じたゾフィーは、今日何度目になるのか、また扉をくぐり、なじみの椅子に腰をおちつける。
■ゾフィー To:ミガク
ナギさんも無事に家に帰りました。
ご連絡をお願いしましたことで、ご迷惑がかからなければよろしいのですが。

■ミガク To:ゾフィー
いやいや、お安い御用じゃよ……今時分はナギの母御のほうは学校じゃからの、……いや……というか、ハノクさんが帰ってきておる間はナギくんはそちらの家に帰るはずじゃから、取り急ぎ伝えたのは、そちらだけなんじゃがの……。
ゾフィーさんら船の護衛の方たちと一緒であろうことを申し添えたら、安心しておったよ。それよりも、またスケッチに夢中になって遅くなっているんだろうと、眉間にしわを寄せておったわい。

苦笑を浮かべながらため息をつき、頭を掻くミガク。
いつもの饒舌に乗せて、不安を吐き出そうとしているかのようにも見えた。
■ミガク To:ゾフィー
……。
……聞いて良いものかどうかわからんのじゃが……「きなくさいこと」が起こったのですかな……? レヴィーヤや、ナギくんのいるところで……。

■ゾフィー To:ミガク
ええ、この地に封印されていた魔物が姿を現しました。
相手がデーモンであったために、子ども達の前で直接的手段を取らざるを得なくなってしまいまして……。
……差し当たって、直なる脅威は無くなったと思います。
祭り当日に向けて、迂遠な仕掛けが残っている可能性がありますので、無事に終わるまで気を抜くわけにはまいりませんが。
レヴィーヤさんは逞しくも「きれいなめをしたおにいちゃん」が、「うそをついていた」現実に耐えてくださいました。
ですが、先にお願いしたとおり、今夜彼女にはあなたが必要でしょう。
やっかいな役回りばかりお願いしてしまって申し訳ありませんが、戻りましたらあたたかく迎えてやってくださいませな。

■ミガク To:ゾフィー
……あの、かわいいと言っていたカエルが……と、いうことですな……?
なんと……。
レヴィーヤは、それはそれは、嬉しげにあの絵をわしに見せてくれた。
信じていた者からの裏切りを経験するには、まだ幼すぎるというのに……。

やりきれなさを滲ませた口調で、手元の工具を握りしめ、テーブルを軽く叩いた。
そして、しばらくの間のあとに、再び口を開く。
■ミガク To:ゾフィー
レヴィーヤを守ってくださったんですな。本当にありがとう。
あの子がわしに何も言わなければ、わしからは何も言いますまい。
……あの子がわしに何かを言ってくれるなら、すべてを受け止めましょう……夜が明けるまで喋り続けるなら、そのすべてを聞きましょう。
眠いと言うなら、あの子が寝付くまで、ヘタクソなわしの子守唄で……ああいや、その前に夕飯ですかな? うむ、すぐにでも温め直す準備をしておかなければ!

すっくと立ち上がると、反動で椅子が後ろに転がった。
■ミガク To:ゾフィー
ああいや、これは失礼を……どうにも落ちつきませんな、やはり外で待っていることにするかのぅ?

ミガクに合わせるように立ち上がり、転がった椅子に手を伸ばしたゾフィーは口角を上げ、ちいさく頷きながらミガクをみた。
■ゾフィー To:ミガク
あなたが、それで満足なさいますなら。

わたくしは、これから潮騒亭に戻ります。
娘さんの戻りがさほど遅くなるとは思いませんが、ミガクさん、ご自身もお風邪を召されませんように。

■ミガク To:ゾフィー
おおっと、確かに。出迎える側が鼻水垂らし放題では、絵になりませんからな!

……ゾフィーさん、様々なお気遣いを心から感謝いたしますぞ。
わしひとりだけであったなら、このような事態、とても冷静には受け止められなかったと思っとります……。
その……

ミガクはふと視線をそらし、頭をぽりぽりと掻きながら数秒黙り込んだ。
そして、ためらいを瞳に宿したまま、ささやくように問いかけてくる。
■ミガク To:ゾフィー
……ベルダインにいた頃も、この町でも、あなたのような冒険者を、わしは見たことがありません……。
ゾフィーさん、あなたのように経験も知識も豊富で、わしと同じくらいに長い時を生きてなさる方が、なぜ冒険者に……?

問いかけに不意を突かれたのか、ゾフィーの両目が大きく見開かれた。
それ以上の動きを制するかのように、ミガクに対して片手をあげた彼女は、そのまま眉間にしわをよせて沈黙する。
■ミガク To:ゾフィー
あ、いや……こ、これは失礼を……

■ゾフィー To:ミガク
いいえ、恐縮なさらないでくださいませな。
むしろ感謝しておりますの。
わたくしはいつの間にか、自分が冒険者の一員であると言うことを己の内で受け入れていたようですわ。

小さなため息とともに手を下したゾフィーは、その手を懐中に差し入れ、昼の訪問時購入した小さな箱を取り出した。
■ゾフィー To:ミガク
直接的なきっかけとなると長い話になるのですが、お知りになりたいのは、そういうことではございませんでしょう?

そうですわね、わたくしにとって「冒険」とは……
……あなたにとっての「海」のようなものですと申し上げたら、ご理解いただけますかしら。

小箱の表面に組み上げられた、夜明け直前の海……静寂の中に朝への希望を宿した深みのある紫の濃淡にそっと指を這わせるゾフィー。掌中にあるモザイクを映したかのような菫色の瞳が、銀色のまつ毛の下からそっとミガクを見つめていた。
■ミガク To:ゾフィー
……明けない夜は無い…とは、誰の言葉でしたかな。
あなたの物語が……いや、これからの「冒険」が良いものであることを、このちっぽけな庭から祈らせていただきますぞ。
ああいや、これではまるで別れの挨拶みたいですな?
ではお気をつけて、ゾフィーさん。明日の武道会は楽しみましょう、お互いに!

後半は照れたかのように早口でまくしたてると、ゾフィーを入口まで送り、そのままドアの前に佇んだまま──静かにゾフィーに一礼を送った。
それを受けて、ゾフィーは膝を曲げてやわらかな礼を返す。
■ゾフィー To:ミガク
ありがとうございます。
「夜の一番暗いときは、夜明けの直前」とも申しますわね。
明日をもたらす夜明けが、あなたにもレヴィーヤ、にも、未来を拓く道しるべとなりますよう、ブラキ神に祈らせていただきますわ。
それでは、武道会場でお会いいたしましょう。

まるで少女に帰ったようにようにはにかみながら小さく手を振ってみせたゾフィーは、くるりと向きを変え「モザイクガーデン」を後にした。
さすがに町の灯も人通りもまばらになりつつある「白波通り」を歩き、通り沿いの公園へと立ち寄る。
公園の様子は、昼間とはほとんど変わらない。
武道会の会場となるであろう中央の大きなテントは、雨にしとしとと打たれながら、四角いステージを支柱の内側に抱いて、明日の町民たちの歓声を待ち続けていた。
■ゾフィー To:
なるほど、この高さがあれば確かによく見えそうですわね。
客席からも……海からも……。

行列ができていたところに置かれていた参加者募集の看板は無くなっており、かわりに、燃え上がる炎をモチーフにした完成度の高い看板にすりかわっていた。
■ゾフィー To:
この看板……げーじゅつ家の心を引き留める町であることは確かなようね。
あとは、いざというとき、いかに早く海岸に出られるか、かしら?

あたりをざっと見回し、異常が無さそうなことを確かめたのち、海に出るための最短ルート──「白波通り」からまっすぐ海へとのびる道はいくつもあり、裏道ほど人通りはなく混雑しないことだろう──を確認したゾフィーは、再び宿へ戻る道を歩き出した。


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GM:ともまり