悪戯小鬼かく語りき
冒険者たちが船室に入ると、ちょうど船倉から戻ってきた格好のライチとばったり会った。
シグナスにはライチが腰から下げている曲刀が光って見えた。
魔剣らしき曲刀に視線が映るシグナスだったが、曲刀なくらいしか珍しく思わなかったので気にしない事にした。
■ライチ To:ALL
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さっきはありがとう、ハノクたちには簡単に外の襲撃状況と撃退したことを伝えておいたから。
船倉の被害はたいしたこと無かったよ。安心してね。
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そしてイェンスが抱っこしている小鬼に近づいてまじまじと見つめ、眠っていることを確認すると口を開いた。
■ライチ To:ALL
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……こいつ、これから尋問するんだっけ?
天候と海の状況によっては総出で警戒しないといけないかもしれないから、その時はよろしくね。
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そう言うと返事も待たずに甲板に飛び出していった。
■グレムリン
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(???語)
...zzz......τνκ τνκ...
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グレムリンはまだ気持ちよさそうに眠っている……。
■ゾフィー To:ALL
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総出となると、やはり放置はできませんわね。
波が荒くなってきたら、縛ることも難しくなるかもしれませんし。
ロープをお持ちの方、なんとかしていただけません?
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■イェンス To:ゾフィー
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ロープならわたしが持ってますよ。
足辺りをグルングルンに巻きましょうか。
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■シグナス To:ALL
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魔法避けにダガーでも一緒に括っとこう。……あ、話せるの俺だけだっけ?うーん、まあ通訳すっから適当にやってみるか。
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■ゾフィー To:イェンス、シグナス
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翼を封じておいてくださいな、もちろん、ほどかれないように手もね。
そうそう金属とはいえ、刃物はそれ自体がロープを切る力を持ちますから。
くろがねという意味でしたら、スプーンのほうがよろしいのではなくて。
くさびなら持っておりますけれども、あれも先が尖っておりますしね。
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ダガーをグレムリンの身体に押さえつけ、それと一緒にロープで両足をぐるぐると縛って固定した。
ぱちっとグレムリンの目が開く。
■グレムリン To:ALL
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(???語)
....νοο...!?
εδγ βλυφχ ψωτσρπη!! χργδε!!!!
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狂ったように暴れ出そうとするが、すぐにダガーの刃に触れて痛かったらしくぎゅっと身体を縮ませた。
そして、わけのわからない言葉で冒険者たちに対し何かを喚き散らす。
思う限りの悪態をついているのだろう。目の奥には若干の怯えも感じられる。
悪意は無いが敵意はある──、そんな感じだった。
■ゾフィー To:シグナス
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何を言っているのか、おわかりです?
とりあえず、我々を襲った理由を訊けないかしら。
命令者がいるなら、それはどういう存在なのかも。
「正確に話す」ならこれ以上痛めつけるつもりはないが、「正直に答えない」ならその限りではないとはっきり言ってやって頂戴な。
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■グレムリン To:ALL
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(精霊語)
どうせ殺すんだろ、誰がしゃべるか、ばーかばーか!
うそつき! とーへんぼく! うすのろ! くそばばあ!
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冒険者を順繰りに見回し、唾をぺっぺっと吐きながら叫ぶ。
■シグナス To:グレムリン
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(精霊語)ああ、やっぱり死ぬって概念なのか。と言うかそもそも大丈夫なのか?今雨降って来てるけど。濡れたらどの道あぶなくね?
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■グレムリン To:シグナス
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(精霊語)
オイラの翼、濡れたくらいじゃびくともしないんだよーだ。
軟弱な鳥の羽根と一緒にすんなよ! べろべろべー!
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■シグナス To:グレムリン
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(精霊語)そっかー、凄いんだなー。けどお前戻らなかったら、お前の親分心配するんじゃね?それか怒るタイプ?
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■グレムリン To:シグナス
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(精霊語)
やさしいから怒らないっ! 怒られるのはお前たちのほうだぞ!!
………………(黙)……。
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噛み付くような表情で言ったあと、喋り過ぎたと思ったのか急に口を真一文字に結んで黙り込んだ。
■シグナス To:グレムリン
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(精霊語)
一つだけ教えてくれ。これは本気の質問だ。その人……人?まあ良いか。そいつは男か?女か?
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何故か真剣に問い詰めるシグナス。
■グレムリン To:シグナス
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(精霊語)
…………(長い長い間)…………
それ聞いたらオイラのこと逃がしてくれるか? そしたら教えてやってもいいぞ。
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■シグナス To:グレムリン
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(精霊語)
少しだけ、条件はある。他の連中の質問も、聞いてもらう。答える、答えないは自由だ。
ただ、答えようが答えまいが、最終的に逃がす事は約束する。……つか、嵐来そうなんだがほんと大丈夫か?
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■グレムリン To:シグナス
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(精霊語)
ちょっと待った! 逃がすとき「質問に答えたらすぐに」「縄を解いて」「五体満足で」ってのを付け加えさせてもらうぞ!
……そんならいいぞ。与えられた自由は有効活用しなくちゃ。
ん? だから大丈夫だって言ってるじゃん。何心配してるんだよ、オイラの仲間殺しておいて。
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船の揺れがだんだん激しくなってきた。外では風が強くなってきているようだ。
雨が甲板を叩く音が、ここまで伝わってくる。
■グレムリン To:シグナス&ALL
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(精霊語)
じゃあ、さっきの質問に答えるぞ。
女みたいに見えるけど女じゃないぞ。でも男でもないぞ。
そういう区別、持ってないんだぞ。
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■シグナス To:ALL
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……大元は人間や動物じゃ無い臭いなあ。
コイツ自身、魔法の産物なのは確かだし、先が見えん。後で逃がして先に繋げれる可能性、残したい所かね。
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■イェンス To:グレムリン
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自由になったらまた主の元に戻るつもりなのですか?
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■グレムリン To:イェンス&ALL
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(精霊語)
それは自由になってから考えるぞ。
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えっへんと胸を張って言う。
■ゾフィー To:グレムリン
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ものすごく基本的な質問をしてもよろしくて?
あなたの種族を教えていただけないかしら。
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■グレムリン To:ゾフィー&ALL
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(精霊語)
しゅぞく? このとおり、かわいい妖精だぞ!
おまえたちはオイラを見て「小鬼」とか「妖魔」とかって言うけどさ。
そりゃ、馬鹿な人間に悪戯するの大好きだけどさー。
悪気は無いのにー。
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逃がしてもらえるとわかって安心したのか、甘えたよーな上目遣いでぱちぱちとまばたき。
■ゾフィー To:グレムリン
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あら、それは驚きですわ。
いつ、だれがあなたを「小鬼」や「妖魔」呼ばわりしたというのです。
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■グレムリン To:ゾフィー&ALL
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(精霊語)
オイラも驚きだぞ! そんな奴がいるなんて。
そういう分類のしかたをする種族がいるなんて!!
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■ゾフィー To:グレムリン
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仮に何人か「そんな奴」がいたとしても、その種族がみんなそうだと考えるのは……同じくらい愚かかもしれませんわよ。
で「かわいい妖精」さん。
今回の襲撃も、あなたとお仲間による「悪気のない」「馬鹿な人間」への「悪戯」だったということなのかしら。
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■グレムリン To:ゾフィー&ALL
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(精霊語)
「馬鹿な人間」っていうのは合ってるぞ。にんげんだけじゃないけど!
今度ばかりは本気のほんき! …っ…………(黙)……。
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出かかった言葉を飲み込むかのように、再び真一文字に口を結ぶグレムリン。
「答えない自由」を行使することにしたようだ。
■ウーサー To:グレムリン
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なあ、ちょっといいか?
お前の仲間でな、戦乙女のお嬢ちゃんがいただろ? あの子の名前とか素性とかって、お前、なんか知らねぇか?
なにも遺してくれなかったからよ……せめて、名前だけでも知っておきてぇんだが。
名前が無ぇってんなら、せめてお前の親分とやらが、あの子をなんて呼んでたのかってのでもいいぜ?
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■グレムリン To:ウーサー&ALL
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(精霊語)
ふーん。殺したくせによくわかんないやつだな。
「レィシィ」って呼ばれてたぞ。オイラたちみんなきょうだいみたいなもんだぞ。
同じ親に生ん……ま、いいや。
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■ウーサー To:グレムリン
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「レィシィ」、か……ありがとうよ、忘れねぇようにしておくぜ。
そういやあ最後に、なんか言ってたんだが……オレ様は精霊の言葉なんて、わからねぇからなぁ。なんて言ってたか、お前、見当付くか?
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■グレムリン To:ウーサー&ALL
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(精霊語)
え? 何か言ってたの? 聞こえなかったぞ、遠かったしさ……。
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素で初めて知ったという顔をしている。
■シグナス To:ウーサー
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ああ、途切れ途切れだったがなんかこう、海の荒い人の子が如何の、て聞えたな。ニュアンスは遣り合ったお前の方が感じてるだろ。
戦乙女の性質も具現してたなら、アレはアレで本望だったんじゃ無いかと思うがね。
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雨が甲板を叩く音がいよいよ激しくなってきた頃、船室のドアが勢いよく開いた。
■ライチ To:ALL
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みんな、手伝って! 本格的に嵐がひどくなりそうなんだ。
ひとりでも多くの見張りが欲しいの!
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■グレムリン To:ALL
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(精霊語)
もう、話はいいだろ、オイラ飽きちゃったぞ!
約束だぞっ、今すぐ逃がせ、さぁ逃がせっ。
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■シグナス To:グレムリン
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(精霊語)
ああ、約束は質問が終ったら、だったな。お前の飽きる飽きないは関係無いぞ。
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■シグナス To:ALL
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どうすっかね、今逃がしたら使い魔で後追うのも一苦労なんだが……嵐の操船邪魔されても困るし。
逃がした所で、親玉誘い出す役には立つと思うんだが……もう逃がすか?
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■ウーサー To:シグナス、ALL&グレムリン
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逃がすのは構わねぇがよぉ、まあ約束だしな?
だが実際のトコロよ、今から此処でてちゃんと帰れるのか?外はこれから、すげえ嵐なんだろ?
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■イェンス To:ALL
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このまま行きたまま教授の研究室に連れて行きたい所ですが…。
泳がせる意味も込めてココは海に放しましょう。
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■ゾフィー To:ALL
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皆様、ライチさんの口調をお聞きになったでしょう。
悠長に相談している時間はございませんのよ。
もういっそのこと縄を解いた上で、お誘いになったらいかが。
「この船は明日イーンウェンに着く、嵐がどうなるかはわからないが、よかったらそこまで一緒にいかないか」とでもね。
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小さく鼻を鳴らすとゾフィーは身体をライチに向け、すぐに部屋を出ていけるように動き始めた。
■ライチ To:ALL
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ありがとゾフィーさん。今襲われたら戦えない、みんな早く!
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そう言うと外が気になるのか、扉も閉めずに甲板に戻っていった。
開いたドアから風と、大粒の雨が吹き込んでくる。
■リコリス To:ALL>グレムリン
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お、おわった?
逃がしてもらえそうで、よかったね〜。
ところでパタパタさんは、なんていう名前なの?
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「尋問」という言葉に怯えて席を外していたリコリスは、話し合いが終わりそうな雰囲気を読み取ってひょっこりと顔をだした。
いつの間にかグレムリンに変な渾名をつけている。
■グレムリン(マィジ) To:リコリス&ALL
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(精霊語)
……。マィジ。
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いつのまにかグレムリンの目つきは、怯えよりも「妙な奴ら」を見るような視線に変わっていた。
■リコリス To:マィジ
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マィジさんね、リコはリコリスだよ。
よろしくね。
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冒険者たちはグレムリンを甲板まで連れて行くと、縄を解いた。
マィジと名乗った小鬼は具合を確かめるように弱々しく翼を動かしたあと、弾かれたように暗い空へと飛び立つ。そして、雨と風に煽られながらも、その姿はみるみるうちに小さくなっていった。
シグナスはアイゼンに指令を送り、できる限り安全な場所で観察を試みた。
グレムリンの暗褐色の姿は暗い空に溶けるように見えにくかったが、それが点ほどの大きさまで遠のいたところで、たくさんの鳥──あるいは鳥形のモンスターだろうか──と合流しているのが見えた。
しばらく上空で話し合いをしているかのような様子だったが、遠くで雷鳴が轟き始めると、すぐにグレムリン共々さらに遠くへ、西の空へと飛び立っていった。冒険者たちが目指す、イーンウェンの方角へ。
■シグナス To:ALL
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(( ゜∋゜)・・・・・・)……あっちは確か、イーンウェンの方だったっけか。はてさて、吉と出るか凶とでますか。
謎の魔法生物軍団の退治が、仕事に増えなきゃ良いんだが……っとお!?
さて置き先ずは、目の前の嵐の方が大変だぁね!
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