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SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

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モザイクガーデン



  イーンウェン・モザイクガーデン

雨の中の予期せぬ出来事により、かなり衣服や髪を濡らしてしまったふたり。
秋の冷たい空気も相まって、『モザイクガーデン』の看板を見つけた頃には、すっかり身体が冷えてしまっていた。
■ライチ To:ゾフィー>ひとりごと
ここだよ。
階段、濡れてるから気を付けてね。

さて……、笑顔、笑顔っと。

壁から吊り下げられた鉄製の看板には、共通語とドワーフ語の両方で、『モザイクガーデン』と書かれていた。
白やグリーン、サファイアブルーなどで彩られたモザイクの壁。足元には小さな階段があり、少し高い位置に埋め込まれた木製の扉へと誘っていた。

ライチは小さくつぶやいた後、自らの頬を軽くぺちぺちと叩いてからドアを開けた。
■ライチ To:ゾフィー>扉の中
さ、どうぞ〜。
こんちわーっ。帰ってきたよ〜♪

部屋の中はゆるやかなドーム状になっており、まるで洞窟のような落ち着きのある薄暗さに満たされていた。
小さな明かり取りから差し込む光では足りないのか、部屋のそこかしこでランタンの炎が揺らめいている。
並んでいる棚はいずれも低めで、ドワーフにとってちょうど良い高さ。
細かく丁寧な仕事のモザイクで飾られたコップ、額縁、アクセサリーなどが置かれ、ランタンの薄明るい光を受けて幻想的な存在感を示していた。
■ゾフィー To:室内
ごめんくださいませ、あらまあ、素敵な店内ですこと。

そしてその奥には、作品を生み出す場所である工房。
背の低い椅子に背中を丸めて座り、背の低い机に熱心に向き合うひとりのドワーフ。
彼は仕事に夢中なのか、ライチのことさら明るい呼びかけにぴくりとも反応しない。
■ライチ To:ゾフィー>ミガク
ふふ、彼がミガクだよ。
ミーガークっ!! 無事に荒波から帰ってきた友だちの声くらいね──

■ドワーフの職人(ミガク) To:ライチ、ゾフィー
……っぬおお!!?
い、何時からそこにおった!!?
ああいや、すまんの、ライチか。今まさに最後のモザイク貼り、フィニッシュの作業に没頭しとったんじゃよ。
いやいや、無事に帰ってきて何より……そちらさんは?

ライチのからかうような声に、ドワーフの職人はようやく顔を上げて、ふたりの訪問者の姿を交互に見やった。
創作意欲に溢れた輝きを持つつぶらな瞳と、白髪の混じった胸まで覆い尽くす見事なヒゲだ。
■ライチ To:ミガク>ゾフィー
このひとは、ゾフィーさん。私と一緒に同じ船の護衛でこの町にやってきたの。
ゾフィーさん、彼がミガク。この通り、没頭すると周りが見えないタイプね。

■ミガク To:ライチ>ゾフィー
職人てのはおおかたそう言うもんじゃ……まったく。
はじめまして、じゃな? ゾフィーさん。ミガクじゃ。しがないモザイク画家をやっとります。……おおっと、これは失礼。

ミガクは握手を求めようと差し出した手が、傷だらけで、汚れていることに気付いて慌てて自分の作業衣に挟み込んだタオルでごしごしやりはじめた。
■ゾフィー To:ミガク
はじめまして、ゾフィーと申します。
わたくしにはお気遣いなさらず、職人の手は荒れて当然でございましょう?

やわらかく膝を曲げて挨拶を送ったゾフィーは、ミガクが差し出そうとした手に合わせるように、その手を差し出した。
■ミガク To:ゾフィー
おおっと、こりゃどうも、ご丁寧に。

優雅な挨拶に恐縮しながら、ゾフィーと握手を交わす。
■ライチ To:ミガク
ゾフィーさんね、ミガクに聞きたいことがあるんだって。
あ、その前に……忙しいとこ悪いけどさ、眼鏡、作ってくれない?
ほら、何度か直してもらったじゃない、あれと同じやつ。

■ミガク To:ライチ
なぁにぃ? アレと同じ奴、と簡単に言いよるがな……お前の目に合わせるにはそれなりに時間がかかるぞ。
2日、いや、3日じゃな。で、前のはどうしたんじゃ。海にでも落としたか?

■ライチ To:ミガク>ゾフィー
ま、そんなとこ。
私、お茶入れてくるね。どうぞ話してて!

■ゾフィー To:ライチ
ちょっと、あなたが……まあ、おかまいなく……。

そう言うとライチはひらひらと手を振りながら、勝手知ったる家といった足取りで工房の奥――おそらくはキッチンがあるのだろう――へ引っ込んでいった。
■ミガク To:ゾフィー
やれやれ……いや、こんな雨の中よう来なすったね。まぁかけてくだされ……それで、聞きたいことというのは? わしの作品に関してのことかね?

ミガクはまだ使用されていないタオルを棚から引き抜くと、雨に濡れたゾフィーに手渡しながら尋ねた。
■ゾフィー To:ミガク
お気遣いに感謝を。
では失礼させていただきますわね。
この町に着いてから、雨続きで……。

ゾフィーは頭に巻き付けた紫の布を外すと、受け取ったタオルで、髪や肩、袖などを手早く拭った。
そしてタオルに汚れや染みが移っていないことを確認すると、きちんと畳んでミガクに返す。
■ゾフィー To:ミガク
ありがとうございます、助かりましたわ。

公園のモザイクを拝見させていただきましたの。
鮮やかな色使い、噂にたがわぬすばらしい腕をお持ちですのね。
ええ、ベルダインでの評判は、東方にも届いておりましてよ……
……確か海に惹かれて旅にお出になったとか、この地には芸術家に足をとどめさせる魅力がございまして?

そう話しながら、ゾフィーはすすめられた椅子にそっと腰を下ろした。
■ミガク To:ゾフィー
これは光栄な。ベルダインで遺した仕事は、わしとしてはいろいろと悔いの残るものも多くありまして……おおっと、その話はいいですな。

ええ、あなたもごらんになったでしょう。どこまでも広がる青い海!
打ち寄せる白波、点のような太陽! そして海鳥たちと群れを為す魚たち──
このところは雨続きで、残念ながら景色はくすんで見えておりますが、それもまた海の魅力。
あれのすべてを表現するまでは、わしはまだまだ死ねませんて。

まるで少年のように瞳をきらきらさせて、つい先ほどモザイクを貼り終わったキャンドルホルダーを持ち上げた。
くすんだグレイッシュブルーとダークグリーン。
キャンドルを灯せば、かがり火が揺らめき雨に煙る、夜の港を思い起こさせるだろう。
■ゾフィー To:ミガク
使ってこそ映える芸術ですか、心のこもった作品ですわね。

■ミガク To:ゾフィー
それからこの町は、なぜか画家を育てる土壌があると思うのですな……
何故か心を捉えて離さない、神秘的な海だけではなく。
「ギャラリー・ハプルマフル」に収められた、はるか昔から伝わる絵画……
いやはや、たいそう刺激になる……もうご覧になりましたかな? なかなか圧巻ですぞ。

もともと話し好きな性格なのか、ミガクは人好きのする笑顔で言葉を続ける。
そのたびに見事なヒゲがもこもこと動くのだった。
■ゾフィー To:ミガク
「ギャラリー・ハプルマフル」には、残念ながらまだ足を運んでおりませんの。
あなたがそこまでおっしゃるほど、見事な絵画なのですか。
ゴルボロッソさんという300年前のドワーフの画家の名前は聞かされましたが、その方の絵なのかしら。

■ミガク To:ゾフィー
他にもありますが……目玉はゴルボロッソ、ですな! あの馬鹿正直と言うか、頑固なまでの堅実で緻密な写実力が、当時はあまり受けなかったと聞きますが──いや、わしは好きですぞ、うむ。
300年前といえば、まだイーンウェンも古代王国時代の名残りが濃く、なかなか混沌として魅力的な時代でしたからな。
その文化を感じられるという意味で、非常に興味深いのじゃよ。

うちのレヴィーヤもたいそう気に入って──ああ、うちの「孫娘」なんですがね。

喋り出したら止まらないといった様子のミガク。
最後には目尻が下がっていた。
■ライチ To:ミガク&ゾフィー
こらこら、ミガクばっかりしゃべくりまくってるんじゃないの〜?
なーんて。はい、お茶ここに置いとくね。

いつのまにか現れていたライチが、なつかしがるような笑顔を浮かべながら、温かい紅茶とポットを置いた。
■ゾフィー To:ライチ
ありがとうございます。
あなたも温かいものを体にいれたほうがよろしくてよ。

■ライチ To:ゾフィー>ミガク
んっ、大丈夫だいじょうぶ。
そういえば、レヴィーヤいないんだね?
ゾフィーさんに会わせたかったのに。また、スケッチ?

■ミガク To:ライチ>ゾフィー
おお、妙にこの雨にはしゃぎおってな……また、港かリンゴ畑じゃろう。
いやはや、変わった娘でしてな。ゴルボロッソへの憧れのせいか、わしが教えたドワーフの言葉しか話そうとしませんでなぁ。

再び、ミガクの目尻が下がる。
■ゾフィー To:ライチ
レヴィーヤさんというのがあなたがお会いになった娘さんですの?

■ライチ To:ゾフィー
そう。人間の子なんだけど、緑と青が混じったような変わった髪の色をしてて……ドワーフの言葉で会話するのが嬉しくてしかたないみたいなの。

■ミガク To:ゾフィー
「ゴルボロッソにちかづけた」気がして、「うれしい」と言うてな。
それにしても、あれから1年も経つわりには、ちーとも背が伸びやせん。
ちゃんと食わせているつもりなんじゃがの。

■ゾフィー To:ライチ&ミガク
エルフとドワーフが人間の娘さんをね、この土地の包容力が感じさせられるお話ではございませんか。
「レヴィーヤ」というのも珍しい名のような気がいたしますが、その娘さんが名乗っておられましたの?

■ライチ To:ゾフィー
最初は……言葉を知らなかったのか、動物のようにうなったりするだけだったの。
その中で、あの子が繰り返し発音してた言葉がそんな感じに聞こえたから、それを名前にしようかって。……何かの手がかりになるかもしれないしね。

■ミガク To:ライチ&ゾフィー
わしにとっては毎度舌を噛みそうになるんじゃがの〜。

■ゾフィー To:ライチ&ミガク
なるほど……そしてドワーフ語を話すようになったと、面白い話ですわね。
言葉が通じるようになってから、本人に意味を尋ねたりはなさらなかったのですか?

■ミガク To:ゾフィー
うむ、尋ねてはみたんじゃが……首を傾げるばかりでしてな。
まぁ、わしらの発音では正確ではないのか、そもそも聞き取り方が間違っていたのかもしれんがね。

■ゾフィー To:ミガク
その娘さんも絵をお描きになるのね。
写実の才能をお持ちでいらっしゃいまして。

■ミガク To:ゾフィー
いやいや、最初はてんで駄目だったんじゃがね。
ギャラリーに足しげく通ったり、スケッチを繰り返すうちにどんどん上手くなっていきよっての……あれは、そう。好きこそモノの何とやらじゃな。
今では……まぁゴルボロッソほどとは言わんが、見事なもんじゃよ。うむ。

■ゾフィー To:ミガク
あら、機会がありましたら是非拝見させていただきたいですわ、それは。

■ミガク To:ゾフィー
うむ、かまいませんぞ。では後ほど、彼女の小さなアトリエに案内させていただきますかな?

■ゾフィー To:ミガク
実を申しますと、昼にちょっと待ちあわせがございまして。
よろしければ、帰り際にでもちらりと覗かせていただけませんこと。
後ほど時間ができましたら、ミガクさんのモザイクともどもじっくりと拝見いたしとうございますわ。

■ミガク To:ゾフィー
そうでしたか、まぁわしのほうは大抵ずっと工房に籠り切りですからな、いつでも歓迎しますぞ。

■ライチ To:ゾフィー
……あ、ゾフィーさん。私の用事はすんだから、先に行くね。
ゆっくり話をしていていいから。

■ゾフィー To:ライチ
わかりましたわ、勝手知ったる町でしょうけれどお気を付けになってね。
夜には宿にお戻りになられるのかしら。

■ライチ To:ゾフィー
……うん、少し遅くなるかもしれないけどね。いろいろ、知り合いに顔出して回るから。みんなによろしく!

ライチはさっと漆黒の外套を羽織り直すと、ふたりに手を振って慌ただしく出て行った。
■ミガク To:ゾフィー
やれやれ、相変わらずせわしない奴じゃ……すみませんな、まぁくつろいでくだされ。
そういえば、久しぶりに同族とお会いしたというのに……お互い“コモン(共通語)”で会話をするというのも、いささか不思議な気がしますな。
まぁ、わしは生まれがベルダインでしたからな、“グンダール(西方語)”のほうが肌に馴染んでしまっておるのですが。

■ゾフィー To:ミガク
そうですか、わたくしは同族と山暮らしが長かったものですから。
オランに出てくるようになってからは意識して“コモン(共通語)”を用いるようにしておりますのよ。
言葉というものは服と一緒で、慣れていかないとなかなかこなれないように思いましてね。
“マールダン(東方語)”にも手を伸ばしたいところですが、まだまだね。

そういえば、この町にはドワーフはおりませんの?
300年前にゴルボロッソさんがお住まいだったということで、その子孫なり、一族なりがいるのかとも思いましたが、そうでもないのかしら。

■ミガク To:ゾフィー
言葉は生き物、数十年後には我々の母国語も、どのような変化を遂げているかわかりませんしなぁ。

おっと、この町に住んでおるドワーフですかな?
まぁ、こんな小さな町ですからな……わしの知る限りでは、あとふたりしか住んでおりませんぞ。
靴職人のコネルと、鍛冶屋のトグーですな。
コネルはエレミア出身、トグーはオラン出身じゃと言っとったかな。
少なくとも、イーンウェンで生まれ育ったドワーフというのは、もう居ないはずですな……ゴルボロッソの子孫は、すでに途絶えていると聞いております。
彼は肉親に先立たれたのち、家族も持たず、もちろん子を為すこともなかったそうですからな。

■ゾフィー To:ミガク
それは残念ですわね、ところでその話はどちらで耳になさったのかお伺いしてもよろしいでしょうか?

……実は、オランに住まう子ども達に頼まれ事をしておりまして。
古代王国時代後期に描かれた絵本──『イーエンにかかる虹』という題名ですわ──に出てくる「魔法の絵筆」が、それからどうなったのか調べてほしいというのですよ。
イーエンというのはイーンウェンの旧名だと言われましてね。
絵本の主人公はドワーフの画家で、本物そっくりな絵を描くことができるということでした。
……年代的にゴルボロッソさん御自身ではなさそうですが、もしかするとその方の末裔なのかもしれないと考えたりもいたしましたの。
どなたか、そういった伝説や物語に詳しい方をご存知ではございませんかしら。

■ミガク To:ゾフィー
ほほぉ……なるほど。いや、わしはその絵本のことは知りませんが……本に関することなら、移動図書館『葉隠れ屋』のハホリーナさんに聞いてみるのが一番かと思いますぞ。
と言っても、会えるかどうかは運次第とも言われておりますがなぁ。

そうそう、ゴルボロッソの話は「ギャラリー・ハプルマフル」で聞いたんじゃよ。
ゴルボロッソの絵を鑑賞しとる時に、そこで働いているアルバイトの女の子と、彼の作品について熱っぽく──まぁ、主にわしが一方的に、じゃが──語り合ったときに、ちらりとそんな話が出たんですな。< BR> いやはや、まったくもって残念な話ですが、こうして作品が残されている限り、彼の存在は永遠とも言えると──そう思うわけですな。

最後には身振り手振りをまじえつつ、熱い口調で語るミガク。
■ゾフィー To:ミガク
それは、ゴルボロッソさんだけではなく、ミガクさん、あなたにもあなたの作品にも言えることなのではございませんか。

図書館とギャラリーですわね、ご教示感謝いたしますわ。
滞在期間を生かしていろいろ当たってみようかと思いますの。
歩き回るにはあいにくの天気ではございますけれどね。
この雨はどのくらい続いておりますのかしら。

■ミガク To:ゾフィー
4、3日ほど前から……じゃったかの? 降り続いておるのは。
その前も、降ったり止んだり曇ったりで、こう、気持ちのいい青空というのはここ何週間も見ていない気がしますなぁ。
まぁ、雨の音というのは集中力を高めてくれますので、あまり気にはなりませんがな。

■ゾフィー To:ミガク
何週間もですか、雨期みたいなものですかしらね。

■ミガク To:ゾフィー
さて、そろそろアトリエをご覧になりますかな?

ポットのお茶が尽きた頃、ミガクはそう尋ねた。
■ゾフィー To:ミガク
そうですわね、お願いいたします。

そう言いつつ、ゆっくりと腰をあげるゾフィーであった。


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GM:ともまり