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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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イチョウ林の奥



  イーンウェン・イチョウ林

もと来た道をまっすぐ戻るリコリス。しかし走り出してすぐに、ライチの姿が墓標の前からいなくなっていることに気付いた。
墓標の前には、先ほど置かれた花、そして修復された眼鏡──雨に濡れてしまっている以外は、変化は無い。
■リコリス To:ライチ
あれ? ライさん、どこ?

慌ててあたりを見回すと、まばらに立つイチョウの木々の間から、見慣れた黒い長身の人影が、まさにイチョウ林の奥に向かって──ことさらゆっくりとした足取りで歩いて行っているのが見えた。
リコリスから預かった肩掛けカバンに、左手を添えたまま。
■リコリス To:ライチ
あ、いた。
ライさん、待って〜。
どこいくの〜?

ライチの姿を見てほっとしたものの、即座に全速力で追いかける。
雨に濡れたイチョウの葉が降り積もった地面は、滑りやすい。
何度も転びそうになりながら、リコリスはどうにかライチに追いすがった。
ライチはリコリスの呼びかけに足を止め、冷静な表情で――半ばこうなることを予想していたかのような落ち着きをもって振り返る。
■ライチ To:リコリス
……リコ。
戻らなくていいの? 待ち合わせに遅れるよ。

小さく息を吐いたあと、リコリスの問いかけには答えずに言葉を返すライチ。
相変わらずどこか焦点の合わない視線で、リコリスを見つめる。
だがその声と表情には、先ほどまでとは違う――どこか突き放すような雰囲気があった。
■リコリス To:ライチ
ら、ライさん……?

ライチの雰囲気に怯み、心細さからか、目に涙が浮かぶ。
■リコリス To:ライチ
あ、あの、この先に昔の墓地があるって聞いて…そこに悪魔カエルが封印されてるはずだから、だから、そっちは危険かもしれなくて……。

小柄な身体を、さらに小さくすぼめながら、おどおどと言い募る。
■リコリス To:ライチ
だから、だから…そんな危ないかもしれないとこに、ライチさんが近づこうとしてるから……その………リコ、心配で。
ライさんは……リコよりも強いから、心配ないかも知れないけど、でも、でも、お友達だもん!
ライさん、お願い。この先に用があるなら、リコも一緒に連れてって!
待ち合わせに間に合わなくなってもいいの。
リコには、それよりも、ライさんの方が心配で、なによりも大事なんだもん!

ライチの目をしっかりと見つめて言い切った。
■ライチ To:リコリス
……だめだよ。
帰るんだ!

最初に呼びかけたときのような、刺すような厳しい声が響く。
■リコリス To:ライチ
―――――っ!

リコリスは、その迫力に、大きく肩を縮こまらせた。
それに呼応するかのように、鞄の中のパティもビクっと大きく震えた。
■ライチ To:リコリス
……私はこれから、その「悪魔」に会いに行くんだよ……。
たぶん、リコたちの探しているものにも、関係してる。
だから……みんながそこにたどり着く前に、私が決着をつけなくちゃいけない。
私と……母と、「悪魔」との間のこと……。

ライチは膝を折り、リコリスの前に跪くようにして見つめ直した。
苦みを押し殺したような、深い海を思わせる碧い瞳で。
■リコリス To:ライチ
ライさんのママ?
「悪魔」との間に、なにがあったの?

心に浮かび上がった疑問がつい口にでる。
リコリスは不安と心配が入り混じったような目をライチに向けた。
■ライチ To:リコリス
…………殺されたも、同然なの。
死んでしまった大切…な……ひとを、生返らせるのと引き換えに……ね。
もちろん、自分の身が暗黒神の生け贄になってしまうとは、知らずに……。

目を伏せ、消え入りそうな声でささやく。
それ以上は言葉にできない……そんな雰囲気だった。
■リコリス To:ライチ
そんな………。
ごめんなさい、辛いこと思い出させて……。

申し訳なさそうに、謝った。
ライチは小さく首を振ると、改めてリコリスに向き直る。
■ライチ To:リコリス
私も、同じ気持ちなんだよ……リコ。
リコが大切だから、ここから先には……。
大丈夫、ちゃんと夜には一緒にごはんを食べようって、約束したでしょ?
ちゃんと帰るから……みんなのところに。

まるで自分に言い聞かせるような口調でそう言いながら、リコリスの髪をやさしく撫でたが――その指先はぎこちなかった。
■リコリス To:ライチ
ライさん……。
それじゃもっと、ライさんを一人にはできないよ。
だって、リコ、さっきライさんのママの前で約束したもん。
「リコがライさんを守る」って。
それとも、なんとしてでも「一人」でいかなきゃいけない理由でもあるの?

■ライチ To:リコリス
……。
ううん…………ないよ。

ライチは小さく息を吐くと、リコリスの肩をぽんぽん、と叩いた。
そして騎士のように背を伸ばし眼前で跪いたまま、右手でダガーをそっと引き抜く。
■ライチ To:リコリス
……一緒に行こう、リコ。
その前に、エルフの剣士のやりかたで……リコを護ることを誓わせて。
リコ、そのレイピアを抜いて。

■リコリス To:ライチ
うん♪

背筋を伸ばし、言われるままに、レイピアを鞘から引き抜く。
ライチはリコリスのレイピアの刀身に、自分のダガーの刀身を交差させる形で軽く触れ合わせた。
■ライチ To:リコリス
(エルフ語)
──ライチ・ハプルマフル・ウェスペルの名において、誓います。
リコリスを護ることを……そして、ふたりで無事に帰ることを。

いつものよく通る、毅然とした落ちついた声でそう言うと、ようやく目元を緩め……リコリスにやわらかい笑みを向けた。
■リコリス To:ライチ
リコも、誓うよ。

胸元の聖印に手を触れ、目を閉じて神に祈りを捧げる。
■リコリス To:ラーダさま
(神聖語)ラーダ様、リコリス・スプレンケリーはいまここに、ライチとともに無事で帰るために、リコに出来る全てのことと、叡知のあらんかぎりを尽くすことを誓います。

リコリスは目をゆっくりと開くと、ライチを見て微笑んだ。
■リコリス To:ライチ
これで準備OKだね。

そして、ふとライチの肩にかけられた鞄に目を向ける。
■リコリス To:ライチ
あ、でも…そんなに危険ならパティを連れていくのはかわいそうだよね。
ライさん、逃がしてあげていい?

■ライチ To:リコリス
うん、もちろん。
……実はね、入口を確認したら、墓守のおじさんに預かってもらおうと思ってたんだ。
ごめんね、パティ。

そう言うとライチは、そっと鞄ごとリコリスにパティを返した。
■リコリス To:ライチ>パティ
ありがと。
パティ、お前は逃げててね。
あ、でも、そのままだと普通の野うさぎと間違われちゃうかも。

リコリスはパティを鞄から抱きあげると、自分の髪に結び付けてあったリボンを一つ解き、パティの首に結わいつけた。
■リコリス To:パティ
気をつけてね。

パティはリコリスの腕から地面に飛び降りると、一度だけ振り返り、そしてそのまま墓地の入り口のほうへと駆けていった。
一方リコリスはパティの入っていた鞄を地面に横倒しに置き、その口を少しだけ開いた。
何かあった場合のパティの隠れ場所確保のためだ。
■リコリス To:ライチ
じゃあ、行こっか。

リコリスは左手をライチに差し出した。
ライチはその言葉に頷いて応えると、差し出された小さな手を右手でそっと握り、そのままゆっくりと手を引くようにして、イチョウ林の奥へと歩き出した。


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GM:ともまり