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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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ギャラリー・ハプルマフル



  イーンウェン・ギャラリー・ハプルマフル

リュナが向かった先は、周囲と比べてもひときわ古ぼけた壁の、こぢんまりとした1階建ての建物だった。
塀が取り囲む敷地の広さからして、建物の向こう側には庭もあるらしい。
入口にはパレットの形をした看板がぶら下がっており、『ギャラリー・ハプルマフル』と掘られていた。
■ウーサー To:リュナ
……え? あ、あのよぉ……此処、なのか?

■リュナ To:ウーサー
ここだ。
上がれ。茶ぐらい出るぞ。

三角帽子を脱いで、ぱっぱっと雨粒を払い落としながら言う。
■ウーサー To:リュナ
お、おお……?
じゃ、じゃあちょっくら、上がらせてもらうぜ……?

リュナに続いて中に入ると、真っ白い壁に包まれた室内は、まさにギャラリーだった。
ゆったりと間隔を置いて、大小さまざまな絵画がセンスよく飾られている。
部屋の真ん中に置かれた丸テーブルに座るよう案内したリュナは、ほどなくして表面にモザイクが貼られたカップをふたつと、タオルを持って戻ってきた。
■リュナ To:ウーサー
飲め。使え。
絵の具を練る前に、リュナもちょっと休む。

ホットチョコレートが入ったカップを無造作にどん、と置くと、タオルをウーサーに差し出した。
絵の具は落ちないが、雨で濡れた頭くらい拭けということらしい。
■ウーサー To:リュナ
おお? あ、こりゃあすまねぇ。
悪いが、ちょいと使わせてもらうぜ。

ウーサーはタオルを受け取ると、雨粒を手早く拭い落とした。
そして、カップに口をつけて少しずつ啜りつつ、あらためて室内を見回してみる。
■ウーサー To:リュナ
なあリュナ。お前さん、此処ん家の子なのか? 店主の孫とか、娘さんとか?
(や、やべえなこの甘さは……薄めるか? ナッツのフレーバーでも入れるか? いや、いっそスパイスでも利かせて……とりあえず、ベースは黒コショウか?)

くどいほどに甘すぎる中身に辟易しながらも、温かさが有り難くてなんとか飲み込んでいく。
■リュナ To:ウーサー
アルバイト。
この町は平和すぎて、冒険者やってても儲からない。
たまに来る客の相手をしてお会計するだけだから、楽。
絵、好きだし。

リュナはカップを口に近づけてふーふーした後、無表情でこくこくと飲む。
目元が緩んだ。満足そうだ。
■リュナ To:ウーサー
うさぎも冒険者か? どこから来た?

■ウーサー To:リュナ
ん? ああ、オレ様はオランから来た。まあ、生まれはベルダインだが……。
いまどき「重剣士」なんて言ってもよ、メシの種にできるような場所なんざぁ、とことん限られちまうご時世だからな。だから「冒険者」になって、剣の修行しながら依頼受けてるってワケさ。
まあ、嫌いじゃあないしな。依頼受けてこなして、依頼人を喜ばせてやる、ってのはよ……。

ウーサーは少し気鬱がちになりかけた思考を、ホットチョコレートの舌を破壊しそうな甘さで中断させた。
■リュナ To:ウーサー
ベルダイン、芸術の国……。
一度行ってみたい。

リュナも半年前にオランから来た。
ここが居心地よくて、気に入って、ずっといる。

■ウーサー To:リュナ
ベルダイン、なぁ……確かに、芸術の国だがよ。ちょいと裏路地に入りゃあ夢破れた飲んだくれが、履いて捨てるほどいる国だぜ?
綺麗なモザイク壁の下にゃあ、砂交じりの漆喰があるもんだってな……。

■リュナ To:ウーサー
……それでもいい。この目で見てみたい。

憧れに満ちた瞳で、カップの外側のモザイクを撫でている。
■ウーサー To:リュナ
そうかい? まあ、縁があってベルダインで会えたら、いろいろ案内してやってもいいぜ。
なんせオレ様はよ、他の連中とは「目の付け所」が違うからな? ちょいと刺激的だったり、穴場だったりするかも、だぜ?

■リュナ To:ウーサー
普通のも案内しろ。

語尾に被せる勢いのツッコミ。しかし声になんとなく笑いが含まれていたような気がするのは気のせいだろうか? 気のせいかもしれない。
■ウーサー To:リュナ
へいへい。

ホットチョコレートをなんとか飲み終え、ウーサーはぐるりと室内を見回した。
■ウーサー To:リュナ
そういやあ、さっき「付き合え」って言ってたよな?
言っておくがオレ様にゃあ、絵心なんざぁこれっぽっちも無ぇぜ?

■リュナ To:ウーサー
別にいい。缶を運ぶのを手伝ってくれれば。
公園に着くまでずっと持ってると、それなりに重いから。
そこで、看板を作る仕事がある。

ホットチョコレートをぐいっと最後まで飲み干すと、すっくと立ち上がった。
そして部屋の奥、工房とおぼしき場所まで行き、エプロンを身に着け始める。
■リュナ To:ウーサー
絵の具が出来たら出発。
絵でも見て待ってろ。

戸棚から道具を取り出し、顔料と油を練り上げる作業を始めるリュナ。
言葉はそっけないが、身体が温まったせいなのか口調は柔らかかった。
その作業を暫くの間、遠目に見てはいたものの、素人が手伝って邪魔をしても悪いと思ったウーサーは、暇潰しを兼ねて室内の散策を始めた。
とはいえ、絵になど興味が沸くわけもなく。
至極自然な動作で、リュナがホットチョコレートを作ってきたと思しき方向に目をやっていた。
■ウーサー To:リュナ
なあ、嬢ちゃん。どうせその作業、時間掛かるんだろ?
あったかいモノ飲んだら、胃が開いてきちまった。
ちょいとキッチン借りてもいいか? 仕事後のオヤツ、作ってやっからよ。

■リュナ To:ウーサー
……おやつ。

リュナの耳が動物的な動きでぴく、と動いたような気がした。
肩に乗っていたスクワイヤがぴょんと床に飛び降り、ぐるぐる声をならして転がり始めた。
■リュナ To:ウーサー
時間、かかるか?
それならリュナは、ゆっくり作る。
運び手が増えたから、緑も青も作る。
だから、ゆっくり作っていい。

心なしか輝きを増した瞳で、びしっとキッチンの奥を指さす。
狭くて古ぼけたキッチンの棚には、籐籠に山盛り積まれたリンゴがあった。
おそらく、来客に出すためのものだろう。
■リュナ To:ウーサー
あのリンゴも使っていい。

■ウーサー To:リュナ
お、有難うよ。あと、リンゴ以外にも適当に見繕って、材料使っちまってもいいか?
なんなら、あとで材料費くらいはオレ様が出すからよ。

■リュナ To:ウーサー
気にしなくていい。経費で落とす。

■ウーサー To:リュナ
おいおい、あとで怒られても知らねぇぞ?

言いながらウーサーは、装備の類を外して身軽になり、キッチンに移ってざっと辺りを観察した。
火を入れたオーブンに時折手をかざし、オーブンの「癖」を確かめながら、器具や材料を準備していく。
■ウーサー
ええっと……お、卵とミルクか。あとは、オレ様の手持ちの食いモンだな……。
……。
よし。
じゃあ「りんごとベーコンのキッシュモドキ」とでも行ってみるか? それと……ホットチョコレートだろうな、やっぱり。
生地は……さすがにイチから仕立てる時間は無ぇか。じゃあやっぱり、コイツで代用してっと……。

力任せに手早く砕いていった保存食の固パンにミルクと、これまた力任せに絞りあげたリンゴ果汁をベースにした調味料を染み込ませて、即席の生地代わりに仕立てる。
そこに、ベーコンと野菜代わりのリンゴを炒めた具に、卵とクリームを混ぜたものを流し込み、オーブンへ。
■ウーサー
……まあ、こんなモンだろ。とはいえ、ちょいと味気無ぇか?
じゃあ、付け合せも仕込むか。

リンゴの甘さにベーコンの塩味を絡めさせ、さっぱりとした後味を狙ったキッシュ風のパイを焼き上げている間に、表面をキャラメリゼさせた焼きリンゴも準備する。
ただし半量は、ウーサー好みにたっぷりの酒で下味を付けたもの。もう片方はリュナ向けに、ほんの香り付け程度のリキュールを染み込ませただけのものだ。
■ウーサー
おっと、あとはホットチョコレートの仕込みだった。
現地で温めなおすってコトを、計算に入れて仕立てねぇとな……。

自分なりのレシピよりも、リュナの好みを意識して「かなり甘め」に作ったせいで若干クセが出たが、まあ許容範囲だろうと割り切っておく。
さらに、戻しておいたクランベリーをベースに甘酸っぱいシロップも作った。これは現地で好みの量を加え、どうしても甘さが目立ちがちなメニューにメリハリを加えさせるためだ。
■ウーサー To:リュナ
……ふう。なんとか、サマにゃあなったかな?
お〜い嬢ちゃん、準備できたぜ! そっちはどうだ?

■リュナ To:ウーサー
終わった。
いつでも出発できる。

いつのまにかリュナは4つ分の絵の具──無事だった黄色と作り直した赤、そして新しく作ったらしい青と緑──の入った缶を準備してテーブルについていた。
■リュナ To:ウーサー
おやつ、これに入るか?

白いリボン付きの可愛らしいバスケットのふたを開け、差し出してみせた。
■ウーサー To:リュナ
お? 可愛いバスケットだな……コレ、店の備品とかじゃあ無ぇだろうな?
だが、これだけの大きさがありゃあ、まあなんとかなりそうだぜ。待たせてすまなかったな、それじゃあ行くか?

できるだけリュナに中身を見せないようにおやつをバスケットに詰め、手早くキッチン周りを片付けたウーサーは、だいぶ量を増やした缶を前にしてすこしだけ悩んだ。
そして結局、ペンキ塗れのままの鎧と盾は諦めることにする。
ウーサーは大剣とケースに入れた弓矢を担ぎ、ショート・ソード二振りとボーラを身につけた。未だに慣れない皮鎧は、きっぱり諦めて身につけずにおく。
■ウーサー To:リュナ
待たせてすまなかったな。それじゃあ、そろそろ行くか?

■リュナ To:ウーサー
うん。
……うさぎはこれを持て。

リュナはずいっと4つの缶すべてをウーサーの方へ押しやった。
そして自らはおやつ入りのバスケットを大切そうに持ち、すたすたと出口へ。
スクワイヤが「ミャゥ」と甘えた声を出して、バスケットにまとわりつきながら、なかから漏れてくる魅惑的な匂いに鼻をひくひくさせていた。


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GM:ともまり