SW-PBMトップへ
Scenario Indexへ
SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

 このシナリオのトップへ ←前のページ   次のページ→ 

公園にて



  イーンウェン・白波公園

バスケットを片手に、若干足取りが軽いように見えるリュナ。
その後を案内されるがままにウーサーがついていく。
鎧は脱いできたものの、鎧の中にまで流れ込んでいた流血のごとき赤と、髪の毛や顔にひっかかった返り血のごとき赤は落としようもなく。
■通行人 To:ウーサー
……(ざわ……ざわ)……

道行く人々に否応無しに注目を浴びるのだった。
だが、リュナの方はそんな人々の痛い視線など、これっぽっちも気にしていないといった様子でマイペースに歩いていく。
■ウーサー To:心の声
(この嬢ちゃんも、剛毅なんだか無神経なんだか……とはいえ今は、頼もしくて助かるぜ)

港の匂いが再び濃くなってきた頃、ひときわ賑やかな大通り──「白波通り」に出た。
人波を避けつつしばらく歩くと、雨に濡れて鈍く光るモザイクのアーチと、モザイク壁画が施された塀に囲まれた公園が、雨の向こうに見えてきた。
■リュナ To:ウーサー
ここだ。
知ってるか? 海竜祭のイベント。
この公園で明日から始まる。

アーチをくぐり、公園に歩み入りながらリュナが尋ねてくる。
かなりの広さを持つ敷地内には、大小さまざまでカラフルな色合いのテントがたくさん生えていた。
そして広場の中央には、ひときわ大きく派手なテント。
その入口にはなぜか行列ができており、ただの板に殴り書きしただけの粗末な看板が立てかけられていた。
曰く──
『No.1は誰だ! 第2回イーンウェン熱闘武道会』
 優勝賞金は2000ガメルと幸運のお守り!』
■ウーサー To:リュナ
いや、これっぽっちも知らなかったぜ! 2000ガメルってなぁ、また凄ぇな!
明日から、か――あとで、レギュレーションの確認しておくか!
ん? 海竜祭りってなぁ、何だ? この大会が「第2回」ってこたぁ、最近始まった祭りなのかよ?

■リュナ To:ウーサー
海竜祭は昔からあって、武道会は去年から始まった、って聞いた。
1年に1回、大漁を祝う祭りで、いろんな店も出るって。
リュナも、見るのは初めて。

キョロキョロとあたりを見回すリュナ。
軽食やお菓子などの露店も多数あるようだ。
■ウーサー To:リュナ
へえ、そりゃあ珍しいな? このテのイベントってなぁ、なんかきっかけが無いとやらねぇモンじゃねえのか?
まあ、そいつも後でついでに、聞いてみりゃあいいか……。
あと、『幸運のお守り』ってなあ、どんなモンなんだ? 本年度のミス・イーンウェンの、祝福のキスでも貰えるってか?

■リュナ To:ウーサー
……うさぎ、そういうのが好きなのか。

何となくぼそりと低い声で。
■ウーサー To:リュナ
ん? ああ、別にミスコンの優勝者じゃなけりゃ嫌だってワケじゃねえぜ?
お嬢ちゃんみてぇな可愛い子なら、オレ様としちゃあ大歓迎だがな。

リュナに「からかわれた」と思い込んだウーサーは、こちらもからかい返してやろうと、にやりと哂いながら返した。
■リュナ To:ウーサー
……子ども扱い、してる。

あからさまに不機嫌な表情になって、むすっとそっぽを向いた。
■リュナ To:ウーサー
「幸運の白い馬」の、尾っぽだ。
お守りとして持ち歩いていると、1年間幸運に恵まれる、って言われてる。

■ウーサー To:リュナ
……白い……馬?

なんだか、どこかで聞いたような単語に眉をしかめたものの。
「あとで詳しく聞いてみよう」とばかりに、とりあえずは疑問の念を向こうに追いやっておく。
■ウーサー To:リュナ
そういやあ、今日は此処でナニを描くんだ?
なんなら手伝うぜ? ほら、脚立代わりとかよ。

そう言ってウーサーは、「肩車」をしているポーズを取ってみせる。
■リュナ To:ウーサー
……ば、ばか……

そんなの必要ないっ。
ちゃんと地面に降ろして描くんだ。

なぜかわずかに赤くなった顔で否定した後、つかつかと大きいテントの方へ。
■実行委員 To:リュナ
お? おお、リュナちゃん! 待ってたんだよ。
いや〜、即席のきったない看板じゃサマにならなくてな〜。
一発派手でご機嫌なデザインの看板を、どーんと描いてくれよ!

リュナの姿を見つけた実行委員らしきおじさんが、入口の看板をぺしぺしと叩きながら言った。
■実行委員 To:リュナ&ウーサー
こっちの絵の具持ちの彼は、助手さんかい?

■リュナ To:実行委員
そう。うさぎ。
あと、リュナとうさぎで武道会に出る。

さらりと。
■ウーサー
…………?
……??
………………???

あまりにも唐突かつナチュラルな宣言に、たっぷり十秒ほど首を左右に傾けまくった挙句。
■ウーサー To:リュナ
あ゛あ゛!?

ウーサーは、街中に轟けとばかりに絶叫した。
そのリアクションに実行委員はびくぅっ!っと飛び上がり、一方リュナは三角帽子が声の勢いで飛ばされないよう押さえていた。
■ウーサー To:リュナ&実行委員
え、ちょ、あ、あああっ!? お、おいちょっとまて、この大会2on2なのか!?
いやそれ以前に、えー、えー!? ちょ、おいおいおいおい! お嬢ちゃん、怪我したらどーすんだよ!? あ、いや違う違う!!
なっ、なんでオレ様がお嬢ちゃんと一緒に出る事になってんだ!?
だいたいオレ様はまだレギュレーションとか試合方式とか、そのへんだって聞いてすらいねえんだぞっ!?
あ、いやまあ、武道会に出るってのは吝かじゃあねえんだがよ!?

■リュナ To:ウーサー
賞金、2000ガメル。
これだけあればベルダインへ行ける。

ウーサーに向かってぶいっとVサインを送る(無表情で)。
■ウーサー To:リュナ
そ、そりゃあ行けるだろうがよぉ!?
「武道」会じゃなかったのか?! お前、剣技とか如何なんだよ!?

■リュナ To:ウーサー
ぜんぜん。

ふるふると首を振る(無表情で)。
■ウーサー To:リュナ
お、おおぉいっ?! 駄目だろそりゃあっ!?

■実行委員 To:ウーサー&リュナ
あー、1対1の部門とですねぇ、魔法使いと戦士の組み合わせで2対2の部門と、2種類あるんですよねぇ。
リュナちゃんは後者の方で出たいと。なるほどなるほど。
いやぁ、お兄さん強そうだし、リュナちゃんもなかなかの使い手だって聞くし。
こりゃあとんでもない台風の目になりそうだ!!!

興奮してしゃべくりまくる実行委員。
■ウーサー To:リュナ&実行委員
…………いや、まあそりゃあな?
そこまで期待されてるってんなら出るよ、出るがよ? 正直、嫌いじゃあ無ぇしな……。 まさか、決勝の相手がソルとイェンスとか、姐さんとリコリスとか、シグナスとライチとか……なんてこたぁ無ぇだろうなあ?

やれやれ、と渋面を作って首を振りながらも、目に宿る光はとてつもなく嬉しそうだ。
■ウーサー To:リュナ&実行委員
じゃあ、オレ様も後で登録させてもらうぜ。リュナのパートナーの重剣士ってな。
名前はウーサー・ザンバード……うさぎじゃねえぞ、いいな? うさぎじゃねえからな!?

■リュナ To:ウーサー
うさぎのほうが可愛い。

■実行委員 To:ウーサー&リュナ
え、ええと……どっちの意見を尊重すればよろしいので?
じゃあとりあえず、中間を取って「ウサウサ」ってことにしときましょうか! ねっ!

■ウーサー To:実行委員
あ゛ー待て! じゃ、じゃあ……ええいもう、「うさぎ」でいいよ「うさぎ」でっ!!
リュナ&うさぎ、とでもしときやがれっ!!

■実行委員 To:ウーサー&リュナ
はいはい、では「リュナ&うさぎ」……と。

実行委員はさらさらと手元の名簿らしきノートに走り書きをした。
登録完了。
■ウーサー To:リュナ
さて、と……じゃあ明日に備えて、連携の相談なんかもしなきゃならねえよな?
お嬢ちゃんの仕事を終わらせてもらって、試合のルール聞いて、それからおやつ食べながらでも作戦会議といこうぜ?

■リュナ To:ウーサー
うん。
看板描いてるあいだ、ルール聞いとくといい。

リュナはぴくぴくと耳を動かしながら、絵の具の缶を地面に置いてもらうと、素人くさい殴り描きの板をはずし、地面に置いた。
そしてショルダーバッグから大きな刷毛を取り出すと赤の絵の具に突っ込み、板を大胆に塗りつぶしていく。
■実行委員 To:リュナ&ウーサー
ああそうだ、そしてこれ、武道会のルールです!
よ〜っく読んで、ケガの無いようにしてください、ねっ!

実行委員はふたりに何枚かの羊皮紙の束を渡した。
大会のルールがびっしりと書かれている──


   2on2部門(魔法使い&戦士)

   ・トーナメント制(3回勝ち抜きで優勝)
   ・戦うのは戦士同士のみ
   ・魔法は味方にのみかけることができる(相手や空間にかけてはならない)
   ・呪歌のみ、相手にかかっても許可される
   ・装備制限一切無し(二刀流もOK)、ただし鞭や飛び道具は使用不可
   ・攻撃は寸止めで行うこと
   ・有効打を先に3回出した方が勝ち

■リュナ To:ウーサー
うさぎ、勝てそう?

作業する手を止めることなくリュナが尋ねてくる。
■ウーサー To:リュナ
遣るからには勝てる方法を見つけるってぇのが、剣士としての最低条件だぜ……とはいえオレ様の場合、このレギュレーションで「有利」に勝ち進む為にゃあ、ちょいと手持ちの装備に難があるな。
タダの斬り合いだってんなら、盾持って体当たりして、こけた所を鞭で絡めて、そのあと一気に叩きのめすってぇのを考えてたんだが……そうだな。やっぱりオレ様のあの「鎧」、アレが重過ぎるのが、一番のネックなんだが……。

ウーサーは早くも、明日の装備に思いを巡らせ始めていた。
■リュナ To:ウーサー
鎧、血まみれになってるし。

続いて黄色の絵の具を看板に塗ったくり始める。
■ウーサー To:実行委員
なあ、魔法を試合開始『前』に、戦士や魔法使いに付与しておくってのはアリか?
それともやっぱり、開始と同時に動き出せってのが、最低条件だったりするのか?

■実行委員 To:ウーサー
それはもちろん、試合開始のゴングが鳴ってから、ですね。
魔法の付与も含めての試合ですから。そのあたりは平等にしておかないと!

■ウーサー To:実行委員
あ、それともう一つ……いや、大会のルールとは何の関係もない質問なんだけどよ。
大会賞品の「幸運のお守り」ってなあ、どんなモンなんだ? 形とか、由来とか、故事来歴っぽい何か、とかは無いのかよ?

■実行委員 To:ウーサー
お守りですか? 白い馬の尾っぽですよ。こう、束ねて房のようにしてあります。
もともとはハホリーナさんが飼ってた馬なんですけどねぇ。
真っ白な馬は縁起がいいってんで、オマケ的な意味で賞品として使わせてもらってるんですよ。
ベルトに結わえつけてアクセサリーとして見せたり、こう、頭にくっつけて「つけ毛」的に使ってもとってもオシャレ! どうですか!

■リュナ To:実行委員
かっこわるい。

リュナは「お守り」に興味は無いようだ。
■ウーサー To:実行委員
「つけ毛」ったってなぁ、色が合わなきゃ意味無いだろ……ハホリーナ?
ちょいとその婆さん探してたんだが、明日の試合の観戦とかには、来たりすんのか?
いやまあ明日でなくてもよ、今日は何処に居るのか、とかでも構わねぇんだが。

■実行委員 To:ウーサー
いや、彼女はめったに人前に姿を表しませんからねぇ……馬をこちらで、お預かりしているだけですよ。
何しろ彼女の「葉隠れ屋」に遭遇しただけで、幸運だ!と言われるくらいですから!

■ウーサー To:実行委員
成る程な……まあ明日、頑張ってみる方が早そうだな。
ああ済まねぇな、変なこと聞いてよ?

■リュナ To:ウーサー
できた。

ウーサーと実行委員の話が終わる頃には、武道会の看板が出来上がっていた。
燃え上がるような炎をモチーフにデザインされた派手なものだ。
しかしセンスのいい文字の入れ方や仕上げの完成度の高さは、リュナの絵描きとしての実力を存分に物語るものだった。
■ウーサー
……へえ。
こりゃあ……好いな、うん。イカシてるぜ。

■リュナ To:ウーサー
お仕事、これで終わり。
おやつ食べよう。

ふたりは雨を避け、秋色に色づいた木々の下のベンチへと移動した。
リュナがタオルを取り出し、ぱっぱっとベンチの雨粒を払う。
そして足をのばしたり曲げたりしながら、膝の上のバスケットを見つめた。
■リュナ To:ウーサー
開けてもいいか?

■ウーサー To:リュナ
ああ、いいぜ。
だが、見てくれは良く無ぇし、味だって保障はしねぇからな?

ウーサーはリュナの態度に思わず顔をほころばせつつ、調理道具の一部を取り出し、ベンチの片隅に並べ始めた。
■ウーサー To:リュナ
煎れてきたホットチョコレート、温めなおしてやるよ。
何分もかからねぇが……まあ、いいぜ。先に焼きリンゴからでも、つまんでてくれ。

■リュナ To:ウーサー
うん。
いただきまーす。

リュナはそっとバスケットを開けると、目を輝かせてしばし硬直。
そのまま宝物にでも触れるような仕草で、そっと焼きリンゴを取り上げると、ぱくっと一口。
■リュナ To:ウーサー
……
…………
……………………
おいしい。

夢見るような表情。
リュナの肩に乗っていたスクワイヤが、まるでマタタビでも嗅いだかのように腰砕けになってずるずると滑り落ちてきた。
■リュナ To:ウーサー
……でも、砂糖、砂糖。

いきなり荷物から砂糖の袋を取り出そうとするリュナ。
■ウーサー To:リュナ
おいおい、十二分に甘くしたはずだぜ? よっぽど甘いモノ好きな舌なんだな!
味付けなおしの好みに文句言うつもりは無ぇが、今からそんなに甘さ増してたら、キッシュとホットチョコレートとのバランスが……。

愛らしいリュナの表情に、胸の奥でもきゅもきゅするモノが沸き立ってくるのを感じつつ。
ウーサーは彼女が口をつけた焼きリンゴに目をやった。

カラメリゼの層にクロスの焦げ目模様を入れたのが、リュナ向けの「アルコールを抑えた」ほう。
模様を入れていないのが、自分用の「アルコールを効かせまくったほう」なのだが――
■リュナ To:ウーサー
う〜
じゃあ、がまんする。
早く、うさぎも一緒に食べよう。

──運良く、焦げ目がある方を引き当てていたようだ。
バスケットの中で待ち構えているキッシュも早く味わいたいのか、せかすようにベンチをてしてし叩いた。隣でスクワイヤも同じ動き。
■ウーサー To:リュナ
わかったわかった……ホレ、そろそろいい按配だぜ。
でもって、コイツを垂らして、と……。

リュナの予想以上の「砂糖好き」を鑑みて、クランベリーのシロップは、ほんの一滴だけ落とす。
ウーサーは仄かにベリー系の香りが漂うホットチョコレートのカップを差し出して、続けて自分の分も用意した。
■ウーサー To:リュナ
さて、じゃあ食うか! あ、オレ様はそんなに腹減って無ぇからな。リュナは、好きなだけ食っていいぜ?

こくんと頷き、すてきな香りに包まれて上機嫌のリュナ。
しっとりとした空気に包まれた公園で、「仕事」を忘れさせる穏やかなひとときが過ぎていく……。


 このシナリオのトップへ ←前のページ   次のページ→ 

SW-PBMトップへ
Scenario Indexへ
SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

GM:ともまり