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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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誘うもの



  イーンウェン・イチョウ林/地下

イザナクは、投げかけられたふたつの問いかけを吟味するかのように目を閉じ、再びゆっくりと目を開いた。
■イザナク To:ライチ
いいでしょう。ではその質問に答えたら、僕の用事も済ませるとしましょうか。

答えは……どちらもYesです。
ただし、「蘇り」が我が神カーディスの力によるものだということは、残念ながら、死の直前まで気付かなかったようですけどね。

■ライチ To:イザナク
……そうやって……邪神に捧げる魂を……まんまと手に入れたというわけ?
母の無惨な最期の姿を、私に見せつけながら……!

ライチは押しとどめようとするリコリスの手を勢い良く振りほどくと、剣の柄に手をかけた。
■イザナク To:ライチ
僕はあなたの「命の恩人」ですよ。
方法はどうあれ、あなたのお母さんの願いを聞き届けたのですから、僕に刃を向けるのはお門違いではないですか?
それとも……その命が汚らわしいと感じるなら、僕の手で破壊してあげてもいいんですよ。

ぞっとするほどの優しい笑みを浮かべながら、カエルの前脚のままの両手を左右にゆっくりと広げた──と同時に、イザナクを封じる「魔法の力場」が、徐々に歪んで行くような気配が広がっていく。
■リコリス To:ライチ
ライさん、あの魔法陣が生きている間は外からの攻撃は阻まれるけど、中から魔法をかけることもできないの。
まだ少しなら魔法陣ももつと思う。
一旦外に出て、シグ先輩やウーさんと合流しよっ。
今パティがこっちに向かって案内してきてるから。
どうせ戦うなら確実に勝てる方法で挑もうよ。
それとも、どうしても今戦いたい?
それなら、リコ、全力で援護するよ。
あと、今の相手の強さはね――

ライチの側に寄り添うように立ち、小声で本で読んで知っていたイザナク=デーモン・ラハブルの強さを伝えた。
■リコリス To:ライチ
それにね、あのデーモン、自滅を誘うのを好むの。
今はライさんを怒らせて、あの魔法陣に踏み込ませて魔法陣の力を弱めることで、あそこから出ることを狙っていると思う。
相手の思惑に乗せられちゃダメだよっ!

■ライチ To:リコリス
……ふたりが、来るの……?
ダメ、だよ……私が……私自身の手で、決着をつけなきゃいけないことなのに。
誰にも知られたくなかった……本当は、リコ、あなたにだって……。

悔しさとやりきれなさを両方の瞳に浮かべて、ライチはきつく握りしめていた力を緩め、剣の柄から手を離した。
そして、自らを落ち着かせるかのように、大きくひとつ息を吐く。
■ライチ To:イザナク
……どうやら、自分の力を過信していたみたい。
今の私じゃ、到底敵いそうにない……ね。今のうちに退散するよ。

…………。
たとえ邪神にもらった命でも……母の祈りが込められているなら、私にとっては大事な……贈りもの。
必ずお前を封じる方法を見つけ出して、もう一度ここへ――

■イザナク To:ライチ
いいえ。僕の用事が、まだ済んでいませんよ。
あなたではなく、あなたの「剣」に用があるのです。
それからついでに……あなたに宿る「こころ」にも。

イザナクは両手を再びローブの中へ滑り込ませ、周囲の空気の動きが静まったのを確かめてから、リコリスに視線を移す。
■イザナク To:リコリス
リコ。
僕は直接他者を傷つけることは好みません……じっとしていればすぐ済みますから、抵抗しないでくださいね。

■ライチ To:イザナク
――! やめろ、リコに手を出すな!!
心よ、雑念を呼べ!

ライチはリコリスを庇うかのように半身前に歩み出し、反射的に精霊語を紡ぎ出していた──相手の魔法への集中力をかき乱すために。
しかし、その力はイザナクには届かなかったようだ。
相手は相変わらず落ちついた姿で、ただ微笑みを宿したまま立っている。
■リコリス To:ライチ
ライさん、逃げて!
ウーさんとシグ先輩はまだ離れたとこにいるの。
リコに何かあってもまずは逃げて!
大丈夫だよ、あの悪魔は無駄な殺戮を好まない。
誰も居ないとこでリコを殺すよりも、必ず戻ってくるライさんたちを待って何かすると思う。
今ライさんになにかあったら、相手の思う壺なの。
あいつの思い通りに事を進ませちゃダメだよ!
リコはライさんの足手まといになるためじゃなくて、ライさんを守るためにきたんだから!

■ライチ To:リコリス
……っ、そんな、こと……できるわけない!
あいつは私に、一生ぬぐい去れない後悔を植え付けた……今逃げたら同じ、私が一番後悔する方法で、リコを殺すに違いないの!

■イザナク To:リコリス
話し合いは終わりましたか?
では、じっとして。

操……

リコリスの耳にその言葉──ごく短い暗黒語が流れ込んで来た瞬間、彼女の思考が、まるで糸がぷっつりと途切れたかのように停止した。
そして、絡み合った想いがほどけて行くかのように、徐々に気分が緩慢になっていき、やがて深海の中に沈みゆくような心地良さの中に包まれて行く。
■ライチ To:リコリス
リ……リコ? リコ……?
しっかりして! ねぇ……リコリス!!

ライチが焦点の合わなくなったリコリスの顔を覗き込み、肩を掴んで揺さぶった。
しかし、リコリスの耳には、もうイザナクの言葉しか届かなくなっていた。
■イザナク To:リコリス
良い子ですね。
さぁ、リコ……この魔法陣の中まで、ゆっくり歩いておいで。
最初の一歩は、痛いかもしれませんが……すぐに楽になるでしょう。

■リコリス To:イザナク
…………。

リコリスはイザナクに言われるままに魔法陣に向かってゆっくりと歩き出した。
■ライチ To:リコリス
リコ、だめ!!
……操られてるの!? リコ……目を覚まして!!

ライチはとっさに跪き、リコリスの体を抱きとめるようにして、その歩みを止める。
そして、なおも前進を続けようとするその小さな体に向かって、何度も何度も呼びかけた。
■リコリス To:ライチ
…………。

リコリスはライチの腕に抱きとめられながらも、もがくように前に進もうとしている。
■イザナク To:ライチ
邪魔をしないでください、最小限の傷で解決の道へと誘おうとしているのですよ……飛び散る血飛沫で封印を破るようなやり方はしたくないんです。
そうやって、彼女の歩みを止め続けるなら……仕方ありません、非常に好みではありませんが、“裂傷”を彼女の身体に刻み入れることになります。

……それも嫌だと言うなら……あなたがリコのかわりに、ここへ来てくれますか?
僕はそれでも、構わない。

■ライチ To:イザナク
…………。

ライチはリコリスの体を抱きしめたまま、動かなかった。
しかし、やがて何かを決心したかのように、静かに目を閉じて口を開く。
■ライチ To:イザナク
……約束して。リコだけは無事に帰すって。
今も、そしてこれからも……リコリスには、決して手を出さないと。

悪魔との約束なんて……ろくなことにならないと、わかってはいるけど……ね。
それでも今、私はどうなっても構わないから……そう思ってる。
「剣」だか「こころ」だか、知らないけど……それで足りる?
この約束を結ぶには……。

■イザナク To:ライチ>リコリス
やはり、あなたはあのひとの娘ですね。
見返りも十分です、約束しましょう、今後一切リコリスには手を出しませんよ。

リコ、止まってください。

イザナクは心の奥からこみ上げてくる感情を喉の奥で押し殺すかのように、目を細めただけで応えると、リコリスにそう呼びかた。
■リコリス To:イザナク
……………。

リコリスはその声にあわせて、動きを止めた。
■ライチ To:リコリス
リコ……聞こえる? 覚えててね。
私はいつだって、生きたい……生きていたいよ。
この命は、誰かを助けるために授かったんだと、そう思ってる……。
死ぬつもりで何かを決心したことなんて、一度も無いんだから……ね。
だから……必ず……返すからね。

■リコリス To:ライチ
……………。

焦点の合わなくなっているリコリスの瞳から、涙が一筋こぼれた。
ライチはリコリスの手を取り、自分の胸元に添えさせた。
胸ポケットからは、わずかに折り畳まれた白い布の角が覗いていた。
その刹那、ライチは素早く立ち上がり右に差した曲刀を抜刀すると、魔法陣の内部のイザナクに向かって風のごとき素早さで踏み込み、斬り掛かっていた。
■イザナク To:ライチ
(下位古代語)
おいで、ハプルマフル。

魔法陣にライチの身体が入った瞬間、何かが引き裂かれるような音と血の匂い、そして白い閃光を伴った衝撃波がリコリスを襲った。
判断する思考を持つことができないリコリスは、眩しさに思わず目を瞑り──全身に受けた衝撃のまま吹き飛ばされ、床に勢い良く倒れ込んだ。
■リコリス
……………。

そして、主人からの命令を待つ人形のごとくに、ただ倒れた姿勢のまま、じっと冷たく白い部屋の壁を見つめていた。
その瞳に涙をとめどなく溢れさせながら――。


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GM:ともまり