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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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小さなアトリエ



  イーンウェン・モザイクガーデン/アトリエ

ミガクの案内で、工房のさらに奥まで足を進めるゾフィー。
キッチンのすぐ側にあった地下への階段を降りていくと、ひんやりとした空気に包まれた狭い石造りの空間があった。
■ミガク To:ゾフィー
ここは、もともと倉庫として使っておったんじゃが……レヴィーヤがいつでも絵を描くことに没頭できる部屋を用意してやろうと思いましてな。
地下というのが心配じゃったんですが、幸い彼女は気に入ってくれたようです。

薄暗い室内──もちろんふたりには苦もなく見通せる──には、あらゆるところに羊皮紙が散らばり落ちていた。
机の上だけでなく、床の上にも、それこそ足の踏み場が無くなるほどに、描きかけの絵やスケッチが無邪気とも思える奔放さでばらまかれている。
描かれているのは人物画、風景画、静物画──さまざまのようだ。
■ゾフィー To:ミガク
見たところ、窓も、ランタンのようなものもないようですが……。
ここで絵を描くときは、彼女はひとりですの?
明かりはどうしていたのかしら。

■ミガク To:ゾフィー
うむ、ひとりじゃよ。いつもそこに飾っておるキャンドルを、机の上に寄せ集めて描いておりますな。
薄暗い方が集中できる、とか言うてな……目が悪くなりそうじゃから、何度も止めておるんじゃが。

四方の石壁には、窓の代わりだろうか、一定間隔で四角く削られた凹みがあり、植物やキャンドル、モザイク作品がセンス良く飾られていた。
部屋の奥にはいくつもの引き出しを持つ小さな棚がある。
机の上に木炭が何本か転がっているのが見えた。
■ゾフィー To:内心>ミガク
(キャンドルは3本、人間の視界では描きにくそうな気もいたしますけれど)

そうですか、集中ね……。
確かにこれだけの紙があるようですと、火の管理も気をつけないといけないでしょうし。

■ミガク To:ゾフィー
……いやはや、まるで嵐でも来たかのような有様ですが……彼女は「のってくる」といつもこんな状態で絵を描きまくるんですな。
ほら、これなどいかがですかな? これが最初の頃の絵、そしてこちらが最近完成させたものです。

ミガクは層のようになっている羊皮紙を踏まないように一歩進むと、床に落ちていたものから一枚、机の上から一枚絵を拾い上げ、ゾフィーに見せた。
前者は木炭によるスケッチで、ミガクを描いたものらしいが──どうひいき目に見ても「目がふたつ、口がひとつ、あとはヒゲ」といった子どもの落書き。
しかし後者は、同じ木炭スケッチではあるものの、今にも動き出してその息づかいが感じられそうなほど緻密に描写された、モザイク作製に取り組むミガクの姿が描かれていた。
■ゾフィー To:ミガク
まあ、1年で……信じられないくらいの進歩ですわね。
木炭以外の画材は使っておられますの?

そう尋ねながら身をかがめたゾフィーは、精密に描かれている他の羊皮紙を一枚拾い上げた。
■ミガク To:ゾフィー
ええ、まずはモチーフを木炭で描いて大まかなイメージを掴んで……習作というやつですな、それから油彩画にとりかかるんですな。いやいや、ゴルボロッソと同じ画材がいいとせがまれたものですから……一式揃えてやったんじゃよ。
ほら、それも油彩画ですな。途中で止まっとりますが。

ゾフィーが拾い上げた絵には、短パンをはいたおとなしそうな男の子──どことなくハノクの面影がある──と、三角帽子とローブを身に着けた無表情な少女、そしてその少女が肩に乗せている三毛猫とが描かれていた。
イチョウの木の根元に座り込んでスケッチをしている場面らしいが、背景はろくに描かれず大半が余白のままだ。
■ミガク To:ゾフィー
その絵はハノクさんとこのナギくんと、ギャラリーのアルバイトの子ですな。
特にナギくんとは仲良くさせてもらっとるんじゃよ。

■ゾフィー To:ミガク
猫……ええっと、これは見たままを描いたのかしら、それとも記憶してかしら……。
きちんと仕上げましたら、それなりの値が付きそうなくらいの腕ですわね。

ちゃんとお友達もできたのね、会話はどうしておりまして。

■ミガク To:ゾフィー
うむ、最近ではナギくんのほうがドワーフの言葉をおぼえてきてくれた、とか言うて喜んでおりましてな。ナギくんは頭の良い子でして……気持ちも優しい子で助かっとります。
まったく、テコでも共通語を話そうとしないこだわりというか、頑固さは生まれつきなのか、はたまた誰かの影響か……ああいや、失礼。

それでも、周りのにんげんが日常的に“コモン”を使っておるのを聞いておりますから、聞き取りくらいならある程度できておると思うんじゃがの。

■ゾフィー To:ミガク
誰……いえ、こちらこそ。
普段、彼女はひとりでいることの方が多いのですか?それともナギさんや……名前はなんていうのかしら……そちらの女の子が、手が空いている時はいつも一緒に?

■ミガク To:ゾフィー
ナギくんとは週に3〜4回は、一緒にスケッチに行っておりますな。
リンゴ畑や港、下町に出かけることもあれば、墓地に行くこともあると……ああ、この町の墓地は、きれいなイチョウ林に囲まれてましてな、この季節はなかなか心休まる風景なんじゃよ。このふたりの絵も、その時描いたものでしょうな。

ギャラリーのバイトの子は……名はリュナと言うんじゃが、休みが週に1度しかないので、あまり一緒にあそんでもらえない……とレヴィーヤがぼやいてましたなぁ。
他にも、ハノクさんら港の方々と取っ組み合いをして遊んだり……とまぁ、とにかく絵を描いている時間以外は、やんちゃな奴なんじゃよ。

■ゾフィー To:ミガク
それはそれは、皆様にかわいがられておられますのね。

ミガクはその言葉にほっこりとした笑みを浮かべたあと、ふと真顔になった。
■ミガク To:ゾフィー
……そういえば、さきほどの言語についてのお話のくだり、ゾフィーさんは学問のある方とお見受けしましたが……ちょっと、お知恵をお借りしてもよろしいですかな?
レヴィーヤが身につけていた、変わった石のことなんじゃが。

妙に改まった口調で、ヒゲを撫でつけながら――それを尋ねることが口の中で何度も躊躇われていたかのように話し出す。
■ミガク To:ゾフィー
レヴィーヤは、それこそ布一枚すらも身にまとわず、素っ裸で港にうずくまっていたそうなんじゃが……ただひとつ身につけていたのが、革紐で首からぶら下げていたその石でしてな。
形は太ったヒルのようで、色は青と黒が砂状に混じり合ったような……そう、ターコイズの原石のような……あれよりはもう少し深い青で……

そう説明しつつ、ミガクは近くの羊皮紙に木炭で絵を描いて見せた。
親指ほどの大きさで、丸みを帯びた三日月のような形らしい。
■ゾフィー To:ミガク
石についてお知りになりたいのでしたら、残念ながらそれだけではなんとも申し上げられませんわ。
宝飾や石の知識を持つ、ぇー…知り合い、がいないわけではございませんが、問い合わせるにはオランをへて郷里に戻り、そこから当たることになりますので非現実的ですわね。
この町に来た護衛仲間にも、賢者の学院に籍をおいている者がおりますから、尋ねることもできますけれども……もう少し情報がほしいと言われそうですし。

■ミガク To:ゾフィー
ふむぅ、そうですか……いや、変なことをお聞きして失礼を。

安心したような残念なような、微妙な表情を浮かべつつ鼻の頭を掻く。
ゾフィーはやや首をかしげるようにして、ミガクの顔を覗き込んだ。
■ゾフィー To:ミガク
身元の手がかりを探したいということだけなら、そんな口調はなさいませんわよね。
なにか気になることでもございまして?

■ミガク To:ゾフィー
いやはや、参りましたな……いや、あなたもお気づきとは思いますが、彼女の髪の色、普通の人間ならあり得ないものです。
それに、いくらなんでも一糸まとわず、特に外傷もない状態でうずくまっているなど……

それにもうひとつ、彼女は異様に力が強いのです。
去年の海竜祭の──なんちゃら武道会でも、ハノクさんを放り投げて軽く優勝してしまいましたからな。

レヴィーヤは可愛い。それにできることなら、親御さんの元にも返して……うむ、それがおそらく一番幸せなことじゃからの。
しかし、手がかりがまったくないのじゃ。もし彼女が、ふつうではないいきもので……それが、魔法や、道具の力によるものなら……
あの石くらいしか心当たりがなかったからのぅ。

早口でそこまで話すと、ふぅっと大きくため息をついた。
本心をすべて話したあとの脱力、そんな感覚を彼が襲っているのだろう。
それに応じるゾフィーの眉間にはは、僅かにしわが寄せられていた。
■ゾフィー To:ミガク
難しい問題ですわね。
親の元にいることが幸せかどうかは……ひとそれぞれなのかもしれません。
レヴィーヤさんは、親御さんについて知りたがっておいでですか?
帰りたいのか、今の暮らしを続けたいのか……周りの意志だけでは判断できない部分もございましょう。

■ミガク To:ゾフィー
親のことを聞いても、「いつかむかえにくる」……としか言いませんでな。
それが本心なのか、強がりなのかは……いや、あの子はひとの顔色をうかがったりはしない子じゃ……おそらく、純粋にそう信じておる。
だからと言って放っておくのも、不憫じゃからの。

■ゾフィー To:ミガク
むかえにくる…ですか、親がね。
その石は、いまでもレヴィーヤさんが身につけておられますの?
石についてはなにか話しておられまして。

■ミガク To:ゾフィー
うむ、風呂のときも寝るときも、肌身離さず身につけておりますな。
彼女は「だいじなたからもの」としか。

鼻の頭を掻きながら、困ったようにため息ひとつ。
■ゾフィー To:ミガク
……………。
あとで、周りの者に石について尋ねてみてもよろしいかしら。
さしつかえなければ、このスケッチもお預かりできまして?

ミガクが石を描いた羊皮紙をそっと手に取りつつ、ゾフィーは尋ねかけた。
■ミガク To:ゾフィー
ええ、それはもう願ったりかなったりで。……ちと怖い気もしますが、いつかは受け止めるべきことだと、覚悟を決めねばなりませんからな。
うむ。……さぁて、長々と話し込んでしまって、すみませんでしたな。
そろそろお時間ですかな?

■ゾフィー To:ミガク
あらっ、わたくしとしたことが、ついつい時間を忘れてしまって。
ミガクさん、肝心のあなたの作品をまだほとんど拝見しておりませんのに。

ミガクの案内で、再び1階に戻ってきたゾフィー。
モザイク作品のあれこれを紹介してもらい、その中にあった控えめな装飾の小物入れに目を留める。
夏の終わりのこの時期の、夜明けの海を思い起こさせる紫色のグラデーション。
どこか寂しさを宿しながら、それでいてはるかな深みを感じさせる一瞬が、微妙な色合いを重ね合わせて再現されていた。
シーフツールを入れておくのにちょうどいい大きさと軽さであることを、手にとって確認し、満足げにうなずいたゾフィーは、代金として100ガメルを支払った。
■ミガク To:ゾフィー
おかげさまで久々に楽しい時間が過ごせましたぞ。
また気が向いたら寄ってくだされ。レヴィーヤも喜ぶでしょう。

■ゾフィー To:ミガク
お邪魔したのではなくて、よかったですわ。
そうですね、時間がとれましたらまた是非、ご自慢のレヴィーヤさんにもお会いしてみたいことですし。

そしてゾフィーは、ミガクに見送られながら「モザイクガーデン」を後にした。


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