SW-PBMトップへ
Scenario Indexへ
SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

 このシナリオのトップへ ←前のページ   次のページ→ 

刺客



  イーンウェン・月影通り

静けさを取り戻した月影通り。ふと雨音が強くなった。
濡れた地面に組み伏せられた「現れたライチ」の頬に、先ほどよりも大粒になってきた雨粒が、ぽつぽつと当たっている。
■現れたライチ To:ゾフィー
……。

戦意を失ったのか、それとも別のことを考えているのか──
まるで糸が切れた人形のように微動だにせず、押さえつけられている四肢に力も入れず。わずかに苦みを込めた瞳で、まっすぐにゾフィーの瞳を見つめている。
ライチは炎を吹き上げる剣を収めようとはせず、警戒を解かないままふたりの動きを見ていた。
わずかにでも危険な動きがあったなら、迷わず斬りつける──そういうつもりの ようだ。
■ゾフィー To:現れたエルフ
雨も激しくなってまいりましたし、一時休戦とまいりませんか?
事情を伺う間だけでも、剣を一一魔法も一一引くと約束していただけるなら、手を離しますわ。
正直、いつまでもこの体勢を取っていたくもございませんし。

■現れたライチ To:ゾフィー
……手を離したら、私はまた剣を取る。
それを許さないというのなら、離さない方が身のためだよ……。

■ライチ To:現れたライチ
この状況で、まだそんなことを言うの……
うわっ! こいつ、顔まで私そっくり!! ……き、気持ち悪……。

相手の顔をまじまじと覗き込んだライチは、はじめてはっきりと顔のつくりを視認できたらしく、思わず素っ頓狂な声を上げて身を引いた。
■ゾフィー To:現れたエルフ
不思議なことをおっしゃるのね。
それなら何故、抵抗なさいませんの。
今のあなた自身の意志はどうあるのかしら。

■現れたライチ To:ゾフィー
さっき、具体的な話がないから……と言っていたね。
身の上話を……私が「悪魔」に殺されかけた時のことを話せば、私のことを本物だと信じてくれる?
本当はあまり……話したくないことなの……。

■ライチ To:現れたライチ
……身の上話……?

少しの不安と動揺を含んだ声でつぶやくと、ライチは投げ出された漆黒の剣を注意深く拾いあげた。
よく見ると柄部分には細い糸のような黒の鎖がついており、組み伏せられたライチの腰の鞘と繋がっていた。
■ライチ To:現れたライチ
何を知って……いや、知っているふりをしているのか知らないけど……ゾフィーさん。
こいつが何を言ったって、それが真実だなんてわからないよ。
本物である私にしか……。

■ゾフィー To:現れたエルフ&ライチ
先にはっきりさせておきましょう。
お二人には申し訳ありませんが、わたくし、あなたがたのどちらが「本物」かという問題には興味はございませんの。
わたくしにとっては、今、目の前にいるあなた方がすべて。
双子の姉妹ではないですけれど、同じ外見や名前を持つひとが二人いようが、十人いようが、それだけだったら世の中べつに変わりはしませんわ。

倒れたエルフを押さえ込んだまま、ゾフィーは僅かに身体を動かし、互いが少しでも楽な体勢をとれるよう、その位置を調整した。
相手はそれでも微動だにしなかったが──。
■ゾフィー To:現れたエルフ
ただ、倒れているあなたが、こちらの立っているひとに「殺されかけた」というなら、それは大きな問題ね。
あなたが許せないと言うのはわかりますわ。
しかも「悪魔」よばわりするからには、よほどの目にお会いになったのでしょう。

■現れたライチ To:ゾフィー
…………。

■ゾフィー To:ライチ
ライチさん。
あなた、このひとの話から、なにか思うことはございまして?
いえ、あなたご自身のことではないのかもしれませんけれど、こういう事態が発生する可能性に心当たりはありませんか。

■ライチ To:ゾフィー
……。
ううん、無いよ……。

力なく首を横に振る。
■ゾフィー To:ライチ
とりあえず、ひととおりこちらのひとの話を聞かせていただいてもよろしくて。
つまり、それがあなたにとって「侮辱」「言いがかり」「嘘」ととれる発言 だったとしても、結論が出るまでは戦いを再開したりしないでいただきたいの。
これまでの行動を拝見させていただく限り、あなたには、それだけの器量がそなわっているように思えますのでね。

■ライチ To:ゾフィー
……わかった……。
でも、ゾフィーさんや他の人が危険に晒されそうになったら……迷わないからね。

ライチは拾い上げた剣を再び地面に置き、自らの燃え上がる剣を鞘に納めた。
あたりの空気が、再び降りしきる雨によって冷えていく。
■ゾフィー To:ライチ
…………。
……ありがとうございます。

ライチに礼を述べたゾフィーはあらためて、押さえ込んでいるエルフの碧の瞳を己の鋼色の目でしかと覗き込んだ。
■ゾフィー To:現れたエルフ
先にも申しあげたとおり、わたくしはこのひとが、人間達の命を救うため必死で働く姿をみてまいりました。
ですから、このひとが「悪魔」であるという話はにわかには信じがたいことですの。
でも、あなたが……辛い経験をなさったというのは、本当のようですわね。
なにが起きたのか、「真実」がわかれば、あなたを解放することも含め、できるかぎりの協力をすることを約束しましょう。
それだけでは、お話しいただくには不足かしら。

地面に背中を預けたままの「黒ずくめのエルフ」は、濡れた髪を頬に張り付かせたまま一度目を閉じ──そして、ゆっくりと口を開いた。
■現れたライチ To:ゾフィー&ライチ
最後まで聞いて……。

私は一度死んでるの。幼い頃、100年近くも昔……海の事故でね。
冷たくなった私の体を埋葬する日、母は私の体を抱きしめて、墓地でこう祈ったそうだよ。
「誰でもいい、もう一度この子に未来を。
 自分の命と引き替えでもいい」

──その声に答えたのは、カーディスの従順なる使徒である「悪魔」だった。
「悪魔」は死んでいる私の姿を写し取り、言葉巧みに近づき、すがりつく母を殺し、その魂をカーディスに捧げ、代わりに私を蘇らせた……。

そこまで言うと彼女は、ライチの方へついと視線を移す。
まるで、反応を確かめるかのように。
ライチはただ立ちすくんだまま、自分と生き写しのその姿を見つめていた。
■現れたライチ To:ゾフィー&ライチ
私は何も知らされず生きてきたけど、ある日墓地で母の亡霊に出会ってね。
すべてを知った私は、「悪魔」を探し出し戦いを挑んだ。
けれど、敵わなくて……
「悪魔」は血まみれの私を死んだと判断したんだろう、あの時と同じように私の姿に成り代わり、去って行ったの……。
これが私の物語の全て。

■ライチ To:現れたライチ
……どうして、知っているのか知らないけど……。
前半は正解だよ。
けど……後半はでっちあげだ。私は母の姿をあの日以来見てもいないし、言葉も交わしていない!
……母を殺し、私に呪われた命を与え蘇らせた「悪魔」にも会ったことは無い……!

静かな怒りを宿した、低く鋭い声でライチが叫ぶ。
衝動を押さえ込むかのように、左手をきつく握りしめたまま。
■ゾフィー To:ライチ
ライチさん、失礼を承知でお伺いしてもよろしくて。
あなたご自身は、「前半」のことをどうやってお知りになりましたの。
誰かに教えられたのですか、それとも記憶としてお持ちなのかしら。

■ライチ To:ゾフィー
全部……覚えてるの……。
蘇った者は……捧げられた者の最後の姿を……見せつけられる……そういう儀式だった……。

■ゾフィー To:ライチ
……なるほど、たちの悪い。

常より低い声音でゾフィーは吐きすてた。
■ゾフィー To:現れたエルフ
あなた……よろしければお名前を教えていただいてもいいかしら。
わたくしは、さきほどから呼ばれているように、ゾフィーと申します。

■現れたライチ To:ゾフィー
……ハプルマフル。母がくれた名前……。

言葉とは裏腹に、「ハプルマフル」の瞳の碧は徐々に醒めたように沈んでいき、感情の揺れと呼べるようなものが失われていく。
■ライチ To:ハプルマフル&ゾフィー
……そう、だね……。母が私にくれた名前……。
この土地の古い言葉で……「ちいさくてかわいい子」という意味……。
もう、こんなに大きくなってしまったのに……。

降りしきる雨が、3人の身体を冷たく濡らしていく。
薄暗い路地に小さな水たまりができ始めた。
■ゾフィー To:ライチ&ハプルマフル
……この場で証明はできませんけれどね。
おふたりとも「真実」を話している可能性がありますわ。
つまり「悪魔」は別にいて、あなた方を争わせて楽しんでいるのかもしれないという事よ。

■ライチ To:ゾフィー
……? どういうこと……?

■ハプルマフル To:ゾフィー
…………。

■ゾフィー To:ライチ&ハプルマフル
もしそうだとしたら、あなたがたはどちらも被害者よ。
怒りや復讐の矛先を向けるなら、お互いにではなく、皆の思いを踏みにじる最低のやりかたをした奴にだと思うわ。

「悪魔」はふたつの意識を生み出し、ひとりには「誕生の記憶」をあたえた。
ライチさん、あなたね。
もうひとりには、後に「母親の亡霊」に遭遇させ「真実」を知らせる。
これがハプルマフルさん、あなた。
そして復讐にきたハプルマフルさんをわざと生かし、変化の力を見せつける。
ハプルマフルさんは、自分と同じ姿をとった者を「悪魔」と判断するでしょう。
そしてふたりが出合ったとき……期待できるのは破滅、どちらかか、あるいは双方の。

■ライチ To:ゾフィー
……すべて、「悪魔」が仕組んだことだった……ってこと……?

ライチは目の前で倒れている自分の姿を、もう一度目を凝らすようにして見据える。
しかしその表情は、変わらない──ほんの少しだけ上向きに歪んだ口元を除いて。
■ハプルマフル To:ゾフィー
……ふふ。
私が言った「真実の物語」は……これから起こることだよ。
命は取れなかったけど、ハプルマフルの怒った顔が見れたから、十分……。
あとは蒔いた種が破壊の実を結ぶのみ……。

■ライチ To:ハプルマフル>ゾフィー
……っ!
こいつ、口の中に何か──!!

ハプルマフルの奥歯のあたりで、「ガリッ」という粉砕の音が聞こえるのと同時に、ライチはゾフィーの身体を「ハプルマフル」から引きはがすようにして庇い、自分の身体ごと地面に伏せさせた。
一瞬の鋭い閃光が視界の端に映り、固いものが破裂するかのような音が響く。
■ライチ To:ゾフィー
……っく! 大丈夫!?

ゾフィーにケガが無いことを確かめてから、すばやく身を起こしたライチは、剣の柄に手をかけ構えたまま動きを止めた。
「ハプルマフル」と名乗ったそれは、──身につけていた装備、服、鎖でつながっていた剣でさえも含めて──全身が真っ黒な人型の姿に変わっていた。
頭の部分は爆風で吹き飛ばされたかのように半分消し飛んでいたが、わずかに残る特徴と言えば、顔の真ん中(であった場所)に横一文字に 刻まれた真っ赤な口。
■ゾフィー To:ライチ
ありがとうございます……まさか爆発するとはね。
さて、あなたはこれがなにかご存知でして。

■ライチ To:ゾフィー
……ううん、わからない……。
口の中で爆発したものは、炎晶石か……エクスプロージブ・ブリットのような、衝撃を与えると爆発するものだとは思うんだけど……。
……あ……。

片膝をついて顔を近づけ、よく観察しながらつぶやくライチ。
その言葉が終わるのと同時に、真っ黒な姿は音も立てずに崩れ落ち、どろりとした黒い液体に変貌を遂げて地面に広がった。
そして、降りしきる雨に溶かされて次第に薄く消えていく。
■ゾフィー To:
あら、急ぎませんと……。

黒い液体に近づいたゾフィーは、それを手に取って観察した。
船の上で確認した絵の具と同じであると確信をしたかのようにうなずくと、一部を小袋に採取する。
■ライチ To:ゾフィー
……雨がすべてを洗い流しちゃうね……。
私の姿のまま、ここに寝ていられるより、いっか……。

そう言って立ち上がると、ゾフィーが立ち上がるのを助けるように手を差し伸べる。
■ゾフィー To:ライチ
いえ、大丈夫ですわよ。

苦笑いを浮かべながらその手を断ったゾフィーは、腰をあげた。
衣にできた泥染みを恨めしげに見やったあと、溜息をついてライチを見上げる。
■ゾフィー To:ライチ
襲撃を手配した者が共通だとするのなら、相手の目的が理解できませんわ。
船の時といい、今回と言い、こちらを倒すつもりならそれだけの数を手配できたはずよ。
脅しだというなら、その意味を伝えようとするでしょうし。
不安をばらまくなら、町の人を対象にすればいい。
あえて手ごまを潰して、なにをしたいのかしら……あるいはそれ自体が目的とか、まさかね。

■ライチ To:ゾフィー
……相手が何であれ……私と母を辱めた相手を私は許さないよ。

深い碧の瞳には、押さえきれない静かな怒りの色が宿っていた。
■ライチ To:ゾフィー
ゾフィーさんたち……液体に戻ってしまう魔物を調査しているんだよね……?
この現象について、何か知っているの……?

■ゾフィー To:ライチ
子どもたちに頼まれましてね、ある絵本に出てくる「描いたものが本物になる絵筆」の話を調べているのですよ。
物語の舞台はイーエン、イーンウェンの旧名だと聞きましたの。
そしてこの町を調べてみたら、倒すと絵の具になる怪物たちが出てきたというわけです。
偶然……というには、気になる一致でございましょう?

■ライチ To:ゾフィー
……リコが言ってた絵筆って、そのことだったんだね……。

それ以上は何も言わず、何か別のことを考えているような横顔で、雨に溶けていく黒い液体を見つめている。
■ゾフィー To:ライチ
こんな空模様の下、立ったまま長話もなんですわね。
とりあえず、濡れない場所に移動いたしませんこと。

■ライチ To:ゾフィー
うん……じゃあ、行こう。

少しだけ雨足の遠のいた路地を、ふたりは再び歩き出した。
静寂の中、ぬかるみを帯びた地面を踏む音だけが聞こえている。
■ライチ To:ゾフィー
ゾフィーさん、さっきの話……私の「身の上話」のこと、誰にも言わないで。
……特に、リコには……。

右眉をぴくりと動かしななら、ゾフィーは歩をゆるめることなく、横に並ぶエルフの顔を見上げる。
■ゾフィー To:ライチ
あなたはリコリスさんの……ぃぃぇ。

ご心配なさらず、ひとの過去を他人にべらべら喋る趣味は、わたくしにはございませんのよ。
普段なら、みそこなわないで頂戴、と言うところですけれども……。

言葉を切ったゾフィーは、後ろに残る暗がり──ドワーフである彼女の視覚には「暗く」は見えないが──を大きく振り返った。
■ゾフィー To:ライチ
……よろしいですわ、約束いたしましょう。
ただし、今回の事件や依頼の解決の為に避けられない状況にならない限り、ね。
それでよろしくて?

■ライチ To:ゾフィー
わかった……ありがとう。
早く……なんとかしないといけないね。

額に張り付いた長い前髪を指先で分けながら、ライチは目の前をまっすぐに見据えていた。
おなじ方向に目を向けたゾフィーは、小さく息を吐いた。
視線はそのままにつぶやくかのように、しかしはっきりとした声で言葉を紡ぎ出す。
■ゾフィー To:ライチ
あなたに無理をするな、とは申しませんけれどね。
陳腐なつぶやきをさせていただいてもいいかしら。
孤独や過去と戦っているのは、己だけではない。
そういう意味で……あなたはひとりではないということをね。

ふと足を止めたライチは、空を見上げた。
顔が雨に打たれるのも構わずに、痛みに耐えるような瞳でくすんだ雲を見つめ、やがて静かに目を閉じた。
■ライチ To:ゾフィー
……ゾフィーさんの声は、落ちつくね……。

あ……これ、どうしよう?
高価なものでしょ? 返しておいたほうがいいよね……。

ライチは背中側に手をやると、ベルトに挟んでいた銀扇をそっと取り出した。
■ゾフィー To:ライチ
そうね、でしたらしばらくお預かりいただいてもよろしいかしら。
万が一またそっくりさんが現れたとしたら、判別に役立つかもしれませんでしょう?
怪物襲撃事件が解決するか、あなたかわたくしか、どちらかがこの町を離れるまで、お持ちになってくださいません。
おそらく、ここ何日かのことになるでしょうね。

■ライチ To:ゾフィー
……わかった。
でも、それなら……ゾフィーさんにも何か持っていてもらわないと。
この件を追う限り、私だけが姿を写し取られるとは限らないし……
これでどう?

ライチは2本のダガーのうち1本を鞘ごと外し、ゾフィーに差し出す。
■ライチ To:ゾフィー
鞘が黒塗りって以外は、普通のダガーだけど……ね。

■ゾフィー To:ライチ
………。
もっともですね、では、お預かりしておきましょう。
あなたこそ、大事なものではございませんの?

受け取ったダガーをすばやく抜いて刃を改め、また鞘に戻しながらゾフィーは尋ねた。
船の上で見立てたとおり、ごく普通のダガーのようだ。
■ライチ To:ゾフィー
ずっと使っているから、愛着はあるけど……大丈夫、すぐ買い替えられるものだよ。
あ、でもちゃんと返してね?

最後は笑顔を向けてそう言った──若干硬い笑顔ではあったが。
■ゾフィー To:ライチ
もちろんですわよ、時間が取れたら、研ぎ直してお返しいたしますわね。

そう応じつつも預かった黒い短剣を懐中に落ち着かせ、うなずくと、ライチをうながすようにふたたび歩みを進めるゾフィーだった。


 このシナリオのトップへ ←前のページ   次のページ→ 

SW-PBMトップへ
Scenario Indexへ
SW-PBM Scenario#163
かわいい絵筆

GM:ともまり