#155 雲の上の話

華やかな伏魔殿

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コルネリア候の館
ジン、アール、リフィルの3人は、一旦『銀の網』亭に戻り、レイス、ゼファルディートと情報を交換すると、レイスとゼファルディートにキューレも含め全員でコルネリア候の館に向かった。

貴族の館が立ち並ぶこの区画においても、豪邸…いや城というべきか。
正門には重戦士風の2人が警備しており、正門の詰所らしき部屋から、軽戦士風の1人と革鎧の2人とローブを着た1人が、こちらを不信そうに見ていた。

アールが懐から“盗賊ギルド”の証印が見えるように紹介状を警備の男にかざす。
■アール To:警備兵
ギルドからの使いだ。コルネリア候に直に伺いたい。火急の用件なので速やかに取り次いでいただきたいのだが。

候の栄誉に関わる問題だと思われるので…な。

すると、詰所にいた革鎧の男が慌ててこちらに走ってきてアールに一礼する。
一行は即座に門を通され、屋敷までの道を案内された。
敷地内はカーデニングが施され、色とりどりの花や木が美しく咲き乱れていた。
屋敷内に入ると、程なく大きな両開きの扉の前まで通された。まるで「来客用」とすら思える豪華な作りだった。
■革鎧の警備兵 To:ALL
それでは、こちらの部屋になります。

その部屋の中には、上座に一匹(一人?)のグラスランナーが座っていた。
首からファラリスの聖印(?)をぶら下げたグラスランナーは、一行を見ると禍々しい笑みを浮かべた。
■グラスランナー? To:ALL
へー、こんなところで、君達に会えるなんて驚きだね。

■レイス
(何者だ?…ファラリスの印!?)

どうやら、案内人は部屋を間違えたようだ。
しかも相手は、こちらの事を知っているような素振りを見せた。
ファラリスの聖印になにか引っかかりながらも、アールはどうしても思い出せなかった。むろん、悩むような素振りを見せるようなことはしないが。
あえて、とことん“しら”をきることにした。
■アール To:グラスランナー?
これは初めてお目にかかります。コルネリア侯におきましては噂はかねがねお聞きしております。

深々と礼をしてみせる。
どう客観的に見ても“コルネリア侯でない”ことは明らかだが、しらじらしくも丁寧に挨拶をしてみる。
それを見たグラスランナーの男は、笑みの禍々しさをより深めた。
■グラスランナー? To:アール
うむ、くるしゅ〜ない。
いったい、なによ〜じゃ〜〜。

■ジン To:グラスランナー?
どうやら部屋を間違えたようだ。
すまない、彼はこう聞いているんだ。
「コルネリア侯殿でないあなた様はどなた様でしょうか?」
・・・我々はコルネリア侯に、オランの重大事についてお話したいことがあって訪問したんだ。
オランに住む者なら、ファラリスの信徒といえど無関係ではいられない程の重大事さ。

ジンの真面目な反応に、当のふたりはさも残念そうに顔を見合わせる。
いかにも“これから盛り上がるところなのに”と言いたげだったが。
そんな事情を知って知らずか。ジンは涼しげな顔で話を続ける。
■ジン To:グラスランナー?
実は俺も聞きたいんだ。あんたがどなた様って話のことだけど。

■グラスランナー = ピロン To:ALL
ごめんよ、ちょっとからかっただけなんだ、許してくれ。

ぼくの名前は「ピロン」、これでも盗賊ギルド「対妖魔交渉窓口」を担当する裏取引部門の長さ。
グラスランナーにしては、真面目に働いてるつもりだけど、意外に知られてなくてガッカリしただけだよ。

ここの使用人から客だって聞いたから訝しがってたんだけど、紹介状を見て、僕の使いだと思ったんだね……僕の使いってことになってる紹介状だから、あたりまえなんだけど。

あと、この聖印はただのアクセサリーさ。ダークエルフもこれを付けてると話を聞いてくれるからね。とっても便利で重宝してるんだよ、もう手放せ無いってくらい。

それと、僕はもう用事が済んだから帰るけど、みんなのことは「ちゃんと」とりなしてから帰るよ。
だから、心配無用さ。

ついでに、ここで会ったのも何かの縁だ。
聞いておきたいことがあれば、べらべら話すよ。あんな通告の後だし、ギルドとしての助力もしないと、上納金を収める価値がなくなっちゃうからね。

■アール To:ピロン
ピロン様、先ほどの無礼はお許しください。
しかし、お名前を伺ったことはありましたが、肩書きが「対妖魔交渉窓口」とは知りませんでした。
あなたが直に出てくるということは、ネイサンが通じているのは…そういうことだと思って間違いない状況なのですか?
依頼とはいえ、悪事の片棒を担がされるようでは、我々の面目も立ちませんので。

■ピロン To:ALL
ぼくの名前に「様」は不用さ、タメ口でいいよ。

ちなみに、推理はハズレさ……半分だけね。…あれ、それとも、ぼくの推理が間違ったのかな?
まあ、いいや。
個人的にもこの状況は気にいってるし、騙してまでどうにかしたい訳じゃない。
正直、君達の仕事は“眩し過ぎる”のさ。
おっと、また話が反れたね。
ネイサンが通じている相手は、ぼくが付き合ってきた相手とは違う……だからギルドは分からない、ギルドとしては相手の情報を掴んでないのは本当さ。

だけど、これは知ってる。
ネイサンは冒険者家業から引退したあと、しがない行商になった。
真面目だったから、小銭は貯まったね。

今から9年前、オランの山奥に小さな村があったんだけど、悲しい事に地震で、陸の孤島になったんだ。特産品の石英は取れたけど食料はろくに取れない貧困地でね、きっと全滅だよってみんな思ったね。

そこに食料を運ぼうって馬鹿が現れた……ネイサンさ。

なけなしの私財を投げ売って、食料とラバを集めて、危険な山道を進み、ほんとうに村にたどり着いた。……村は助かり、一人の素寒貧のでき上がりさ。

その3年後、その村は、その村出身の賢者の助けを借りて小麦を作る事に成功した。
その小麦の名は『スウィート・ジュエル』……王宮ご用達の極上小麦ときた。

その小麦を誰が商う事になったかなんて、子供でも分かる話だね。
ちなみに現在の「ネイサン商会」が創業したのは、今から5年前さ。

ほかの人は、何も聞かなくていいのかい?

■リフィル To:ピロン
ネイサンが単なる善人なのか、計算高いのかはこの際、無視するとして
9年前に地震で被災した村が在った、その3年後、小麦で村が復興した…
そして今から5年前に、ネイサン商会が立ち上がった…

それだと、今から6年前の1年間、空白期間ができるな。
その間に村で何か変わった出来事が無かったのか?
それと、その村出身の賢者とか言うのは、どんなヤツなのか判るのか?

■ジン To:ALL>ピロン
ほう。人助けが後々儲け話に化けたというわけだ。
それだけ聞くと美談に聞こえるが・・・さて。ネイサンはどうして、そうまでしてその村を救ったかだな。
他にもそんな話はないのかい?
例えば、海岸に打ち上げられた人魚を介抱したら、実は海の王国のお姫様で、以降は海産物の供給を手伝ってくれるようになったとか?

■ピロン To:ALL
一年は空白じゃなくて創業準備期間、一年目の儲けで商会を作ったのさ。
それと賢者の名前はブロード・グリス、『農賢者』と呼ばれる老人さ。

あと、ネイサンがどうして「そうまでしてその村を救ったか」なんて分からないね。
ただ、ネイサン本人は「昔、取引してくれたお客様だから」って言ってたけどね。

でも、「海の王国のお姫様から海産物の供給」か……、荒唐無稽と言いたいけど、有り得るかも知れないね。ぼくも危険を冒した甲斐があったよ、ありがとう早速調べてみるよ。

■ゼファルディート To:ALL
ん〜、これまでの話を総合すると、あんまりコルネリアさんも「悪者っ!」って感じはしないんだよね……
曲がりなりにも「英雄」の子孫だし、ファリスの信者さんでもある訳だし。
最初はネイサンさんのじゃまをするいやなヤツって感じだったケド。
ネイサンさんとは単純に商売敵ってだけかな?

■ピロン To:ゼファルディート
コルネリア候が「悪者」でない?、盗賊ギルドから見ればそうかもね。
でも、ファリスの教えから見たら「悪」だよ。

■ジン To:ピロン
筋違いかもしれんが、一応聞いてみたい。
どうしてコルネリア候はネイサンを敵視してるんだ?
いや。そもそもコルネリア候はネイサンを敵視しているのか?
敵視していないとしたら。ネイサンを敵視してる勢力が他にもいるということかな?

■ピロン To:ジン>ALL
推理が冴えてるね、
そもそもコルネリア候はネイサンをライバル視していても、殺したいとは考えていないよ。

ネイサンを敵視してる他の勢力についてだけど………、
ぼくも危険を侵して君達と話しをしているんだ、この事については別れ際に話すよ……って、もう質問はないみたいだね。

それだけ言うと、両開きの扉に手をかける。
退出する間際に、ピロンは一行に一言告げた。
■ジン To:ピロン
それはどうも。
それで、ネイサンを狙う組織というのは・・・

■ピロン To:ALL
ネイサンの敵はぼくだ。
そしてそれは、君たち一行の『最大の障害』であることも意味している。
「ニジイロワカメ」は渡すわけにはいかない、ネイサンに渡すのは、ぼくらの計画にとって危険過ぎる。……つぎ会うときは『敵同士』だ。……もちろん今からでもいいけどね。

■ジン To:ピロン
交渉の余地なし、ということかな。
ここでやり合うのは遠慮願いたいね。
コルネリアまで敵に回したら、命がいくつあっても足りないよ。

こうして、「裏取引部門の長」ピロンは立ち去った。
入れ替わりに一行を案内した警備兵が現れ、「今度こそ館の主人のもとに案内する」と不手際を侘びた。
■アール To:警備兵
今度は本当の「コルネリア侯のところ」に連れていってくれよ。(笑)


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GM:支倉真琴