お願いカナエル
水の入ったお皿の縁に、ちょこんと腰掛けた2匹のカエル。
ウーサーは溜息をついて肩を竦めた――つもりなのだが、果たしてそのように見えているのかは微妙なところだ。
説明するのが面倒くさいとでも言いたげに、ぷっくり腹を撫でながら。
とりあえず、今まで聞いたことをゾフィーに伝えようと、ぴょこぴょこと文字盤を動き回るウーサー。
そこまで口にして、想像するもおぞましいとでもいうように、ゾフィーはぶるりと身をふるわせた。
閉じた扇の先を右のこめかみに当てるようにして、やや首をかしげるゾフィー。
ネホリーナはぴょこたと文字盤の上に飛び移ると、水しぶきを縦横無尽にまき散らしながら、文字をせっせと指し示す。
ゾフィーは懐から淡い紫色をしたハンカチを取り出すと、軽くおさえるようにして羊皮紙の上に飛んだ水滴を吸い取らせた。
【しらん ねえちゃ に きいて みれ】
何か策略をめぐらせるよーな表情で、水かきの手であごを撫でる。
ウーサーは文字盤に移動し、
きっぱりと。
ぴょこぴょこと文字盤をかけずり回る。
【あぶら】
ぐっと親指を突き立てた。
【3 0 0 ねん まえ に しんだ】
広げた扇で口元を隠しながら、ゾフィーは声だけで笑ってみせた。
そしてウーサーは、孤児院で聞いた絵本の話をネホリーナに伝えた……孤児院の子ども達が語った、「書きたいもの」と一緒に。
ネホリーナは立ち上がり、べちっと両手のひらを顔の前で叩き合わせると、何かを念じるかのようにぎゅっと目を瞑って唸り出した。
気合いを入れた叫び声が、間抜けなカエルの鳴き声となって部屋の中にこだました。
ものすごく大雑把だった。
ネホリーナは同じように気合いの入った発声を繰り返し、水面にいくつもの波紋を発声させた。そしてそれをじーっと見やる。
ゲッゲッゲと笑い声を漏らしながら。
ぺこりと頭を下げたウーサーは、また文字盤の上を飛び回った。【ねんど かえる かりていく もっていって くれ】
そう応じるや、ゾフィーは先ほどまでガラス細工を入れていた小袋に粘土のカエルを落とし込み……
ウーサーはぺこりと頭を下げてから、袋にごそごそと入っていき……両生類の感覚器官には、洗ってもごく微量に残った「いちぢるしくキケンな何か」が感じ取れたらしく、のたうつように這い出てきた。
必死で這い登る緑色の蛙を、ひよいとつまみあげようとした手を不意に止め、ゾフィーは別のなにかに思いをはせているような顔つきになった。
ぶつぶつこぼしながらも、引き出されたゾフィーの手の中にはハンカチがあった。
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