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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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こおろぎ通り



  イーンウェン・こおろぎ通り

ウーサーが目指す『ギャラリー・ハプルマフル』への行き方は、町往く人に聞けばすぐに教えてもらえた。
港近くの賑やかな通り(もちろん、田舎町にしては──という意味で)からはかなり離れた、西側の下町。
昔から立ち並ぶ古い家々がひしめく、風情溢れる区画の中にあるらしい。
ぱらぱらと降り続く雨に打たれながら、ウーサーは人通りが徐々に減っていく通りを眺めつつ歩いていく。
彼の巨体と武装した外見はかなり目を引いたが、怪訝そうな目で見られることはほとんどなかった。イーンウェンの人々は概してのんびりした気質らしい。
軽く身体が温まるほどは歩いただろうか。
下町の表玄関である「こおろぎ通り」にたどり着く頃には、ほとんど人気が無くなり、店らしい店も無くなっていた。
■ウーサー
ええと、この辺りか……お?

■三毛猫 To:うーさー
ミニャァ。

崩れかかった塀の上で、小さな三毛猫が毛づくろいをやめ、ウーサーに向かって甘えた声で鳴いた。
■ウーサー To:三毛猫
おいおい、こんな所にいたら冷えるんじゃねぇか?

塀から降りられなくなったのかも、などと思いつつ、そっと手を差し伸べてみる。
■三毛猫 To:ウーサー
ミャゥ……

小さな頭を、手のひらにすりすりとすり寄せてくる。
耳が折れんばかりの擦り付けっぷり。
■ウーサー To:三毛猫
ん? どうした、腹減ってるのか? 乾燥果物とかナッツっとかって、食わせても大丈夫だったっけか?

ウーサーはバックパックに収められている製菓材料の内容を思い出しながら、三毛猫の可愛らしい耳をふにふにと撫でてやった。
■女の子の声
ぅにゃっ!?

角の向こうから唐突に素っ頓狂な声が聞こえたかと思うと、空からウーサーめがけて何かが降ってきた。
しかし「それ」に気付けたのは、まさにウーサーの頭にぶつかる直前。
■ウーサー
うおおぉっ!?

とっさに避けることもできず、ゴン☆という軽い金属音と、ばしゃんという液体をモロに被った音を聞いた。
手や足、胴体を見てみれば、鮮血──
■ウーサー
なっ……なんじゃあ、こりゃあ〜っ!?

──否、鮮やかな赤の絵の具である。
足元には空っぽになった缶が転がっていた。
■女の子 To:ウーサー
……。
いきなり耳を撫で付ける、お前が悪い。

角から姿を現したのは、大きな三角帽子を被り、背中にメイジスタッフを差した小柄な女の子。
片手には黄色の絵の具がたっぷり入った缶を持っていた。
■ウーサー To:女の子
いっ……いきなり、なにしやがるかなこのお子様はっ!?
オレ様が避けたら、猫に当たっちまってたかもしれねえじゃねえか! 危ねぇだろソレはよっ!?

ペンキが目に入らないように必死に拭いながらも、真っ赤な顔で啖呵を切る。
とはいえ相手が「女の子」なので、さすがに獲物に手をかけたりはしていないのが、ウーサーとしては精一杯の気遣いなのだが。
■女の子 To:ウーサー
スクワイヤはお前ほど鈍くない。

眉ひとつ動かさず無表情。
スクワイヤと呼ばれた三毛猫は、ぴくっと顔を上げると、流れるような動きで女の子の肩に飛び移った。
腹に赤い点々ができている。
■女の子 To:ウーサー
……。
大事な絵の具が……。

どうしてくれる。

耳をこそばゆそうに触りながら、じろりとウーサーを睨んでくるターコイズ・ブルーの瞳。
■ウーサー To:女の子
だ、大事な……ったってよぉ、お前が投げたんだろコレ!? どうもこうもあるかい!!
あ〜、でもまあアレだ……高価いのかコレ? あ、いやそれ以前に、この島にゃあペンキ売ってる所なんてあるのか?

ウーサーは睨みつけてくる瞳をなんとなく見返せず、鎧に付いたペンキの様子を確かめるフリをしつつ目線を逸らした。
ちなみに、鮮やかな赤は雨に濡れても溶ける様子は無いようだ。
完全に油性らしい。
■女の子 To:ウーサー
売ってない。お手製。
ギャラリーまで戻って作り直すハメになった。

ふっ、と小さなため息をついて、まるで返り血を浴びたかのようになっているウーサーの鎧を見つめる。
■ウーサー To:女の子
やれやれ……黒剣士が赤剣士にならなきゃいいがなぁ?
あ、そうだ。オレ様はウーサー・ザンバード、見ての通りの重剣士だ。嬢ちゃん、お名前なんてんだ? こんな空模様にこんな所でペンキなんか持って、なにやってたんだよ?

無表情を装いつつも、ちらりと少女の表情を窺ってみる。
もちろん、件のペンキが女の子にとって「泣きそうに」なるような高額だったり稀少だったり、はたまた深い思い出のある品だったりしたらどうしよう……などと、内心冷や汗吹きまくりなのだが。
■女の子(リュナ) To:ウーサー
リュナ・カシアス。リュナでいい。

相変わらず睨むような視線は変わってないが、それ以外は無表情だ。
喋り方も見事な棒調子。
だが、それでも「泣き出した」りしないでいてくれただけ、ウーサーにとっては有り難かったりもする。
■リュナ To:ウーサー
これから、頼まれた看板を塗りにいくところだった。

うさぎ、罪滅ぼしに付き合え。

転がっている缶を拾い上げると、目線でウーサーに一緒に来いと促し、元来た道をすたすたと戻り始めた。
■ウーサー To:リュナ
う、うさぎっ!? オレ様にはちゃんとウーサーっていう、いずれ伝説に謳われるようになる名前が……!?
あ、お、おいコラちょっと待てリュナっ!

今の自分には若干重過ぎる鎧をガチャガチャ言わせ、ウーサーは慌てて後を追った。
■ウーサー To:リュナ
わかったわかった、いやオレ様だけが悪いってワケじゃあ絶対無ぇとは思うんだがよ!?
ちょいと予定が狂っちまうが……ええい、仕方無ぇかっ!

鎧の内側にまで流れ込んできているペンキに顔をしかめつつ、すたすた歩くリュナの斜め後ろ、「守護の騎士」の如き位置まで追いすがる。
■ウーサー To:リュナ
今からオレ様が、お嬢ちゃんと付き合ってやるからよ!
だから、そんなに早足で歩かないでくれ!

■リュナ To:ウーサー
普通だ。
うさぎならもっと早く歩け。

理不尽なセリフを吐きつつ、少しも歩みを緩めずに「こおろぎ通り」を進んでいく。
■ウーサー To:リュナ
こ、このチビガキめっ! うさぎって言うな〜っ!!

ぎりぎりと歯噛みしながら、とりあえず地団太を踏んでみたり。
(そしてまた遅れそうになって、慌てて追いすがってみたり)


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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

GM:ともまり