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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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黄昏の潮騒



  イーンウェン・海鳥と潮騒亭

リコリスは、相変わらずの雨のなかをほとんど小走りに近い形で歩いていた。
隣には、落ち着きを取り戻したレヴィーヤもいる。
■給仕の女の子 To:ALL
あっ、おかえりなさ〜い♪
うわぁ、ずいぶんずぶ濡れで……ずっと外に居たんですか〜?
あ、タオルはお部屋に準備してありますから!

もうすでに夕餉の時刻。店内は他の宿泊客や食事目当てのお客さんで賑わっていた。
喧噪のなかを給仕の女の子が駆け寄ってきて、笑顔で出迎えてくれる。
■リコリス To:給仕の女の子
ありがと〜♪

■スキンヘッドの主人 To:ALL
…………静かに寝ている。

忙しげに手元を動かし続けるカウンターの主人が、目線だけで2階を指し示した。
おそらく何度か様子を見に行ってくれていたのだろう。
■リコリス To:店主
ありがと、おじさん♪

2階のリコリスとライチの相部屋のドアを開けると、薄暗い部屋にライチがひとりでベッドに横たわっていた。
相変わらず虚空を見つめたまま、浅い呼吸だけを繰り返している──ドアが開いた気配にも、反応すら示さない。
■ライチ
……。

■レヴィーヤ To:ライチ
(ドワーフ語)
……ライチ。

レヴィーヤはベッドの側に座り込み、心配そうにその顔を見つめた。
■リコリス To:ライチ
ライさん、お待たせ。

リコリスは大切に抱えてきた虹色の「こころ」をライチの上に差し出し、祈るように呟いた。
■リコリス To:「こころ」
(下位古代語)
ハプルマフル、ライさんのところに、元の身体に戻って!

その言葉に反応したのか、それとも宿主である身体に反応したのか。
「こころ」は大きく頷くかのようにぷるぷるっと震え、ひゅっとライチの胸元に飛び込む。
そしてそのまま、溶け入るようにして彼女の身体のなかに吸い込まれていった。
■ライチ To:リコリス
う……う…ん……
……。
…………? リコ……?

ライチの碧い瞳に、明るい感情の光が蘇ってくる。
数回不思議そうに瞬きしたあと、目の前のリコリスの顔をじっと見つめ、確かめるかのようにその名を呼んだ。
いつもの、あの「どこを見ているのかわからない」視線で。
■ライチ To:リコリス&レヴィーヤ
それに、レヴィーヤも……ここは?
……えっと……私たちの部屋、だよね……?
どうしてここに……いや、それよりも、あの時私は気を失って……

■レヴィーヤ To:ライチ
(ドワーフ語)
LITCHI! SOY LASE!!

ライチは上体を起こしながら、嬉しそうにはしゃぐレヴィーヤに手を伸ばしそっと頭を撫でたが、現実感がわかないのか表情は困惑気味だ。
■ライチ To:レヴィーヤ>リコリス
(ドワーフ語)
KADIES...GUDE SOY.
……。
(共通語)
! リコ、まさか怪我してるの!?

リコリスの消耗した様子に気付き、慌ててその頬に手を添えて食い入るように見つめた。
■リコリス To:ライチ
……ら、ライさん……ほんもののライさんだ……。

リコリスは今まで我慢してきた分が一気にあふれ出したかのように、ほとほとと泣き出した。
■リコリス To:ラーダ様
(神聖語)
ラーダさま、ありがとうございます。

リコリスはそっと、聖印に手を添えて感謝の祈りを捧げた。
■ライチ To:リコリス
リコ……。
いっぱい、心配かけちゃったみたいだね……。ごめん。

■リコリス To:ライチ
ううん……いいの……。
リコこそ、ごめんね…。ライさんを守るっていったのに、悪魔の魔法に抵抗できなかった……。

ライチは首を横に振りながら、頬に添えていた手を後ろまで回すと、リコリスの小さな身体を抱きしめた。
そして涙が止まるまで、ゆっくりと背中を撫で続ける。
まるであの時受けたぬくもりの感謝を、リコリスに捧げるかのように。
■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
LYCO, ...YOE IE RASUDERY? GISTY?...

■ライチ To:リコリス>レヴィーヤ
リコ……レヴィーヤが心配してるよ。
リコは悲しいの? 痛いの? って。
大丈夫って言っておくね。

(ドワーフ語)レヴィーヤ、なみだはうれしかったり、ほっとしてもでるんだよ。

優しくそう言って聞かせると、リコリスの涙が落ちついた頃にそっと身体を離し、改めて手のひらをリコリスの胸元にかざした。
■ライチ To:生命の精霊
(精霊語)
聖女に宿りし生命の精霊よ、今ひとたびの活力を

リコリスの身体に残されていた痛みが、すべて消え去った。
そしてライチはようやく、ほっとしたように微笑みかける。
■リコリス To:ライチ>レヴィーヤ
ありがとう。
心配させてごめんね、もう大丈夫だよ。

リコリスはハンカチで涙をふき取ると、レヴィーヤにやさしく微笑みかけた。
■ライチ To:リコリス
……ごめんね、リコ。守るって誓ったのに……逆に助けられてばかりだね。
リコが無事でよかった……本当に。
けど、あのあと……どうなったの? 私は魔法陣の中に踏み込んだあと、何か言葉をかけられて……身体が切り裂かれるような感覚を覚えて。
今、ここにいるってことは……誰かがあの悪魔を倒して……?

■リコリス To:ライチ
ううん、ライさんは守ってくれたよ。
リコ、ちゃんと仲間の元に戻れたし。
詳しくはあとで話すけど、簡単にいうとね。
あの後、ライさんは「こころ」を取られて魂抜けたようになっちゃって……。
ウーさんとシグ先輩が来てくれたからここまで運んでもらったの。
そのあと、みんなで集まって、レヴィーヤたちとも合流して。
ハプルマフルっていう画廊にいた悪魔に追いついて戦いになったの。
ただその…リコ、悪魔の酸の雲の魔法で倒れちゃって、気がついたらレヴィちゃんが悪魔のローブだけを持ってて。
ウーさんが倒してくれたみたい。
それで、ライさんの「こころ」が出てきたから今、ここに戻しにきたところなの。

リコリスは部屋に用意してあったタオルでレヴィーヤの頭をやさしく拭きながらライチに説明する。
気絶していた間のことは判らないので、困ったような顔をしながら。
レヴィーヤはやさしいタオルの感触に、思わずとろんと目元を緩めていた。
■ライチ To:リコリス
……。
そうか……倒されたんだ。……。

ライチは目を伏せ、ほんの少しの間黙り込んだ。
■リコリス To:ライチ
ただ、まだわからないこととかあるから、レヴィちゃんに聞きたいことがあるの。
通訳してくれる?

■ライチ To:リコリス
うん、わかった。

リコリスはレヴィーヤの横にしゃがみこんで目線を合わせながら話しはじめた。
■リコリス To:レヴィーヤ
リコね、レヴィーヤちゃんに謝らないといけないことがあるの。
これ、とってもステキな絵だったから、黙って持ってきちゃったの。
ごめんなさい。

リコリスはふところに仕舞っていた、レヴィーヤの描いた絵を取り出して、丁寧に頭を下げた。
■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
あ! ……レィシィちゃんとタコちゃん。

■リコリス To:レヴィーヤ
それで、もしよかったらなんだけど。
オランっていう街の孤児院―んと、パパママが居ない子達が集まって暮らしているお家―の子がね、絵を描くことが好きなの。
その子たちに、この絵みせて上げたいんだけど、もっていってもいい?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
とうさんかあさん、いないこたち?
レヴィーヤとおんなじ? ……
うん、いいよ。レヴィーヤ、もうみなくても、おんなじのかける!

■リコリス To:レヴィーヤ
ありがとう。みんな喜ぶよ♪

■リコリス To:レヴィーヤ
「本物」になった絵って、ここにあるタコと白銀のお姉さんの他にどんなのがあったか教えてくれる?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
おっきなサメちゃんと、へびちゃんと、トビウオちゃんと、頭の赤いトリさんと、あと……んと、ヒトデちゃんもかいた!
からだ、まっくろなひととか、ふねとか、コウモリちゃんとか。
いっぱい、いっぱいかいたから、ぜんぶおぼえてない……。

■リコリス To:レヴィーヤ
そっか〜。いっぱい描いたんだね〜。
「魔法の絵筆」でイザナクお兄さんのことは描いたことある?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
ううん。
おにいちゃんのことはひみつだから、かかないでって。

■リコリス To:レヴィーヤ
そうなの。
黒いカエルさんの絵は?
あれは「魔法の絵筆」で描いたの?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
まっくろカエルちゃんは、木炭でかいた!

■リコリス To:レヴィーヤ
そっか〜。木炭。黒い色が綺麗にでそうだね〜。
そういえば「とうさんかあさん」の絵はレヴィーヤちゃんがもってるの?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
ううん……レヴィーヤが描いた「りある」な絵、ぜんぶイチョウ林の下にあつめてある……。
おにいちゃんにぜんぶ、渡した。

■ライチ To:リコリス
(共通語のみ)
……レヴィーヤが描いた魔物と、“ヴィルコ”がまだ海に残ってるのか……。
雨はまだ止む気配はないし……“ヴィルコ”が近づいてきている証拠なのかな。
それとも、レヴィーヤ自身の……。
ねぇリコ、すでに「魔法の絵筆」で描いてしまって本物になったものを、元に戻す方法はないの?

■リコリス To:ライチ>レヴィーヤ
ん〜、リコにはよくわかんない。
ねぇ、レヴィーヤちゃん。絵から出てきたお友達に、また絵に戻ってもらう方法って知ってる?

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
ううん、知らない……。
……。

レヴィーヤはふと黙り込んで、リコリスとライチを交互に見た。
■レヴィーヤ To:リコリス&ライチ
(ドワーフ語)
えのぐでできたとうさんかあさんも、おともだちも……消しちゃうのかわいそう。

レヴィーヤ、あした、海にかえる。
あした、ぶどうかいでかつやくしたら、とうさんかあさんと、海のおともだち、レヴィーヤのことむかえに来てくれるから、いっしょにかえる。
わるいことさせない、ぜったい。
レヴィーヤが元気なら、とうさんかあさん、怒ったりしないもん。

■リコリス To:レヴィーヤ
うん、そうだね。頼んだよ、レヴィーヤちゃん。

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
うん!!

■リコリス To:ライチ
……でも、説得が上手くいかなかったときのことも考えておいたほうがいいよね?
この町って神殿とか礼拝堂とかある?
できればラーダ様系の。

■ライチ To:リコリス
すごく古くて小さい礼拝堂ならあるよ。
学校に併設されてるんだ。
この時間だと、夜勤のひとしかいないだろうけど……行く?

■リコリス To:ライチ
うん、いってくる。
少しでも、レヴィーヤちゃんが悲しまずに済む方法探したいから。

■ライチ To:リコリス
じゃあ、私も付き合うよ。案内しないと、リコ、迷っちゃいそうだしね?

オランで聞いた「いぬねこマップ」を思い出して、くすっと笑った。
■リコリス To:ライチ
ありがと〜。助かるよ〜。
実は今住んでるおにいちゃん家も、学院経由じゃないと帰れないんだよね……。

■ライチ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
そうだ、……武道会って、海竜祭の?
レヴィーヤ、あれに出るつもりだったの?

■レヴィーヤ To:リコリス&ライチ
(ドワーフ語)
うん。レヴィーヤはおにいちゃんと出るやくそく、してた。
まえにゆーしょーしたから、「げすと」だって。
でも、ひとりでもだいじょうぶ。

■ライチ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
去年優勝!? 私が居ない間にそんなことが……そっか。
ねぇレヴィーヤ、かわりに私がいっしょに出ようか?
ひとりじゃ寂しいでしょ?

■レヴィーヤ To:ライチ
(ドワーフ語)
ほんと!? レヴィーヤ、うれしい!!

レヴィーヤは目を輝かせて、ベッドの上のライチに飛びついた。
■リコリス To:レヴィーヤ
よかったね、レヴィーヤちゃん。
でも、怪我しないように気をつけてね。

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
だいじょうぶ! すんどめ!

■ライチ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
寸止めルールか〜。
むしろレヴィーヤが相手をポカッてしないように、気をつけなきゃね?

優しい笑みを浮かべながら、レヴィーヤの頭を撫でた。
■リコリス To:ライチ&レヴィーヤ
なんかいいなぁ〜。リコも一緒に行きたいけど…ダメなんだよね……。
いや、でもねこになれば………。

リコリスは何か考えている。
■ライチ To:リコリス
ん?
リコも応援しに来てよ、観客席はけっこう余裕あるみたいだから、ね♪

ねこ云々は聞こえなかったらしい……。
■リコリス To:ライチ&レヴィーヤ
うん。
そういえば、ライさんとレヴィーヤちゃん、ねこは好き?

■ライチ To:リコリス
ん? 好きだよ〜。ふわふわもこもこしてるものって、かわいいよね♪

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
レヴィーヤも、ねこちゃんすき! リュナのスクワイヤ、だいすき♪
にくきゅう、かわいい〜。

■リコリス To:ライチ&レヴィーヤ
よかった〜。もしかしたらリコのお友達の白銀猫が来るかもしれないから、可愛がってあげてね。

■リコリス To:ライチ
そういえば、ライさん、あの腰につけてた「剣」って誰から貰ったの?
謂れとかって何か知ってる?

■ライチ To:リコリス
ん? あの剣は「カリエンテ」と言って、常に魔法の炎を帯びてる魔剣なんだ。
そのおかげで私みたいに非力でも、そこそこの威力を発揮できるの。
父が残してくれたもので……父は私が……死んだ時、一緒に海に投げ出されて、それきり見つからなかったんだけどね。
カッコいい船乗りだったんだよ?

リコリスを心配させまいとしているのか、ことさらに明るい様子で語るライチ。
剣の能力については、それ以上の事は知らない様子だった。
■リコリス To:ライチ
そうだったんだ……。
ライさんのお父さんってどんな人だったの?
エルフさん?

■ライチ To:リコリス
うん。銀色の髪でね、エルフのくせにまっくろに日焼けしてて。
「カリエンテ」を抜く事はほとんど無くて、いつも闇の精霊で興奮したサメやくじらを追い払ってた。無駄な殺生を嫌ってたんだよね。
何より、心から海を愛してたひとだったよ。幼心にもそれは背中を見て、感じてた。
なんたって、女の私を、船乗りに育てようって思うくらいだからね?

軽く笑いながら、遠い記憶を懐かしむような表情を浮かべた。
■リコリス To:ライチ
ステキなお父さんだったんだね〜。なんかうらやましいなぁ。
リコはパパもママも知らないから、どんな人かもわからないままだし。

■ライチ To:リコリス
……。
リコは愛されて育って、今も……いろんな人から愛されてる。
私には、そう見えるよ。

■リコリス To:ライチ
うんっ、おじいちゃんとおばあちゃん、とってもやさしかったよ。
今はおにいちゃんが3人いるし。
ただ……どのおにいちゃんが本物かわからないから、本当の両親が誰なのかわからないままなんだよね……。

板窓越しに聞こえてくる雨の音がやさしくなる。
レヴィーヤは眠たげに目をこすった。
■リコリス To:レヴィーヤ
そろそろお家帰る?
ミガクさん心配してるだろうし。
リコ、送ってくよ。

■ライチ To:リコリス>レヴィーヤ
私も行くよ。帰り道リコひとりじゃ、危ないし……レヴィーヤが明日帰っちゃうなら、もう少し一緒にいたいしね。

(ドワーフ語)
レヴィーヤ、行こう?

■レヴィーヤ To:リコリス&ライチ
(ドワーフ語)
うん!

レヴィーヤはリコリスとライチの手を握って、にっこり笑った。
■リコリス To:ライチ
ライさん、ありがと。
でも、外に行くなら…その…着替えたほうがいいかも。

無数の裂け目があるライチの服を気遣わしげにみた。
■ライチ To:リコリス
あ……あはは、忘れてた。
も〜、お気に入りだったのに、これ……。
ちょっと待っててね。

ライチはベッドから降りて、自分の荷物をまさぐると、てきぱきと着替え始めた。とはいえ皮鎧は脱がず、似たような黒い服に着替えたので、あまり見た目は変わらない。
■リコリス To:レヴィーヤ
レヴィーヤちゃん、ライさんが着替えるまでちょっとリコと待っててくれる?
あ、髪の毛結いなおしてあげる。

リコリスは鏡と櫛を取り出してレヴィーヤに見せた。
■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
うん♪ しっぽ、しっぽ〜♪

とてもご機嫌な声で歌うたびに、板窓を叩く雨の音がリズミカルに響いた。
■リコリス To:レヴィーヤ
いいよ、シンメさまとおそろいだよね〜♪

リコリスは櫛でレヴィーヤの髪を梳かして整えると、高めの位置でポニーテールに結い上げた。
そして、先ほどつけていたリボンを結いなおす。
■リコリス To:レヴィーヤ
はい、お待たせ。可愛く出来たよ。

■レヴィーヤ To:リコリス
(ドワーフ語)
リコ、ありがと!!

■ライチ To:レヴィーヤ
(ドワーフ語)
よかったね、レヴィーヤ♪
私もたまには、髪型変えてみようかな? さ、遅くなる前にそろそろ行こうか?

身支度を整えながら、冗談まじりでそう言った。
■リコリス To:レヴィーヤ&ライチ>パティ
そうだね、行こっ。
パティはお留守番ね。にんじん食べててね。



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GM:ともまり