ナギが消えた先
冒険者たちが「白波通り」を抜け、「林檎通り」に差し掛かった頃、先行していた使い魔しろは、ナギがリンゴ畑に到着したのを確認した。
彼は案内所のおばあちゃんと短く言葉を交わしたあと、特にリンゴを入れる籠を預かることも無く、そのままリンゴ畑のほうへ。
──弾むようにリンゴ畑へと入って行ったその姿は、まるで白い霧に掻き消えるかのようにふっと見えなくなってしまった。
■イェンス To:ALL
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ナギがリンゴ畑の中に…霧中に入って見えなくなってしまいました。
このまましろを進めると見失いそうなので案内所に待機させましょう。
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イェンスはナギの姿をこれ以上追えないと判断して、しろを案内所の屋根に留まらせ待機させた。
■ゾフィー To:イェンス
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無事に着いたとわかっただけでも、ひとつ気を割かずに済みますわ。
しろさんの位置からですと町からやってくる、もしくは町に向かう姿があったらお気づきになれそうですか。
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■イェンス To:ゾフィー
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この入り口以外にも出口があると無理ですね。
シンクロ出来るうちにちょっと周辺を見てみましょう。
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しろはイェンスの指令を受けて飛び立ち、主人とのリンクが切れない範囲で、畑の周辺をぐるっと一周してみせた。
見えた限りでは他に出入口はないようだが、リンゴ畑を取り囲む木製の柵は簡素なつくりで背も低く、越えようと思えば越えられるだろう。
■ゾフィー To:イェンス
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畑全部を見張るのは無理だとしても、町と結ばれた道は監視できますわよね。
町に続く道が他になさそうでしたら林檎通りに注意しておいていただけません?
わたくしたちの姿は、どのくらい離れた状態から視認できますかしら。
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「林檎通り」沿いの家々はややまばらで、道はうねうねと曲がりくねりながら北へと続いている。
シグナスが歩いたときよりも地面はぬかるんでいて、水たまりも増えていた。
と、そこへ近づいてくる力強い足音。
「海鳥と潮騒亭」で思わぬ足止めを喰らっていたウーサーだった。
■リコリス To:ウーサー
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あ、ウーさん、こっちこっち〜。
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■ウーサー To:ALL
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すまねぇ、ようやっと追いつけたぜ!
だが、どうしてリンゴ畑に向かってるんだ? レヴィーヤや絵筆は、まだ押さえてないのか?
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■リコリス To:ウーサー
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うん。ナギくんがレヴィちゃんとりんご畑で待ち合わせしてるっていうから追ってきたの。
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■シグナス To:ウーサー
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ようウーサー。とりあえずエネルギーボルトとファイアボルトとフォースで駆け付け三倍で良いな?
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■ウーサー To:シグナス
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おいおいシグナス、なんだよいきなりフルコースか?
まったく、亡霊と渡り合って情報引き出してきたオレ様の苦労を労うにゃあ、ちょいと火力が高すぎやしねぇか?
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■シグナス To:ウーサー
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あー何、折角だから魔法のフルコースでも披露するべきだろう。”魔男”的に考えて。
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■ウーサー To:シグナス>リコリス
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ん〜何のことかな〜?
おいコラ、余計なコトまで喋りやがって! そういうのはたとえ事実でも、本人にゃあ言わなくていいんだよ!!
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■リコリス To:ウーサー
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え〜、リコ、「間男」とか「魔男」ってどういう意味かわからなかったから聞いただけだよぅ。
で、どういう意味なの?
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悪意は全くない。
林檎通りを歩き始めてまもなく、リコリスの使い魔パティとの距離が感覚共有の限界を伝えてきた。
■リコリス To:ALL
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あ、もうパティとのリンク切れそう。
なんかいい人たちっぽいし、このままリュナナちゃんのとこにいさせていいよね。
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特にウーサーを見上げて確認してみる。
■ウーサー To:リコリス
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お、オレ様に聞いてどうすんだよ!? 自分で決めろ自分で!!
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■リコリス To:ALL
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あ、なんかロシュさん気になること言ってる。
えっと「僕が聞いたのは「正解は一方向のみ」だって。
そういえば、途中で助けた小鳥たちがみんな、同じ方向に……」………リンク切れちゃった………。
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■ウーサー To:リコリス>ALL
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おい子リス、ちょっとだけ後ずされ! リンク回復させるんだ!
如何する? 小鳥がどうのこうのって確か、シグナスがリンゴ畑で見たとか言ってなかったか?
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リコリスはリンクが回復する場所まで後ずさった。
■シグナス To:リコリス
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小鳥?……ああ、俺としちゃその後の兎でしくじったと思ったんだが……。小鳥追い駆けるべきだったんかね?
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■ゾフィー To:リコリス&ALL
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耳をそばだてるのも結構ですが、けじめはどこかでお付けになってね。
それとも子どもたちが戻ってくるまでここで待っていることにいたします?
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■リコリス To:ゾフィー
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ん〜、今リュナナちゃんが緊張しながらなにか話そうとしてるから、それだけ聞いてから――
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暫く大人しく耳を欹てて聞いていたリコリスはいきなり離れた場所に行ってしまった仲間に向かって大声を出した。
■リコリス To:ALL
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ごめん、ちょっとだけ待ってて〜。
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■ゾフィー To:リコリス以外>リコリス
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ほら、申しあげたそばからこうですもの。
200数えるまでですよ、それが過ぎたらさっさと行かせてもらいます。
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急ぎ足のまま歩く冒険者たちの前に、こんもりとした濃い緑色が見えてきた。
雨はいつのまにか止んでいて、地面も濡れてはいないようだ。
そのかわりリンゴ畑全体には濃く白い霧がかかっており、雲の中にでも迷い込んだような気分にさせてくる。
案内所の屋根に留まっていたしろの視界からも、ちょうど少し離れた民家の影から出てくる形で、冒険者たちの姿が確認できた。
■ゾフィー To:ALL
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あそこ……畑にしては…その……緑が濃すぎやしませんか。
皆様にお願いがございますの。
町に戻るまでの間、間違ってもあの場所を林とか森とか呼ばないで頂戴。
木が並んでいようとも畑は畑、それ以外のなにものでもありませんから、よろしくて?
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■イェンス To:ゾフィー
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まぁ、リンゴ畑はリンゴ“畑”ですが…????
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■ゾフィー To:イェンス
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ありがとう、それなら結構……ですわ。
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入口には案内所らしき古ぼけた小屋、そして木製の看板が立てられている。
『♪ ようこそイーンウェン・リンゴ畑へ ♪
もぎ放題ひとり30ガメル:20個以上でなんとタダ!!』
──案内所の屋根にしろが留まっていること以外は、シグナスが来たときと何ら変化は無かった。
■おばあちゃん To:ALL
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いらっしゃいよ〜。おや、昼間のお兄ちゃんだねぇ〜。
おともだちを連れてきてくれたのかい? ありがたいねぇ〜。
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ドアの隣の板窓を開けて顔を出したのは、しわだらけのおばあちゃん。
顔をくしゃくしゃにして笑顔になりながら語りかけてきた。
■シグナス To:おばあちゃん
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あっはっは、なんか済崩しにね。ま、折角なんでまた寄らせて貰いますよ。
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■おばあちゃん To:ALL
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おひとりさま30ガメルだからねぇ。それからね、畑の中央にあるリンゴの木には近づかないようにねぇ。
理由はお兄ちゃんに聞いておくれねぇ。
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■ウーサー To:おばあちゃん
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あ、いや、オレ様たちは……いや、なんでもねぇ。ひとり30ガメルだな?
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バックパックを漁ってガメル入れを探しつつ、ふと気になった事を尋ねてみる。
■ウーサー To:おばあさん
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なあ、婆さん。
オレ様たちの前に、リンゴ畑に入っていったヤツはいないか?
できればいきなり鉢合わせ、なんてことにゃあなりたく無ぇからよ……ほら、たくさん狩っていきたいだろ? リンゴをよ!
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大柄すぎる体躯を強調させようと、わざと胸を張ってみせる。
■おばあちゃん To:ALL
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ええとねぇ、ついさっきナギ坊が入っていったねぇ。
その前には、レヴィーヤ嬢ちゃんだねぇ。
ふたりともお絵かきが目的だから、心配しなくてもリンゴの分け前が減ることは無いと思うよ。
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にこやかに答えるおばあちゃん。
■ゾフィー To:おばあちゃん
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お絵かきですか、中に入ると霧は……絵が描けるくらい周りが開ける場所はございますの?
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■おばあちゃん To:ゾフィー
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ほほほ、さあ、ねぇ……ナギ坊らに聞いてみておくれ。
で、みなさまがた、リンゴ狩りでいいんだよねぇ?
そこに籠があるから、好きなサイズのを持って行ってねぇ。
それから、この砂時計もねぇ。時間内にちゃ〜んと、帰ってくるんだよ?
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大小さまざまな籠、そして小さな砂時計を窓のカウンターの上に並べた。
それらの篭を一瞥したゾフィーは、右の眉尻をややつりあげ、懐中に手を差し入れる。
■ゾフィー To:おばあちゃん
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一律、30ガメルね……。
もうすこし基準の高いコースはございませんの?
あるいは60ガメルお支払いすれば時間延長というような設定は。
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■おばあちゃん To:ゾフィー
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よくばるものは、なんとやらって言うからねぇ……。
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■ウーサー To:おばあちゃん>ALL
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まあ、ソイツは違ぇ無えな! さ〜て、デカいのを狩りに行ってくるぜ。
罪の果実ってヤツをな?
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ウーサーは、ひときわ大きな籠を手に取りってにやりと哂った。
そのとき、
■リコリス To:ALL
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ま、待って〜っ、リコも、リンゴ、取りに、行く。
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リコリスが息を切らせながら走ってきた。
■リコリス To:おばあちゃん
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あ、こん、にちは。
えと、30、ガメル、だよね。
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ポケットから30ガメル取り出し、おばあちゃんに渡す。
■おばあちゃん To:リコリス
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はい、こんにちは。
おやおや、そんなに息切れしてしまって、だいじょうぶかい?
慌てないで行っておいでねぇ。
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■リコリス To:おばあちゃん>ALL
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リコ、この、小さい、籠に、する。
早く、いこっ。
話は、中で、するね。
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小さい籠と砂時計を受け取ると、リコリスはさっさとりんご畑に向かって早足で歩き出した。
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