目指すところは
地下室から再び長い螺旋階段を上り、地上へと出てきた4人。
相変わらず薄暗い雨雲に包まれた空のせいで、時間の感覚があまり掴めない。
だが昼食抜きのリコリスのお腹には、多少落ちついたせいか空腹感が襲ってきていた。
■リコリス To:ひとりごと
|
…………おなかすいた………。
|
ついぽつりと呟く。
そして気遣うようにウーサーに抱かれたライチを見上げた。
ライチはウーサーに全体重を預けたまま、相変わらず力なく虚空を見つめている。
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
ライさん……何か食べれるのかなぁ?
|
■ウーサー To:リコリス
|
如何にもならなきゃあ……氷砂糖か糖蜜でも、しゃぶらせておくしか無ぇだろうな。
お前にゃあ後で、なんか作ってやるからよ。もうちょっとだけ我慢しとけ?
|
■シグナス To:リコリス、ウーサー
|
つかまあ、晩飯までに取り戻せば良いだろうさ。腹が減って美味く喰えるかもしれないぜ?
|
■リコリス To:シグナス>ウーサー
|
うん、そうだよねっ。
あ、ライさんこのままだと寒くないかなぁ?
ウーさん、ライさん、毛布に包んであげてくれる?
|
リコリスは自分の毛布をライチの身体にかけた。
ウーサーはリコリスの毛布がライチの身体に絡まるように、彼女の身体を持ち直した。
入口には石に押さえつけられたリコリスのリボンがある。
あたりをざっと見回す限りでは、他の人影──カエルも含めて──は無いようだ。
雨に濡れたイチョウの木々が、静かに佇んでいるだけ。リコリスはリボンを拾い上げて、ポケットに仕舞った。
■シグナス To:リコリス
|
そう言えば、来る時は急いでたから無視したんだけど、そこにリボンで目印作ったのはリコリスか?
それに……確かに無事で幸いだったが、リコリス放っといて外に出るってのは随分と余裕見せる奴だな。
|
■リコリス To:シグナス
|
うん、そうだよ。
パティには誰か呼びにいってもらったの。
リコが離れたら、ライさん一人で悪魔のところに行っちゃいそうだったし……なんだかとても不味いところに踏み込んでいくような気がしたから……。
|
悪い予感は当たってしまったわけだが。
■シグナス To:リコリス
|
割とギリギリだったな……パティとかち合えて良かったぜ……。
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
えと、何から話せばいいのかなぁ?
リコね、「はがくれや」のハホハホさんにあって、その後、ライさんママのお墓参りしてたらライさんがきたの。
それで様子が変で、しかもイチョウ林の奥に向かおうとしてたから、無理言って連れてきてもらったの。
|
リコリスは男二人に遅れないように少し早足で歩きながら話しはじめた。
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
ハホハホさんから聞いたのは、絵本の本当の話。
ドワーフの画家、ゴギゴギ――ゴーギッシュさんと、「こころ」をもつ絵筆が喧嘩しながら仲良しになって、この地方に伝わる「ちいさくてかわいい」という意味の「パフルマフル」って名前を絵筆につけたとか。
あ、パフルマフルって確か…ウーさんが行くって言ってた絵画屋さんの名前と同じだよね…。
それから、絵筆は全ての色を使い果たすと折れてしまうから、全ての色を使う虹を書くのを嫌がったんだけど…結局は虹を描いて、3つに分かれてしまったこととか。
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
ゴギゴギさんの子孫のゴルゴル――ゴルボロッソさんが絵筆の「こころ」=「パフルマフル」を見つけて、一緒に「穂」と「柄」を探したんだけど見つけられなかったこととか。
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
あとはさっきの魔法陣のこと。ハホハホさんはカエルが苦手だって言うから、リコがまだ封印が生きてるか見てこようと思ったの。
そしたら、ライさんが行くところも同じって。
|
■ウーサー To:リコリス
|
ライチとは何処で遭ったんだ? ハホリーナの所に居たのか?
|
■リコリス To:ウーサー
|
ううん、その後でライさんママのお墓のとこで会ったんだよ。
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
ライさんのママは…昔ライさんが小さかった頃、死んだ娘を生き返らせるために「悪魔」と取引をして…カーディスに捧げられる生贄になって、生き返ったライさんの目の前で殺されたって……。
ライさんはそのときのママさんの思いを確かめにきたんだって。
|
■ウーサー To:リコリス、シグナス
|
…………。
長生きしてっと、そんな事が気に掛かってきちまうモノなのか? そんなの、確かめるまでも無ぇだろうによ……。
|
■シグナス To:ウーサー
|
さて、な。俺は幸いな事に両親健在だからな……気になるんだろうなって位しか解らん。
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
魔法陣の封印を乱すために、悪魔は誰かに踏み込んでもらいたかったみたい。
ライさんを挑発して踏み込ませようとしたんだけど…ライさんは冷静になって、立ち去ろうとしたの。
そしたら――
|
リコリスはつらそうな表情になって言葉を詰まらせた。
そして、一度目を瞑り――暫くしてからゆっくりと目を開いて話を続ける。
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
悪魔カエルがリコに魔法をかけてきたの。
リコ、抵抗できなくて……何も考えられなくなって……悪魔カエルが言うとおりに、魔法陣に向かって歩き出したの……。
ライさんが一生懸命止めてくれたんだけど……そしたら……悪魔カエルがリコに怪我をさせて、その血で封印をといてもいいって言い出して。
それがいやならライさんに代わりに来るようにって。
ライさんはリコを守るために……自分から魔法陣に向かって剣を振るうように飛び込んで行ったの……。
|
リコリスはそのときのことを思い出すように目を瞑った。
ライチの言葉がリコリスの脳裏によみがえり…リコリスはぽろりと涙をこぼした。
が、今は泣いている場合ではないと、腕でぐしっと涙を拭き、話し続ける。
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
それで…ライさんが魔法陣に入ったら何かが引き裂かれるような音と血のにおいがして、白い閃光とすごい衝撃波がきて……リコ、吹き飛ばされて………。
気が付いたら、ライさんが魔法陣に倒れてたの……。
|
■シグナス To:リコリス、ウーサー
|
……流石に、遣り方が陰湿だな。まあ、鬱陶しい事に大抵は有効なのがアレなんだが……。
OK、大体把握できた。とりあえず悪魔の相手せにゃ成らんのは確定か。まあ俺も神官だ、腕の一つも鳴りますさな。多分。
|
■ウーサー To:リコリス、シグナス
|
色々と多すぎて良く理解できんが、後腐れなく叩っ斬れそうな相手だって事だな? そうだよな?
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
ライさんがこんなになっちゃったのはリコのせいなの。
だから、絶対にもう一度悪魔に会って、「こころ」取り戻すの!
|
■シグナス To:リコリス、ウーサー
|
ま、そう気張るなや。俺等がやる分無くなっちまうだろ?主にウーサーが。
俺たちゃパーティー組んでんだ、良い事も悪い事も共通共用だぁな。まあ、主にウーサーに回すけど。
|
■ウーサー To:シグナス
|
おいおいおいおい、オレ様がヤバ目担当なのかよ!?
だんびら担いでんだから、女難ばっかじゃなくソッチも担当しやがれってんだ!!
|
■シグナス To:ウーサー
|
うるせぇ!?今回位はお前が女難れ!!
|
■ウーサー To:シグナス
|
いや、お前のレベルはマジでカンベンだ。
勝ち負け以前に、生き残れる自信が無ぇぞ?
|
■シグナス To:ウーサー
|
うわあ俺そんなに崖っぷち!?
|
■ウーサー To:シグナス
|
自覚ナシでいられるってのが、また凄ぇなあ!?
|
ウーサーは立ち止まってライチを片腕でホールドしなおし、空いた腕を伸ばしてリコリスの頭を掴んだ。
そして苦笑を浮かべながら、リコリスの頭をわしわしっと乱暴に撫でる。
■ウーサー To:リコリス
|
随分と気張って情報集めたじゃ無ぇか、子リスにしちゃあよ?
だが、もう一働きしねぇとな……人間舐めるとどうなるかってのをデーモンに思い知らせてやろうぜ、オレ様たち全員でよ!!
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー
|
うんっ、頼りにしてるよ。
リコ、もう魔晶石使わないと魔法かけられそうにないし。
|
ウーサーに頭をガシガシされて面映そうな表情を浮かべるものの、その顔色は精神的疲労が強いのか優れなかった。
■シグナス To:リコリス
|
……そうなると、少し休んだ方が良いかも知れねえなあ。俺も少し魔法使ってるし、相手が相手じゃおっかねえ。
|
シグナスも手早く自身の調査結果をリコリスに話す。
その話が終わる頃には、3人はイチョウ林を抜け、先刻より物寂しく感じられる墓地を 歩いていた。
■リコリス To:シグナス
|
あ、シグ先輩、ここライさんのママのお墓なの。
なんて書いてあるかわかる?
|
リコリスは白い花と黒いハンカチ包みが供えられているライチの母のお墓の前で一旦足を止めた。
■シグナス To:リコリス
|
ん?ああ、お前読めない文字だったのか?OK、ちょっと読んで見るわ。
|
あちこちひび割れた石造りの墓標は、とても古いもののように見えた。
表面にはエルフ語で、『シトラス・ウェスペル』と刻まれている。古い女性名のようだ。
裏面にも同じくエルフ語で、墓碑銘が刻まれていた──
『イーンウェンで生まれし
心優しき精霊使いのためにしるしを置く
彼女が残したたったひとつの宝物は
もう二度と失われることはない
生きることをやめない限り』
|
■ウーサー To:シグナス
|
どうだ? なんか関係ありそうな事とか、書いてあったか?
|
■シグナス To:ウーサー、リコリス
|
関係か……在る様な、無いような。墓碑銘にしちゃメッセージ性が強いな。
|
共通語で墓碑銘を読み上げるシグナス
■ウーサー To:シグナス、リコリス
|
……?
「しるし」? なんか目立つモノでも、置いてあったりしたっけっか?
|
■リコリス To:シグナス、ウーサー、ライチ
|
「生きることをやめない限り」………?
ライさんね……約束してくれたの。
死ぬつもりは無いって……必ず返してくれるって……。
|
ライチの胸元を見つめる。
毛布に包まれた胸ポケットには、リコリスがライチに貸した白いハンカチが覗いていたはずだ。
■墓守のおじさん To:ALL
|
おお、ちゃんと戻ってき……な、ど、どうしたんだね!! 何かあったのかね!?
|
入口付近で落ち葉を掃いていたおじさんが、ライチの姿を見て竹箒を取り落とさんばかりに驚き、駆け寄ってきた。
■リコリス To:墓守のおじさん
|
おじさん……ライさん……ママさんが亡くなった場所に行って……思い出してショック受けちゃったみたいなの。
ねぇおじさん、半年ぐらい前のことになるかもしれないけど、この墓地に普段は町に居ないひとがきたりしなかった?
初めての人か、里帰りしてきた人かはわからないけど……。
|
■墓守のおじさん To:リコリス
|
そうなのかい……かわいそうに。
ふむ……半年くらい前、かい? ちょうどそのころに、レヴィーヤちゃんやナギくんと いっしょに、リュナちゃんが墓地に来るようになったかな。
あの3人はお絵描き友だちでね、よくイチョウ林をスケッチしていたよ。
……ああ、リュナちゃんはオランから来た冒険者だって、言ってたねぇ。
|
■リコリス To:墓守のおじさん
|
そうなんだ〜。おじさんありがと〜。
(リュナナ……、どんな人なのかなぁ?)
あ、そうだ、おじさん。ライさんのママって何時頃亡くなったの?
|
■墓守のおじさん To:リコリス
|
う〜ん? 亡くなった時期はわからないけれども、お墓が建てられたのは90年か100年か、そのくらい前のことだって、先代の墓守から聞いたよ。
おじさんの生まれる前の話だから、はっきりとは言えないけど、その頃に亡くなったんじゃないかねぇ。
|
■シグナス To:ウーサー、リコリス
|
……改めて見るとこのまま街中歩き辛いな。ウーサー、お前先に宿にライチ送っていくか?一応アイゼンも付けとくし。
|
■ウーサー To:シグナス、リコリス
|
……悩みどころ、だな。
ライチが如何して「殺されなかった」かが気になる。ライチの「こころ」が必要なら、肉体は必要無いだろ?
だからって、そんなことができないほど切羽詰ってたとは思えねぇしな……まあ、その辺の判断はオレ様の専門外だから、シグナスと子リスに任せるが。
|
■リコリス To:ウーサー>ALL
|
「殺さなかった」んじゃなくて、「死ななかった」のかも。
ライさん、「生きることを諦めていない」から……。
それに、リコ、ライさんと一緒にいたい。
みんなで一緒に戻ろうよ。
|
■ウーサー To:リコリス
|
いや、ライチを宿に預けるんだったら、リコリスはシグナスと同行して、先に行っとけ。アイゼンの代わりに、ウサギを連れて行ってやるからよ。
オレ様が落ち合う間に、姐さんたちにも情報を伝えとくんだ……余計な時間をかけたら、そのぶん、ライチが苦しむ時間も長引くんだぜ?
|
■リコリス To:ウーサー
|
ん〜……、うん、わかった。
じゃあ、一緒に行けるとこまでは一緒にいこうね。
|
■シグナス To:ウーサー、リコリス
|
OK、それじゃアイゼンは一周り飛ばしてみる。妙なのでも見当たりゃ儲けモンだけど。
|
|