コルネリア候の館、応接間 |
次に案内された部屋は、暖炉・絵画・ソファー・テーブル・花瓶・窓など、いちいち巨大だが確かに人間用の豪華な装飾の家具が置かれた部屋だった。
そこには、紫のガウンに身を包んだ壮年の男が、壮麗な一人がけソファーに座っていた。オラン王宮の家臣の一人、ヨシュア・コルネリア侯爵だ。神経質そうな痩せた身体ながら、脂ぎった肌つやの顔と、ガウン越しに浮き出た引き締まった筋肉は、もうすぐ老人という年齢を全く感じさせない。
男の周りには、ゴシックロリータ風メイド服に身を包んだ若く麗しい少女5人が、肩や腕や足を擦るようにマッサージしている。しかし、幼く“虫も殺した事の無い”ような顔をした少女達のその腰には、カストゥール美術風の長剣が下げられていた。
男は鋭い眼光で一行を見て訝しがると、顎ヒゲを撫でながら質問してきた。
■ヨシュア To:ALL |
ギルドの使いとのことだが、何者じゃ? 無論、話によっては聞かぬでもないがな。 |
■ゼファルディート To:(心の声) |
(……うあ、「英雄の子孫」とか「ファリスの信者」ってイメージに騙されたなあ) |
■レイス |
(…傑物のようではあるが、好きにはなれそうも無いな) |
コルネリア候のその姿を見て、「英雄の子孫」や「ファリスの信者」という存在に幻想を抱いていた自分がひどく、ニンゲン臭く感じられた。
そして、これも長年の人間生活のタマモノだなと、ひとり納得するのだった。
当然他の者も空いたクチが塞がらないような様子だ。
しかし、キューレは何の感慨も抱いていない様子に見えた。……きっと、人間の為政者に微塵の期待もしていないのだろう。どこででも見られる、フェザーフォルクに対する人間の接し方なのかも知れない。
アールはレイスにキューレを見ているように合図で伝えた。
■レイス To:アール |
(アールの合図にこくりと頷くレイス) |
■ジン To:ヨシュア |
我々は一介の冒険者です。 たまたま大きな事件に巻き込まれてはいますが・・・。 単刀直入に申し上げます。 「浮遊船ノーヴァテリウス」が悪意ある何者かに奪われました。 コルネリア様のご先祖であらせられる英雄アルバー達による封印は、すでにその者によって解除されているようです。 その者は、ノーヴァテリウスに搭載された強力な兵器によって、オランを焦土と化すと宣言しています。 |
そこまで一息に語り、ヨシュアの反応を伺うジン。
しかしヨシュアは、特別驚いた様子どころか眉一つ動かさない。
■ジン To:ヨシュア |
我々は、オランの危機を憂いて立ち上がった者です。 コルネリア様はノーヴァテリウスを封印した英雄アルバーの子孫であらせられる。 そこで、その対抗策を代々継承されていないかと愚考し、こちらに馳せ参じました。 |
■ヨシュア To:ALL |
うむ? ギルドの使いではなく、あくまでも冒険者だと申すか。 だが、どうせペテン師にでも騙されたのであろう。昼過ぎの『銀の網』亭の落石事件にかこつけて、一稼ぎ“された”だけではないのか? |
ヨシュアの鋭い眼光が、一行を貫く。
一般市民であれば、恐れ入るやも知れない。
しかし、そんなことにお構いなく、足をマッサージしていたメイド達が「足おけ」に湯を張ってヨシュアの足を洗い始めた。
■リフィル To:ヨシュア |
先ずは、自分は学が少ないので、他のヤツより無礼な言葉遣いになるかも知れない事を先に詫びさして貰う 落石事件の事を知ってるなら、話しは早い 正直、アレは一介の冒険者程度では稼ぎに為らない事位、重々承知のハズだと思っていたのだが… 違ったのか? 個人的には…名誉だとか、オランの住人の安否とかは、あまり興味がないんだが… あの石柱に殺され掛けた訳で、仕返しはしたい。…つまり自分に限っては私恨故だな まぁ、所詮は他人事と言って逃げ出しても楽なんだが、が、それで、事が起きると目覚めが悪いんでね 取り敢えず、侯爵殿も忙しい身だろうから、特に興味もなければ、早めに言って欲しい 直ぐにでも次の手を考えて、雲船を停めなければ、為らないからな |
無礼な言葉使いながらも、所持してるフランジュベルの束をヨシュアの方に向けて、床に置いておく(一応、リフィルの田舎の相手に敬意を払う風習…。)順番を待っていたかのように、アールは一歩前に出ると片ひざをついて頭を垂れ、さも身分の差を演出する。
■アール To:ヨシュア |
さすがはコルネリア様はなんでもよく知っておられる。 しかし、我々はそのようなあなたを「謀ろうとする輩」ではありません。 では必要なこととして4つ、我々の素性を述べます。 1つは、私が盗賊ギルドの一員であること。 2つ目は、我々がその落石を受けた張本人であること。 3つ目は、たまたま私たちがネイサンの依頼を受け、なんでしたかな…そう、ワカメの輸送の護衛の話しを知っていること。 4つ目は、“当然”我々がコルネリア様に敵対する意思がないこと…です。 |
最後の部分は、コルネリアに言ったというよりはPTに向かって言った…ように聞こえなくもない。
しかし、これだけの話を聞いて、ヨシュアはともかく周りのメイド達すら驚きの素振りを見せない。
何事も無かったかのように、黙々と施行を続けていた。
■ヨシュア To:ALL |
わしが聞いとるのは、そういう事ではない。 お前達の掴んだ情報が、「間違いではないのか?」と聞いておるのじゃが……まあ、よい。 わしも、お前達を謀るつもりはないし、特に疑ってもおらん。「ギルドの使いではない事を確認した」後も武装解除を求めなかった時点で、理解しとると思っておったが……その責を下賎の者に負わす訳にも行かぬか。 わしは高貴な者じゃ、下賎な「一般市民」に正す襟などないわ。それを不快に思われようが、私生活でいちいち遠慮などせぬ。……その事も下賎の者に“察しろ”と言う訳にも行かぬか。 お前達も国難を憂う志士と申すなら、ともかく証拠を出せ、話はそこからじゃ。 |
■リフィル To:ヨシュア |
確実な証拠か… この場合、図書館での資料や、宿屋の石柱位では、雲船の存在を示す証拠くらいしかならないんだが… 生き証人も要るが、こいつの発言の信憑性まで問われるとなると… 逆に、何を持ってすれば、オラン強襲の証拠として認めて貰えるか教えて欲しいさ 兎に角時間が無い、確実に証拠を揃える間に手遅れになる最悪の事態を避けれるのは… 侯爵殿を含めて此処にいる連中しか居ない事を、忘れないで欲しい |
リフィルが言葉で説得しようと試みる間にも、アールは「わかりました」と返事をする。
振り返ってキューレに外套を取るように合図すると、キューレは外套を脱ぎ翼を広げて見せた。
■アール To:ヨシュア |
“掴んだ情報”はこれです。彼が空から一緒に落ちてきたのですから。 |
■アール To:キューレ |
言葉は選ばなくていいから、今までの話しを聞かせてやってくれ。 |
■キューレ To:ヨシュア |
あんたが何者かは知らない、僕の名前はキューレ。 『「サラマンダーに守護されし」くもふね村』から来た戦士だ。 敵でないならそれていい、僕は帰る。 |
キューレの台詞を耳にしたヨシュアは、突然顔を強張らせた。
メイド達も異変を敏感に感じとって、施行を中止し背後に整列した。
ヨシュアも、メイド達の勝手な行動に、口一つ挟まない。
■ヨシュア To:キューレ |
「シルフに象徴される」くもふね村を「サラマンダーに守護されし」と申すか……。 |
ヨシュアの言葉に、今度はキューレが青くなる番となった。
「各精霊の名」と「その形容する言葉」は、フェザーフォルクの村々にそれぞれ付けられた符丁のようなもので、同じ言い回しは無い。
また、他種族相手には「サラマンダーに〜」と、不吉とされ未使用の精霊名で、「村の隠語」が外部に漏れないように配慮することも慣例となっていた………そして、正しくそれに従った言い回しのはずであった。
ヨシュアに、人間の間には伝わるはずもない「村の隠語」を言い当てられて、キューレはすっかり動揺してしまった。
■キューレ To:ヨシュア |
えっ!、僕なにか間違えた? どうして、嘘がばれたの? 「あやしいにんげん」にすらバレるなんて、…………やっぱり僕は半人前なんだ。 |
■ヨシュア To:キューレ |
……。 くもふね村の話は、我が「コルネリア家」でも重要な口伝じゃ。 巷の英雄談だけでなく、恥ずかしい話も伝わっておるからな……困った話じゃ。 |
しかし、漏洩の原因は何の事は無い「村の創始者コルネ」からであった。
奇しくも、ヨシュアもまた本物の伝承継承者であることが証明されたことになるが……。
■ヨシュア To:ALL |
……。 無事に帰すことくらいは約束しよう、くもふね村の事を申せ。 |
キューレもヨシュアも、2人して「観念した」素振りを見せていた。
キューレは、くもふね村での事件を包み隠さず話してしまう。
対するヨシュアも、話を聞くにつれ、顔つきがどんどん険しくなっていった。