導かれた先
およそ野生のウサギに考えられる全力疾走のスピードで、田舎道を駆け抜けるリボン付き黒うさぎとウーサー、シグナス。
しばらくして「鉄鍋通り」とプレートが貼られた、人通りの無い裏寂しい通りに出た。
通りの遥か向こうには、まばらな黄色が見える。おそらく墓地があるという、イチョウ林だろう。
黒うさぎは、そのイチョウ林のほうへと一直線に駆けていたが──
突然「きょとん」とした表情になって、立ち止まってしまった。
瞳の表情もなにやらつぶらで、とてもあどけない動物的な雰囲気になっている。
■シグナス To:ウーサー
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ッ!? 野生に戻った……?
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■ウーサー To:シグナス
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こいつは……ヤベぇな!?
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■ワンピースの町娘 To:ショートパンツの町娘
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わぁ、かわいい……♪
ねぇねぇ、あんなにころころと太って……シチューにしたら美味しそうじゃない?
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■ショートパンツの町娘 To:ワンピースの町娘
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ちょ、物騒なこと言わないでよ! あの人たちの飼いウサギでしょ、あれ。
ほら、ちゃんと首輪してるじゃない。
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通りの向こう側で、1羽と2人を遠巻きに見ている町娘ふたりが、なにやらひそひそ話をしながら、黒うさぎに熱い視線を注いでいた。
■シグナス To:娘さん達
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やあ、お騒がせして申し訳無い。連れの兎が逃げ出してしまってね、ご馳走は勘弁して欲しいな。
代わりに今度、改めて食事に誘わせてもらうよ。
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■ワンピースの町娘 To:シグナス
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いいえ、結構です♪
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■ショートパンツの町娘 To:シグナス
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間に合ってます。
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生暖かい笑み&若干引いた表情で、即答する2人。
■シグナス To:娘さん達
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それは残念、ではお邪魔は致しませんしお幸せを祈っておきますよ。
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何故か爽やかな笑顔で区切る事が出来たシグナス。
■ショートパンツの町娘 To:シグナス
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…………。
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■ウーサー To:シグナス
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……。
何故、呼吸するよりもナチュラルにそんなフォローが出るのかってツッコミを入れた方が良いのか?
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■シグナス To:ウーサー
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ナチュラルにこう言う方向のフォローを口走る自分に気付き俺は得体の知れない恐怖を感じる訳だが。
ともあれ、直前まで案内されてるんだ、パティ拾ってこのまま墓地まで行こう。下手に別れても危なそうだ……。
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■ウーサー To:シグナス
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墓地、で合ってるのか如何か理解らねぇが……仕方ねぇ、ソレ以外に手がかりが無いワケだしな。
おっと、その前に……。
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ウーサーは黒兎を捕獲すべく、屈み込んで手を伸ばしながら、二人の女性に声をかけた。
愛想笑い(のつもりでいる、威嚇にしか見えないような哂い)ではなく、緊張して顔が引きつっているぶん、いつもよりは男前だ。
一方黒うさぎはさしたる抵抗も見せずに、おとなしくウーサーの手の中におさまった。
■ウーサー To:娘さん達
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すまねぇが、この辺りでハーフ・エルフの娘っ子を見なかったか?
名前はリコリス、自分では「リコ」って名乗るはずで……如何にも頭ン中が、四六時中お花畑みたいになってるヤツなんだが。
で、この黒兎と同じリボンを巻いてたはずなんだが……?
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■ショートパンツの町娘 To:ウーサー>ワンピースの町娘
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ハーフエルフの女の子?
そんな子、いた?
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■ワンピースの町娘 To:ウーサー
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それってもしかして、白銀の髪で、お嬢さまっぽいワンピース着た、とっても可愛い女の子のこと、でしょうか……?
午前中に、この通りを歩いて行くのを見ました。
確か、私とすれ違ったんですから……あっちのほうへ歩いて行ったと思います。
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町娘が指を指したのは、「鉄鍋通り」をこのまま真っ直ぐ行った方向──墓地のあるほうだ。
■ワンピースの町娘 To:ウーサー&シグナス
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と〜っても可愛い女の子だったから、よく覚えてるの……♪
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■ショートパンツの町娘 To:ウーサー&シグナス
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あ、深い意味はないので、気にしないでね。
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ワンピースの町娘の口を塞ぎながら言う。
■ウーサー To:娘さん達
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そ っ ち 方 面 か よ !
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■ワンピースの町娘 To:ウーサー&シグナス
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む〜〜(もごもご〜)
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■ショートパンツの町娘 To:ウーサー&シグナス
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どっち方面だと思ってるのよっ? ともかく気にしないでよね。
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■シグナス To:娘さん達
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あっはっは、それは勿論。(内心:気にシタクネー!?)
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■ショートパンツの町娘 To:ウーサー&シグナス>ワンピースの町娘
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それじゃあ、さようなら。
ちょっと、可愛い子を見たらすぐ新作のモデルにしようとするの、やめてってば。
あたしだってこの寒空にこの格好で、いいかげん寒いんだけど!?
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■ワンピースの町娘 To:ショートパンツの町娘
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だって、あのワンピースとケープ、ちょっと手直しすれば、もっと映えるのに〜。
職人魂が疼いちゃう……♪
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ふたりはなにやら言い合いながら墓地とは反対方向へと去って行き、やがて服飾店らしき看板が下がったお店へと入って行った。
■シグナス To:ウーサー
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と言うか俺は今恐ろしく自意識過剰な真似してるんじゃないかと死にたくなって来たんだが。
……急ごう、あまり考え込みたくねえ。嗚呼ッ、何でこんなとこでまた珍妙な悩み抱えなきゃならんのじゃー!?
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■ウーサー To:シグナス
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…………まあ、アレだアレ。今は悩むより先にカラダ動かしとけってカミサマの啓示だろ多分!?
と、とっとと行こうぜ!!
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黒兎をしっかりと抱きかかえ、娘さん達に一礼してから、ウーサーは墓地に向かって走り出した。
■シグナス To:ウーサー
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……だな、悩んでる場合じゃねえか。
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「鉄鍋通り」を過ぎ、突き当たりの通り──「銀杏通り」に出ると、目の前にはイチョウ林に包まれたひっそりとした墓地が広がっていた。
墓地は黒い柵でぐるりと囲まれているようだ。雨に濡れ、黄色い絨毯をあちこちに作った墓地は、しっとりとした静けさに包まれ、詩的な雰囲気を作り出している。
■ウーサー To:シグナス
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如何にも「出そう」な雰囲気の場所だけどよ……此処、で合ってるのか?
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■シグナス To:ウーサー
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さあな、俺も来たのは初めてだし、正確には解らん。一応アイゼン飛び回らせてっけど……。
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■墓守のおじさん To:シグナス、ウーサー
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おや、こんにちは。
お墓参りかな?
雨とイチョウの葉で地面が滑りやすいから、気をつけるようにね。
夕方には門を閉めてしまうからね。
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入口付近にある小屋で、なにやら帳簿を付けていた墓守らしきおじさんが、ふたりを見ておだやかに声をかけてきた。
■ウーサー To:墓守のおじさん
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いや、ちょいと人探しをな……パーティの仲間で、ハーフ・エルフのリコリスってんだが。
自分じゃあ「リコ」って名乗ってたかもしれねぇんだけどよ、こっちに来なかったか?
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探るように墓守の表情を窺いつつ、静かに声をかける。
■墓守のおじさん To:ウーサー
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リコリスさん? ああ、あのお嬢さんがそう名乗っていたかな。
彼女だったら、ライチさんと一緒に墓地の中にいると思うよ。
ふたりでライチさんのお母さんのお墓参りをして、そのあと「昔のお墓を見てこないといけない」とかなんとか言っていたけど……
もしかして、イチョウ林の奥まで行ってしまったのかね?
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帳簿をぺらぺらとめくりつつ、やや心配そうに表情を曇らせながら答えるおじさん。
■ウーサー To:墓守のおじさん
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林の……奥? 其処には、どんな墓が有るんだ?
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■墓守のおじさん To:ウーサー
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いいや、今はイチョウの木々があるばかりで、お墓は無いはずなんだけれどねぇ……。
遥か昔には、イチョウ林の奥まで墓地が広がってようだよ、という話をしてあげたんだ。
そうしたら、ええと、何だったか……「ハホハホさんに見てくるって約束したから」と言って、確かめに行ってしまったんだよ。
ライチさんも一緒だろうから、大丈夫だと思うんだけれどね。
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■ウーサー To:墓守のおじさん
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ライチも一緒なのか!?
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■墓守のおじさん To:ウーサー
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うん、私はずっとここにいたけれど、彼女も戻ってきてないからねぇ。
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その時、ウーサーの腕の中の黒うさぎがぴんと耳を立てて顔を上げた。
そして腕の中からぴょんと地面に飛び降りると、再びふたりのほうを振り返りながら、 墓地の奥へと一直線に走り出す。
■ウーサー To:シグナス&黒うさぎ
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戻ったっ!?
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一瞬、喜びに相好を崩しそうになったものの。
「いったんコントロールが途切れる」原因が取り除かれたとは限らない、ということに思い至り、気を引き締めなおして黒兎の追尾を再開する。
その頃シグナスの使い魔アイゼンは、先行してイチョウ林の奥まで飛び回っていたものの、何故か著しく集中力を欠いていたようだった。
■シグナス To:ウーサー
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寧ろこっちの接続が途切れそうな気が!?
まあ良いや。向こうも同じ方向に移動してるって見るべきかね、このケースだと。……ま、急ぐ事に代わりはねえか!
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黒うさぎは墓地の敷地内をひた走り、やがて囲いの柵をもくぐり抜けて、町の外にどこまでも広がるイチョウ林へと飛び込んだ。
雨に濡れた黄色い落ち葉と、泥を含んだ地面に何度も足を取られそうになりながら、ふたりは黒うさぎを見失わないように追いかけて行く。
途中、いつもリコリスが肩から提げていた、パティを入れていた肩掛けカバンが地面に横倒しになって置かれていた。
カバンは蓋が開いた状態で、その他に変わった様子は無い。
やがて黒うさぎは足を止め、ふたりを振り返った。
イチョウ林のやや開けた場所に、不揃いなみっつの石が三角形を描くような形で置かれている。
石に囲まれた地面の中央には、半ば地面に埋もれるような形で、1メートル四方ほどの四角い人工的な穴がぽっかりと口を開けていた。
穴の先には石造りの階段が続いており、雨が流れこんでしっとりと濡れている様子が見て取れるが、途中から光が届かず闇に没していた。
穴のすぐそばには、ちょうど同じくらいの大きさの分厚い石の蓋があった。
こびりついた土や枯れ葉の様子から、力任せに地面を引きずるようにしてどかされた── そんな様子が見てとれる。
そして、気になるものが穴の側にもうひとつ。
小石で地面に押さえつけられた、リコリスのリボンが1本。
■ウーサー To:シグナス、黒うさぎ
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……此処だな?
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黒うさぎは迷い無く穴へと飛び込もうとするが、途中で立ち止まってしまう。
まるで暗闇に戸惑っているかのようだ。
■ウーサー To:シグナス
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如何する? オレ様が先に下りるか?
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金属鎧を置いてきていることを若干後悔しつつ、階下の気配を窺う。
■シグナス To:ウーサー
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んや、俺が先に入った方が良いだろ。アイゼン付けとくから肩にでも止めといてくれ。
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シグナスは「ライト」を自分のダガーに付与し、明かりを確保。
照らされた内部は、下り階段がしばらく続いた後、途中から左に弧を描くようにして折れているようだ。どうやら狭い螺旋階段になっているらしい。
明かりがつくと見るや、黒うさぎは迷わず階段に飛び込んで行く。
黒うさぎ、シグナス、ウーサーの順で、慎重にらせん階段を降りて行く。
ひとりずつ下りるのがやっとな狭さと、しんと静まり返った静寂さ。
消しようのないふたりの足音だけが反響して聞こえている。
かなり深いところまで下りてきたはず──そう感じ始めた頃、ようやく階段が途切れ、目の前に広い空間が広がった。
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