リンゴ畑で追いかけて
追いついてきたリコリスと共に、リンゴ畑の入口へと向かう冒険者たち。
木の柵に覆われたリンゴ畑は、濃い霧に包まれていて木々の間の空気が白く染まり、中の様子をうかがうことはできない。
一行は柵の入口の手前で足を止めた。
■リコリス To:ALL
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はぁ、はぁ……すぅ〜、はぁ〜。すぅ〜、はぁ〜。
遅くなってごめんね。でも追いつけてよかった〜。
あのね、りんご畑は「ずっと同じ方向に歩いていけばよかった」んだって。
野伏の心得ないと方向つかめないらしいけど…。
あと、ロシュさんたちがレヴィちゃんに頼まれて“ヴィルコ”が描かれた本をプレゼントしたって。
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リコリスは、そこでウーサーを気遣うようにちらっと見上げた。
■リコリス To:ウーサー以外
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(下位古代語)
それで、パティを連れて行ってくれた子(=リュナ)がなんか思いつめた顔して、モザイクガーデンに、絵本を取り戻しに行くって。
今、グラランちゃんがパティと一緒に追ってくれてるけど、もうリンクは切れちゃった。
これ、ウーさんに聞かせたら、追って行っちゃうかな?
あの子ととってもらぶらぶいちゃいちゃしてたから……。
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ウーサーには理解できない言語で伝えるリコリス。
「リュナ」という固有名詞からウーサーが何か察して別行動にならないように、名前も出さない。
■ウーサー To:リコリス
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おいおい、共通語で喋ってくれ。
モザイクガーデンがどうこう、とか言ってなかったか?
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■リコリス To:ウーサー
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あ、ウーさん。さっきモザイクガーデンで合流したときにはね、もうレヴィーヤちゃんは出かけてて、ナギくんがリンゴ畑で合流するって言ってたらしくて。
イェンさんのシロふくろうさんがナギくんを追いかけてるとこだったっぽいの。
あと、その時から合流するまで話してたのはね――
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モザイクガーデンを出てから始まった情報交換で話したこと(「パティが聞いたこと」とか「間男」とか「らぶらぶ」以外)を伝える。
■ウーサー To:リコリス、シグナス&ALL
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――成る程。
畜生、墓場の時点で二手に別れ……ても、結局間に合わなかったのかもしれねぇか。
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■シグナス To:ウーサー、ALL
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つかまあ、こっちに来てから分断し過ぎってのもあったさ。
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■リコリス To:ウーサー&ALL
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まあ、そうかも。
でも、今からここで追いつけばいいよね。
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■ゾフィー To:ALL>シグナス
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ナギさんが一緒にいれば、こちらの信用度を上げてくれるかもしれませんわ。
ドワーフ語しか話そうとしない頑固娘ね。。。やれやれ。
この視界の中、なんとか見つけるのが先決ね。
シグナスさん、前回は入って東に向かわれたのでしたっけ。
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■シグナス To:ゾフィー、ALL
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ああ、東に向っても鳥やらなんやら居たし、直進してたら入り口に戻ったけどな。
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■ゾフィー To:シグナス>ALL
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入口にね、なるほど、では進んでみましょうか。
………。
……先陣を切るのはどなた?
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■シグナス To:ゾフィー、ALL
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一応俺とリコリスで前に立っとく方向で。何か在ったらリコリス下がらすけど。
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冒険者たちが意を決してリンゴ畑に足を踏み入れると、しっとりと白く重い空気に包み込まれ、とたんに視界が狭くなった。
隣の仲間の姿はわかるものの、少し離れただけで白く霞んでしまいそうだ。
目の前に伸びる枝は、まるで雲から生えてきているかのよう。
あたりはしんと静まり返り、リンゴの葉が擦れる音さえしない。
■リコリス To:ALL
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うっわぁ〜、ほんとにすごい霧。
ちょっと油断したらはぐれちゃいそう……。
誰かロープ持ってない?
みんなで捕まっていけば迷子にならないよね?
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シグナスに聞いた電車ごっこ的なものにも興味はあるが……この人数では動きにくくなるだけだと思い、手に持つだけを提案してみる。
■シグナス To:リコリス、ALL
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前は相方が突っ走りそうだったからなあ……。今はまだ良いだろ、そう離れる事も無いし。
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■ゾフィー To:ALL
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皆様は毎晩、こんな視界の中過ごされておりますの?
勇……いえ、わたくしにとっては貴重な経験ですわ…ただ、ちょっと想像力が刺激されすぎていけません。
皆で同じ方向に進むことにいたします?
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■シグナス To:ゾフィー、ALL
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ん?珍しいな姐さんにしちゃ。まあ、闇夜の類以外でこうも視界塞がるってな滅多にないか。
ここで分断してもそれこそ訳解らんくなるし、寧ろ逸れない様に気ぃ付けよう。
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■リコリス To:ゾフィー&ALL
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うんっ、みんなで一緒に行こっ。
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■ウーサー To:リコリス、ALL
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ああ、そうだな。こんな中で遭難したら、何時出られるかわかったモンじゃねえしよ?
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■イェンス To:ALL
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それでは万が一の事を考えてランタンをつけておきますね。
光の方が見える距離が長いですから。
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そう言ってイェンスはランタンに灯を灯した。
■ゾフィー To:つぶやき
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明かりね、持たない側に先に気づかれそうですけれど。
隠密行動はしないようですから、かまわないのかしら。
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揃って西へと進んだ冒険者たち。
はぐれないように慎重にお互いの姿を確認しつつ歩いて行くと、ふいに前方から弱々しい小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
鳴き声のほうへ視線を落とすと、手のひらサイズほどの小さな小鳥が足の付け根に傷を受けて倒れているのだった。
ぱたぱたと苦しげに動く暗褐色の羽根。
シグナスにとっては、まるで時間が巻き戻されたかのように、既視感を抱かせる風景だった。
■シグナス To:ALL
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……同じ鳥じゃねえよな。スゲェ見覚え在るんだが……。
如何する?また俺がやるより、違う奴が手当てした方が良い気もするんだが。あんま根拠ねえけど。
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■ゾフィー To:シグナス>ALL
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いずれにせよ手当はするというわけね、あなたらしいわ。
でしたら技術をお持ちの方にお願……。
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■リコリス To:小鳥>ALL
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小鳥さんかわいそう……。
リコがやってみてもいい?
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リコリスは小鳥を驚かさないようにそっと近づき、手当てをしようとした。気持ちはこもっているものの、その手つきは超ぎこちない。
小鳥はなんだかむずがゆそうにじたばたと動いている。
■ウーサー To:リコリス
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お、おい……大丈夫なのか……?
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■リコリス To:ウーサー
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う、うん。ダイジョウブダヨ(棒読み)
えっと、ここがこうなって、こうで………できた!
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不器用な手当が終わるとよろりと立ち上がり、元気よく地面を蹴って飛び立った。
そしてリコリスの頭の上をくるくると旋回してみせると、まっすぐ西の方角へと飛び去っていく。
ぐるぐる太巻きにされた足を若干重そうにしながら。
■リコリス To:小鳥
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よ、よかった〜。元気になった〜♪
気をつけてね〜。
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小鳥に向かってバイバイと手を振るリコリス。
■ゾフィー To:つぶやき
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(ドワーフ語)
…………気の毒に。
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■リコリス To:ALL
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小鳥さんが行った方に向かえばいいんだよね?
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■シグナス To:リコリス、ALL
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考えてみりゃ、俺も応急手当しただけだったし……こうさっさと飛び立つのがおかしいっつか足の傷だったんだよなあ。
不自然な感じはあったけど、大して気にしてなかったな……もうちょい疑うべきだったか?いや、あの時じゃ気付いてねえか。
よし、OK。とりあえずチマチマ助けながら付いて行くとしよう。
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さらに西へと進む一行。
周りの枝を見回してみても、さきほどの小鳥が留まっている気配はなく、鳴き声も聞こえてこなかった。代わりに、「シグナスだけに」聞こえてくる声──
■ドリアード To:ALL
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(精霊語)
やめて、やめて、もがな……
……
もいでないのね〜、どうして? どうして?
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腰をくねくねさせながら、悩ましげに訴えかけようとし……
皆のカゴが空であることに気づいたのか、目をぱちくりさせてのたまうドリアードの姿がそこにあった。
その姿も、精霊使いであるシグナスにしか見えていなかった。
■ウーサー To:ALL>シグナス
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ありゃ? 小鳥が居ねぇな、まさか間違って――
どうしたシグナス? なんか見つけたのか?
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■シグナス To:ALL
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……前はつい突っ込みで流したからなあ。と言うか、あーこうなると俺しかない訳ね、チクショウ。
ドリアードが居る……てかまだ誰もリンゴ取ってないなそう言えば!?……ま、まあやってみるけどね、見るけどさ……!
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ひとしきり煩悶した後、説法用の営業スマイルをドリアードに向けるシグナス。
■シグナス To:ドリアード
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(精霊語)
それは、君達を悪戯に傷付けたく無いからだよ……
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それを聞いてドリアードは、ぽっと頬を赤らめた。
自らの両肩を抱いて、恥じらうように身をよじる。
■ドリアード To:シグナス
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(精霊語)
やさしいのね、やさしいのね。
やさしいあなたになら、あげてもいいの〜。
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■シグナス To:ドリアード
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(精霊語)
正直、君に見惚れて言いそびれた事なのだけれ…ど……へ?
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上方からカサカサと音がしたかと思うと、シグナスの頭頂部めがけて特大のリンゴが落ちてきた。
油断していた所、見事頭頂に直撃するシグナスだった。
■イェンス
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独り言を話していると思ったら突然リンゴが直撃とは…。
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■ウーサー To:シグナス
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うわーおいおい、落ちモノかよおい!?
にしてもまたずいぶんデカいし、みっちりと重たそうだな……焼き菓子に混ぜるよりゃ、芯くり抜いて香草バター詰めて、じっくり炙り焼きにでもしたほうが美味そうか?
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■ドリアード To:シグナス
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(精霊語)
やさしいあなたを、導くの。
ウズマキ様の、巣のもとへ。
かわいいひなを、見てってね。
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ふいに、風もないのに枝が揺れ、葉が擦れる音が聞こえてきた。
目を凝らすと、周囲の枝がみな一様に、同じ方角を──西のほうを指し示すかのように傾いていた。
■シグナス To:ドリアード
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(精霊語)
あ、ありがとう。大切に、生きる糧にさせてもらうよ。
けれど、こうして君から貰えた、君の気持ちが貰えたようで嬉しかったよ。
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それでもドリアードへは笑顔を向けて返し、その笑顔を引き攣らせつつ皆へと振り返るシグナス。
■シグナス To:ALL
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……交渉成立。ウズマキさんの巣の元へ送ってくれるとよ。かわいい雛?を見ていってって……鳥か?ひょっとして。
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■リコリス To:シグナス
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シグ先輩すごい〜♪
雛かぁ〜。どんな子なのかな、楽しみ〜♪
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■ゾフィー To:シグナス、イェンス&ALL
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ふん、なにを口にしたのや……ああそうそう、口にしたといえばモザイクガーデンの主、ミガクさんがおっしゃっていましたわ。
「フクロウはリンゴの樹に巣を作ることもあるとか聞きます」と……。
確かしろさんを見たときでしたわよね、イェンスさん。
話を聞いた相手がレヴィーヤさんだとしたら、この方向に「ウズマキさん」だけでなく彼女らもいると考えてもよいのかもしれません。
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そう言いつつ、老婆からうけとった砂時計を確認するゾフィー。
迷いなく進んできたせいか、砂時計はまだ半分も落ち切ってはいなかった。
4分の1程度といったところか。
■ゾフィー To:ALL
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そうこうしているうちに、もう制限時間の1/4が経過してしまいましたわ。
決められた時間を過ぎるとどうなるのかわかりませんわね。
皆様、もう少し急ぎ足にいたしませんこと?
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■ウーサー To:ゾフィー、ALL
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ああ、姐さんの言うとおりだ。
別に焦ってるってワケじゃあ無ぇが……なんだか妙に、厭な予感がしやがる。
とっとと追いついて、此処から引き上げちまうに越したこたぁ無えって気がするぜ。
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■ドリアード To:シグナス
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(精霊語)
いってらっしゃい、やさしいひと〜
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ドリアードはすすすとシグナスに擦り寄ると、そっと顔を近づけ、唇をちゅっとほほに触れさせた。
そしてそのまま木の幹に溶け入るようにふわりと消えてしまった。
もっとも相手が精霊であるせいか、何の感触も感じなかったが。
■シグナス To:ドリアード
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(精霊語)
それじゃあ、さようなら。何時かまた、魔法の腕上げれたら、その時にまた会いましょう。
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■ウーサー To:シグナス
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ドリアードってなあ確か、美女い精霊だったっけか?
イロイロと大丈夫なのかよ、おい?
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■シグナス To:ウーサー
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まあ、問題無いだろ。多分。メイズウッズの魔法内だし、ここでなきゃ会えん……と、思う。多分。
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さらに、さらに西へと進む冒険者たち。
一行を取り囲む霧は次第に薄くなり、周りの木々がはっきりと見えるようになってきた。
地面に視線を落とすと、ひくひくと鼻を動かす小さないきものの気配。
またしてもシグナスに強い既視感を抱かせる、赤ちゃん野ウサギだった。
そして、少し離れたリンゴの木の枝には、獲物を狙う鋭い眼光で赤ちゃんウサギを見つめている、大人フクロウの姿があった。
■リコリス To:赤ちゃん野うさぎ
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うっわぁ〜、かわいい〜♪
おいで、おいで〜。
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リコリスは赤ちゃん野ウサギを抱き上げようと手を伸ばした。
手のひらサイズで耳もまだ短い、小さな赤ちゃん野ウサギは、リコリスの気配に驚いたかのようにぴょんと飛び退った。
喉の奥から威嚇するような声を出している。
■リコリス To:赤ちゃん野ウサギ
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ん〜、どうしよう?
ママ近くにいるのかな? このままだと、ふくろうのご飯にされちゃうよ?
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それ以上脅かさないように気をつけながら、しゃがみこんでそっと手を差し伸べる。
必死にリコリスに向かって威嚇の声をふりしぼりながら、差し出された手から逃げるようにしてもこもこと遠ざかって行く赤ちゃんウサギ。
リコリスは赤ちゃんウサギの巣が近くにあるはずだと思い立ち、かがむようにしながら、下生えの中を探し歩いてみる。
しかし、それらしいものは見つからない。
■シグナス To:ALL
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……考えてみたら……そうだな、今考えてみりゃ別に、どっちかだけに気を使う必要は無いんだよな。
誰か干し肉か何か余ってないか?それをフクロウにやれば、ウサギは見逃すかも知れないし。
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■ウーサー To:シグナス
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確かにな。フクロウにゃあフクロウの暮らしがあるんだ、ウサギだけえこひいきするワケにゃあいかないってのには同感だぜ?
ん、じゃあオレ様のを、少し分けてやるか。
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バックパックから開封済みの保存食の包みを取り出して、その中に残っていた干し肉をシグナスに渡す。
■ウーサー To:シグナス
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ほれ。フクロウの扱いなら、シグナスのほうが慣れてんだろ?
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■シグナス To:ウーサー
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時々アレがフクロウって事忘れそうになるけどな。まあOK、やってみるよ。
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ウサギの方はリコリスに任せ、受け取った干し肉をフクロウに与えようとするシグナス。
■シグナス To:フクロウ
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おーい、今日の所はこっちで勘弁してくれい。子ウサギよりは量はあるぞー。
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■イェンス To:シグナス
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生じゃないと食べませんかねぇ?
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■おとなフクロウ To:しぐなす
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………………(`∈´)
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その時、それらを遮るように紫色の壁が立ちはだかった。
■ゾフィー To:ALL
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皆様、樹の立場に立ってご覧なさい。
木々が十分育つには、下草を食べる兎は必要よ。
ただし、生まれた兎が全て育てば、下草だけでは足りず、新芽も種も食い尽くすでしょう。
そのバランスを取るには、兎を食べる梟が必要。
もちろん、梟が増えすぎれば兎に限らず小動物はは食い尽くされ、木々は草に埋もれ……。
「どっちかだけに気を使う必要は無い」というのはシグナスさんのおっしゃるとおりよ。
ただし、わたくしでしたら、この場面には「介入せず」を選択いたしますけれどね。
森の中では自然の摂理に任せる、それが運命というもの。
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くろがねを帯びた瞳にどこか悲しみの色を漂わせつつ、淡々と言葉を紡ぐゾフィーであった。
■ウーサー To:ゾフィー
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いや……すまん姐さん、流石に「樹」のキモチまでは想像できねぇよ……。
ソレ突き詰めてくと終いにゃあ、地面を歩く虫も踏めねぇってなコトになっちまわねぇか?
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■ゾフィー To:ウーサー
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いえ、逆ですわよ。
自然な歩みを行えば、なにかを踏んでしまうことは避けられませんもの。
あなたの例え「虫を踏まない」ことは、それ自体「介入」になるのではございませんか。
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■シグナス To:ゾフィー、ALL
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俺は一回それやったし良いけど、リコリスは納得出来るか?俺としちゃ今回は基本リコリス任せの方針なんだが。
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■ゾフィー To:シグナス
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依頼の内容をお忘れなく。
わたくしたちの力で柄と穂とを入手できれば、不完全とはいえ子どもたちに「絵筆」の形を見せることはできますのよ。
おそらくこれは「精神の試練」の一部のはず、成功すれば……。
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■シグナス To:ゾフィー
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へいへい、けど最初……じゃねえけど、集まった時に決めたろ?
俺らみたいな捻た理屈屋より、素直にリコリスみたいな奴に任せよう、って。だったらそれ通そうぜ。
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■ゾフィー To:シグナス
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おや、少なくともわたくしの前でそんな話は出なかったように思いますが。
それとも、いいかげん耄碌してまいりましたかしらね。
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■シグナス To:ゾフィー
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……あれ?そうだったっけ?……あー、悪い。そう言う話してたんだわ。てっきり一緒の時に話したと思ってたよ。
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■イェンス To:ゾフィー
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まぁまぁ。生態系のバランスは大事ですが、ここでこの子ウサギがフクロウに食われるのも運命なら我々に助けられるのも運命だと思って…。
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■ゾフィー To:イェンス
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わたくしをなだめてどうしようというのです。
問題は「ウズマキさん」がどう判断をくだすのかということでしょうに。
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その時、大人フクロウはさっと枝を蹴って飛び立つと、ゾフィーの肩越しに冒険者たちの横を滑空し、干し肉をかっさらっていった。
そしてそのまま霧の中へと姿を消したが、1刻と待たずにふたたび音も無く舞い戻り、元の枝にふわりと降り立つ。
そのくちばしには、すでに干し肉は無い。
そして、いまだ地面でよろよろと動いている赤ちゃんうさぎに再び集中力を研ぎすませる──
■シグナス To:ALL
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ヤロウ、ちゃっかり食って行ってからやり直しだとう!?
……こりゃ、どっちにしろウサギやるかやらんかの問題になる訳か。OK、俺はどっちでも文句無いぜ、予定通りリコリス任せだ。
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■リコリス To:ゾフィー>赤ちゃんうさぎ
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ごめん、フィーさん、リコには無理っ。
言ってることはわかるけど、でも、放っておけないよ。
危ないからじっとしててね。
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リコリスはうさぎをかばうように覆いかぶさった。
■ゾフィー To:つぶやき
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まったく娘という輩は、どいつもこいつも……。
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眉間にしわをよせてそうつぶやくゾフィー、しかし、紫衣の内側で腕を組んだ彼女はリコリスに切り裂くような鋼色の視線を向けたまま、それ以上動こうとはしなかった。
■赤ちゃん野ウサギ To:りこりす
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キィー、キィーーー
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赤ちゃんウサギは狂ったように暴れ、リコリスの腕をがりっと噛んだ。
小さな黒い瞳に、必死の形相を浮かべながら。
そしてその瞬間、枝に止まっていた大人フクロウは、さっと枝を蹴って空に舞うと、リコリスの真上を素通りして霧の中へと飛び去って行った──まっすぐ、南の方角へ。
■ウーサー To:リコリス
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……おい、梟はもう行っちまったぞ?
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■リコリス To:赤ちゃんうさぎ
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ごめん、ごめんね。驚かせて。
もうフクロウさんいっちゃったから、大丈夫だよ。
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リコリスは赤ちゃんウサギをそっと解放した。
とたんにせいいっぱい後ろ足を動かして、リコリスからぴょんと離れる。
■リコリス To:シグナス
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シグ先輩。この子、ママのところに返してあげたいんだけど、何処にいるかわかる?
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■シグナス To:リコリス
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うーん、流石に放っといても巣に戻ると思うんだが……OK、ちょいと探してみるわ。
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シグナスはレンジャーとしての知識と勘を生かし、慎重に地面を見て回る。
しかし、やはり野ウサギの巣らしきものは見つからなかった。
解放された赤ちゃんウサギは、地面を這いずるようなぎこちない動きであちらこちらへふらふらと歩いていたかと思うと、ふいに草の間に姿を消した。
そして再び、冒険者たちを取り囲む霧が濃くなって行き──野ウサギが消えた地面すらも、その白い靄の中に飲み込んでしまった。
■リコリス To:ALL
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あ〜〜、見えなくなっちゃった〜。
次、どっち? また西でいいの?
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■シグナス To:ALL
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うーん……まあ、しゃあないか。行き先は任せた。前回しくじってっから今回は俺決定権パス。
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その間にゾフィーは砂時計に目をやり再度残り時間を確認していた。
落ち行く砂は、ちょうど半分ほどの量が下層へと移動している。
■ゾフィー To:シグナス&ALL
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目的は「レヴィーヤさんを探す」でよろしかったかしら。
先のシグナスさんの経験、ミガクさんが言っていたこと、ナギさんの話、総合するとやはり西でしょうね。
急ぎましょう、見つけたとしてもろくに話もせず時間切れになってしまったら、なんのためにここまで歩いてきたのだか。
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肩をそびやかすと言葉のとおり、さっさと西へと歩き始めるゾフィーであった。
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