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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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封印の場所



  イーンウェン・イチョウ林

しっかりと手を繋いで、イチョウ林の奥へ進むリコリスとライチ。
ライチは時折、イチョウの幹の様子を手で触れて確認したり、地面の様子を確かめるようにしゃがみこんで観察したりしている。
そして、遠い記憶を辿るような表情を浮かべながらも、迷いの無い、しっかりした足取りで進んで行く。
■ライチ To:リコリス
小さい頃、たぶん……私はその「悪魔」が封じられている場所を見たの。
幼かったから、あまりよく覚えてなかったんだけど……
いろんなことが重なって、少しずつ思い出してきたよ。

■リコリス To:ライチ
そうなんだ〜。
小さいライさんはこの辺でよく遊んでたの?

■ライチ To:リコリス
……ううん、むしろ近づかなかった、怖くてね……。
母が殺された場所だし……そのときのことを、鮮明に覚えていたはずなのに、思い出さないようにしてたんだよね。

リコリスを不安がらせないためか、ライチは明るめの──落ちついた声の調子でそう言った。
雨はまだ降り続いている。
ライチの漆黒の髪は濡れて艶めき、額と首に張り付いていた。
■ライチ To:リコリス
たしか……そう、あの3つの石の真ん中……。

降り積もったイチョウの葉の山から、わずかに顔を出すような格好で、ごく普通の不揃いな石がみっつ、三角形を描くようにして置かれていた。
そしてその中央に歩み寄ると、全体に土がこびりついた1メートル四方の非常に分厚い石版があった。
長い年月、土に埋もれた状態でそこに存在していたことを思わせるものだったが、イチョウの葉の様子や地面の様子から、ごく最近その石版が動かされたことが読み取れる。
石版が蓋をしていたであろう場所には、やはり1メートル四方ほどの狭い地下への入口が口を開けていた。
■リコリス To:ライチ
ライさん、これ!

■ライチ To:リコリス
蓋が、開いてる……?

母はね、この石の蓋を、ノームの力を借りて穴を開け、中に入ったんだ……たぶんね。
けど、この動かされ方は……最近だね。
とても人力で動かせるような重さじゃないと思うんだけど……。

怪訝そうに眉をひそめ、入口の中を目を凝らすようにして覗き込むライチ。
入口から中へは、石の階段が続いているようだ。
しかし外からの光は途中で途切れ、闇に飲み込まれている。明かりが無ければ一寸先をも見通せないだろう。
■リコリス To:ライチ
真っ暗だね〜。
ライト、つけるね。

ランタンを使おうかとも思ったのだが、手がふさがってしまうことに気がつき、魔法に頼ることにした。
■リコリス
(上位古代語)万物に宿りしマナよ、ここに集いて灯りとなれ

小石を拾って、ライトの呪文をかけた。
■ライチ To:リコリス
ありがと。光の精霊を呼び出すって手もあったけど……私、じつはちょっと疲れてるから……助かるよ。

そう言って微笑むライチは、確かに消耗しているらしく、やや顔色が悪かった。
■リコリス To:ライチ
ライさん、どうしたの?
そういえば服も破けてて気になったんだけど…誰かと戦ってきたりしたの?

心配そうにライチの顔を覗き込んだ。
■ライチ To:リコリス
……うん。実はね……例の、絵の具に変化しちゃうモンスターに遭遇して。
こっちの姿をそっくりに写し取る、妙な奴だったよ。
あ、最後は勝手に自爆しちゃったんだけどね……。

斬られた痕を撫でさすりながら、ふぅっとため息ひとつ。
■リコリス To:ライチ
そうだったんだ…。
ライさんが無事でよかった〜。

ほっと安堵の息をついた。
■リコリス To:ライチ
あ、そうだ。
少しだけだけど…受け取って。
少しは楽になるし、その…ライさんの魔法、頼りにしないといけなくなるかもしれないから。

リコリスはそういうと、瞳を閉じて聖印に手を当てて、神に祈りを捧げ始めた。
■ライチ To:リコリス
え? ダメだよ、リコだって──

■リコリス To:ラーダさま
(神聖語)ラーダ様、どうか、ライチさんの疲れを癒して!

リコリスは自分の精神力をライチに分け与えた。
■ライチ To:リコリス
……ん……ありがと、随分楽になったよ♪

ライチは微笑んで身を屈めると、リコリスのほっぺに軽くキス。
■リコリス To:ライチ
うひゃあ!

びっくりして反射的に離れたリコリスは、真っ赤になって俯き――
■リコリス To:ライチ
あうあうあうあう〜。

ほっぺに手をあて、意味不明なことばを呟き続けている。
■ライチ To:リコリス
あ、あはは、ごめん。気をつけるって言ったのに……ついやっちゃった。

リコリスの頭を撫でてなだめるライチ。
■リコリス To:ライチ
う、ううん。また騒いじゃって、ごめんなさい。
えっと、あとは……念のために、目印にリボン置いていくね。

内心の動揺を振り払うかの様に頭をふるふる振ると、何かを誤魔化すかのように髪を結わいていたもう一個のリボンを解き、入り口の脇に置いて、さらに風で飛ばされないように小石で押さえつけた。
■リコリス To:ライチ
じゃあ、行く?

灯り小石を手に持ち、暗い階段を照らすように差し込んでみた。
下り階段はしばらく続いたあと、途中から左に弧を描くようにして折れている。
どうやら狭い螺旋階段になっているようだ。ふたり並んでは歩けそうにない。
■ライチ To:リコリス
降り続けてみなければ、どこまで深いかわからないね……。
私が先に行くね。リコ、離れないでついてきて……後ろから階段を照らしてね。
行こう。

■リコリス To:ライチ
うん。ライさん、気をつけてね。

ライチは左手で階段の壁を確かめるかのように触れながら、一歩踏み出す。そしてふたりは、雨が吹き込んで濡れた石の階段を降り始めた。

  イーンウェン・イチョウ林/地下

螺旋階段は目が回るほどの小さな弧を描きながら、かなりの深さまで続いていた。
中はひんやりと、静まり返っており、外の雨の音はとっくに耳に届かなくなっている。
リコリスの持つ「ライト」の石が照らす石壁には、経年による痛みやひび割れが、ところどころに見受けられた。
■ライチ To:リコリス
…………(目、回さないようにね)

ライチは時折リコリスを気遣うように振り返りながら、一歩一歩、できるかぎり音を立てないようにして階段を降りていく。
■リコリス To:ライチ
…………。

リコリスは、緊張した面持ちで螺旋階段に酔わないようにかライチの背をじっと見つめながら降りていく。
そして、数分は歩いただろうか──ようやく階段の先が石の床に変わり、目の前に広い空間が広がった。
■ライチ To:リコリス
……! リコ……これ。

■リコリス To:ライチ
これって……!

どうやら「ライト」の光は、部屋全体を照らし切れていないらしい。
左右の壁は見渡せるが、奥は再び闇の中に沈んでいる。
左右幅は7メートルほど、そしてその間の床を埋め尽くそうかという勢いで、おびただしい量の羊皮紙がばらまかれ、山のように積み重なっていたのだ。
と同時に、「画材屋レモネィ」で嗅いだような、油彩画独特の匂い──。
■リコリス To:ライチ
れもれもの中みたいな匂い!
誰かがここで絵を書いていたのかな?

■ライチ To:リコリス
そうみたいだね。いや、でも……道具らしきものが見当たらないから……ここに持ち込んだ……?

ざっと見回してみると、羊皮紙には鮮やかな色彩と生き生きとした写実的な描写で、様々な人外の生き物──モンスターの姿が描かれているようだ。
あるものは、海の中に住む凶暴な鮫。あるものは、船を襲う巨大な蛸。
ほとんどが海洋生物を描いたもののように見える。
■リコリス To:ライチ
これってこの間のタコさん?
ってことはぐれむりんくんとか、キラキラの精霊さんとかもあったりする?

羊皮紙をめくって、探してみる。
リコリスはその中から、白く輝く鎧に身を包んだ乙女の絵──バルキリーの美しい絵を見つけた。
海賊船に乗り込んで戦わんとする勇敢な戦士と、その姿を守護するように寄り添うバルキリー、といったシーンのようだ。
■ライチ To:リコリス
ん……これって、構図的にバルキリーが主役に見えるね。
戦士のほうは、ぼかして描いてあるし。
……そういえばあの戦乙女、「海を荒らすな、人の子……」みたいなことを言ってたような……。

おとがいに手を当てて考え込む。
■ライチ To:リコリス
それにしても…………。
まるで、そのまま生き物を閉じ込めたみたい。
……これだけ上手に描けるひとは、そうそう居ない……ね。

ライチは山から一枚手に取ると、厳しい表情になってそうつぶやく。
■リコリス To:ライチ
? ライさん、誰か心当たりあるの?
あの…ハノハノさんの息子のナギくんとか?

不安そうに名前を挙げたものの、その瞳は、「違うといいな」と言っている。
■ライチ To:リコリス
ううん、ナギはここまで上手じゃないよ。もっとも、私がいなかった1年の間に、ここまで上達してるって可能性が、無いわけじゃないけど……ね。

そう言うと、拾い上げた羊皮紙を戻し、また考え込んでしまう。
■リコリス To:ライチ
そっか〜。
これ、何枚か持って帰っても大丈夫かな?

リコリスは、ヴァルキリー、大タコ、そして他数枚気になった絵を選んで懐に仕舞いこんだ。
■リコリス To:ライチ
ライさんが用があるのってもっと奥?
行ってみる?

灯りを奥に向けてみる。
と、同時に、外にいるパティに意識を向け、仲間の姿を探す。

パティは未だ田舎道を駆け続けていた。ふと立ち止まり、周りを見回すも、通行人すらまばらで、見知らぬ人々ばかり。
願いを込めて上空をも仰ぎ見るが、シグナスやイェンスの使い魔──アイゼンやしろの姿も見えない。
■リコリス To:心の声
(………いない。誰か早く来て〜っ!)

■ライチ To:リコリス
うん、もっと奥だと思う……気をつけて行こう。

そう言ってリコリスを促し、彼女を護るような立ち位置を保持しながら、部屋の奥へと進み始めた。
■リコリス To:ライチ
うん。



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GM:ともまり