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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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静寂のなかで



  イーンウェン・イチョウ林/地下

リコリスがふと我にかえったその瞬間、冷たい地下室は耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。
床に倒れ込んだ体勢のままの身体は、勢い良く打ち付けたのか、動かそうとすると痛い。
目の前には「ライト」が付与された小石、白く殺風景な壁、そして散乱したままの羊皮紙。
■リコリス
………。っ! ライさんっ!

身体の痛みに耐えながら起き上がり、あたりを見回すと、魔法陣の中でライチがうつ伏せに倒れていた。
黒い外套と皮鎧には、細かく切り裂かれたような痕が無数についているようだ。──イザナク、あるいは漆黒のカエルの姿は、どこにもなかった。
■リコリス To:ライチ
ライさんっ、ライさんっ、大丈夫? しっかりして!

リコリスはライチに走りより、側に跪いて様子を確かめる。
ライチは目を閉じ、浅い呼吸を保ちながら気絶していた──無数の細かい傷からは出血もしており、床には血飛沫が飛び散っていたが、幸い血が止まらないほどの深い傷はなかったようだ。
彼女が握っていたはずの曲刀は、左手から消えている。よく見ると腰に提げていた鞘も無くなっていた。
■リコリス To:パティ
パティ、ウーさんとシグ先輩ここまで連れてきて。
あと、力を借りるよ。

リコリスは心の中で、使い魔パティに呼びかけた。
■リコリス To:ラーダさま
(神聖語)ラーダ様、お願い、ライさんの傷を癒して

胸の聖印に手を触れ、神に祈りを捧げる。
優しい光がライチの身体を包みこみ、無数に受けていた浅い傷はすべて塞がれた。
■ライチ
……。

まるで淡い光に反応したかのように、うっすらと瞼がひらく。
だが、その瞳、その表情にはまったく生気を宿していなかった。
まるで魂を抜かれた人形のように、何の感情も宿していない瞳で、どこともつかない虚空を見つめ、ぴくりとも動こうとしない。
■リコリス To:ライチ
ライさん? ライさんどうしたの? しっかりして!
ライさん、ねぇ、ライさんっ!

ライチにすがりつき、その身体をゆさぶる。
■リコリス To:ライチ
まさか…あの悪魔が「こころ」持ってっちゃったから?
ねぇ、ライさん、返事してよ。ライさんっ!

■ライチ
……。

ライチは揺さぶられるがまま、何の反応も示さない。
ときおり弱々しく、ゆっくりと瞬きをするのみだ。
起き上がろうという意思も感じられない──ただ静かに、浅い呼吸だけを繰り返していた。
■リコリス To:ライチ
あ……、ライさん、シグ先輩とウーさんが入り口まで来てくれたよ。
起きられる?

ライチの首の後ろに腕を差し入れ、肩を支えるようにその上体を起こしてみる。
上体だけならリコリスにも支えられるが、全身にまったく力の入らないライチの体を動かすことは無理そうだ。
そして背中側から座ったリコリスの身体全体で支えるように抱きしめた。
■リコリス To:ライチ
ライさん、ごめんなさい。ごめんなさい。
リコがあの悪魔の魔法に抵抗できてたらっ!
…………。
必ず「こころ」取り戻すから。待っててね。
そして、ライさん自身に謝らせてね。

■ライチ
……。

ライチの身体をぎゅーと抱きしめる。
そして片手でライチの身体がずれ落ちないように自分にもたせかけて支えると、もう片方の腕で涙をぐしぐしふき取った。
■リコリス To:ライチ
シグ先輩たちがくるまで、もう少し待ってようね。

いたわるような目線をライチに向ける。
そして、ようやく、少し余裕が出たのか、周りを見回した。
■リコリス To:ライチ
悪魔カエルはどっかいっちゃったみたい。
魔法陣は…もう働いてないのかな?

ライチの侵入によるものか、それとも血飛沫によるものだろうか。
施された落書きと合わせて考えても、魔法陣の乱れは限界だったように思えた。

リコリスは、催眠状態に置かれていながらも、聞こえていた情報を思い出していた──
白い閃光が止んだ後、静かにゆっくりと去って行くひとつの足音があったことを。
それは階段を上って行き、やがて聞こえなくなったのだ。


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GM:ともまり