静謐なアトリエ
剣と剣が打ち合わされる音が止み、あたりは再び雨音だけが支配していく。
風にあおられた雨粒が、赤い飛沫がこびりついた壁や、イザナク──そして、少女の絵画をも濡らしていた。
レヴィーヤはまるで脱力するかのようにウーサーの盾を取り落とすと、震える足取りで一歩ずつ、イザナクに近づく。
■レヴィーヤ To:イザナク>ALL
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(ドワーフ語)
……おにい……ちゃん。
もう、だいじょうぶか? もう、わるいまほうつかいのおしごと、おわったか?
……これで……おうちに……かえれ…る……?……
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海の色を映したような両の瞳に涙を滲ませ、喉を詰まらせながらそうつぶやくと、イザナクのそばに座り込んで、返り血がこびりついた銀色の髪をよしよしと撫でた。
■ウーサー To:レヴィーヤ
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いや……まだ、だ。気を失わせただけだからな。
「こっちの世界」での命を――終わらせる。
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ウーサーはレヴィーヤの隣に跪き、イザナクに突き立ったままの両手剣を指し示してみせた。
■ウーサー To:レヴィーヤ
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こいつを横に捻るか、斬り上げるかすりゃあ、それで止めだ――レヴィーヤ。
お前が、止めを刺すか?
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■レヴィーヤ To:ウーサー
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(ドワーフ語)
……うん。
レヴィーヤ、さよならする。
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ウーサーの大剣の柄に小さな手を添えて、数秒の間のあとに、ぎゅっと握りしめる。
透けるほどに白い手の甲に、ばたばたと雨粒が落ちた。
■レヴィーヤ To:イザナク
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(ドワーフ語)
……おにいちゃん、ありがと。
いっぱい、いっぱい、ほめてくれてありがと……。
レヴィーヤ、……い、いっぱいうれしくて……いっぱいたのしかった……。
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まるで自分の身体をぶつけるようにしながら胸に飛び込み、手元の剣を捩り上げる。
がくんと揺れたイザナクの身体は、静かに目を閉じたまま、まるでレヴィーヤにもたれかかるかのように倒れこんだ。
■レヴィーヤ To:イザナク
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(ドワーフ語)
……っう……っひく……。
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レヴィーヤは小さな身体で、力を無くしたイザナクの上半身を抱きとめる。
嗚咽を繰り返すたびに、その身体は砂の如くに崩れ落ちて行き、やがてさらりと冷たい空気に解けるようにして消えていった。
あとに残されたのは、魔剣を収めていた鞘と、イザナクの身につけていた漆黒のローブだけ。
■ウーサー To:レヴィーヤ
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ああ……よく、頑張ったな。
今日は無理だろうし、明日も明後日も、やっぱり無理かもしれねぇけどよ……何時かはきっと、笑って思い出してやれるようになるぜ。
お嬢ちゃんにゃあ優しかった、「おにいちゃん」のことをよ。
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■レヴィーヤ To:ウーサー
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(ドワーフ語)
……うっ…う……っ。
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銀の大剣を鞘に収めて、ウーサーはレヴィーヤの髪を、優しく繊細な手つきで撫でた。
■シグナス
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ま……女の為にやってたんだ。呼び戻すかこっちから行くかの違いだけさな。
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■ウーサー
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人間、ああはなりたくねぇ……否、ならねぇように、気をつけねぇとな。
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■ナギ To:レヴィーヤ
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(ドワーフ語)
……レヴィーヤちゃん。
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恐る恐る顔を出し、一部始終を見届けていたナギがそっと歩みよって来て、一緒になってレヴィーヤの頭を撫でた。
■シグナス To:リコリス、ソル、リュナ
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さあて、名脇役って所で、お仕事しますかね……。(神聖語)
ファリスよ、彼らの傷を癒し再び正しき道を歩ませたまえ……。
ふう……これでちょいと、打ち止めだぜ俺も。まあ、アイゼン絞ればもう少し行けるけど。(Σ(゜∈゜ )!?)
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あれ? シグ先輩………。ありがとう。
終わっちゃったの?
周りを見回して状況を把握する。
ゆっくりと身体を起こし、喉を手で押さえながら周囲を見回した。
■シグナス To:リコリス、リュナ
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おう、おはようさん。まだ万全にゃ遠いんだ。しんどいようなら転がっとけ。
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■ウーサー To:リュナ、リコリス
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お前らがやられた分は、オレ様が熨斗つけてお返ししといてやったからよ、少し休んでな。
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■リュナ To:ウーサー&シグナス
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……別に平気。
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■スクワイヤ To:ウーサー
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ナァ〜〜〜ゥ(>"<).。
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無表情でむっくりと起き上がるリュナ。
ちらりとウーサーの腹のあたりに刻まれた傷口を見ると、表情を隠すかのようにぱっと背を向ける。
ウーサーの足元では、スクワイヤが不安げにすり寄って、巨体を見上げていた。
■ウーサー To:リュナ&スクワイヤ
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ん? ああコレか?
まあアレだ、「焼けた火箸を突っ込まれたみたいな」痛みってのを味わったのは初めてだが、意外に大したことなかったぜ。
だいたいあの魔法のほうが、よっぽど厳しそうだったぜ? 「れでぃ」は痩せ我慢しねぇで、おしとやかに休んでろっての。
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■スクワイヤ To:ウーサー
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ニャッ。(-"-#)
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いきなり不機嫌そうに一声鳴き、ウーサーの足元をげしげしとねこパンチ。
リュナ本人はあさっての方角を見ていた。
■リコリス To:シグナス>ラーダ様
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そんなわけにはいかないよ、みんなまだ結構怪我してるみたいだし。。
あ、でもリコが癒すよりも、シグ先輩に任せた方が多く回復できるよね。
(神聖語)
ラーダさま、シグ先輩の疲れを癒して!
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リコリスは自分の精神力をシグナスに譲り渡した。
■シグナス To:リコリス
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癒しといてまた疲れさすって酷くねーか?(軽く笑って見せ、改めて詠唱に入った)
(神聖語)
ファリスよ、今一度その力、癒しの奇跡を戦士達に与えたまえ。起きたら馬車馬の如く正義に奉仕させますんで。
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■ウーサー To:シグナス
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おお……こりゃあ、済まねぇな。だいぶんラクになったぜ。
いや正直なところな、シクシク痛んでいやがったんだよ。これじゃあいくら腹減ってるからって、どんなメシだって不味くなっちまうってモンだ。
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■ゾフィー To:ALL
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で、皆様あの剣をいつまで放っておくつもりですの。
ここは冒険者御用達の遺跡でも廃墟でもなく、画廊ですのよ。
燃えやすいものが沢山ございますのに、まったく、気が利きませんこと。
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身体があった場所に歩み寄り、残されていた鞘を取り外すと、ゾフィーは床に転がったままの魔剣を取り上げ、一瞥した後静かに収めた。
■シグナス To:ゾフィー
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はは、ちょっと余裕ねーや。つか魔法の炎と思ってすっかり忘れてたぜ。
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■ゾフィー To:シグナス>ALL
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切った貼っただけが稼業というわけでもございますまいに、まったく。
とりあえず、この剣はわたくしが責任を持ってライチさんにお返しします。
皆様それでよろしくて?
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■リコリス To:「こころ」
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ライさん……そこにいるの?
(下位古代語)
ハプルマフル、いるなら応えて!
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リコリスはイザナクが残したローブに近づき、不安そうに問いかけた。
■レヴィーヤ To:ALL
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(ドワーフ語)
あれ……?
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違和感を感じたのか、レヴィーヤはローブを抱きしめていた手を緩めた。
漆黒の布の隙間からぼんやりと淡い光を放つ何かがふわりと浮き上がり、リコリスの手元へひゅっと飛び込んでくる。
■リコリス To:「こころ」
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―――っ!!
ライさんっ♪
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リコリスは手で包み込むように飛んできたなにかを受け止めた。
よく見るとそれは、内部に虹色の光を宿した、手のひらにおさまるほどの透明な球体だった。
まるで虹色の線を描くように、くるくると光と色の角度を幾重にも変えながら、不思議な輝きを周囲に放っていた。
■リコリス To:「こころ」
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きれい〜。こんな姿してたんだね。
お帰りなさい♪
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■レヴィーヤ To:ALL
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(ドワーフ語)
それ……なあに?
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■リコリス To:レヴィーヤ
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この子は悪魔に連れ去られていたライチさんの「こころ」で、「はぷるまふる」、絵筆の「こころ」でもあるの。
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■レヴィーヤ To:リコリス
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(ドワーフ語)
こころ…。
かわいい。
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レヴィーヤは猫のように目をまん丸にして、リコリスの手の中の「こころ」をつんつんと優しくつついた。
「こころ」はくすぐったそうにぷるぷるっと震える。どうやら柔らかいようだ。
■ウーサー
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…………。
食感が気になるな、ソレ。( ご く り )
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■リコリス To:ウーサー
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Σっ!
た、食べちゃダメだよっ!
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慌ててウーサーから「こころ」を遠ざけるように移動した。
■シグナス To:ウーサー
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ここで食おうと言う発想出るって相当アレだよな。まあ、うん。アレだな。
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■ゾフィー To:
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ええっと、つまるところ、それを飲み込ませる相手がライチさん、と考えればよろしいのかしら?
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■レヴィーヤ To:リコリス&ALL
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(ドワーフ語)
レヴィーヤ、ライチに会いたい……連れてって。
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■リコリス To:レヴィーヤ
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うん、いいよ。
一緒に行こっ♪
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■ナギ To:ALL
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ぼ、ぼく、そろそろ帰らないと、怒られちゃう。(TT)
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見上げれば、格子窓から覗く空はもうすっかり暗かった。
■シグナス To:ALL
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さて、そんじゃまあ、色々しんどいだろうし、宿に戻って一回休……あ゛ー、見舞いに行くの忘れてた。
やれやれ……ま、ライチの方はウーサーとリコリスで充分か?
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■リコリス To:シグナス、ALL>ウーサー
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うんっ。
ってウーさん宿帰っちゃっていいの?
リュナナは?
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■ウーサー To:リコリス>ALL
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なんでオレ様に聞くんだっ!?
あー、いや、オレ様はアレだ。このあと武器屋に案内してもらおうと思ってたし……それによ、アレがあるだろ?
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ウーサーは精いっぱいの渋面を作ってみせながら、太い親指で背後の空間を指差した。
そこは、イザナクとウーサーの流した血潮が、戦闘の痕跡として残っている壁と床がある場所だ。
■ウーサー To:ALL
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此処をこんなにしちまっのは、ほとんどオレ様のせいみてぇなモンだからな。
こびりついて落ちなくなっちまう前に、掃除の手伝いくらいはしていこうと思ってよ?
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■リュナ To:ウーサー&ALL
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……。
裏に井戸があるから、水汲んでくる。
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裏手に回ろうと歩き出そうとし、ふと足を止める。
■リュナ To:レヴィーヤ
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(ドワーフ語)
レヴィーヤ、そのローブ預かっとく。
洗っておいてあげるから。
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■レヴィーヤ To:リュナ
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(ドワーフ語)
うん!
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リュナは血まみれのローブを預かると、ハンカチを取り出し、レヴィーヤの顔や白いワンピースに付いた血も拭いてやった。
■ウーサー To:リュナ
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あ、そうだ。なあリュナ、ちょっとそのローブ貸してくれ。
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ウーサーはリュナから受け取ったローブを広げ、自分でも裏表を眺めてみながら、仲間たちの方にかざしてみせた。
■ウーサー To:ALL
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なあ、悪いがちょいと、コイツを調べてみてくれねぇか?
例の「実体化する絵」とか隠してるかもしれねぇし、そもそもえらく長い間、ずっと着続けられてたんだろ? ひょっとしたら、魔法のモノかもしれねぇしな!
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■リコリス To:ウーサー>ALL>レヴィーヤ
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え〜〜。
ん〜と。よくわかんない。
じゃあ、リコ、もうライさんとこ行っていい? いいよね?
レヴィーヤちゃん、行こっ。
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■レヴィーヤ To:リコリス
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(ドワーフ語)
うんっ!
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リコリスはポケットからライト小石を取り出すと、レヴィーヤを連れてライチのいる「海鳥と潮騒亭」に向かって、ギャラリーから出て行った。
■シグナス To:リコリス、ウーサー
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お、おいリコリスっ、そんな適当な……って、もう行っちまったよ……。変な所で迅速なやっちゃな……。
仕方ない、ウーサーそのローブちょっと見せてくれ。作りに少し見覚えがある気がする。
……コイツは……確か、多分マジックアイテムっつーか呪いっぽいっつーか……。
魔法の防具としちゃ俺の鎧よりワンランク上だな……。
けど呪いもある、多分呪いに負けたら片目が見えなくなるやつだ。……まあ、抵抗できりゃかなり強力な防具だ、試してみるか?
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■ウーサー To:シグナス、ALL
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いやちょっと待て、ロクなモンじゃ無ぇだろうソレは!?
あー、じゃあアレだ。オレ様が洗っておくから、あとで宿のほうに持っていくぜ。干しといたのを誰かが間違って着でもしたら、大騒ぎになっちまわぁ。
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■ゾフィー To:ALL
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洗濯はお願いするといたしまして、一応所有権を確認しておいたほうがよろしいのではございません?
レヴィーヤさんと「こころ」が見ている以上、どさくさまぎれに冒険者が持ち帰りました、ですませるわけにもいきませんでしょう。
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■ウーサー To:ゾフィー、ALL
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いや、でもよ……着るぜ? これレヴィーヤに渡したら、絶対。
このテの『呪われアイテム』は学院なり、「銀の網」亭なりに売っぱらっちまうほうが、あとあと面倒が起きなくていいと思うんだけどよ?
まあ確かに、所有権ってモノは多少は気にならなくも無ぇが……遺跡から出てきたんだろ、イザナクはよ? だったらもう、誰の物でも無ぇんじゃあねぇのか?
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■ゾフィー To:ウーサー&ALL
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「誰の物でもないから俺の物」という論理はややごろつきまがいの感もいたしますけれどね。
それに相続権という見方をすれば一応、子孫がいることですし……そのことを説明するかどうかはともかくとして……。
話を聞く限り、学院で管理するというのが安全といえば安全でしょうが、それが売却という形を取るならば、得られたお金をどうするかという問題も出てまいりましょう?
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■ウーサー To:ゾフィー、ALL
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売っぱらった分が、どの程度の額になるかは知らねぇが……カエル野郎を倒したオレ様たちと、巻き込んじまったライチとリュナとヤツメ、それにレヴィーヤとナギ坊あたりで分けりゃあ良いんじゃねぇの?
下手にそのまんま手元に置いといて、眺めるたびに色々と思い出しちまうようになるより、よっぽど「しょうらいのため」にならねぇか?
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■ゾフィー To:ウーサー&ALL>つぶやき
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とりあえず、ローブをオランに持っていくならば、レヴィーヤ、とライチさんとに了解を取ってからにいたしませんか。
利益の分配に関しては、そう……金額次第かしらね。
割るほどの価値がないようならば……あるいは、相当な高額となるならば……。
「しょうらいのため」といえば、フェンデさんのところの経営状態は安定しているのかしら?
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■ウーサー To:ゾフィー
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オーケイ、じゃあレヴィーヤとライチにも聞くとしようぜ。とはいえ、今すぐは無理だろうから……まあ明日の海竜祭を無事に乗り切ったあとでも、遅くはねぇな?
フェンデの孤児院、なぁ……だがよ、このローブとフェンデの孤児院とは、別に関係は無ぇんじゃねえか?
旅先で殺った相手の武具売りました、けっこうな額がついたから依頼主にもガメル置いてきますってんじゃあ、向こうも納得行かないと思うぜ?
そういう依頼じゃあ、なかった筈だろ?
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不敵な笑みを浮かべて呟いてみせたものの、さすがにバツが悪くなって明後日を向きながら、素早く履き捨てるようにひとこと加える。
■ウーサー To:ゾフィー
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もちろん、「分け前」になった分をどう使うかなんてぇのは、それぞれの勝手だとは思うけどな?
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■ゾフィー To:ウーサー
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ええ、もちろん。
資金とは増やすためにございますのよ。
あそこに限らずですけれども、小口を受け付けてくれて、将来回収が有望そうな投機先をご存知でしたら、是非ご紹介いただきたいところですわ。
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懐に伸ばしかけた手を止め、そのまま口元にもっていきながら、おほほと声を出してみせるゾフィーであった。
■シグナス To:ウーサー、ゾフィー
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まあ……売るの如何のは置いといて、神殿か学院には話し通してみるよ。流石に物騒な品だし。
つっても、持ち主……の、縁者になるかね?この場合。ともあれ、しっかり管理するって言うならそれでも良いけどな。
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