はじまりは銀の網から
自己紹介が終わったころ、再びドアの外から聞こえる声。
■おやじ To:ALL
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お〜い、開けてくれ。両手が塞がってるんだ。
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■おやじ To:シグナス&ALL
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っとと……悪いな、食事はあとですぐにおかみが持ってくるから。
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開かれたドアから滑るように部屋に入り込み、 テーブルにティーセットと果物の盛り合わせを置くおやじ。
果物は梨、りんご、柿、ぶどうの4種類。ぶどう以外はきれいにカットされて、 人数分のフォークも添えられている。
■リコリス To:ALL
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うっわぁ〜、おいしそう〜♪
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目がキラキラになっている。
■おやじ To:ALL
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こっちの白いポットが『シルバー・ウェブ・ティー』、 こっちの赤いのが『もちもちもっちり茶』だ。
当然俺としては白いポットをお勧めする。ぜひ、感想を聞かせてくれよな(笑)
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■ゾフィー To:おやじ
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そこまでおっしゃるからには、期待させていただこうかしら。
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そしてエプロンのポケットから依頼書を取り出し、テーブルの中央に広げる。
§ 依頼書 §
魔法の絵筆、探してください!
フェンデ孤児院 一同
(お礼はおひとりにつき700ガメル)
(詳しくはフェンデ孤児院・ユーミルまで)
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羊皮紙の質はすこぶる粗悪なものだ。
■おやじ To:ALL
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さて、お前たちはこの依頼を希望してたんだったな。
おかみから聞いたかもしれんが、依頼主のユーミルさんは吟遊詩人で、 毎日フェンデ孤児院を慰問している女性だ。夜は吟遊詩人としての稼がにゃならんので、 まだ日が高いうちに、孤児院に来てほしいってことだったな。
ウーサーには、さっき孤児院の規模について話したが……院長先生のほかに スタッフは2人くらいらしいから、まぁ20人そこそこってところだろう。
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そう言って、羊皮紙にさらさらと孤児院までの地図を描き始めた。
どうやら市街地とスラムの境目にあるらしい。
オランに居を構えている者なら、あまり治安がいい場所とは言えないのがわかる。
■イェンス To:独り言
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スタッフを雇えるくらいですし、規模的にもそこそこ大きい孤児院の様ですねぇ。
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■ウーサー To:おやじ
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……おいおい、この辺りってこたぁ一人700ガメルなんて、相当な額だろう?
本当に払えんのか?
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■おやじ To:ウーサー&ALL
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6〜7人のパーティなら大丈夫、と言っていたぞ。
ただ、必要経費までは払えないってことだったからな、そのあたりは 込みってことで、申し訳なさそうではあったが……。
ユーミルさんは昔、うちの冒険者に助けられた経験があってな。
移動や調査にかかる経費とか、やり始めれば馬鹿にならんことを知ってるんだろう。
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■ウーサー To:おやじ
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じゃあ結局、依頼料はそのユーミルの「持ち出し」だけ、ってことなのか?
まあ払うモノ払ってもらえるってんなら、別に文句の言いようもねぇんだがよ……。
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■イェンス To:おやじ
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夜も働いていらっしゃるという事は資金が苦しいから…と言う訳ではないのですか?
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■ウーサー To:イェンス>おやじ
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毎日孤児院に慰問して、夜は歌って稼いでるって事だったよな……まあ、真昼間よりは稼ぎやすいのかもしれねぇがよ、やっぱりちょいと気にはなるよな?
なあ、おやじ。依頼人はカラダのほう、大丈夫そうだったのか?やつれて倒れられちまって、後金ナシだなんて御免だぜ?
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■シグナス To:ウーサー、イェンス
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まあ、その辺はおやじさんの見立てに任せようぜ。
……そりゃ確かに血反吐吐いて金用意しました、とかじゃ俺も物凄く受け取り辛くなるけど。
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■おやじ To:イェンス&ウーサー&シグナス
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はは、心配するな。そこまで無理してる様子はなかったぞ。
血色もよかったし、しっかりしたお嬢さんだったから貯蓄でもあったんだろう。
それに何より、お前たちが報酬に見合うだけの仕事をすれば、 気後れする必要なんて無いのさ(笑)
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■シグナス To:おやじ
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成る程ね、それなら文句無いですね。後は、精々頑張りますさ。
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■ゾフィー To:ALL>おやじ
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あそこはたしか……出資元はヴェーナー神殿でしたか。
芸術家の例にもれず、あまり裕福とはいえないはずですわよ。
情操教育に熱心で、名のある芸術家が過去何人か出ているとは聞きましたわ。
となると、依頼金の出所は……。
ついでに伺って良いかしら。
依頼をだされた方の、吟遊詩人としての腕はどのくらいなのかおわかりです?
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蒸らしが終わった頃を見計らい、それぞれの紅茶を注いだカップを ふたつ目の前にそろえながら、ゾフィーはおやじに尋ねかけた。
■シグナス To:ALL
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……あー、そっか。聞き覚え在ると思ったらヴェーナー管轄の孤児院だったっけか。
歌の練習してる時になんぼか聞いた事在るわ、俺も。
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■おやじ To:ゾフィー&ALL
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実際演奏を聴いた訳じゃないから、なんとも言えんが……
懇意にしてもらっている酒場じゃ、彼女目当てで毎晩通う客もいるそうだ。
吟遊詩人として食っていけて、孤児院に寄付をするだけの余力があるってことは、 実力もそれなりなんだろう。
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■シグナス To:おやじ
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成る程。スタッフの構成に関してはもう少し詳しく聞きたいな。ユーミルさんて 何歳くらいですかね?
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■ウーサー To:シグナス>おやじ
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やっぱ、ソレが大事か(笑)
まあオレ様も、気になるところではあらぁな。ユーミルさんってなぁ美人で独身かい?
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■おやじ To:シグナス&ウーサー
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お前ら、正直だな……。
見たところ、お前らとさほど変わらないくらいには見えたがな。
田舎出身のせいか若干垢抜けてないところがあるが、素材は良い。
磨けば光るタイプだな。
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実感を込めて語ったあと、階下から近づく足音が無いかどうか耳をそばだてるおやじ。
■シグナス To:おやじ
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ほほう、それは楽しみだね。
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■おやじ To:シグナス&ウーサー
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い、いや。別にそんなにまじまじと観察したわけではないがな……。
あの話しぶりや様子は独身だろう。間違いない。
スタッフは、院長の娘と甥だって話だ。
……とはいえお前ら、依頼人やその周囲の人々に下手に手を出すんじゃないぞ?
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色々無駄とはわかっていても、一応釘さし。
■ウーサー To:おやじ
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なぁに安心しろおやじ、オレ様からは手を出したりはしねぇって!
向こう様から手ぇ出して来るなら、逃げも隠れもしねぇけどな?
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「ユーミル」だけでなく「院長の娘」にも、なにやら期待しているようだ……。
■おやじ To:ウーサー
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…………そのセリフ、後悔する事にならないといいがな……いや何でも無い、 ただの勘だ気にするな。
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何やら大げさに頷きながら、ウーサーの背中をぽんぽんと叩く。
■シグナス To:おやじ
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はっはっは、それじゃあ俺は上手く手を出すよ。遊び方も知らんようだったらね。
……どうせ最終的にはアレなんだしね。せめて、将来の為の良い経験になって 貰えれば良いんだ……。
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何故か悲壮感が漂うシグナス。しかし自重する気は無いようだ。
■おやじ To:シグナス
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悲壮感を纏うには、お前はまだまだ若いだろうが(笑)
しかし何故かな、最近のお前を見ているとおかみと一緒になる前の 若かりし輝ける毎日を思い出っ……い、いや一緒になってからの生活も キラキラとカガヤイテはいるがな!
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再び階下の圧倒的な存在の気配を探るおやじだった。
■シグナス To:おやじ
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俺、多分今の親父さんの4倍は危険区域に居る気がするんだ……きっと気のせいに違いないけれど!!
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■おやじ To:シグナス
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それは間違いなく気のせいじゃないな。
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力強く断言。
■シグナス To:おやじ
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オカシーナー、おやじさんと違って責任取らなきゃならなくなるような迂闊な真似はしてないハズナンダガナー。
……寝る時の戸締りだけは完璧にしてるし……多分
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■おやじ To:シグナス
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待てシグナス、俺も戸締まりは完璧だったぞ。
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■シグナス
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……ハードロックだけじゃ心許無いな。見張りにゴーレム……まさか、コレを見越して渡されたのか!?
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自分の将来に付いて真剣に考え始めるシグナスだった。そして学院寮同室の友人に感謝の念を禁じ得ないのだった。
■リコリス To:ひとりごと
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その危険区域に巻き込まれる女の人のほうが可哀想な気がするんだ けど……。
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ぽつりとつぶやく。
傍からみているだけでも、あのしゅらばは怖かったらしい。
■ゾフィー To:リコリスorつぶやき
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大丈夫、気にする必要はありませんわよ。
「可哀想」になる手の女性はあのタイプには惹かれませんから。
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■リコリス To:ゾフィー
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そういうものなの?
世の中ってうまくできてるんだね。
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■シグナス To:ゾフィー、リコリス
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なあそれ、巻き込まれた上に当事者になるパターンになってね?話混ざってね?
リコリスは良いんだよ、ネコったりブラったりしてればそれで良いんだ。そうしとけ。な!
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■リコリス To:シグナス
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うん、わかった〜。
ネコったり、ブラったり、シスったりしとく〜♪
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■おやじ To:リコリス
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……そのうちリスったりもしそうな勢いだな。
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■シグナス To:おやじ
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さっきのお茶飲んだらモチったりするんじゃないですかね。
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■ゾフィー To:つぶやき
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ネゴったり、ボラったりなさるのはともかく、 ヒスったり、グチったりは勘弁というところですけれどもね。
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■リコリス To:おやじ
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「魔法の絵筆」っていうのを探すんだよね〜。
おやじさん、そのへんのこと何か聞いてる?
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■おやじ To:リコリス&ALL
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とある絵本に出てくる「魔法の絵筆」なんだそうだ。
子どもたちが、ユーミルさんが語った絵本の物語に感激して、欲しがったということらしい。
……まぁ、それこそ絵空事のような話だから、彼女も恐縮していたよ。
けど、あの目は、どこかで夢物語を信じているって感じではあったけどな。
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どこか楽しげな表情になって、皆の顔を見回す。
■ゾフィー To:おやじ
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夢物語に4200ガメルね。
いくらなんでも、なにか可能性があると思ってこその依頼でしょう?
そのあたりまでは、本人に聞いてみないとわかりませんかしらね。
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会話に加わりながらも、ゾフィーの手元は動いていた。
それぞれのティーカップから受け皿を外し、カップの中のお茶を少しずつ流し込む。
二つのソーサーを交互に持ち上げて色を観察したあと、そっと口に含んで息を通し香りを確かめた。
■ウーサー To:おやじ、ゾフィー>ALL
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それだけ張った夢だ、外れたって次の新曲の良いネタになるだろうぜ。
御伽噺の真相を確かめるなんて、御伽噺になりに行くみてぇな依頼ってえのも、たまにはオツなんじゃねえか?
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ウーサーは無造作にカップを手に取り、口元に運んだ。
こちらは「ぐいっ」とあおるようにカップを傾けてはいるものの、実はさほど口に含んではいない。
舌触り、香りの膨らみかた、喉越しと飲んだ後に残る印象の強さといった「食材」としての要素を、ついつい探ってしまっている。
どうやらゾフィーの様子に、故郷での日々で培ったモノを触発されてしまったようだ。
■リコリス To:ALL
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そういえば、おとぎ話って、昔実際にあったことが元になってるっておじいちゃんが言ってた…。
おとぎ話の原点を探しに行く依頼になるのかな?
とっても面白そう♪
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リコリスもゾフィーのまねをして2つのソーサーにそれぞれのお茶を少しそそぎ、観察してから口をつけてみた。
『シルバー・ウェブ・ティー』の水色(すいしょく)はごく薄い琥珀色で、 後頭部まで突き抜けるような清涼感があった。
旅立ちの朝を連想させるような、すっきりとした味わいだ。
『もちもちもっちり茶』の水色は、鮮やかで濃い紅色。フルーティな甘い香りで、 やさしく包み込むような女性的で繊細な味わいだ。
何となく、翌朝のお肌の調子が良くなりそうである。
■ゾフィー To:リコリス
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で、リコリスさんのお見立てはいかがです?
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そう尋ねるゾフィーは、どうやらウーサーの様子には気づいていないようだ。
■リコリス To:ゾフィー
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ん〜。白いほうはすっきりして飲みやすいっていうか、寝起きに飲みたい感じ。
でも、リコは赤いほうが甘くて好きだな〜。
リコ、これから銀網亭でお茶するときは『もちもち茶』にするよ♪
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■おやじ To:リコリス
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そ、そうか……まぁ確かに女性にはそっちのほうが受けがいいだろうな……。
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どこか悔しげなおやじ。
■ゾフィー To:リコリス
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あら、ずいぶん早く結論をお出しになるのね。
その林檎をひとつ口になさってから、もう一度感想をお聞かせくださいな。
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りんごをひとつ口にしてからお茶を飲んでみる。
コメントは出しづらいようだ。
■リコリス To:シグナス
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もち?
もちもち、もち。
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モチってみた。
■ゾフィー To:リコリス
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なにをモヂモヂしているの。
言葉ははっきり口にしないと、競争社会に生き残ってはいけませんわよ。
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■リコリス To:ゾフィー
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フィーさん、「モジモジ」じゃなくて「もちもち」だよ。
もちもち☆
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こだわりがあるらしい。
■ゾフィー To:リコリス
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「モチモチ★」?
わたくしは、モボモガ……じゃなくって、今はなんていうんでしたっけ。
そうそう、ナウなヤングではございませんので……流行言葉を使われましてもね。
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■リコリス To:ゾフィー
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だ、ダメだよ、そんなこと言っちゃ〜。
早く老け込んじゃうよ。あれ? ボケちゃうんだっけ?
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どちらにしても失礼なことに変わりは無い。
それは一瞬のことだった、ゾフィーは僅かに悲しげな笑みをリコリスにむけ……
いや、あるいは角度のせいでそう見えただけだったのかもしれない。
■リコリス To:ゾフィー
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(? もしかしてフィーさんってそう見えないけど結構お歳だった?
リコ、悪いことしちゃった…) ごめんなさい……
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リコリスは申し訳無さそうな顔をゾフィーに向ける。
■ゾフィー To:リコリス
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おかしな娘ね、あなたが謝ることはございませんわ。
……事実ですもの。
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今度ははっきりと、目元、口元に笑みのようなものを浮かべてみせるゾフィー。
だがすぐに、彼女はいつもの鉄面皮を顔面に貼り付け、 果物には手を伸ばすことなくおやじに向き直った。
■ゾフィー To:おやじ
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紅茶の話でございますけれどね。
ブレンドに力をいれておられるというのは、よくわかりましたわ。
こちらは清涼感がかなり強めの割に、刺激が後をひかないので飲みごたえが ありますわね。
男性が手を出しやすい味わいではないかしら。
もう一つは甘さに比べて香りのバランスが高いような気もいたしますが…
肌を気にする年頃の女性には、その方がより印象深いのかもしれませんわね。
……ただ、果物の盛りあわせを頼んだ時に、これらの紅茶をおすすめになったのは どうかしら。
果実の季節感を味わうには、どちらの味も主張が強すぎませんこと。
今回はその点が残念でしたわ。
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■おやじ To:ゾフィー
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なるほどな、つい、そのなんだ。喰いざかりで血気盛んな若い連中を 相手にしていると、そういう繊細な気遣いを忘れがちでいかんなぁ。
お前さんの貴重な意見は、おかみにも伝えておこう。
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■シグナス To:ALL>おやじ
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確かに、聞いた限りじゃ難しそうなんだが……。
それでも、魔法の品だって言うなら、其れらしいの見付けれればソコソコ値打ちモンになるんじゃ無いか?
あー、でも売ってるようなモンだったらそれはそれで厳しいな。
おやじさん、その絵本ってどんなタイトル?
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■おやじ To:シグナス
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いや、すまんな。そこまではまだ聞いてないんだ。
まぁ、本物は孤児院にあるってことだから、そこで見せてもらってくれ。
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■シグナス To:おやじ
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ああ、そうっすか。……うーん、それじゃ今の段階じゃ難易度も良く解らないな。了解、後は直接聞きますよ。
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■おやじ To:シグナス&ALL
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それじゃ、活躍を期待してるぞ(笑)
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話を終えたおやじが部屋を出て行くと、 入れ違いでふたたびドアがコンコンとノックされる。
■おかみ To:ALL&イェンス
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入るわよ〜。さあ、お待たせ。ご注文の品々よ(^^
あ、イェンス。残しちゃダメだから(^^(^^
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ウーサーとイェンスが注文した、軽く人数分はあるに違いない食事が あっという間にテーブルを埋め尽くした。
たちまち胃酸を刺激する匂いで充満する部屋。
■ソル To:イェンス
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責任を持ってしっかり食えよ。
どうしてもダメそうなら手伝ってやるけど。
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■イェンス To:おかみ>ソル
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あぁ、持って来てしまったんですね…。
そう言う訳でソル様、もっと戦士らしく大きくなる様にちゃんと食べて下さいね。
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■おかみ To:ソル&イェンス
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そうよ、イェンスやウーサーくらい大きくならないと(^_<)~☆
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■シグナス To:ALL
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……まあ、一人分なら俺もまだ食えるから。
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■おかみ To:ALL
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そうそう、みんな、これからフェンデ孤児院に行くのよね?
ついでにちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかしら?
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■シグナス To:おかみ、ALL
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そうですね、後は直接聞いた方が良さそうですし、頼まれ事は良いんですけど……。
あー、俺ちょっと買い物してから向かいたいんだけど、構わないか?
まあ、必須って訳じゃないし急いだ方が良さそうなら、直通でも良いんだけど。
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■おかみ To:シグナス
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ちょうど途中に市場があるから、立ち寄ってみたらどうかしら。
私の用事は、孤児院に行った後で構わないから。
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■ゾフィー To:おかみ、シグナス&ALL
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とりあえず、おかみさんの頼み事とやらを伺ってからにいたしませんか。
なにをすればよろしいのです?
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■おかみ To:ゾフィー&ALL
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実はね、ついさっき忘れ物をしたお客さんがいたの。
それを届けて欲しいのよ。
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おかみはエプロンのポケットから、ごく小さなガラス細工を取り出した。
豆粒ほどの大きさで、愛嬌のあるアマガエルの形をしている。
透明度の高さからしてそれなりに高価なそうである。
■ソル To:ALL
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かえる…?何に使うんだろう?
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■リコリス To:ソル&ALL
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あ、リコこれ知ってるよ。
「ガラス細工のケロリーナ」って言って、キスするとカエルになれるの。
「ゲコゲコゲッコリ」って鳴くまでカエルになっていられるんだよ。
これがねこだったらなぁ……。
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■イェンス To:リコリス
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魔法の品という事ですか?
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■リコリス To:イェンス
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うん、そうだよ。
効果は1日1回だけみたいだけど。
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■おかみ To:ALL
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カウンターに起きっぱなしになっていたの。
忘れていったお客さんはネホリーナさんと言って、 ちょうどフェンデ孤児院からもう少しスラムに入ったところにお店を構えている、 占い師のおばあさんなのよ。
赤いどくろの形をした看板が目印だから、すぐわかると思うわ。
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■ゾフィー To:おかみ
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魔法の品を、酒場のカウンターに置きっぱなしですか。
普段からそういうことをなさる方ですの?
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■おかみ To:ゾフィー
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いいえ、ぼけちゃってるわけじゃないし、言動もしっかりした方なんだけど……
こんなこと、初めてなのよね。
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小首をかしげるおかみ。
■ソル To:ALL
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届けるだけなら大した事ないし、孤児院の後で届けても良いんじゃない?
でも忘れ物だし、急いで必要な物だったら困るだろうから先にぱっと行っちゃう?
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■シグナス To:ALL
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まあ、後でも良いなら手間はそんなに掛からんと思うし……急ぎで要るなら取りに戻ってくる気もすっけど。
んじゃちょちょいっと寄って放って行くか。市場で買い物してる間、手の空く奴居れば任せるぜ。
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■ゾフィー To:ソル、シグナス&ALL
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「ネホリーナの穴」の御婆といえば、恋愛やらものや人探しやら専門にしている 占者ではございません?
恋愛はともかく、探しものに関する評判は悪くないと聞きましたわ。
シグナスさんのおっしゃる通り、その品が急いで必要なら、探しに来るか 使いをよこしそうなものですわね。
蛙となればコレクションの一部かもしれませんし、おかみさんが後で構わないと 言っているなら、先にユーミルさんに会った方がよいのではないかしら。
話を聞いてから届けたほうが、御婆に依頼内容についてのヒントを尋ねることも できるかもしれませんし。
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■シグナス To:ALL
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あー……なーんであの婆さんに恋愛占いしに行く奴居るかねえ。 っつかあの人も断れよなあ……!?
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■ゾフィー To:シグナス
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そういう人はね、心のどこかで正確さよりも自分の聞きたい答えを出してくれる 占者を求めているのではないかしら。
御婆の方は商売としてやっているなら、お金を払う人に応えて当然かとも思いますしね。
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■リコリス To:シグナス
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占いのおばあちゃんって恋愛占いのおばあちゃんなの?
恋愛のお守りにカエルアイテムとかあったりするのかな?
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■ゾフィー To:ALL
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ま、失せもの占いに強く、恋愛占いをはずす、となりますと、 分析論に強く、情論に弱いじんぶつではないかという推測も成り立ちますわね。
どんな占い方をするのかにもよるでしょうから、断言はいたしませんが。
いずれにせよ高価なもののようですから、その細工物はわたくしがお預かりしておきましょうか。
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■おかみ To:ゾフィー
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ありがとう。もちろん、依頼優先で構わないからね。
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■イェンス To:おかみ
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その占い師の方が、もしすれ違いで忘れ物を探しに来られたら、 わたしたちが持っている事を伝えて自宅待機して下さる様に伝達していただけますか?
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■おかみ To:イェンス&ALL
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わかったわ。もしすれ違っちゃったら、伝えておくわね。
それじゃあ、よろしくね(^^
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おかみはゾフィーにガラス細工を手渡すと、ぱたぱたと出て行った。
半透明なアマガエルは、自分を乗せる手の主をつぶらな瞳で見上げているようである。
そんな豆ガエルと目を合わせたゾフィーは、微かにほころんでいた口元をひきしめ……
小袋を取り出すと縫い目を慎重に確認した上で細工を収め、懐にしまうのだった。
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