カエルとかえる
遠い目をしながらすい〜むと泳ぐ赤色カエル。
漂う哀愁は涙ぐましくもあり、滑稽でもある。
■ゾフィー To:ウーサー
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駄目みたいですわね……。
そうね、とりあえず、頼まれたのは「忘れもの」を「届ける」ことですもの、この場に置いて帰ることにいたしましょうか。
酒場のカウンターに放置してありましたくらいですから、しまったりしなくとも問題はございませんでしょう。
おかみさんも「依頼優先でかまわない」と言っておりましたことですし。
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手にした小袋の口をゆるめ、そっと中身をふりだしたゾフィーは、中にあった物をそのまま机の上に置いた。
取り出されたカエルを見て、ウーサーは「なにか」を閃き、ごつい指を鮮やかに鳴らした。
■ウーサー To:赤色のカエル&ゾフィー
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……んん?
おっ、そうかまだこの可能性があったか! コレでどうだ!?
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■ゾフィー To:ウーサー
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ちょっ……、あなた、それは!
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ウーサーの持ちあげられた腕をかいくぐるようにして脇の下を狙い、薄い棒状になった銀色の扇が滑り込んできた。
だが一瞬だけ遅く、ウーサーは既に「粘土のカエル」をつまみ上げていて――脇の下に奔った痛みに、思わず腕を跳ね上げていた。
そして結局、粘土カエルの唇を自分の唇に触れさせてしまったウーサーは、しばし様子を見てみることにした。
■ウーサー To:ゾフィー
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痛ぇな姐さん、オレ様はガキじゃ無ぇんだから言ってくれりゃあちゃんと止めたのに――
!??!!?
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しかし、その一瞬後。
ウーサーの視界がぐるりと一回転したかと思うと、自分の周囲のありとあらゆる風景(ゾフィー含む)がむくむくと急速に巨大化していくのが見えた。
目の前にあった机はぐんぐん大きくなり、いつの間にか見上げるほど大きなアーチに。
そして、自分のおしりの下にあったはずの椅子が、まるで船のように広く。
■ウーサー>ウサカエル To:ゾフィー
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ゲ……ゲココココッ!?
(な……なんじゃこりゃあ〜っ!?)
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■??? To:ウーサー
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グェッ。グェッ。
(なんというニブチンじゃ〜。
わしのぼでぃーらんげーじからまったく意図が読み取れぬとは。)
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巨大な机の上から聞こえるカエルの声。
ウーサにはなぜかその意味がわかる。
さきほどの赤色カエルが、机の端から顔をのぞかせて、ウーサーを見下ろしているのだった。
■赤色カエル To:ウーサー
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ゲコゲコ。(早う上がって来るんじゃ。その脚ならここまで飛べるであろう?)ゲッゲッゲッ。(ほれ、ジャンプじゃ。カエルじゃーんぷッ!)
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机の端でぴょこぴょこ飛び跳ねる赤色カエル。明らかにテンションが高い。
もちろんゾフィーにとっては、今までと同じカエルの声。
そしてウーサーが小さなカエルに変化してしまったことがわかるだけだった──巨体を覆っていた装備品も一緒に。
■ウサカエル To:赤色カエル
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グェッ! ゲコゲコ、ゲゲゲ〜ロッ!?
(お、おいこのカエル野郎! こりゃあ一体どうなってやがるんだっ!?)
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■赤色カエル To:ウサカエル
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ゲッコゲッコ。グェッゲッゲッ。
(狼狽えるでない。ますます良い男になりよったぞ?
しっとりつるりとした艶。鮮やかな緑の発色。
やはり若いオスガエルはええの〜。ひょほほほ。)
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目を細めつつ、ぺろりと舌なめずり。
■ウサカエル To:赤色カエル
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ゲコッ! ゲロゲロゲ!
ゲッ、ゲロゲ〜ロ、ゲロゲロッ!!
(だぁほう! 婆さんにモテても嬉しかねぇや!
あ、いやそれ以前に、カエルにモテても嬉しくねぇ!!)
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■ゾフィー To:つぶやき(?)
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へえ、今度のカエルは持ちものまでも……さて、実際の耐久力はどうなのかしら……。
そういえばひとは歳を重ねてまいりますと、だんだんと疲れやすくなってくるものでしたっけね。
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そう言いながら、ゾフィーはこの「穴」にただひとつある丸いす――先ほどまでウーサーの巨体と装備の重量に耐えつづけていた――に腰を下ろそうとした。
■ウサカエル To:ゾフィー
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ゲ、ゲコ〜っ!?
(う、うおおおぉっ!?)
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■ゾフィー To:つぶやき(?)
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あら、ごめんあそばせ。
わたくしは、さほど器用ではございませんでしてね。
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■ウサカエル To:ゾフィー>赤色カエル
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ゲゲッコ! ゲコゲ〜ロ!!
グココゲコ〜、ゲロゲコ〜!!(危ねぇって! 踏まれたらモツ出ちまうって!!
それになんだ、このザマは!? カエル語が話せるようになるんじゃなかったのかよ!!)
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怒りと困惑のあまりに気が遠くなりながらも、ゾフィーの攻撃(違)を避けつつ机に飛び乗ったウーサーは、赤カエルを睨みつけた。
■赤色カエル To:ウサカエル
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ゲコゲコ。グェッグェッ。
(ほれ、ちゃ〜んとわしの言っていることがわかるであろう?
であれば充分じゃ。ほれ、早く水の側に来るが良い。乾燥してしまうぞ?
ひょほほほほ。)
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ぴょこぴょこと小刻みに飛び跳ねて再び皿の上に戻り、ウーサーを手招きする。
いろいろと言いたいことはまだまだあるものの、流石に干からびるのが嫌だと思ったウーサーは、文字にするのは憚られるような言葉をぶつくさ(ゲロゲロ?)呟きつつも、皿の縁まで移動した。
■ゾフィー To:ウサカエル
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おやおや、若いうちからそんなにせっかちでは、年を取ってからが思いやられますわね。
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目玉が裏返るかというほど、ぐるりと瞳をを動かしながら、大げさに天井を仰ぐゾフィー。
気を取り直したかのように、二匹のカエルにむかってに話しかける。
■ゾフィー To:ウサカエル&赤色カエル
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(ドワーフ語)
わたくしの言葉がわかりますか?
おわかりでしたら、一回だけ鳴いてくださいませな。
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半目になって首を横に振るカエル。なんだかこのイエスオアノウ問答に飽きているようでもある。
■ゾフィー To:ウサカエル&赤色カエル
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(共通語)
あらそう、残念ですわ、いまのはドワーフ語でしたのに。
それならば、共通語に戻すといたしましょうか。
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■ウサカエル To:ゾフィー>赤色カエル
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ゲコゲコ、ゲロゲーロ……グワッグワッ、ゲゲゲゲ。
ゲコッ、ゲコゲコゲ〜?(ハナシが進んだのか、進んで無ぇのか……だがまあ、とりあえず今は、オレ様が通訳になるしか無さそうだな……。
ちゃんと元に戻れるんだろうな、コレ?)
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■赤色カエル To:ウサカエル
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グワッ。
(元に戻る方法? 知らん。)
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素の表情できっぱり。
■ウサカエル To:赤色カエル
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グワ〜〜〜ッ!!
(そんなモンを、他人に使わせようとするんじゃねえ〜〜〜ッッッ!!)
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渾身のカエル裏拳ツッコミを見舞う、ウサカエル。
慣れない(慣れているわけがないのだが)カエル体だが戦士としての鍛錬の成果か、中々に鋭くかつ重い打撃だ。
至近距離での裏拳ツッコミをカウンター気味に喰らい、ず む りと嫌な音を立てた一瞬後、きりもみ回転しながら机の端まで吹っ飛んだ。
■赤色カエル To:ウサカエル
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ゲ、ゲロォ、ゲロゲロォ……ッ!
(な、なんちゅう手の早さじゃ……! わ、わしがこんなにも魅力的だとて早すぎるぞッ……! まずは手を握るのさえ躊躇するウブなお付き合いからじゃろうが……ッ!)
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ぼたぼたと鼻血のような体液のようなよくわからない汁を出しながら、
ぴょこぴょこと皿の端まで戻って来る赤色カエル。
■ウサカエル To:赤色カエル
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ゲロゲロッ! グワッグワグワ、ゲコゲコッ!!
ゲッコゲゲ、ゲロゲコォッ!?
(じゃかましいっ! こちとら口より手が早ぇのは、親父と師匠譲りでえっ!!
それよりコレ、戻れるのか戻れねぇのかどっちだよっ!?)
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■赤色カエル To:ウサカエル
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ゲコゲコ。
(まぁ、そのうち時間が解決してくれるじゃろう。1日後か1週間後かわからんが。 ひょほほほ。)
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■ゾフィー To:ウサカエル&赤色カエル
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どうやら会話は成り立っているようですわね、よかったわ。
では、おふたりで心ゆくまでお話なさってくださいな。
わたくしに、なにかおっしゃりたいことがございましたら、これらの文字の前で、綴り順に踊っていただければ結構です。
ああ、くれぐれも濡らさないよう気をつけてくださいませね。
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濡れていない場所を選びつつ、ゾフィーは羊皮紙を机の上に広げた。
次に孔雀羽根のペンを取り出し、紙の縁に適宜間隔をおきつつ、共通語の各音を表す文字を書き付けていく。
ゾフィーに向かってぐっと親指を突き立てる。
■ウサカエル To:ゾフィー
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ゲコゲゲ。
(わかった)
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一刻も早くカエルの体とはオサラバしたくなってきたウーサーは、ゾフィーが文字盤を作っているうちに、すこしずつでも会話を進めておくことにした。
■ウサカエル To:赤色カエル
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ゲコ。ゲコゲコゲコ、ゲロゲロゲ〜?(いったい全体、アンタ何者だ? どうせ、只のカエルってワケじゃあないんだろ?)
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■赤色カエル To:ウサカエル
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ゲコゲコ。ゲッゲコゲコゲコ。グェッグェッ。
(さっきぼでぃーらんげーじで示したであろう、ニブチンめ。
わしが占い師のネホリーナじゃ。まずは礼を言わねばの、わしの大事な大事な、命より5番目くらいに大事なケロりんを届けてくれて、感謝しているぞ。
何しろ、今日は散歩がてら、お気に入りの店巡りをしとったからのぅ、どこで無くしたのかさっぱり見当がつかなくての〜。ひょほほ。)
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ネホリーナと名乗った赤色カエルは、目元と口元をへにょっと緩めた。
満面の笑みを浮かべている……らしい。
■ウサカエル To:ネホリーナ
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ゲコゲ……ゲコゲコ、ゲゲッゲコ。
グェ、ゲ〜ゲ? ゴケゴケ?
ゲロゲロゲロ、ゲコゲコ?
(1番から4番までが甚く気になるが、まあソレは後で聞くとして。
婆さん、どうしてカエルになんてなってるんだ? この姿じゃなきゃあ、占えないのか?
あと、オレ様までカエルにしちまう意味ってあったのかコレ?)
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■ネホリーナ To:ウサカエル
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ゲッゲッゲ。ゲコゲコ。
(試してみただけじゃよ、そこな粘土カエルの性能をのう?
口が避けても言えない独自ルートから入手したこのアイテム、ガラス細工のケロりんとの相違点はよくわからんかったが、とにかく試して合点の心意気でのぅ。
まぁカエル化するところまでは予想どおりじゃったが、まさか「ゲコゲコゲッコリ」の合言葉で戻れんとは思わなんじゃ〜。ひょっほっほほ。)
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身体を仰け反らせながらゲコゲコ笑うネホリーナ。
■ウサカエル To:ネホリーナ
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……グワッグワ〜!?(……笑うところじゃねえだろうソレ!?)
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■ネホリーナ To:ウサカエル
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ゲコゲコ。ゲッゲゲロ。
(まぁ、何じゃ。ひとりでカエるのも寂しいので、仲間が欲しかったちゅうことじゃ。
と、いうのは建前で、本音はおぬしが「占って欲しいことがある」と言っとったから、 カエル化してもらって話を聞こうかと思うてな。
決して、本音と建前が逆転しているわけではないぞッ?)
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■ウサカエル To:ネホリーナ、ゾフィー
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ゲコゲコ……ゲロゲロ、ゲッコゲコゲコ……
(なんてこった……こんなことになるって解ってたら、水晶カエルの方でカエル化しとくんだったぜ……)
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ウーサーは天を仰いで嘆息したあと、ちょこちょこと文字盤の上を飛び跳ねまわり、
【いつ もどる か わからない。ね ほ り な も、しらない。】
【かえる と はなし できる。いろ2 きいて みる。】
という順番に動いてから、また皿の縁に戻った。
■ゾフィー To:ウサカエル
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あらよかっ……いえいえ、その調子でお願いいたしますわね。
わたくしの方もただ座っているのもだけというのも退屈ですし。
もう少し、軽やかに踊っていただけますと見ておりましても楽しゅうございますけれども。
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右手首をかえすように動かして銀扇を広げ、ぱたぱたと己をあおぎつつまるで他人事のような涼しい顔をしたまま状況を見つめるゾフィーであった。
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