林檎通り
シグナスは教えられた道を、通りの名称を確かめながら歩いていた。
雨はいっこうに止む気配がない。
どんよりとした鈍色の空が頭上を覆い尽くし、空気は肌寒い。
何本かの通りを経て、目印となっている「林檎通り」に出た。
港付近の商業地帯と比べて、家々の間隔は広く、道もあまり固められていない。
あちこちに水たまりができ始めていた。
やがて家々の屋根の合間に、濃い緑のかたまり──リンゴの木々がこんもりと密集しているのが見えてきた。
■シグナス
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のどかなモンだなあ……。こうものどかだと何処で如何したモンか……。
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ぼんやりと思考していたその時。
■男の声? To:???
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ああん? ふっざけんなよ〜お嬢ちゃん。
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■女の子の声? To:???
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ああぅ……誤解、誤解なのですぅ! 話せばわかるのですっ!
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ふとシグナス・イヤーに流れ込んで来る会話。
それは左側の塀の向こう、目の前の角を曲がったあたりから聞こえて来るようだ。
■シグナス
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……やれやれ、何処にでも在るもんだね。
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聞えた声に、足を速めて角を曲がるシグナス。
■シグナス To:角先の男女?
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こんにちわ、そこなお二人(?)さん。
こんな雨の中、声を荒げてどーしたんだい。
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■女の子? To:シグナス
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はぅぅっ! た、助けてくださいですっ!
この変な頭のおっちゃん、ボクの事ぬすっとだって言うんですよぅ〜!
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たたっとシグナスに駆け寄り、足元にまとわりつく小さな存在。
背格好と、やや尖った耳の形からしてグラスランナーのようだ。
皮鎧と短剣を身につけ、派手なピンクのマントという装備。
声のキーは高かったが、やや癖のある栗色の短髪と童顔のせいで、かなり中性的な印象だ。黙っていれば男の子にも見えなくもない。
■刈り上げの男性 To:女の子?>シグナス
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変って言うな!? お前絶対、ぶつかってきた拍子に俺の財布に手をやっただろう? ん〜?
謝れば許してやろうと言っているんだぞぅ?
あんたも何とか言ってやってくれよ。
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刈り上げの男性は腕組みをしながら、ずい、と女の子(?)のほうへにじり寄る。だいぶご立腹のようだ。
■シグナス To:男、女の子
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……人相悪いのは否定できねえな!?
まあ、グラスランナーかあ。疑わしいのは解るけど、確証も無い内にそこまで詰め寄るのも酷だろ。
俺も、来たばっかりで事情を詳しい訳じゃない、本当に……やってないんだな?お兄さんちょっと、嘘には厳しいぞ。
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■女の子? To:シグナス
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ううぅ、嘘なんかついてませんです〜っ! このキンキラリンな瞳に誓って!!
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今にも泣き出しそうなくらいうるうると潤んだアクアグリーンの瞳が、シグナスをじっと見上げている。
■刈り上げの男 To:シグナス、女の子?
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……ちぇっ、なんだよぅ、俺が悪者みたいじゃないかよぅ?
まぁ、実際盗まれた訳じゃねぇし、スリ狙いだったとしても今回は未遂ってことで許してやらぁ。
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頭をぽりぽり掻きながらため息をつく男。
■刈り上げの男 To:シグナス
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じゃあ、そのお嬢ちゃんのことはあんたに任せた。じゃなー。
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■シグナス To:刈り上げの男
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ああ、いや任されてもアレなんだが、災難だったな。その分良い事があるように、祈っておくよ。
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男はひらひらと手を振って去っていった。
■女の子? To:シグナス
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ううっ、おなか、空いたのですぅ……。
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シグナスの足にもたれかかるようにして、へなへなと座り込む女の子(?)。
■シグナス To:女の子?
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……成る程、それでつい手が出たと。
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ちょっとカマを掛けて見る事にしたシグナス。
さっくり肯定。
■女の子? To:シグナス
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でもでも、すべてはビンボーが悪いのですっ! 冒険者がボロもーけできるよーな、大☆事☆件☆が起こらないのが悪いのですっっ!
そう思いませんかっ、行きずりの軽そうなお兄さんっ!!!
……あぅ〜。
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きゅるるる、と腹の虫がなった。
■女の子? To:シグナス
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ボクをリンゴ畑に連れてってください、なのです〜。
そこに行けば、リンゴもぎほうだい、食べほうだい〜〜〜〜。
ビョーキの仲間にも、食べさせてあげたいのですぅ〜〜。
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がっしりとシグナスの足にしがみついて離さない。
■シグナス To:女の子
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事後だったら流石に捕まえざる得ないから自重しろよ。牢屋なら飯が食えるかも知れんぞ。
だから自重しろと言うに!?其処まで聞いて連れて行けるか!?
……んで、空腹で、金が無くて、仲間が病気?
あー……放っといて何かやらかされたら、見逃した俺の責任も出るか……。
はあ、仕方ねえ。一食分と見舞い品くらい奢ってやるから案内しろ。お前返し付けなきゃ、安心して出歩けねえし。
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■女の子(ヤツメ) To:シグナス
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牢屋のまっずいメシはいやなのです(きっぱ)
宝石のようにキンキラリンなリンゴたちが、ボクとボクの仲間を待っているのでぃす!!(断言)
ふわぁ、一緒に行ってくれるのですか! しかも、オゴリ!!!!(☆∀☆)
あんたしゃん、いいヒトー♪ 良いヒトすぎるのです〜♪ 〃ヽ(*゜∀゜)ノ
ボクはヤツメと言うのです〜。あんたしゃんはー?
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シグナスのまわりをぐるぐると小躍りしながら回り出すヤツメ。
遠くから通行人が、妙な目で見ていた。
■シグナス To:ヤツメ
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ま……冒険者やってりゃ極めて遠い親類縁者の知り合いの友人位にゃ繋がってるしな。
一応神官だし、病人と聞けば少しは手ぇ貸すさ。
りんごで良いのか?まあ、病人も食うなら果物なのは良いんだが……。
何の病気か解るか?胃が弱ってるなら少し手ぇ加えた方が良いだろうし。
ああ、俺は……そーだな、フリーハンドとでも呼んでくれ。
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■ヤツメ To:シグナス
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略してフリリンですねっ! しっかと覚えたのでぃす!(びしっ)
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愛称が決定したらしい。
■シグナス To:ヤツメ
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せめてフリーと呼んで欲しかったね。今のオレは……自由、だ……。
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遠く(主に東方面)を見詰めるシグナス。
■ヤツメ To:シグナス
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ビョーキのことは、ボクには良くわからないのです〜。
ゲホゲホ言ってて、おでこが熱くって、目が死んだおさかなのよーにぼんにゃりとしているのですぅ〜。
死なれると困るのでぃす、宿代払ってもらってるですから。(`・ω・´)
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■シグナス To:ヤツメ
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風邪……かねえ?原因に心当りとかもねえの?
だったらまあ……果物と穀物粥ぐらいで良いか。
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