モザイクガーデン
雨の中の予期せぬ出来事により、かなり衣服や髪を濡らしてしまったふたり。
壁から吊り下げられた鉄製の看板には、共通語とドワーフ語の両方で、『モザイクガーデン』と書かれていた。
部屋の中はゆるやかなドーム状になっており、まるで洞窟のような落ち着きのある薄暗さに満たされていた。
そしてその奥には、作品を生み出す場所である工房。
ライチのからかうような声に、ドワーフの職人はようやく顔を上げて、ふたりの訪問者の姿を交互に見やった。
ミガクは握手を求めようと差し出した手が、傷だらけで、汚れていることに気付いて慌てて自分の作業衣に挟み込んだタオルでごしごしやりはじめた。
やわらかく膝を曲げて挨拶を送ったゾフィーは、ミガクが差し出そうとした手に合わせるように、その手を差し出した。
優雅な挨拶に恐縮しながら、ゾフィーと握手を交わす。
そう言うとライチはひらひらと手を振りながら、勝手知ったる家といった足取りで工房の奥――おそらくはキッチンがあるのだろう――へ引っ込んでいった。
ミガクはまだ使用されていないタオルを棚から引き抜くと、雨に濡れたゾフィーに手渡しながら尋ねた。
ゾフィーは頭に巻き付けた紫の布を外すと、受け取ったタオルで、髪や肩、袖などを手早く拭った。
そう話しながら、ゾフィーはすすめられた椅子にそっと腰を下ろした。
まるで少年のように瞳をきらきらさせて、つい先ほどモザイクを貼り終わったキャンドルホルダーを持ち上げた。
もともと話し好きな性格なのか、ミガクは人好きのする笑顔で言葉を続ける。
喋り出したら止まらないといった様子のミガク。
いつのまにか現れていたライチが、なつかしがるような笑顔を浮かべながら、温かい紅茶とポットを置いた。
再び、ミガクの目尻が下がる。
ライチはさっと漆黒の外套を羽織り直すと、ふたりに手を振って慌ただしく出て行った。
最後には身振り手振りをまじえつつ、熱い口調で語るミガク。
ポットのお茶が尽きた頃、ミガクはそう尋ねた。
そう言いつつ、ゆっくりと腰をあげるゾフィーであった。
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